IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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暴走

 屁理屈同然の理由で教師陣に異議申し立て。それをして響弥は雪菜とペアを組んだ。戦うのは響弥1人だが、雪菜がサポートするので実質ペアではないか、という理屈だ。支離滅裂ではなく、ちゃんと筋が通った異議だった為に却下する事は出来ず、認可せざるを得なくなったのだ。しかし完全な単独戦闘は許可されず、変則的ではあるが戦闘でもペアを組む事になった。その人物は--ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 「....織斑一夏は私が潰す。邪魔をするなよ」

 「フン、俺に2連敗してる癖にデカイ口を叩くじゃねぇか。足手まといにはなんなよ、ボーデヴィッヒ」

 

 因みに篠ノ之箒だが、参加したかったらしい。が、以前やらかした事もあり生徒会から認可が降りなかったので参加は不可能である。本人は不平を漏らしていたが、一夏を除く者達からすれば退学にならないだけマシだ、と思っている。

 例年はコンピューターによる籤引きにより直ぐに組み合わせが発表されるのだが、今回は変則的にペアでの対戦となっているので現在では滅多に見ない手作業での籤引きである。なので発表される時間が遅くなるのは告知されているので控え室で全員待っているのだ。

 

 「あ、組み合わせ出たよ!」

 「本当だ!....うわ、清水とかぁ...勝てるかなぁ?」

 

 そんな声が聴こえて顔を上げ、ディスプレイを見ると、今噂になっている2人の名前と自分の名前が隣り合って表示されていた。対戦カードは織斑一夏、シャルル・デュノアペアvs更識響弥、ラウラ・ボーデヴィッヒペアだった。

 

 「やっとか、織斑一夏ァ....叩き潰してやる」

 「幕開けの1戦が俺達か...ま、頑張るぞ、舞原」

 「そうですね!【雪】の初陣、魅せてあげましょう!」

 「良し、更識響弥、出撃()る!」

 

 2つの黒がカタパルトから射出される。並び立つ2つの黒は白と黄色に相対し、武器を構える。

 

 「織斑一夏、私は貴様を--」

 「ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前を--」

 「シャルル・デュノア、手前(テメェ)を--」

 「更識響弥、僕は君を--」

 「「「「叩き潰す!!」」」」

 

 4人が叫び、戦闘が始まる。

 

 「舞原ッ!!」

 『特化パッケージ【雪】、換装!』

 

 戦闘が始まると同時に響弥は雪菜に通信、雪菜がデータを絶月に送信する事により、特化パッケージをインストールする。

 【月】とは違う、蒼色に。冷やかだが、美しい蒼へと装甲が変わり肩には大型バスターキャノンが、腰には折り畳まれたレールガンと二挺のビームマグナムが装備された。これが『遠距離特化パッケージ【雪】』である。ファングは前腕部に装着し、【ヤタノカガミ】の範囲を広げている。近接武装は全てオミット、遠距離戦しかせず、足も遅い。その代わり装甲は最も厚く、砲台戦法を得意とする防御、砲戦特化である。

 

 「【黒雷(くろいかずち)】」

 「ッ、危ないなぁ!」

 

 肩に装備された大型バスターキャノン、【黒雷】が閃光を放つ。二挺のビームマグナム【骸火(むくろび)】よりも太く、紅い力の奔流は防いだハズのシャルルのシールドの厚い装甲を抉る。

 

 「【ガーンデーヴァ】ッ!!」

 

 接近してくるシャルルに手を向ける。するとファングが弓の様な形に開き、ビームで形成された矢が装填される。次の瞬間には既に矢は放たれており、シャルルは矢を姿勢制御用のサブスラスターを撃ち抜かれてしまった。

 

 「クッ、拡張領域(バススロット)を使わずにその武装の数、恐ろしいよ!!」

 「俺の専属の自信作だ、たっぷり味わえ!」

 

 更に拡張領域からガトリングを取り出し、弾をシャルルに向けてバラ撒く。一夏と位置を交換しようとしていたシャルルは先手を打たれ、歯噛みしながら大口径ショットガン【レイン・オブ・サタディ】を右手に顕現させる。 

 右手に持ったショットガンを撃つシャルル、しかし響弥は慌てずに次の手を打つ。そう、それは誰も予想しなかった回避の仕方であり、防ぎ方だった。響弥は()()()()()()()()()()()()()()。拡散する弾丸全てを受け止めたガトリングは当然爆散、それにより一瞬だけ視界が通らなくなる。

 

 「オオオッ!!」

 

 次に拡張領域から取り出したのは狙撃銃。先程の借り物の武装ではなく、雪菜が設計した狙撃銃だ。その名は【裂雷(さくいかずち)】、モード変更により突撃銃と狙撃銃を使い分けられるという銃の種類という概念をぶち壊す代物だ。

 スコープを起こし、右目で覗く。義眼の予測とハイパーセンサーを応用したスコープ、更にISのハイパーセンサーが揃った状態。放たれた弾丸は標的を過たずに穿った。一夏のメインスラスター1基を持っていったのだ。

 

 「一夏!?」

 「大丈夫だシャルル!作戦通り行こう!」

 「....うん!」

 

 その瞬間、シャルルと一夏の動きが変わる。シャルルは響弥から距離を放さずに接近戦を挑み、一夏は中距離でラウラと渡り合う。とは言え白式は単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が使えるというメリットが有る代償に、拡張領域に一切の空きがないという大きいデメリットが存在する。故に1基のメインスラスターを使っての回避、隙があれば雪片弐型で反撃するというカウンターメインの戦法になっているが。

 

 「ハアアアッ!!」

 

 スラスターの噴射光を一際強くして突っ込んでくるシャルル。ガーンデーヴァと一挺の骸火を構えて応戦しようとするが、視界の端にワイヤーブレードが映る。

 --何故此処までワイヤーブレードが?

