IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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変わった日常

 「ほい、あの【亡国機業(ファントム・タスク)】の幹部のコアだ。その幹部は多分死んでるとは思うけど」

 『【アラクネ】のコアか。ふむ....まぁ当面はこの船の動力源かな。響介、夏蓮、お疲れ様。ゆっくり休んでくれ。当面、君達の任務は無いからね』

 「ねぇラビット、アリスは?」

 『彼女はまだ休んでるよ。あの子を投入する程の激戦はそうそう起きないし、頻繁に起きたら世界が滅ぶからね。暴走したら響介と夏蓮2人で止められるか分からないからなね....』

 「まぁ良いよ。じゃ、なんな任務とか敵襲が有ったら呼んでくれ」

 「私もねー」

 『うん、了解した。じゃあ身体を休めて、次の任務に備えてくれ』

 「「了解」」

 

 響介と夏蓮は【イグドラシル号】に戻ってきていた。ラビットに任務の成功を伝えると先ずは船内にある無料の自販機でイチゴミルクを2本買う事は忘れない。これから会う【ハンプティ・ダンプティ】の為だ。【イグドラシル号】内部にある整備室に入り、小さな姿を辺りを見回して捜す。

 

 「おーい、ハンプ、何処に行ったー?」

 「此処です」

 「おぉう!?なんでそんな書類の中に....」

 「重たくて動けないんですよ!こんな時にウォックは居ないし....」

 「退けとく?それとも放っとく?」

 「退けて下さい!」

 「おっけーおっけー」

 

 明らかに個人の処理できる量を遥かに越える書類の山を全て机の上に置く。ハンプティも一応【ドミナント】ではあるのだが、元々の身体が虚弱なので全く戦闘は出来ない。その才能と知識、更には【ドミナント】として発揮できる『情報並列処理』の能力をフルに活かして【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】幹部全員のIS整備、及び武器開発。更に資金の支出や収入などの仕事もこなす。案外、1番疲れる役職かも知れない。

 

 「で?次はどんな無茶な使い方をしたんですか?」

 「いや、今回の任務はそうでもない....と思う。強いて言うなら、水蒸気爆発をマントで受け止めたぐらい」

 「充分無茶ですよ、その使い方.....」

 「いやはや、そう褒めないで欲しいな」

 「褒めてません。はい、分かりましたからラックにISをセットして下さい。後は私がやっておきますので」

 「ありがとな。じゃあはい、イチゴミルク」

 「イチゴミルク!!やった、いつもの10倍頑張ります!!」

 「頑張ってなー」

 

 このリアクションを見て分かる通り、ハンプティの大好物はイチゴミルクである。因みに嫌いなのはコーヒーで、間違えて渡すと怒る。臍を曲げてメンテナンスしないだけでなく、明らかに嫌がらせの様なカスタムをしている事もある。それでもイチゴミルクを渡すと直ぐに機嫌が良くなるので、ハンプティに会う時は基本イチゴミルクを渡す事に幹部はしている。買うのは無料なのだが、そもそも整備室から自販機が有るラウンジまでは遠い上にハンプティは整備室から出ない。その上に虚弱なので出歩かない。その為に彼処まで喜べるのだ。

 余談だが、ハンプティは誰にでも可愛がられている。幹部連中だけではなく、下部組織の取締役や関わる機会が多い人もだ。そもそも童顔で、中学1年...下手をしたら小学生の大きい方の子に負ける程身長が小さい。更にイチゴミルクをあげた時の無邪気な笑顔に少し子供っぽい言動。少し意地悪すると涙目になる所からして可愛がられない理由が無い。無い(2度目)。本人は不服そうで頬を膨らませて不機嫌アピールをするのだが、それをしたせいでまた可愛がられる。ある意味素晴らしいループだ。

 

 「あー....疲れたぁ...」

 「お疲れだな、響介」

 「ん?あぁ、ウォックか。さっきハンプが書類に埋まってたぞ。中々怒ってた」

 「げ、スラスターに時限爆弾はもう嫌だぞ...」

 「お前そんな事されたのかよ。まぁイチゴミルクあげといたから少しは緩和されてるとは思うけど、一応謝った上にイチゴミルク持ってっとけ。多分許して貰える」

 「ん、分かった。ありがとね!後はゆっくり休みな!」

 「おう、そうさせて貰うとするよ」

 

