結論から言えば、【
何故こうなったかと言えば、一夏が入り込んでいた密漁船を助けようとした事が原因なのだろう。その前に自分の機体の性能を過信した箒の独断も有るのだが。
結局の話、言ってしまえば一夏は変わっていなかった。護れるものと護るべきものの違いが解っていない。手が届くのなら何でも助けようとする、理想論を声高に語り続ける愚か者のままだった。そして少しはマトモと思っていた箒ですら、ただただ優越感に浸りたいだけの愚者だとも響弥は気付いてしまった。
(私の...せいだ...!)
ISの保護機能を貫通し、熱波に焼かれた身体に包帯が巻かれている一夏は気絶したままだ。不意に思い出していた思い出の中の一夏は笑っていても、今の一夏は無表情に、時折苦しそうにしている。その苦しそうな表情を見る度に箒は自分を責め、スカートをぎゅうっと握っていた。その手が白くなる程に。
『篠ノ之、一夏を抱えて下がれッ!!』
あの時、響弥が放った言葉と援護が無ければ、恐らく2人は生きて此処には居なかった。
【
「あーもう、わっかりやすいわねぇ」
全く凹んでいない様に入ってきた少女、それは中国の代表候補生、凰 鈴音だった。
「..............」
「あのさぁ、一夏がこうなったのって、結局はあんたのせいなんでしょ?」
「...............」
何も包み隠さず問う、箒にとって残酷な真実。それが余りにも当然で分かりきった真実だからこそ箒には答えない。答える事は、出来ない。
「それで落ち込んでますよーってアピールな訳?--ざっけんじゃないわよッ!!」
何も答えない箒の胸ぐらを掴み、強かに
「--駄目ですよ、鈴さん。貴女が手を下す必要は有りません。少し見ていて下さい」
「え、でも--」
「--良いから、見ていて下さい」
「....分かったわよ」
雪菜は立ったまま、箒に向かってこう言った。
「箒さん、手合わせをしましょう。勿論、ISではなく剣道で」
砂浜へと向かい、お互いに木刀を握り向かい合う。流石に防具は無いので寸止めでの試合である。互いに見詰めあい、鈴の合図で同時に距離を詰める。
「面っ!!」
凄まじく早い打突。流石は元全国1位、常人では反応すら出来ずに頭に衝撃を受けるだろう。しかし其処は幼い頃から戦場に身を置いていた雪菜である。軽い身のこなしで木刀を避けると胴に木刀を添えて詰みの形をとる。それから10本ほど試合をしたが、とうとう箒は雪菜から1本を取る事は出来なかった。
「分かりましたか?貴方はこんなにも弱いって事を。そして貴方の太刀筋は、とても鈍い」
「........」
「戦場で調子に乗った挙げ句、自分より弱く、邪魔な者はどうでも良いというその考え方。もっと突き詰めれば優越感に浸りたいからとセシリアさんに立場を譲らず、結局は作戦を失敗した...と」
「それは....」
「これはもそれはも無いんです。そして今の貴女が考えそうな事を当てて見せましょうか?もうISには乗らない、そう思いませんでしたか?」
「ッ....!」
事実だった。制御しきれない力を扱う事はしない。それは即ち、もう自分は紅椿には乗りたくないという意思の表示でもあったのだ。雪菜はそれを知らないし、心を読む事だって出来ない。ただ箒の性格を考慮して言っただけだ。
「御しきれないから、力を棄てるんですか?今日、貴女が専用機を貰った時に少しだけ愚痴を漏らした子が居ましたが、更識くんが黙らせました。力を持つことには責任が伴う事は知ってるハズです。それを軽々しく放棄するのは専用機持ちには絶対に許されない。そんなに軽い立場じゃないんです。それとも箒さん、貴女は--」
心から軽蔑する様な目線を箒に向けて、雪菜は吐き捨てる様に言った。
「肝心な時に力を振るえない、愚かな臆病者ですか」
その冷たい一言は、箒に少しだけ残されていた闘志に大きく強く火を点けた。
「....ど、どうしろと言うんだ!?もう敵の居場所は解らない!それさえ分かれば私だって戦う!」
その言葉を聴くなり、雪菜と鈴は口角を吊り上げて笑う。
「今、戦うって言ったよね?」
「あ、あぁ....」
「よし、なら行くわよ」
「行くって、何処に?」
「着いてきて下さい。反撃する為の準備がありますからね」
そう言って颯爽と歩く雪菜と鈴に置いてかれまいと、箒は小走りで着いていくのであった....
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「--♪--♪.....楽しみだね、お母さん」
『----』
「そう?お母さんも楽しみなんだ、私もだよ」
海の上には純白の機械音で話すISと唄を唄う漆黒のISが居た。その綺麗な目を、狂気に染めて.....