IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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偽りの帰還

 「い、嫌よ!助けて!お、お金なら幾らでも払うわ!」

 「.............」

 「それなら私が貴女を雇うわ!その腕前を評価しての事よ、どう!?」

 「............死は何者にも平等にいつか訪れる。それが少し早かっただけだ、安心しろ」

 「ガッ.....ヒュッ、ヒュッ.....」

 

 黒いマントを纏った黒のISが襲撃してきた、という報告は今から5分前にされたばかりだった。私設のIS部隊が有るから安心だ、そうタカを括った女性官僚は避難を怠った。その結果、【死神】に殺された。だが、それを哀れに思う人は誰も居ない。この女性官僚は自分が女性である事を良いことに滅茶苦茶な振る舞いをしていた事は有名だ。逆に人々は感謝した。自分達を救ってくれた黒きISに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ、お兄ちゃん」

 「あぁ、ありがと。ハンプは何処に居る?」

 「さっきラウンジでコーヒー飲んでたよ」

 「分かった。さて、ラビットに報告しなきゃな」

 「アリスが捜してたよ、お兄ちゃんの事」

 「ん、ついでに顔出しとくか。ありがとな、夏蓮」

 

 響介はある船に着艦した。その船は【イグドラシル号】と呼ばれる客船だ。...と言うのは表の姿で、名前は同じだが実態は全く異なる。エンジンはISコアを3つ併用し、空を飛ぶことすら可能な戦艦だ。豪華客船の外装を剥げば現れるのは黒光りした武骨な戦艦で、搭載されている火器もとんでもない。バルカンなどの有名な武装は勿論、スティンガーを大型化したミサイル、更にはビーム砲まで積んでいる。余談だがこの船の名称を付ける際、【ジャバウォック】が【ドミニオン】やら【プトレマイオス】などの名前を付けようとしていた。全員に全力で止められていたが。

 

 

 「ラビット、入るぞ」

 『うん、入ってくれたまえ』

 

 木の扉をノックして開ける。因みに戦闘時は金属のシャッターが降りてドアが割れても良いようにしているらしい。響介はそんなに船の構造に興味が無いのでそんなギミックは知らないが、【ハンプティ・ダンプティ】が何か言っていた気がするのでそうなのだろう。

 そう思いつつ椅子に腰掛ける。向かいの椅子には兎の縫いぐるみがちょこんと座っている。響介は以前、この椅子を揺らして何と無く縫いぐるみを落とそうとしたのだが、落ちなかっただけでなくいつの間にか縫いぐるみに装備されていたピコピコハンマーで殴られた。地味に高性能である。

 

 「ほら、あの部隊のISコア全て....じゃなくて、2個やっちまってな。3個しか無い」

 『全然構わないよ。これはそうだね...ハンプティに預けておこう。私が持っているより数倍有意義に使ってくれるハズだ』

 「そうか。しっかりあの官僚は殺っといたぞ」

 『御苦労。....いや、それにしても君のISは恐ろしいな。単騎でISを5機相手にして目立った損傷は無く、更に5分で終らせるとはね....君が味方でつくづく良かったと感じるよ』

 「味方ではあるが、今の理想から少しでも離れれば俺はこの組織から離反するぞ」

 『解っているよ。さて、君にまた任務を課そうと思う。連続で済まないがね』

 「今からか?」

 『いや、来週だよ。詳細はこれを見てくれ』

 「おま、口からプリントって....」

 

 兎の縫いぐるみの小さな躯から、筒状に丸められたプリントが出てくる。ちょっと萎えながらプリントを読むと、IS学園の文化祭についての紙だった。

 

 「なんだ、文化祭を滅茶苦茶にしろって?それならウォックの方が明らかに適任だろ」

 『違うよ。その途中、【亡国機業(ファントム・タスク)】というテロ組織が潜入するという報告を受けてね。目的が織斑一夏のISの奪取らしい』

 「.......それで?」

 『そう嫌そうな顔をしないでくれ。別に彼を守れとは言わないよ。任務はその織斑一夏のISを奪取した者の殺害、恐らくISを用いるだろうからそのコアの奪取、又は破壊だ』

 「2人組で行動してた場合は?」

 『その時の為に一応夏蓮を向かわせよう。出来るならそのペアも殺害、及びISの奪取か破壊が出来れば最高だな』

 「了解。他のサブ目標とか有るか?」

 『サブ目標....そうだね、君の専属を此方の陣営に引き込めたらもう言う事は無いね』

 「舞原か....こればっかは無理かもな。やるだけやってみるさ」

 『じゃあ頑張ってくれよ、【マッドハッター】』

 「りょーかい。メイン目標に関してなら期待して待ってろ」

 『そうしよう』

 

 部屋から出る響介の顔はどんな表情をしているのだろうか。憎悪?それとも雪菜に会えるから歓喜?そのどちらでもない。ただ任務だから向かう、そんな意思が見える無表情だった。あの頃の響介(響弥)は、もう灼けたのだ....


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