響弥がアリスに連れられてきたのは、村とも言い難い場所だった。辺りの山の中腹には木で補強された入口があり、果実が生っている木もある。鉱山と果樹園の様なものが目に映る。
そしてそれを認識したと同時に、隣のアリスの気配がガラリと変わる。友好から、得体の知れない気配に。
「....ッ!!」
「お?なんか一瞬で気付かれたかぁ....あと2秒遅かったらその頭地面と濃厚なキスを交わさせてやろうと思ったのに」
「お前は....誰だ!?」
「私か?私は【ジェミニ】。アリスの裏の人格で、更に言えばお前の腕と脚と目を奪った張本人だ。さっきアリスは、ISを遠隔操作してたとか言ってただろ?正確には違う、私がアリスと交代してただけさ。まぁ、そんなのはどうでも良い。.....
「は.....?」
響弥は理解が出来なかった。響弥が憎んでいたのはアリスではなく【ジェミニ】だったのは分かった。しかし、何故『宜しくな』などと言ったのだろうか。どんな人でも、少なくとも響弥はジェミニに対して良い感情を持ってはいないと解るハズだ。それでもジェミニは宜しく、と言っていた。それが響弥には理解出来なかった。
「響弥、大丈夫?無理してる?」
「え?あぁ、いや。大丈夫だ」
「そっか、無理そうな時は気にせず言ってね。此方に来れる?」
「別に大丈夫だけど」
鉱山の様な山と果樹園の近くにある、木の板をどうにか張り合わせて造った様な家の扉をアリスは叩く。ドアが開くと、響弥よりも小さい子供達が沢山出てきた。最後に出てきた1番年上に見える少年すら、響弥よりも幼い印象を受ける。
「あ、アリスさん!久し振りだね!今日はどうしたの?」
「人の紹介だよ。響弥、自己紹介できる?」
「流石にそんぐらいは....更識響弥だ、宜しく頼む」
「うん、宜しくね!僕はアイン!」
「じゃあアイン、大体9時から5時くらいまで響弥を預かっててくれる?あんまりキツい仕事はさせちゃダメだけど....」
「そんな事はしないよ!してもらうとしたら果物の方だけど....取り敢えず気に入ってもらえる様に頑張る!」
「ありがとう。じゃあ響弥、後でね」
「え?お、おい!」
もう預けられ方が幼稚園レベルである。遠ざかるアリスの背中を眺めていると、アインから話し掛けられる。
「響弥、宜しくね!」
「えっと...アイン、だったな。此処はどんな所なんだ?あと宜しく」
「此処はね、鉱山と果樹園をしてる村だよアリス達がせいとう?な値段で売ってくれてるんだ!」
「アイツらが....?」
「そうだよ!だってアリス達はえっと....ナントカに乗れない人を助けてるんでしょ?」
「ISの事か?」
「うんそれ!ISに乗れない僕達でも笑って過ごせる、最高の世界を目指してるって言ってたよ!」
「..........」
嘘だ、とは言えなかった。アインの心から信じている眼を見て、そんな事は言えない。自分の家族をバラバラにした奴等が、そんな高尚な理想を掲げている訳がない。そう言いたかった。だが、それも解らない。現に響弥は【
だが1つ気付いた。赤羽一家をバラバラにしたのは言ってしまえば【デュノア社】であり、当時は恐らく傭兵であった現【
「はいコレ!果物はいっぱい有るから食べて食べて!」
「え...良いのか?これって出荷する果物じゃ....」
「そんなこと気にしない!ほら、食べてみて?」
「じゃあ、頂きます。.......美味い。美味いな、コレ」
「ホント!?それなら良かったよ!まだまだ有るよ!」
「ちょ、オイオイ。そんなに食えねぇよ。また今度な」
「うん、じゃあ案内するね!」
「あれ、他の子の自己紹介は良いのか?」
「....それは、無理かな。ほら、早く行かないと5時になっちゃうよ!行こ行こ!」
貰った果物が本当に美味かったか、と聴かれれば答えは「そうでもない」と響弥は答えるだろう。いつも日本で食べていた、スーパーや八百屋に並ぶ果物となんら変わりない果実だった。しかし、何故か美味い。そうでもないのに、美味いと感じてしまう。それがどうしてかは結局解らなかった。そう考えつつアインに引っ張られていく響弥の表情は、幼い頃の夏蓮や楯無に振り回されている時の響弥の表情と全く同じ事には、誰も気付かなかった....