IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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戦う力

 臨海学校2日目、今日は昨日とは違って朝から晩までひたすらISの装備試験運用と個人個人のデータ取りである。しかも専用機持ちに関しては皆が交代で終わらせる量の装備を1人で終わらせる為もっと大変だ。

 一応響弥の持つIS【絶月(たちづき)】を開発したのは社員総勢3名の【森守技研】という所になっている。因みに社員は響弥、雪菜、菫である。一応日本の企業ではあるが菫が無理を言って無所属にしているらしい。そもそも試験する武装自体あまり無い上に取るにしても直ぐに終わるので大した負担ではない。一夏の様にそもそも拡張領域(バススロット)に武器が入らない故に試験の必要が無い訳ではない。

 

 「漸く全員が集まったか....おい遅刻者」

 「は、はいっ」

 「ISのコアネットワークについて説明してみろ」

 「はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換する為に独自のデータ通信ネットワークを持っています。これは...えーと...」

 「IS本来の目的である宇宙開発に於いて、互いの位置を情報交換する為に設けられたもの。今はオープン・チャネルとプライベート・チャネルによる操縦者同士の会話や他の通信に使われている。....はい、助け船は出したぞ。良かったですよね、織斑先生?」

 「.....そうだな。ボーデヴィッヒ、続きを言え」

 「は、はい。嫁よ、礼を言うぞ。先ほど言った以外にも、非限定情報共有(シェアリング)をコア同士が行う事で様々な情報を自身の糧として吸収している事が近年の研究で明らかになりました。これらはISの創造主である篠ノ之博士が自己進化の一環として無制限展開を許可した為、今現在も進化の最中であり全容は掴めていないそうです」

 「少し詰まったとは言え、流石に優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう」

 

 此処でやっと張りつめていたラウラの緊張が解ける。そもそもラウラは千冬の恐ろしさを知っているのでちこくをする事は無かったのだが、少しはしゃぎすぎたのだろう。寝坊してしまっていた。今のラウラはふぅと息を吐いただけだが、心なしか胸を撫で下ろしている様にも見える。

 

 「さて、それでは各班ごとに担当になったISの試験運用を行え。専用機持ちは各専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 はーい、と全員が返事する。しかし、響弥の義眼は捉えていた。遥か遠距離から走ってくる、ウサミミを付けた人物を。また他人を振り回すつもりか、と思ったが彼女本人は興味を持った者以外は全員路傍の石にも満たない存在としか見ていなかったな、と思い出して響弥は雪菜の方向へと歩いていく。

 

 「篠ノ之、お前は此方だ」

 「はい」

 「お前には今日から専用機が--」

 「ちーちゃ~~~~~~~~ん!!!」

 「....束、その呼び方は止めろと--」

 

 千冬は右手で束の頭を受け止める。要するにアイアンクローだ。しかも指の1本1本がギリギリと音を立てて頭部にめり込んでいる。手加減なし、全力全開のアイアンクローだろう。

 

 「--止めろと言ったハズだ」

 「ぐぬぬぬぬ.....相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ、愛を感じるよ!」

 

 明らかに致命の威力が内包されているアイアンクローから抜け出した束は箒の方向を見る。

 

 「やぁ!」

 「........どうも」

 「えへへ、久し振りだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ?おっきくなったねぇ、箒ちゃん。あの頃とは大違いだよ。特におっぱいが」

ごんっ!

 「殴りますよ、容赦なく」

 「な、殴ってから言っても遅いよぉ....酷い!箒ちゃん酷い!家庭内暴力よ!」

 

 頭を押さえて叫ぶ束。因みに山田先生が束に向かってなにかしらを言うが、全て束の前では意味を成さず轟沈。結局各班の手伝いに向かっていった。その課程で束に胸を揉まれたが、響弥は巨乳の美女どうしが組んず解れつする所は雪菜に目を塞がれて見えなかった。無念。

 

 「あの、頼んでおいたものは...」

 「うっふっふっ、もう準備済みだよ。さぁ、大空をご覧あれ!!」

 

 いきなり落ちてきた金属塊の中からは見るも鮮やかで絢爛な機体が現れた。

 

 「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機【紅椿(あかつばき)】!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 真紅の装甲に包まれたその機体は爆弾の如く危うい。恐らくアレは第四世代のIS。第四世代は【展開装甲】と呼ばれる装甲を装備するリアルタイムでパッケージ換装が出来る様な代物だ。操縦者本人がリアルタイムで戦況に合った状態になる様に装甲を展開する。負担は極めて少なく、絶月の様にオペレーターとパイロットの2人ではなくなるのだ。

 因みに絶月は第三世代ではない。だからと言って第四世代な訳がない。リアルタイムでのパッケージ換装、思考操作デバイスの利用に加えて非固定武装(アンロック・ユニット)があるので一応世代的には第三.五世代という枠組みに入っている。