 ラウンジで会ったのは【御伽の国の破壊者】の斬り込み隊長である【ジャバウォック】だ。いつも快活な姉御肌で、基本的に笑顔を欠かさない。流石に真剣な場面では声を出しては笑わないものの、割と表情を隠せていない。ハンプティとジャバウォックは特に仲が良く、暴走するジャバウォックをハンプティが抑える、といった役割になっている。響介との初対面では頭が悪い、と言っていたが実際はそうでもなく、ただ考えるのが面倒だからハンプティや他のメンバーに丸投げしているだけだったりする。それでも【御伽の国の破壊者】の中では頭が1番悪いのだが....

 

 「さて、これからどうするか....」

 「お帰り、響介」

 「へ?....ただいま、アリス」

 「..............」

 

 自室に戻ってきた響介は何故か中に居たアリスにただいま、と言う。しかし、不機嫌な目線で見られる響介は何故だろうか?そう思いを巡らせると、1つの事を思い出す。そして笑いながら言い直す。

 

 「ククッ、ただいま。....()()()()

 「うん、それで良いの。お帰り、響介」

 

 『アリシア』、それがアリスの本当の名前だ。姓も含めれば『アリシア・フォン・エラウィ』となる。【御伽の国の破壊者】の中で異名で呼ばれるのは孤児だったり、名前を捨てたり、世間的に有名だった為に名前を使うと不味い人だ。孤児はウォックが、名前を捨てたのは現在潜入任務中でこの船に居ない【ハート・クイーン】、最後の理由はハンプティである。ラビットはそもそも自分の名前が有るのか、元々人間じゃないのではないか、と言われているので例外である。

 だがアリスが『アリシア』と呼ばれないのはアリスが自分の名前を呼ばせるのは運命の人(響介)だけと決めていたからである。故に他のメンバー....夏蓮でさえもアリスの本当の名前を知らない。2人きりの時は『アリシア』と呼ばないと怒るので要注意である。

 

 「にしても、なんで俺の部屋に?」

 「いや、今日は帰ってこないと思ったから、掃除機くらい掛けておこうかなって。....駄目だった?」

 「そんな訳無いだろ。ありがと、アリシア」

 「うん.....ゴメン、ちょっと眠くて....」

 「そっか。なら、ちょっと休んでな」

 「うん、ありがと....」

 

 響介のベッドに寝転がったアリス。その直後に起き上がるが、やはり雰囲気がガラリと変わっている。アリスの裏の人格である【ジェミニ】が表に出てきたのだ。

 

 「よぉ、随分とイチャイチャしてたなぁ」

 「悪いか。良いからさっさと引っ込め、アリシアと話をさせろ」

 「そう言うなよ、私だって中に引っ込んでると退屈なんだからさ。ちょっとは話しても良くない?」

 「....お前、自分が俺の手足と眼を奪った仇だって事覚えてるか?」

 「まあまあ、そう言うな。私がそれをしたからお前が今此処に居るんだぞ?私がやんなきゃこの出逢いは無かった!あぁ、私はやっぱり恋のキューピッドだったか....」

 「ほざけ」

 「ったく、連れないねぇ。...そろそろアリシアに代わるとするよ。戦闘の時ならもっと出れるけどねぇ....やっぱり日常だとこうなるか」

 「......ふん。時々なら相手してやらん事も無いさ」

 「....ありがとね!」

 

 ジェミニはベッドに寝転がると、また交代した様だ。次はアリスの雰囲気に戻っており、ジェミニの存在を隠しつつも話を続ける。ジェミニの存在をアリス自身は認識していないからだ。別に認識しても良いとは思うのだが、念の為との事だ。

 もう、響介の日常は此処になりつつあった。憎むべき仇は良き仲間になり、今までの仲間との記憶は既に灼け尽きた。もうIS学園の者は自分の道を阻む敵であり、滅ぼすべき対象なのだ。そして彼女(アリシア)は、 愛すべき者となっていた.....




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