「それでは、状況を説明する」
旅館の一番奥にある宴会用の部屋、
「2時間前、ハワイ沖で試験運用中であったアメリカ、イスラエル共同開発の第三世代型IS【
「は?」
皆の視線が一気に響弥に向く。と言うより、響弥のリアクションが当たり前だろう。普通の専用機が脱走し、それを捕らえるだけなら別に良かっただろう。しかし、【銀の福音】は軍用ISであり、更にパイロットはモンド・グロッソに出場した事もある【ナターシャ・ファイルス】だ。操縦者の意識が有るのかどうか自体は置いておくとして、暴走している【銀の福音】にナターシャ本人の経験が含まれた戦闘方法を取ってくるとなると学生が対処できる域を逸脱しているのだ。
「それでは作戦会議を始める。意見のある者は手を挙げろ」
「はい、敵機の詳細なスペックデータを要求します」
「良かろう。しかしこのデータはアメリカとイスラエルの最高軍事機密だ。口外した場合は査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる。絶対に口外はしない様に」
「了解しました」
教師陣と専用機持ちは公開されたスペックデータを見て相談を始める。
「広域殲滅を目的とした中距離型ですか...わたくしのティアーズの様にオールレンジ攻撃が行えるようですね」
「装甲よりも機動と攻撃に特化してるわね....しかもあたしの甲龍よりもスペックを上回ってるから、相手の方が数段有利ね」
「この【
「しかもこのデータでは格闘性能は未知数だ。織斑先生、偵察は行えないのですか?」
「無理だ。敵機は超音速飛行を続けている」
「格闘性能は未知数にも思えますが、あまり大したものではないと思います」
「何故だ?」
「ラウラさん、セシリアさんで考えてみて下さい。セシリアさんの【ブルー・テァアーズ】は中距離から遠距離型です。近接武装は【インターセプター】しか搭載していませんよね?基本的に技術者って、コンセプト以外の武器は載せたがらないんですよ。ですから、あってもこの【銀の鐘】を利用したビーム系統だけだと思います」
5人は真面目に作戦を立てている。因みにシャルロットはテストパイロットではあるが非公式なので森守技研の社員ではない。しっかり機体には魔改造が加えられ、以前のラファールとは掛け離れた機体に生まれ変わっている。
「先程も言った通り、敵機は超音速で飛行している為アプローチは1回きりと思われる。一撃で墜とせる威力がある者を当てるしかない」
「一夏さんの...零落白夜、ですか」
「お、俺!?」
いきなり白羽の矢が立った一夏は慌てる。当たり前だろう。今まで軍用でもないISに苦戦していたのに軍用の、しかもチャンスは1回きりでやれと言われたのだ。慌てない方がどうにかしている。
「となると運ぶ人も必要だね。やっぱりエネルギーは攻撃だけに集中させたいから...」
「私がやりますわ。丁度本国から速度拡張型の--」
「待った待ったぁ!その作戦はちょっと待ったなんだよ!」
「...山田先生、摘まみ出せ」
「とうっ★」
束が無駄に軽やかな1回転を見せて着地を決めると、ディスプレイに紅椿のスペックデータが移し出される。恐らく、と言うよりほぼ確実に紅椿の売り込みだろう。
「さて、理解してなさそうないっくんの為に束さんが説明しましょ~そうしましょ~。第一世代のISは『ISの完成』を目的とした機体だね。次が『後付装備による多様化』、これが第二世代で第三世代が『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊兵器の実装』。BT兵器とか空間圧作用兵器とかAICの事だね。.....で、第四世代が『パッケージの換装を必要としない万能機』なんだよ。今は絶賛机上の空論だけども、実は此処に第三世代でもなければ第二世代でもない、だからと言って第四世代でもない機体を造って乗ってる人が居るよ!理解できた?あと、それが誰だか解った?」
「り、理解は出来たけどそんなヤツなんて....ぁ、もしかして響弥達の事か...?」
「うん、正解 パッケージの換装はしているけど、特殊な方法を用いる事で戦闘中にリアルタイムで換装したり出来る機体だね。まぁ処理が大変だから2人でやってるみたいだけど、凄いと思うよ!世界の研究者がこぞって頭を悩ませてる事を越えてるからね!あと、展開装甲自体はいっくんの雪片弐型にも使われてるよー」
「....この機体、やり過ぎただろう束」
「にゃはは、バレた?」
「そりゃバレますよ。全身が展開装甲で、更に発展型でしょう、コレ。第四世代型の目標である
雪菜が言った事。これを要約するとたった一言の言葉で表せる。【最強】の一言だ。世界各国が多大な資産と多くの研究者を投入しても未だ手掛かりすら見付けられない様な代物が、たった一個人の才能と気紛れと家族愛により実現される。こんな馬鹿な話、あって堪るものか。
それから束と千冬が白騎士どうたらの話をしている間も響弥は箒の表情を見ていた。それは親に出来るようになった技を披露したがっている子供の表情だった。これが一般の高校ならばまだしも、これは実戦だ。命に関わる事を
「....束、紅椿の調整にはどれくらい掛かる?」
「お、織斑先生!?」
驚愕するセシリアの声。当たり前だ、普通ならセシリアを抜擢する所だが、千冬は箒にやらせようと言うのだ。正直に言って、愚かな事この上ない。
「織斑先生、宜しいでしょうか」
「...どうした」
「俺は篠ノ之が作戦に参加する事に反対です」
「なっ!?」
「確かに紅椿は第四世代であり、スペックも高いです。しかし、肝心の操縦者の技量が低すぎる。オルコットは代表候補生で、超音速下での訓練や咄嗟の判断を比べると確実に篠ノ之よりもオルコットが適任なのは明確です。それに--」
「それに、なんだ?」
「下手を打てば命を失う様な戦いで、ミサイルを笑いながら斬る奴には命を任せたくない。それに尽きます。織斑はまだ良いですが...生徒の、弟の命をみすみす失いたくないのなら、オルコットを抜擢した方が賢明だと思いますが?」
「貴様...言わせておけば!」
「ほら、図星だから頭に血が上る。確かに嬉しいだろうなぁ?今まで指をくわえて見てるしかなかった一夏の隣で戦えるってのは。自分だけ専用機を持たないコンプレックスに苛まれないのは。だがなぁ....此処は、テメェのお遊戯会じゃねぇんだ、場を弁えろ」
「っ....!!」
「其処までだ、更識。お前はサポートに入れるか?」
「近くでのサポートでは二の舞になる可能性が高いです。一応超速戦闘下でターゲットに狙撃する事は出来ます。中距離型なら命中率も上がるでしょう。それくらいのサポートはしますよ」
「....オルコットの機体なら成功率は上がるが、1度失敗すればもう2度とアプローチは出来ん。だが、篠ノ之の機体ならば1度失敗しても2度目が出来る可能性が有る。だから篠ノ之を出す。良いか?」
「.........ふぅん。その選択で後悔しないなら、俺からは何も言いませんよ。では、準備が有るので失礼します」
1度目が失敗しても2度目が...と言うが、命に2度目は無いだろう、と思いつつも引き下がる響弥。箒を見れば一夏と共に大勝負に出るのが余程嬉しいのか、歩みが若干軽快になっている。あれほど言われても堪えないとは、よっぽどだなと痛感しながら定位置に着いておく。確実にこの【