 

 「ねぇ其処の男の人、名前は?」

 「更識響弥だ。別に覚えなくても良いですよ、篠ノ之博士?」

 「にゃはは、辛辣だねぇ。君は?」

 「ま、舞原雪菜です。....私も、ですか?」

 「そうだよ。彼処にいっぱい居る奴等は特に興味は無いけど、ほぼ独力で第三.五世代を作り上げた君達は凄いと思うよ、うん。出来たら君のISを見せて欲しいんだけど、ダメかな?」

 「...どうぞ」

 

 絶月を展開し、コードを差し込む部分を差し出す。コードを繋がれると束の目の前にはホロウィンドウが表示され、絶月のスペックと響弥のフラグメントマップが表れる。それを見て束は疑問を覚えた。

 

 (何このIS...スペックの全てに変動値が有りすぎるし、最低スペックでも紅椿を越えてる。しかもこのフラグメントマップ....女子のものと大して変わりないよ。女子って言っても良いくらいだね。響くんの過去には、何があったの?)

 「篠ノ之博士、どうかしましたか?」

 「いや、大丈夫だよ雪ちゃん」

 「ゆ、雪ちゃん?」

 「うん。お、箒ちゃん全部終わったんだね?じゃあテストをしようか!」

 「........そうですね」

 

 自分から頼んだ割には態度が素っ気ない。そう感じた響弥は顔をしかめた。

 --十中八九一夏の隣で戦いたいから篠ノ之博士に頼んだって所か。にしても態度が素っ気なさ過ぎねぇか?ただ利用してるだけ....いや、あの天災が気付いてない訳が無いか。解っててそう振る舞ってるのか?それなら....

 家族の絆を信じる響弥からすればそれはとても腹立たしい事だった。嫌っているのに、利用する時は都合良く利用し尽くす。最悪な関係だろう。恐らくだが束は赦しを求めている。それを理解していてあの態度だと言うのなら、響弥は義手を使って箒を殴るだろう。それほどまでに腹立たしいのだ。

 

 「もしかしてあの機体、篠ノ之さんが貰えるの...?ただ身内だったってだけで」

 「だよね...なんかずるいよね」

 

 そんな事をするからこんな疑念や軋轢が生まれる。しかも陰口風に隣の人にしか聴こえない位のボリュームで話すから尚更性質(タチ)が悪い。

 

 「お前ら、1つ覚えとけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()。だから貴族や農民とかいう階級が生まれ、その中でも位が高い王族とか天皇という最高階級が生まれたんだ。平等ならそんなの要らないだろ。それにそんな事を言ったら、専用機持ち(俺達)だってただ適性が高かったから選抜されただけに過ぎないんだからな」

 

 そう答えると言われた女子2人は気まずそうに作業に戻っていった。どうしようもない事実で、最悪の正論故の事だ。熱源を起動したままだった義眼が検知したので上を見ると、紅椿が大空を踊る様にミサイルを墜としていた。そしてその表情は....隠しきれぬ笑みを刻んでいた。

 

 「..........」

 (やっぱり、アンタはそうなるよな。....織斑先生)

 

 恐らく気付いているのは一夏と響弥のみ。千冬は険しい表情をして束を見ていたのだ。響弥にも拭いきれない嫌な予感が胸に渦巻く。隣の雪菜を見ても、感じている事は一緒の様だった。

 

 「お、織斑先生!こ、これを!」

 

 真耶が差し出した小型端末を見て更に表情が曇る千冬。始めは小声で話していたのだが、途中から軍の暗号手話に切り替えて話していた。響弥はしっかり理解できるので聴いていたが、俄に信じがたい話だった。

 

 「....更識くん」

 「あぁ、幾ら何でもおかしいだろ。()()I()S()()()()()()()()()()だと....?ISに対抗するには確かにIS学園の保有するISが最適解だろうが、それを全部生徒に対処させるのは生徒の命を軽視しすぎだ。軍用ISの出力なら絶対防御を貫くかも知れないんだぞ....!」

 「全員注目!現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動に移る。今日のテストは中止。各班、ISを片付けて旅館へ戻れ!連絡が有るまで各自室内で待機すること、以上だ!」

 

 不測の事態により騒然となる女子だったが、真耶の誘導と千冬の鶴の一声により迅速に作業を終わらせて旅館へ戻る準備を始めた。

 

 「それと専用機持ちとそのパートナーは全員集合しろ!織斑、更識、舞原、オルコット、メイル、ボーデヴィッヒ、凰!--それと篠ノ之も来い!」

 「はい!」

 

 妙に気合いの入った返事をしたのは箒だった。紅椿を貰って内心ではしゃぐ箒の姿は響弥にとって、欲しかった玩具を買って貰った子供の様に感じられた。そしてこの襲撃も、何処か作為が見える事にも気付いていた。


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