IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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愚妹

 「ほう、学園の文化祭とはこんな感じなのか」

 「そうだね。...お兄ちゃん、口調が変だよ?」

 「こんな服装なのだから、ちゃんとそれに応じた言葉遣いをしなければね。もしかしたら任務でこういった服装と言葉遣いをしなければならないかも知れないからね」

 「はぇ~.....ほんと、目的の為には何でもするよね」

 「褒めても飴しか出ないよ」

 「飴出るの!?.....美味しい」

 

 響介と夏蓮はIS学園の文化祭に来ていた。響介の服装は黒いスーツのズボンに紅の燕尾服だった。その頭にはシルクハットを被り、顔には笑顔の表情を浮かべた白い仮面を着けている。夏蓮は普通の私服である。それ故に通常ではかなり異様な風貌なのだが、所々にコスプレをしてたりする人が居るので案外溶け込んでいたりする。

 

 「さて夏蓮、【亡国機業(ファントム・タスク)】が攻められる絶好の好機は何時だと思う?」

 「普通にクラスの出し物の休憩時間じゃないの?」

 「いや、それは2番目くらいだな。それは恐らく印象付けに使われる」

 「むぅ....じゃあ何時なの?」

 「生徒会の出し物の演劇、【灰被り姫(シンデレラ)】だよ」

 「なんで?」

 「私自身、記憶が灼けてしまったからあまり覚えてないがね。私がこの学園の副会長だった時、織斑一夏が部活に所属していない事が問題になった事が有ったのだよ。その時の案として出たのが確か.....【織斑一夏争奪戦】だったのは辛うじて覚えている」

 「それがシンデレラ?」

 「パンフレットに書いてある」

 「あ、そう。なら、そろそろ始まるね。織斑一夏を捜しに行かないと!」

 「私はサブ目標を達成しなければな。舞原を捜してみよう」

 

 そう言った所で夏蓮の表情が少し歪む。と言うより、疑問をどうにか抑えているという表情だった。

 

 「何を疑問に思っている?言ってみると良い、夏蓮」

 「あのね...お兄ちゃん、舞原雪菜はどうして恨んでないの?ISの優れた武器を産み出す、最悪の存在だと思うけど」

 

 その疑問は当然だろう。響介は現在、ISとそれを利用して好き勝手する者全てを嫌悪、憎悪している。それは争いや差別を加速させる研究者は開発者も嫌っているのに、雪菜だけは何故か例外だった。記憶が灼けていないのも雪菜だけで、他の記憶は辛うじてやっと思い出せるくらいなのだ。

 

 「.......私にも解らないな。ただ、私達と同じ様な犠牲者という事を知っているからかも知れんな」

 「そう、なんだ....じゃあ織斑一夏を捜しに行くね。お兄ちゃんは舞原雪菜を宜しく。...気を付けてね」

 「うむ」

 

 体育館の方へ歩いていく夏蓮を見送り、響介は自分の灼けた記憶を掘り起こして雪菜が居そうな所へ向かう。寮の部屋には居なかった。ならば体育館か?と思うが夏蓮から連絡が無いのなら居ないという事だろう、そう思った響介はアリーナを経由して整備室に向かう。

 

 「.........!!.........、............ッ!!」

 (なんだ?友達同士の喧嘩では収まらないくらいの大声だな。.....しかも彼処は整備室か。見るだけ見て、舞原でないのなら無視して夏蓮と合流するか)

 

 整備室に入ると、眼鏡を掛けた水色の髪の少女が黒髪で髪が短い少女の首を絞めている所だった。そしてその黒髪の少女は....雪菜だった。

 

 「ゴブッ!?ガッ、ハァッ.....」

 「随分久し振りではないか、我が愛しき出来損ないの妹よ」

 

 それを認識すると同時に義足の薬莢を激発、容赦など全て捨てた蹴りを腹部に叩き込む。第二形態移行(セカンド・シフト)して超振動デバイスにより殴打だけでなく切断も可能になっていたのだが、其処は一応慈悲を掛けたのかその機能は切ってある。

 

 「アンタは....!」

 「他人の専属に手を出すとは、其処まで卑しくなったか。精神くらいはまだマシと思っていたのだがな....まさか、暴力的に手を出しただけではなく、引き抜こうとしたのか?ハァ......才能でも努力でも実力でも勝てず、こんな卑怯な手段に走っても結局は失敗か。つくづくお前は神に見放されているな」

 「うるさい.....うるさい.....うるさい....うるさい....うるさいッ!!

 

 水色の髪の少女--更識簪は激昂し、懐からドライバーを出して突進してくる。響介は脚を掛け、一瞬空中に浮いた瞬間に生身の左手で腹部に重い拳を叩き込む。重過ぎる衝撃に簪は落ちそうになるものの、どうにか立て直してドライバーを振りかぶる。

 

 「....結局はそういう事、か。人とは心持ちだな。どれだけ才能が有っても、本人の心が堕ちているのなら宝の持ち腐れ、馬の耳に念仏、猫に小判だな」

 

 響介は身体を空中で横に1回転すると、頭を吹き飛ばす様な威力の回し蹴りを放つ。マトモにそれを側頭部に喰らった簪は打鉄弐式の元へと吹き飛び、装甲に頭をぶつける。回し蹴り本来の威力と頭をぶつけた衝撃に襲われ、簪は呆気なく意識を手放した。

 

 「さて、やっと本題に入れるな。...舞原、俺を覚えてるか?」

 「え....?貴方は.....」

 

 響介はシルクハットを脱いで仮面を外した。雪菜は少しの間響介の顔を見詰めると、頭を押さえて叫んだ。

 

 「あ...貴方は誰....!?私は、私はァァァァァァ!!頭が、頭が痛い!ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 その様子を見て響介は笑う。大声で、高らかに、その下卑た笑いを。

 

 「クヒッ.....クヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 (あぁ、そういう事か!舞原は元々(響弥)ヤツ()を敬遠してるのは知ってる。だから自分からつるむハズ無いんだ!ならどうしてつるんでたか?あの先生()の仕業だろうなぁ!これは覚えてるぜ、記憶を封じる装置の事をなぁ!!)

 

 響介は笑う、狂った様に。いや、もう狂っていた。あの時、あの少年が響介の腕の中で死んだその時に、正気(響弥)は消えて狂気(響介)が産まれたのだから。狂笑は続けながらも響介は尚思考を止めない。

 

 (あの先生はよっぽど俺が居ない方が都合良かったらしいな。まぁ確実に舞原関連か。それなら好都合、少し残念だが舞原には壊れて貰おう。残酷な真実でな!)

 

 響介はISを使い、()()()()()を施す。雪菜を壊し尽くす為の、皆を絶望に叩き落とす為のトラップを。

 そろそろ加勢の準備を、と思って整備室を立ち去る響介。チクリと胸を刺す痛みは何故感じたのか、響介には遂に解る事は無かった。


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