IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

53 / 152
 およそ一月ぶりの本編更新です。読者の皆様、お待たせしました!


臨海学校

 「更識くん!起きて下さい見て下さい!海ですよ海!」

 「ん、んぁ....おぉ、確かに海だな。綺麗な海だ」

 

 仕事を全て昨日で終わらせ、どうにか臨海学校にコギツケタ響弥は何故雪菜が此処までハイテンションなのだろうか、と一瞬思う。彼女は幼少からデュノア社の狗として育ってきたのだ。海を見た事は有ってもそれはあくまで副次的なものであり、自分から海に来たことは、ひいては友達と海に訪れたのは初めてなのだろう。そう思い至った響弥はテンションを合わせるまではせずとも一緒に海を見て笑う。

 チラッと後ろを見ると、箒に世話をされている一夏が見える。前に寮の自室に帰ってから1、2週間学校を休んでやっと教室に通える様になった。しかし以前の様に快活な一夏ではなく、今の一夏はとても静かだ。今の雰囲気は一夏よりもシャルルに近くなっている。誘えば遊んだりしているが、今は基本的に箒やセシリアなどの一夏に好意を抱いている組と行動しているらしい。

 

 「到着したぞ、順番に降りろ」

 

 千冬の一声で皆がぞろぞろと降りる。旅館の前に整列すると、千冬が喋りだす。

 

 「此処がこれから私達がお世話になる旅館だ。くれぐれも迷惑を掛けない様に。では、全員部屋に入って荷物を整理したら自由行動だ。自由とは付いているが、羽目を外し過ぎない様にな」

 

 よろしくお願いしまーすと声を合わせて全員が挨拶する。女子は既に部屋を知らされていた為にスイスイと部屋に向かうが、男子は知らされていない為にその場に立ち止まらざるを得なくなる。

 

 「お前達は此方だ」

 「...織斑先生、此処は職員用の部屋では?」

 「その通りだ更識。まぁ初めはお前達2人を相部屋にするという案だったのだがな。どうせ女子達が部屋に押し掛けるだろうと思い、教師と相部屋にすれば押し掛けも無いだろうとなってな」

 「成る程」

 「そういう事だ。早く入れ」

 

 早々に荷物を置いて海へ向かおうとした響弥だが、一夏に呼び止められる。折角の機会だし、別世界の一夏と向き合った事も有って響弥は応じる事にした。

 

 「どうした?」

 「その、頼みが有るんだ」

 「なんだ、白式か?」

 「いや違う!...あ、それも有るけど。その、俺に戦い方を教えて欲しいんだ」

 「へぇ....前、形振り構わず逃げた奴が随分と大きく出たな。俺を倒す奴の為に戦い方を教えろとか...少年漫画かよ」

 「俺が馬鹿で弱い事は解った。今までしてきた事の余計さも。だから強くなりたいんだ!その為に響弥を踏み台にする。馬鹿げた事を言ってるのは分かってる。でも--」

 「良いよ、ただ1つだけ質問だ。自分の恋人と世界中の人間なら、どっちを取る?」

 「....俺は、俺ならどっちも取る」

 「二兎を追うもの一兎をも得ずって言うぞ。それでもか?」

 「あぁ、それでもだ」

 「...ハァ、変わんねーなお前は。馬鹿野郎のまんまだ。....仮釈放ってヤツだ。一旦返してやる。ただ俺が駄目だって思ったらまた没収だからな」

 「...有り難う!」

 「さっさと泳ぐぞ」

 

 響弥はさっさと着替えると砂浜へと出る。其処には雪菜とウサギの耳が生えていたが、嫌な予感がしたので丁重に埋めておいた。雪菜はどうにか背中に日焼け止めを塗ろうとしているらしいが、届かないらしくプルプルと震えながら塗ろうとしている。

 

 「お前泳がないの?」

 「あっ」

 「....ハァ。さっさと泳ぐぞ。日焼け止めなら後で塗ってやるから」

 「...有り難う御座います」

 

 海へと行こうとした直後に目の前にバスタオルでぐるぐる巻きになったナニかが現れた。反射的に義眼を起動すると体格的にラウラだと解るが、何故こんな格好なのか理解に苦しむ響弥を助ける様にシャルロットが登場する。

 

 「ほらラウラ!可愛い水着なんだから見せないと!」

 「い、いや私は良い。変だし泳がなくても...」

 「じゃあ僕達で泳いじゃお!響弥、雪菜、一緒に泳ご?」

 「お、おう」

 「そうですね、泳ぎましょう」

 「ま、待て!...ああもう、どうにでもなれ!」

 

