IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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救出

 「クソッ、アイツは俺が絶対に倒すッ!!」

 「一夏、止めろ!!」

 

 激昂した一夏はラウラだったモノへと斬り掛かる。しかし横凪ぎに凪ぎ払われた一撃を防ぐも、次の縦斬りで白式の装甲は大きく損失、SEも切れた事もあって白い粒子となって白式は霧散した。軽く刃に触れたのか、血が滲んでいる。

 

 「それが...それがどうしたァ!!」

 

 更に掛かっていこうとする一夏を引き倒したのは響弥だった。

 

 「オイ教師陣、何やってる!さっさとアイツを取り抑えろ、仕事だろうが!!」

 「響弥、アイツは俺が仕留める!先生は--」

 「ざけんな!俺は副会長だ、お前を保護する役目がある。生身でISに勝てる訳が無いだろう」

 「...なら、ISが有れば良いんでしょ?僕のISのSEを分ければ大丈夫」

 「ほら、シャルルだってこう言ってる。だから良いだろ!?やらせてくれよ!」

 

 管制塔に向けて響弥が叫ぶ。それは副会長としての責務から来る言葉だった。しかし一夏は退かない。未だに諦めず、響弥に噛み付いていく。そんな一夏に響弥は--

 

 「黙れ!!」

 

 怒鳴り、一夏を殴り飛ばした。そして前の様に胸ぐらを掴んで言う。

 

 「お前は其処で守られてろ。お前みたいな雑魚に人は守れない。ましてや、自分の状況と相手の腕前も分かんねぇ様な奴には、な」

 

 一夏は言い返したい様だった。しかし、心当たりも有るのか全く言い返せない様子だ。立ち上がり、まだ屁理屈を捏ねようと口を開いた時、プシュッと何かが注入される様な音の後にパンッという乾いた音がした。

 

 「デュ、デュノア....テメェやりやがったな!!」

 「え....?ぼ、僕、なんで....」

 

 それは、シャルルが一夏を撃った音だった。ISの銃ではない、対人用のハンドガン。煙を上げている銃口はシャルルが撃ったと言っているのと全くの同義だった。

 

 「ち、ちが...僕じゃ--」

 「--困るんだよねぇ、そういうの。ホント、このイベントは君の為に有るのにね、響弥くん」

 「カレン・ボーデヴィッヒ....」

 「ねぇねぇデュノアくん、その首輪が自爆するって本当に信じてたの?」

 「な、なんでその事を!?」

 「な訳無いのにさ、馬鹿みたい。ソレに仕込まれてたのは洗脳ナノマシンだよ。たった1度、コードを知る人の合図で身体の制御を奪って何かをさせられるんだ。.....にしても、本当にしぶといねコイツ。さっさと死ねば良いのに」

 

 近付いてくるカレン。しかし、前の様に朗らかな空気はもう無い。シャルルは一夏を撃ってしまったという現実を受け止めきれず、呆然としている。

 

 「コレは君の為に仕込んだんだよ?早く解決して貰わないと困るなぁ」

 『更識、今教師陣が行く!』

 「....だから困るんだよ。2度も言わせるな」

 

 手を翳しただけで扉は歪み、その上にバリアが展開される。触れようとすれば弾き飛ばされる、斥力を用いている様な感覚だった。銃弾を撃ち込めば反射され、斬り付ければ刃が折られる。その事実が示すのは--

 

 「完全な孤立無援、って事か」

 「うん。さ、証明して見せてよ。あの惨劇から生き残り、文字通り身に付けた、その力を」

 「.....仕方ねぇ。舞原、【花】だ」

 『な、【花】は駄目です!まだ調整も済んでない上に、暴走すれば--』

 「信じろ、俺を。お前の専属である、更識響弥を。神や運命なんて信じなくて良い。俺を、俺だけを信じろ」

 『........3分だけです。3分経過したら強制的に戻しますから』

 「有り難う、舞原」

 

