IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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すれ違いと相違点

 「......ッ、随分と物騒な目覚めじゃねぇか」

 「結構これでも穏便な方だと思うけど?まず、此方の最高戦力を1人で封じられる戦力を治療して腕を縛ってるだけでも破格の扱いだと思って頂戴」

 「....はいはい、降参だよ。あっちの世界でもお前に口喧嘩で勝った事は無いしな」

 「...あっちの世界でも?どういう事?」

 

 響弥は腕を縛られたままベッドに転がされていた。大体の傷は手当てされているが、少し動けば鈍い痛みが身体に響く。しかし、ISと仮面ライダー相手にそれだけで済んでいる事が奇跡なのだ。

 

 「そのまんまの意味だよ。多分俺は別世界の人間だって事」

 「おちょくってるの?」

 「こんな状況でそれが出来るなら筋金入りのスパイだな。残念だけど事実だ。んー..じゃあ質問、男性操縦者は何人いる?」

 「1人だけよ。ブリュンヒルデの弟、織斑一夏くん」

 「うん、やっぱ本当だ。パラレルワールド的な感じなのか?少なくとも俺の方じゃ男性操縦者は2人、織斑一夏と更識響弥--俺の事だな。この2人だった」

 「...確かにさっきもう1人の方にデータを見せて貰ったけど、学園のコードが使われていたわね。尋問の必要はやっぱり--」

 「--尋問だ?テメェ、良い度胸してやがんな」

 

 響弥は腕を無理矢理に捻り、鎖を捻り切る。そして脚を掛けて転ばせ、半ばで途切れた鎖を首に当ててドスの利いた声で問い掛ける。

 

 「舞原(アイツ)は無事なんだろうな...?傷なんて付けてたら--」

 「無事よ!絶対に、傷ひとつ付いてないわ!」

 「......そうか。で、何か俺に聴きたい事は無いのか?」

 「切り換え早すぎるわよ、貴方。...そうね、貴方の世界じゃ私と簪ちゃんの関係はどうなの?」

 「最悪の1歩手前、かな。俺とも、な」

 「....え?」

 「俺達は簪がこんな真っ暗な世界に関わらせたくなかった。お前は--楯無は簪に無能なままでいろ、と言った。そして俺は助けを求めてきたアイツを突き放した。その後にお前は専用機【ミステリアス・レイディ】を、俺は【絶月】を完成させた。それ以来アイツは一夏の機体のお陰で製造中止になった自分の専用機、【打鉄弐式】を1人で造ってるらしいな」

 「仲直りしようとは思わないの?」

 「さぁな、俺はアイツの気持ちを考えていない。俺は楯無の影、黙って付き従うだけだ」

 「そんなの、思考の放棄じゃない。考えない理由にはならないわよ」

 「俺の事自体、あんまり良い顔をされないからな。いきなり養子縁組で更識の子供になって、本来の妹よりも上の立場に居るんだ。更識家の一部からは嫌われてるし、どうなったって構わない。俺は俺の家族を守る為にこうしてる。他人にどうこう言われる問題じゃない。...まぁ、姉妹の仲ぐらいは修復して欲しいってのが、俺の望みかな」

 

 響弥と楯無は簪と疎遠になっている。響弥自身は簪との和解を望んでいる訳ではないが、楯無は更識家当主である事によって周囲から課せられる重圧と「完璧であれ」という願いによって、楯無の精神は既にボロボロになっている事を響弥は知っているのだ。そして、その磨り減った精神を本当に癒せるのは自分ではなく、血を分けた姉妹である簪ただ1人だけてある事も。

 

 「それは--」

 『緊急事態!緊急事態!第三アリーナに所属不明の機体が出現!生徒会長と教師陣は至急第三アリーナへ!繰り返す--』

 「ッ、貴方は此処で待っていて!」

 「俺も行く。簪は俺のせいで戦えないだろ?だから俺も行くよ。確実に戦力にはなるさ」

 「...それもそうね、着いてきて!」

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 第三アリーナに居たのは、甲冑だった。剣を地面に突き立て、誰かとの決闘を待ち詫びているかの如く、身動き1つせずに立っていた。既に鈴達が応戦していたが、何度も殴られて斬られても、甲冑が溢した言葉は一言だけだ。

