再び第3アリーナ。夜は明け、既に次の日の昼になっていた。今は射撃場で的撃ちをしている。一心不乱に、何かを心から追い出す様に、ひたすらに。
「更識くん、調整終わりましたよ」
「そうか、じゃあ戻ろう。一通りの訓練は終わったしな」
「...どうするつもりですか、あの頼みは?」
「協力するってより、暴くって言った方が近いな。環境は整えてやる。だけど俺達はシャルロット・デュノアが本当にシロなのか探ろう」
「.....分かりました。一応、そういう結論になるかとも思いまして、どうぞ」
「ん?これって....アイツを探る際の計画書?まさかお前、計画書2枚書いたんじゃないだろうな?」
「そうですよ、何か問題でも有りましたか?」
「あのなぁ.....」
響弥は自分の事を軽んじて扱う少女に頭を押さえながら言った。ISは解除済みだ。
「俺の戦い方じゃお前は必須なんだから、そんなに無理すんな。俺単体じゃ絶月の換装すら出来ねぇんだからな」
「こんなの、負担にもなりませんよ。そんなに柔な生き方してませんから」
「うるせぇ。今日はもう休むこと、良いな?」
「.....むぅ、分かりましたよ」
唇を尖らせて不満を漏らすが、響弥が心から雪菜を心配しての言葉だと分かると、直ぐに雪菜は引き下がった。その瞬間、凄まじい地響きがした。響弥は溜め息を吐きながら、雪菜は頭を押さえてアリーナへと向かう。其処では、甲龍とブルー・ティアーズ、そしてシュヴァルツェア・レーゲンの戦闘が....もとい、一方的な蹂躙が繰り広げられていた。恐らく甲龍とブルー・ティアーズがチームを組み、シュヴァルツェア・レーゲンが単独で戦っているのだが、蹂躙しているのは数で有利なハズの鈴とセシリアではなかった。それは、単独で戦っているラウラだった。
近距離戦へと鈴が持っていくが、ティアーズの射撃によって距離を取らざるを得なくなり、セシリアは鈴に気遣う余りにティアーズの持ち味であるオールレンジ射撃が出来ていない。典型的な足の引っ張り合いだ。
無理矢理に距離を詰めて鈴が壁になり、ティアーズで狙撃して貰おうとしても、それを察する事が出来ないセシリアは自分勝手に射撃してしまう。そんな無茶が祟ったのか、とうとう鈴の
「鈴を、離せェェェェ!!!」
その間を割る様にして現れたのは白の軌跡。
「ハァ....ちょっくら止めてくる。待っててくれ」
「はい」
カタパルトから射出、絶月を纏った響弥はビームマグナムを顕現させ、威嚇射撃として1発撃ち放った。紅いビームの軌跡はラウラの眼前を通り過ぎ、アリーナのバリアに当たって消えた。
「...何のつもりだ、更識響弥」
「それは此方の台詞だ。こんな騒ぎを起こして、お前は何をしたい?とことん織斑先生に嫌われたい様だな」
「そんな事は無いさ」
「....なに?」
「私の教官は、そんな事で私を嫌わない。だって教官は、あは、アハハ、ヒャハハハハハハハ!!!!」
「......ッ!!」
狂笑と共に放たれたのは腰に装備されたワイヤーブレード。BT兵器ではないが、有線兵器には有線兵器の強みがある。それは移動の制限だ。幾らISと言えどパワードスーツほ延長に過ぎず、ワイヤー1本だけでも機動性を落とすには充分なのだ。
今の絶月はニュートラル、要するに特化パッケージを換装していない状態だ。故に【鬼百合】と【八重霞】でしかワイヤーブレードを斬れない上に、複雑な軌道を描くワイヤーを斬るなど難しすぎる。
「ファングッ!!」
絶月を--響弥本体を囮にしてワイヤーブレードを切断する。義眼を起動し、攻撃を予測した上で剣を振るう。そして響弥の視覚が捉えたのは、ラウラの耳に付けられたピアス。昨日まで付けてはいないかったから、ISではない。ならば何なのか?そう考えていると片足の動きが止まった。
「アハハははは、捕らえたァ!」
「....ッ、舞原ァァァァ!!」
「了解です!」
既に準備を終えていた雪菜からの操作により、パッケージを換装する。機体色がオルニウム本来の黒から電圧を受けた事により、機体色が月を思わせる銀へと変わる。
義足の痛覚をカットし、捕らわれた足を支点にして振り子の様にする。そして背後から迫るラウラのプラズマ手刀を手の【ヤタノカガミ】で受け止め、背中の【アロンダイト】で自分の前の空間を凪ぎ払う。足の拘束が無くなり、次はアロンダイトが動かなくなる。これがシュヴァルツェア・レーゲンの特殊武装、停止結界だ。捕らわれたと分かるやいなや、響弥はアロンダイトから手を離して八重霞を顕現させて振るう。消えると錯覚する程の速度で振るわれた八重霞の刃はラウラの背中に斬撃を喰らわせる。
「ッ....!楽しいなァッ!!」
「なっ....!?」
それでもラウラは諦めず、響弥に食い付く。プラズマ手刀を本来の長さの2倍程にまで伸ばし、響弥の顔を狙ったのだ。義眼ならばまだしも、生身の左目はプラズマが放つ光に反射的に目を瞑ってしまう。被弾してしまう、そう響弥が思った瞬間--
「カ.....グァッ....!」
「......なんだ?」
凄まじい轟音と共にラウラが吹き飛ばされていた。煙が立ち込める所を凝視すると、ハイパーセンサーの恩恵を受けて煙の中の状況が見えた。
「何をしているんですか、隊長?」
「....カレン、何故止める」
「自分の隊長がそんな愚行をしていれば止めるでしょうに。全く、私はISにあまり適性が無いんですから、勘弁して下さいよ」
「...だからそんな量産機に乗っているのか」
「そうですよ。さ、帰りますよ」
「......フン、そうだな」
そう言って帰っていくドイツ軍の2人。2人が去ると響弥は一夏達に構う事無く雪菜の所に戻ると同時に携帯に着信が入る。
「へぇ、これは...」
「どうかしましたか?」
「学内トーナメントの仕様変更だ、ペアでの対戦に変わりやがった」
「更識くんは誰と組むんですか?」
「絶対にペアで戦えとは言ってない。だからお前と組む。お前はいつも通りしてくれれば良い。それよりカレン・ボーデヴィッヒだ」
「何か有りましたか?」
「アイツ、開発メインって言ってたけどかなり怪しい」
「.....?」
「カレンがさっきラウラを取り抑えた時、横から入ってきただろ?」
「まぁ、そうですね」
「だけど一夏の時は撃退出来た。打鉄はかなり足が遅い。それにカレンからは若干だが殺気を感じたし、ハイパーセンサーが有るのに気付かれなかった。おかしくないか?」
「...確かに」
「それなのに専用機持ちじゃない上に、適性が低い?違和感の塊だろ、そんなの。あの機動、一夏と同じぐらいだったぞ」
「でも、軍人が何か隠す必要が有るでしょうか」
「さぁな。取り敢えず、警戒はしておこう」
「はい」
様々な思惑が混沌と渦巻く、学内トーナメントは近い...