IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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 今日はどっちのサイドも短めかな?


夢と綺麗事

 「なぁ、アインってどうしてアイン(1)って名前なんだ?」

 

 響弥が拐われた日から数えて4日目、響弥は気になっていた疑問をぶつけた。それは遠回しに、何故アイン以外の子供には名前が無いのかを聴いてもいた。アインはほんの少しだけ躊躇いを見せたが、響弥の顔を見て話し始めた。

 

 「それはね、僕がこの場所に送られたのが1番最初で1番長生きしてるからだよ」

 「1番最初で、1番長生き....」

 「うん。この果樹園には身長が高かったり、ちょっとふっくらしてる子が来るんだ。あの鉱山には、小さくて痩せてる子が行く。.....そしていつしか死んでいくんだ」

 「死んでいく!?」

 「そうなの。この果樹園よりも鉱山の方がやっぱり売り上げが大きくてね、いっぱい働いてくれるけど、働けば働く程寿命は減ってくってハンプちゃんは行ってた」

 「ハンプちゃん....【ハンプティ・ダンプティ】の事か」

 「大きく掘るといっぱい金属は採れるけど、その分大変だし『らくばんじこ』?が起きちゃうかも知れないから。...昔1回起きたから、だけど。他にも石の破片が肺に溜まったり、そういうので死んじゃうんだ」

 

 響弥は歯噛みした。自分は何処かで女尊男卑を甘く見ていたと。そして自分の預かり知らぬこの場所では、自分より小さい子供たちが働き抜いて、死んでいく。マトモな教育を受ける事もなく、夢や希望だけを抱いて死んでいく。それを知らず、ぬくぬくと暮らしていた響弥自身が...嫌になった。

 

 「なぁ、アイン」

 「なに?」

 「お前に夢ってのは有るか?」

 「夢?.....此処に来て3年くらいで、無くしちゃったかな」

 「....なぁ、知ってるか?」

 

 響弥は言う。自分の考えであり受け売りの言葉を。ただこの子達には残酷で、響弥の身勝手な言葉を。そんな事を言う自分に吐き気すら覚えながら。

 

 「夢ってのは人にとって大事なもんだ。先を見据えて、此処から出た時にどんな事をしたいのか。そういうのを考えるんだ。有り得ない事だって構わない。どんな事でも、下らない夢を持っている事が大事なんだよ」

 「どうして?有り得ない夢なんて辛いだけだよ?」

 「そうだな。クソッタレな夢を持つってのは何より辛い。だけど、人間ってのはつくづく馬鹿でな。人間は夢を持たないと生きてられないんだ」

 「なら、響弥の夢は何なの?」

 「それは--」

 

 響弥は一瞬止まる。今までは夏蓮を捜し、家族を殺した者を殺す。こんな血濡れた夢だった。だが、もう接してしまった。この組織が、ただ無差別で理不尽な暴力をぶつけている訳ではない事を、気付いてしまった。だから響弥は言った。綺麗事を、自分の上から目線の夢を。

 

 「世界の果てで、お前らが笑える様に。俺が戦う事で、『幸せ』って言葉が消える様に。こんなのか?」

 「幸せは、ダメなの?」

 「違う。世界を越えて、国境を越えて皆が『幸せ』なんて言葉を使わずに生きられる世界を。『幸せ』って事を当然の如く貰える世界。俺はこんな世界が夢だ」

 「スゴい.....スゴいよ響弥!!」

 「そ、そうか?」

 「うん!僕達みたいな人でも幸せを貰える世界って事でしょ!?」

 「そうだな」

 「スゴい!その夢、僕も賛成する!響弥がそんな世界を創る事が僕の夢だよ!」

 「そうか。....なら、絶対に叶えないとな。っと、もう5時だ。また明日な?」

 「うん!....あ!明日は12時辺りに来てくれないかな?」

 「解った。また明日な」

 「うん!また明日」

 

 自分の綺麗事であの子達にが笑って、自分の理想論であの子達に希望を与えられるのなら、こんな夢でと案外悪くはないのかも。響弥はそう思って戻っていった....


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