 

 「オマエラデハナイ....ヤツハ、ドコダ...?」

 

 そして響弥と楯無がアリーナに辿り着き、臨戦態勢を取った所で漸く変化を見せた。決して友好的な反応とは程遠い、最悪な反応だったが。

 

 「ミツケタ...ミツケタゾ、サラシキキョウヤァァァァ!!!」

 「うるさ...誰だよお前は、俺はお前なんざ知らねぇよ!」

 「ワスレタダト....ソンナコトハイワセヌゾ、ワタシヲ殺してオイテッ!!」

 「は...?俺がお前を?まず誰だか分かんねぇのに--」

 「モンドウムヨウ!シネェェ!!」

 

 甲冑の姿からは想像も出来ない程の速さで肉薄した敵は両手に握るその大剣を振り下ろした。剣術も何も無い、稚拙な剣だが余りにも速い。それだけで地面はひび割れ、当たればミンチ、義手も壊される事が大体分かってしまう。

 

 「変身!」

 『タドルメグル タドルメグル タドルクエスト!!』

 

 フレイブに変身し、ガシャコンソードを握って甲冑へと肉薄する楯無。しかし、それでも押されている。余りの重量差に力が追い付いていないのだ。全体重を掛けての斬撃には仮面ライダーの膂力でも拮抗するだけで精一杯なのだ。

 

 「大変身」

 『レベルアップ!マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!』

 「3速」

 『アガッチャ!ギリ・ギリ・ギリ・ギリ チャンバラ!』

 

 エグゼイドレベル2とレーザーレベル3がアリーナに参上する。甲冑は見た目通り硬いらしく、全員の攻撃が効いていない様にも見える。後ろから抑えようとはしているが、全く枷になっていない。何度絶月を展開しようとしても、展開の兆候すら出てこない自分のISの待機形態(チョーカー)を触り、響弥は無理矢理笑って一言だけ溢した。

 

 「コレ、滅茶苦茶にキツいぞ.....」

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 「どうしたら...絶月はどうして展開出来ないのでしょう...」

 

 雪菜はひたすらに思考を巡らせていた。甲冑と命懸けの戦闘を響弥が繰り広げる最中に、自前のノートパソコンから絶月のデータを見るが、謎のシステムロックが掛けられているのだ。今現在で思い付く手段の全てを使っても解除できないロックはまるで世界が拒んでいるかの様に堅固なものだった。

 

 (楯無さん達はベルトを使って展開している。そうだ、このベルトを利用出来れば--)

 

 考え付くと雪菜はバックの中からケーブルを掴み、ガラケーに接続する。殆どが意味を成さないロックだが、中には何かを展開させるデータが入っていた。しかし、その中の殆どが虫に食われた様に穴が空いており、雪菜がその中に絶月のデータを入力していた。

 

 「【雪】は駄目....あの速度に対応出来ない....【月】は強化形態に利用、花はあの反応速度を...」

 

 そして全てのデータを入れ終わった後に、このベルトを付けた戦士の名前と変身する為のキーコードが明らかになる。黄金比の名前を戴くその戦士の名は--

 

 「【Masked rider FAIZ】....ファイズ。よし--」

 

 耳に付けているインカムから響弥へと通信を飛ばす。

 

 『なんだ!?』

 「今からベルトを投げます!受け取って!解除キーは5を3回押してエンターキーです!」

 『...信じるぜ、俺の専属ッ!!』

 「はい!」

 

 インカム越しに返ってきた自分の頼れる相棒に向けて、窓ガラスを割ってベルトを投げ渡す。

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 投げ渡されたベルトを持ち、ベルトを巻く。そしてガラケー--ファイズフォンを開き、キーを入力しようとする。が--

 

 「ニゲルナァァァァ!!!」

 

 一旦退いた事により激昂した甲冑が今までよりも速い速度で駆動し、剣を振り下ろしてくる。義眼の効果によって体感速度が引き伸ばされ、周囲の速度がスローになっていく。響弥は5を3回押し、エンターキーを押す。

 

 『Standing by....』

 「変身ッ!!」

 『complete』

 

 紅き閃光が全員の視界を埋め尽くす。それと同時に、甲冑が握る凶刃が響弥の身体に--


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