 背中のアロンダイトとゲイボルグが粒子に還る。装甲が銀から血よりも更に濃い紅へと変わっていく。スラスターが全て装着されたボードに乗り、追加のBT兵器が空中に展開される。これが空間兵器特化パッケージ【花】だ。

 あらゆるスペックを犠牲に、空間兵器--BT兵器に特化させた。セシリアのブルー・ティアーズのビットと絶月のファングを更に発展させた【ファング・ドラグーン】を更に16機を装備。更に【シールドドラグーン】を8機、計40機のBT兵器を装備させた。スラスターを全て装備させたボードの名称は【ヘルメス】。側面に刃が装備されており、機動力を生かした近接戦闘も可能な代物だ。近接のファング、射撃のドラグーンを使い分け、本体はスラスターボード【ヘルメス】を使って高速機動、被弾しそうな攻撃はシールド・ドラグーンで防御する。全てのスペックを空間兵器に傾けた、『やり過ぎ』な機体だ。

 

 「グァ.....」

 

 --まだ10秒も経ってねぇのにコレかよ!

 

 『やり過ぎ』故に響弥に掛かる負荷も相当なものになる。いくら義眼に演算を半分負担させているとは言えども、もう半分の20機のBT兵器は自分の脳で処理しなければならないのだ。単純計算でブルー・ティアーズの3倍以上の負荷が掛かる。たった6機で無防備になるのなら、20機も制御すれば無防備にならない訳が無いのだ。

 それでも響弥は痛む頭に耐えながらファングとを飛ばす。流石の世界最強、織斑千冬の模倣とて、四方八方から放たれる射撃と斬撃を刀1本で捌き切れる程人間を止めていない。視界の右上にカウントが現れ、時間を刻む。残り時間はあと2分、このままやるなら直ぐに終わるだろう。そう、()()()()()()

 

 「グッ....千冬姉を、千冬姉だけのものを、奪うなッ!!」

 「ッ....!?あの野郎、何やって--!?」

 

 SEが既に極限までに、いや、既に使い切った白式を纏って一夏が千冬擬きへと掛かっていく。零落白夜を一瞬だけ発動させる程度のSEも持たない白式はただの露出が多い鎧だ。しかも相手は自由に空を飛べる。無謀だ。愚かな、ただ無謀な特攻。

 雪片弐式を腰だめに構え、居合いの様な構えを取る一夏。それに対して千冬擬きは縦斬りで迎え撃つ。抜刀、もし零落白夜が発動出来ていたなら、千冬擬きの刀を弾き飛ばし、次に繋げる事も可能だっただろう。しかし何の補助も作動していないISの一閃は常人の一閃と何ら変わりない。まだ箒程の実力があるなら拮抗は出来たかも知れない。しかし一夏は中学時代部活にも所属せず、バイトに明け暮れていたのだ。--勝てる要素は、1つも無かった。

 

 「っ、オァァ!!」

 

 弾かれて隙だらけになった一夏をヘルメスを全速で移動させて助ける。その際に刀に肩が軽く触れそうになるが、シールドドラグーンを使ってどうにか防ぐ。一夏は勝手に突っ込んでいったにも関わらず、勝手に気絶していた。シールドドラグーンを担架の様に使って歪んだ扉の所へ運ぶ。残り時間、1分半。

 

 「いい加減、その癇癪抑えやがれ....!!」

 

 32機の全ての攻撃用のBT兵器。それら全てを本気で攻撃に回す。防御はせず、全て回避する。その前に距離を離し、刀の間合いから逃げる。段々と黒い身体に皹が入り、攻撃が苛烈になっていく。それでも攻撃は止めない。

 刀をファングで弾き、先程の一夏の様によろけた所をドラグーンで追撃。地面に落とし、刀を持つ手をファングを地面に突き刺して封じる。刀を手放した千冬擬きは無手で響弥に相対する。

 義眼が熱を持つ。熱すぎて痛みすら伴う程でもあった。それでも耐え抜く。ラウラも被害者だ。一夏はラウラから被害を被ったが、あれは自業自得なのでノーカンだとして、ラウラは響弥が見ている場所で『加害者』になった事は無かった。寸前で抑え、被害らしい被害は出していなかった。差別と言われるかも知れない、それでも響弥は助ける。

