IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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第5章響弥サイド 壊す理由、壊したい世界
組織


 「っ....此処、は?」

 

 目を覚ました響弥は記憶を掘り起こしたと同時に警戒心を最大にまで引き上げる。気絶されてこんな知らない所に入れられていたなら、誘拐されたという事でほぼ間違いないからだ。しかし、理解が出来ないのはチョーカーが--絶月の待機形態が未だに巻かれていた事だ。普通なら捕虜にそんな事はしないだろう。

 

 『やぁ、目は覚めたかね?』

 「....あぁ、最悪の目覚めだったよ」

 『ふむ、ベッドの質が悪いのは勘弁してくれたまえ。事情が有ってな。動けるようなら扉の前に置いてある服を着て通路を進んでくれ。特段別れ道は無いから迷わないハズだ。君を紹介したい』

 「は?嫌味が通じねーのはまだしも、俺が逃げるとは思わないのか?」

 『そうかも知れないね。信用しているのさ、【チェシャ猫】の兄上を、な』

 「【チェシャ猫】....夏蓮の事かよ。....分かったよ、行ってやる。それが終われば逃げてやる!」

 『恩に着るよ』

 

 扉の前に置いてある服はダメージジーンズと黒いTシャツだった。明らかに普段着である事に本当に此処はテロ組織の根城なのか?と思いつつ服を着て通路を進む。いつも制服の裏のホルスターに仕込んであるXD拳銃 の頼れる武骨な肌触りが恋しくなるが、自分のまだ1発しか消費していない義手と完璧な状態の義足を頼りに進む。体感時間で5分程経過した所で、大きい円卓が置いてある部屋に辿り着いた。

 

 「お、アンタが【チェシャ猫】の兄貴ってヤツかい?」

 「え、あぁ、そうだが....」

 「アタシは【ジャバウォック】。まぁ切り込み隊長ってやつさね。あんまりこっち()の方は良くないから、難しい事は言わんでくれな?」

 「お、おう....」

 「随分と反応が鈍いな....まさか、兎の旦那に説明されてないのかい?あの人はそんな所があるからね。旦那ぁ!」

 『そんなに大きい声で呼ばなくても聴こえているよ、ウォック。すまないね、説明不足だったよ。これから【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】の皆と自己紹介して貰うよ。嫌かも知れないが、君が学園に帰った時の土産が増えるんだ。損な話ではあるまい?』

 「....チッ」

 「じゃあ次は私ですね。私は【ハンプティ・ダンプティ】です。ウォックと反対で、頭は良くても身体はポンコツです。卵みたいに簡単に逝くので注意してください」

 「へぇ....」(年下みたいだな)

 「あと因みに、私は身長が低くて童顔なだけで貴方の先生と同い年ですよ。私も天才って呼ばれてました。森守菫と並んで、ね」

 「え」

 『次は私で良いかな?....では、改めて紹介させて貰おう。私は【夢兎(ドリーム・ラビット)】と言う。ドリームでもラビットでも、好きな方で呼んでくれ。次は....』

 『ワタシガサセテモラオウカシラ。マァ、ワカッテルトオモウケドアナタノハハオヤヨ。ナマエテキニハ【切り札の騎士(トランプ・ナイト)】ネ』

 「因みに、彼女が切り札って名付けられているのはトランプって言葉が元々切り札って意味だからです。彼女はこの組織で3番目の腕前を持ってます。1番と2番はこれから--」

 「やっほーお兄ちゃん!必要ないと思うけど一応私もしておくね!この組織で2番目に強い【チェシャ猫】、赤羽夏蓮だよ!」

 「.....言葉を遮られた.....」

 

 其処で一旦会話が途切れる。しかし、靴の音が鼓膜を震わせる。コツ、コツ、とゆっくり、しかし確かに大きくなっていくその足音は嫌でも相手の気配を感じさせる。そして現れたのは、黒いショートパンツに黒いキャミソールを合わせた、響弥のストライクゾーンを見事に撃ち抜く女性だった。

 

 「えっと....ちゃんと顔を合わせるのは初めて、だよね?君の運命と因縁の相手である【アリス】です。宜しくね?」

 「......ぁ」

 「....大丈夫?まだ寝足りない?それなら別にまだ--」

 「...アリスは俺と....同い年、なのか?」

 「うん、多分そうだね。まだ15歳だけど、年齢的には高校1年生。あの時の私はISを遠隔操作してたし、幼かったからあんな口調だったんだ。でも、今はちゃんとしてるよ?」

 「そっか....俺は更識響弥だ」

 

 名前を言ってから、何故自分は自己紹介なんてしてるのだ、と思う。【アリス】を憎んでいる。自分の手足と目を奪い去り、母親を殺し、妹を拐った彼女を恨んでいる。恨んでいる、ハズだった。しかし、目の前にすれば自分と年は変わらない少女で、自分は魅了されている。その事実に彼は苦しめられていた。

 

 『取り敢えず【村】に案内して貰って良いか、アリス?』

 「良いよ」

 『じゃあ響弥、君は【村】に行ってくれ。大丈夫、危害なんて加えられないよ。加えさせないしね』

 

 そう言われた。拒否しようと思った。だが、視覚が手を差し出すアリスを認識した瞬間、身体は勝手に動いてアリスの手を取る。そして意識は思考速度を低下させ、まるで夢の中に居る様な錯覚を起こす。そして響弥は手を握られ、誘われるがままに着いていくのだった....




 宿敵降臨ってやつですね。

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