 その身体に巻き付けていたバスタオル全てを投げ捨て、水着を纏った身体を白日の元に晒す。黒いビキニタイプの水着はラウラの機体である【シュヴァルツェア・レーゲン】と同系色の黒とその色白の身体の醸し出す、決して生々しくない少女的な色気。そして鈴と同じサイドアップテールに仕上げられた髪型は活発な少女としての印象を抱く。長ったらしく理屈を捏ねたが、響弥が言いたいのは1つ。

 --めっちゃ似合ってるな、水着。

 そう思ったのなら響弥は包み隠さず、惜しみ無く称賛する。

 

 「その水着、可愛いな。もし俺が彼氏だったら変なんて思わないぞ。寧ろ誇らしいよ、スゲェ可愛いから」

 「ほ、本当か!?それなら良かった」

 「むぅ....」

 「さてさて、早い所泳ぎたいな。こんなクソ暑い砂浜にずっと居る理由も無いし」

 

 響弥は駆け出し、海へと飛び込む。地面にずっと触れていた義足が熱された金属に水を垂らした時の様な音を立てる。幾らナノスキン越しとは言っても完全な断熱は出来ないのだ。スローで見れば響弥が飛び込んだ瞬間だけ湯気が発生しているだろう。それ程に熱く、また響弥が暑さに弱い理由でもある。

 

 「ふぅ...気持ちいいな。海は救いだな」

 「響く~ん、ビーチバレーしない~?」

 「HAHAHA、本音さんよ、随分と面白い事を言うな。俺が暑さに弱い事知ってるだろ?」

 「あ、そっか~。でもしてくれないの~?」

 「....チッ、わぁったよ。やりゃ良いんだろやりゃ」

 「わ~い、ありがと~」

 

 砂浜に戻ると女子の中に一夏が居る事に気付いた響弥。敢えて雪菜を連れて一夏の相手チームに入るとある1人の女性(兵器)が参戦する。

 

 「どれ、私も入れて貰おうか」

 「...げ、戦術兵器並みの戦力が入りやがった」

 「聴こえているぞ更識。その言葉、後悔しない事だな」

 「だ、そうだぞ舞原」

 「らしいですよ、本音さん」

 「私は多分~、響くんに言ってると思うの~」

 「それは大変だ。どうにかして勝たないとな」

 

 それからは激戦という言葉は今の為に有るのではないか、という程に激しい試合だった。予想外だったのは雪菜で、皆の想像以上に良い動きをするのだ。ボールのコースを先読みし、衝撃を弾くのではなくベクトルを変えて返球する。しかし、事故は起こるものだった。

 

 「へぶしっ!!」

 「わゎっ!?.....キャッ!!?」

 

 千冬の渾身の1打が顔面に入り、砂に足を取られて転んだのだ。ところが、運と状況が悪かった。いきなり倒れた響弥を支えられず、まるで押し倒される様な形になった。これだけなら気まずくなる位で済んだだろう。悪運は重なるもので、顔が雪菜の胸の上に置かれたのだ。動転した雪菜は突き飛ばして鳩尾に惚れ惚れする程の一撃を加える。綺麗すぎる一撃は響弥の意識を刈り取るには容易かったらしく、気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はっ!飯は!?」

 「此処に有りますよ」

 「私も居るぞ!」

 

 医務室だろう。テーブルにはちゃんと旅館の夕飯が置かれている。普通に食べようとするが、ラウラによって遮られてしまう。

 

 「あ、あーん」

 「いやあの、普通に食えるん--」

 「あーん」

 「だから、別に--」

 「あーん」

 「......あーん」

 

 何を言っても無駄だと悟った響弥は差し出された刺身を口にする。脂の乗ったカワハギの身はとても美味で、本わさびのピリッとくる辛味と醤油のまろやかさが更なる調和を産み出していた。とても美味しい。次はご飯を、と思った所で次は雪菜が差し出していた。

 

 「更識くん、あーんしてください」

 「...ありがとよ、あーん」

 

 戦乱の前の、和やかな一時が刻一刻と過ぎ去っていっている。秒読みは始まった....




 詰め込みすぎたかな...?でも、他の作者さんが良く書いてますし、飽き飽きしてるでしょう(断定)。これからは荒れますよ~

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。