 --んな事すんなら、そんな泣きそうな声で叫ぶなよ。

 千冬擬きの中身はラウラだ。その泣きそうな声は、きっとラウラの本心だと信じ、響弥は戦っていた。こんなちぐはぐ(義手義足)だからこそ、痛くとも手を伸ばし続けられると信じて。

 

 『3分経過!【月】に--』

 「....必要()え。もう終わりだ」

 

 ファングを片手に持つ。そしてヘルメスで全速力で突っ込み、胸の中心部分に突き刺す。皹は広がり、まるで硝子が割れる様な音を立てて黒い身体は弾けた。響弥の腕の中に居るのは一糸纏わぬ姿のラウラ。白磁の様な肌と銀髪が輝きを放つ、神々しいと錯覚する程の姿だった。女子特有の柔らかさを堪能する訳も無く、響弥はカレンを睨み付ける。

 

 「ま、合格かな。良かったね、響弥くん」

 「.....演技はもう止めろよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?.......()()

 「やっぱり気付いた?流石はお兄ちゃん」

 「お前は昔っから嘘が下手くそだったよ。本当にな」

 「アハハ、そうかな?私はちゃんと嘘吐いてると思うんだけどなぁ」

 「....ラウラとの関係に、真実は1個も無かったのか?」

 「そうでもないよ?ラウラは良い友達だったし、その憧れに対する執念は尊敬してた。まぁ、レベルは低かったし、なにかと煩かったからあんまり友達として好きにはなりにくかったけど」

 「夏蓮、お前はデュノアの狗になったのか?」

 「え?そんな訳無いじゃん!あんな色んな意味でブラック企業なんかに所属したら使い捨てられちゃう」

 「じゃあ、何処に所属してるんだ?」

 「んー....ま、合格したし、教えても良いかな。私達は--」

 

 響弥の視界は揺らぎ、霞み始めていた。もうラウラを抱えているのかも曖昧だ。目の前の夏蓮の姿も殆ど見えていない。言葉を聴くので精一杯だ。

 

 「--『御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)』って言うんだ。どう?格好いいでしょ。私は『チェシャ猫』なんだ!」

 「御伽の国、だと....?」

 「あぁ、勿論『アリス』も居るよ。お兄ちゃんの運命の相手だよね?」

 「....運命かは知らねぇが、因縁は有るな」

 「会いたがってたよ、アリス。あ~あ、帰ったら何される事やら。コチョコチョかな?まぁ良いや」

 

 ISを展開する夏蓮。しかしヴェールが掛かっているかの様に何も見えない。

 

 「夏蓮!お前達の目的は--」

 「お兄ちゃんなら分かるよ、絶対にね。本当に分かんなかったらヒントを出してあげるから。ゆっくりと、ゆっくりと、ね?」

 「クソ、夏蓮!!」

 

 膝から力が抜け、足を付いてしまう。そして実感が沸いてくる。最後に夏蓮が言い残した「ゆっくりと、ゆっくりと」というのは響弥が『赤羽響介』だった時に良く夏蓮に言っていた台詞だ。

 今の技術なら顔は全く同じに出来る。そしてお兄ちゃんと呼べば完璧に見てくれだけなら夏蓮だ。しかし、偽者に過去は分からない。ましてや、兄の口癖など。しかし、それが分かるあの夏蓮は響弥の口癖を真似して見せた。

 その事実は、夏蓮が本物の妹、『赤羽夏蓮』であるという何よりの証拠だったのだ。

 

 「クソ、が....クソッタレェェェェェェ!!!!」

 

 そう叫んだ直後、張りつめていた緊張の糸が切れたのか視界がブラックアウトする。それでもラウラを下敷きにしない様に仰向けに倒れるくらいはした。それが終わると響弥の五感全ては無くなり、意識は闇へと呑み込まれていった。


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