IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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決別

 「響介くん!?貴方....貴方人を!!」

 「これでもう分かっただろ、俺はもう戻れないってな。もう真っ当な人間じゃないってな!」

 「響弥ぁぁぁぁぁ!!」

 「テメェは....さっさと散れッ!!」

 

 オータムの腹部から手を引き抜き、血に濡れた右手で胸部にあるISコアを摘出する。するとオータムの身体から橙の毒々しい色の装甲は粒子となって散り、地上へと落下していく。このまま落ちれば死ぬだろう、そう思って楯無に向き直った響介だったが、下から急加速してきた白銀の影が刃を響介に向けて突進してくる。

 流石に喰らえば墜ちる。そう確信している響介は『醒めた』事による恩恵をフルに生かして全ての斬撃を回避する。

 

 「クソ、なんで当たんないんだ!?」

 「お前が強くなれば、俺はその数段上に行く。それだけの話だ!!」

 

 響介はISに乗っている時だけ髪は雪の様に白く、眼は血の様に紅く染まる。これが『醒めた』証なのだ。

 【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】幹部の共通点は1つしか無い。それは全員が普通の人間とは違い、何かしらの能力が戦闘に特化して殺しを悪いとは思わない、単純に『殺し』に特化した人種【ドミナント】であるという事だけだ。響介の特化した点は【予測・反射】となった。『高速』までの攻撃なら単純な観察による【予測】で、『音速』辺りになると【反射】と【予測】を両立させ、それ以上になると義眼の『思考速度の加速』を用いて戦う。これ程の速度に対応出来る人は居ない上に、音速を超えての戦闘など出来る者は居ないので、事実上響介は世界で最も優れた反射神経と予測能力を持っている事になる。

 

 「【メイデンハーツ】ッ!!」

 「【零落白夜】ッ!!」

 

 互いの最強の武器が激突する。一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を挟み、響介を倒さんと加速するが響介はその程度の小細工に負けるほど怠慢ではない。3発の薬莢を立て続けに激発、更にスラスター出力を()()()()。先程までの出力と比べて格段に速く、強くなりすぎた勢いに押され、一夏は自分の武器(雪片弐型)を弾き飛ばされてしまう。

 響介が【更識響弥】だったのなら、此処で首筋に【メイデンハーツ】を添えるだけで終わりだっただろう。だが今は実戦で、命のやり取りをしているのだ。それでさ 終わるハズもなく、響介は【ヤタノカガミ】を発動させた状態で胸を突く。SE(シールドエネルギー)を無効化するその凶刃がゆっくりと一夏の胸の肉を貫く。だが、途中で楯無が乱入してきた事により、少しだけ肉を削いだだけで終わる。

 

 「響介くん....私は貴方を....」

 「殺す、か?それも一興だな。元々は無関係の血の繋がりは無いぽっと出の男だ。あの出来損ないからすれば俺は邪魔な存在だろうから、出来損ないを想うならそれが良いんじゃないか?」

 「あの子は出来損ないじゃない!簪ちゃんには私達に無い才能が沢山有る!」

 「ヤツはそれを生かそうとしたか?俺が分かるのは、俺達と同じ事をして結局出来ず、引っ張り上げて貰う事を待つ家畜の目をしていた事だけだな。どれだけ優れた才能を持とうとも、使わなければ意味が無いだろう」

 「....決めたわ、この一撃で貴方を墜とす。そして簪ちゃんと和解させて見せるわ」

 「へぇ....良いだろう、応じてやる。やってみな」

 「後悔を....しない事ね!!」

 

 楯無のISの水のヴェールが【蒼流旋】に全て集束し、巨大な水の槍を形成する。これが楯無のIS【霧纏いの淑女(ミステリアス・レイディ)】の最強の矛である。名は【ミストルテインの槍】。普通なら装甲の代わりに攻撃から身を守る水流装甲の全てを一点に集中、相手にぶつけるという自分自身が大怪我を負う可能性すら孕む、正に『諸刃の刃』という名前が似合う技だ。そのエネルギーは小型の気化爆弾4個分に相当し、当たれば一撃で相手ののISを破壊する。

 

 「なら、俺も見せようか。俺の【絶月・災禍】の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を」

 

 響介は腕を広げてそう言った。退く気は元より無い楯無はその巨大な水の槍を突き出し、その技を叫ぶ。同時に響介も、復讐の為の能力を叫ぶ。

 

 「【ミストルテインの槍】ッ!!」

 「【箱庭(クレイドル・ガーデン)】ッ!!」

 

 一瞬の閃光、その後に見えた光景は楯無にとって信じがたい光景だった。自分の最強の矛が軽々とクロスさせた【リンドヴルム】と【オルトヴルム】に受け止められていたからだ。響介が2槍を振り払うと巨大な水槍は霧散し、楯無を取り巻いていた装甲も響介を墜とす為の武器も消えてしまった。響介は()()()()()()()()()()()()()()()楯無の後ろに回り込む。そして背部に浮いているアクア・クリスタルを槍で突いて破壊すると、踵落としで地表に向けて叩き落とす。

 

 「.....この程度か」

 「あ、お兄ちゃん。どう、コアは奪えた?」

 「勿論。正直に言って期待外れだったな。生徒会長も噂ほど強くはなかったよ」

 「お兄ちゃん....単一仕様能力使ったでしょ」

 「まぁな」

 「アレ使われたら勝てないでしょ、学園の奴等じゃ。私達でも勝てるかどうかは賭けなんだし。自前の能力とISの単一仕様能力をフルに使って賭けなんだから、自前の能力も無い人じゃ...ねぇ?」

 「それもそうか。じゃあ、取り敢えず帰ろう。此処から飛んで帰るのも面倒だ、俺が送るぞ」

 「やったぁ!!」

 「特別だからな?ぶっちゃけ疲れるんだから、コレ」

 「分かってる分かってる!早く早く!!」

 「ったく、そんな急かすなよ.....【転移】」

 

 その一言で響介と夏蓮はIS学園から消えた。それを見ていた満身創痍の楯無の言葉は、誰の耳にも届く事はなく空へと混ざっていった。

 

 「響弥くん....お願い、帰ってきて.....」


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