 そんな思考が響弥に疑問を生んだ。この中でワイヤーブレードを使うのはラウラのみ。更に狙いは一夏、だからシャルルには構わないだろう。シャルルの強いスラスターの噴射光、ラウラのワイヤーブレード、此処まで来れば答えは簡単だった。

 

 「ッ.....!!舞原ァ!!」

 『了解、【月】に換装します!』

 「オオォォォアアァァ!!!」

 

 シャルルが下へと急降下、その後ろから現れたのは零落白夜を発動させて突っ込んでくる一夏だった。【月】に換装した響弥は全力で後ろに飛行し、距離を取る。以前のラウラの様に刀身を伸ばすのはプラズマ手刀だからこそ出来た技で、零落白夜では自分のSEを大幅に減らす諸刃の剣だからだ。その思考を、響弥は手玉に取られてしまった。

 

 「これ、は....!」

 

 ラウラのワイヤーブレード、強度的にも長さ的にも充分な、()()()()()()()()()()。後ろにはシャルルがしてやったりと笑み、一夏は反転してラウラと相対している。シャルルは急降下してラウラと戦闘していると響弥は考えたがそうではない、シャルルは急降下した後に自分のブレードを使ってラウラのワイヤーブレードを切断、そして自分のブレードを縛り付けた上で響弥を縛ったのだ。

 機体に密着するブレードは少しでもワイヤーを解こうとすれば刃が機体を斬り裂くまでにはいかずとも、【月】の状態の今ならば大きくSEを減らしてしまうだろう。

 --まさかコイツら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 通常ならそんな作戦は採用しないだろう。響弥も雪菜もそうだ。ハイリスク・ハイリターンではあるが、余りにも不確定要素が多すぎる。今回に限って言えば響弥が絶月のパッケージを換装せず、ニュートラルのままならばファングを使って脱出出来るのだ。更に初めから【月】だったならば零落白夜をかわした上で一夏に反撃を入れられたのだ。リスクが大きい割に得られるアドバンテージは響弥1人を封じるのみ。リスクとリターンが釣り合っていないではないか。

 

 「......しゃーねーな。アイツが1人で決めるならそれで良いけど、2対1が終わるまでは観客になってやるか」

 

 ラウラは善戦しているだろう。停止結界を上手く使って立ち回り、2対1でも隙を見せずに戦っている。しかしレールガンを破壊され、AIC(停止結界)の弱点を見破られた時には既に戦況はラウラの劣勢に傾いていた。

 その中でも一番の要因は一夏の戦い方の変化だろう。今までソロで一夏が戦う時、零落白夜での一撃必殺を必要以上に狙っていくスタイルだったのが、シャルルの存在によって本当にここぞ、という時にしか狙わなくなっている。SEも節約出来る上に、対戦相手は一夏がいつ零落白夜を狙ってくるのかを考えながら戦わなければならない。そのプレッシャーとストレスは本人が自覚している以上に溜まっていくだろう。

 

 「チィッ.....墜ちろ、織斑一夏ァ!!」

 

 しかしラウラにとっての勝利は()()()()()()()()()()。ラウラにとっての勝利とは一夏を撃墜する事だ。それさえ出来ればラウラの自尊心は満たされるだろう。だが、それさえも許しては貰えなかった。

 

 「墜ちるのは君だよ、ボーデヴィッヒさん」

 

 プラズマ手刀を振るう寸前、背後に回ったシャルルが放った言葉だ。一瞬の満足感がシャルルへの警戒を怠ったのだ。パンッと軽い炸薬が弾ける音。盾の中から姿を現したのは第二世代ISの武装の中で最高の攻撃力を誇る兵器だった。その兵器の名前は【灰色の鱗殻(グレー・スケール)】、別名『盾殺し(シールド・ピアース)』。カートリッジ式のパイルバンカーは連射が利く。凄まじい衝撃が絶対防御を発動させ、SEを大きく削る。ズガンッという音が3度響いた後、シュヴァルツェア・レーゲンの機体に紫電が走る。ISの強制解除の兆候だ。

 これで響弥が1人、2対1が再びか--と思われた瞬間、異変が起こった。起こってしまった。

 

 「あ、ああァァあァあァァァあァッ!!」

 

 ラウラの叫び。衝撃はあっても痛みはISの絶対防御の恩恵により無いハズ。しかし苦痛に満ちた叫びだった。まるで自分の中を何かに喰われているかの様に。

 その叫びが止んだ時ラウラの居た場所に居たのは『黒』だった。女性を象った存在、片手には刀を持っている。美しいが禍々しい。そんな存在。

 

 「ふ....ざけんなァァァァァァァ!!」

 

 次の瞬間響いたのは、一夏の憤怒の叫びだった。


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