仇敵
「ねぇ更識くん、聴いた?」
「ん?聴いたって何を?」
「今日、このクラスに転校生が来るんだって。しかも3人!」
「転校生?しかも3人がこのクラスに?普通なら有り得ないと思うんだが....」
「そうだよねぇ。で、噂によるとその--」
「お前達、席に着け。恐らく知っているだろうが、転校生を紹介する。入ってこい」
千冬が入ってくると、皆が一瞬で静かになって着席する。着々と軍隊の様になりつつある。これも千冬の持つカリスマ性なのだろう。そして千冬の後に入ってきたのは--
「「キャアァァァ!!!」」
「ッツ....うるさ...」
銀髪の少女と黒髪の少女、そして
「シャルル・デュノアです。僕と同じ境遇の方がこのクラスに2名居ると聴いたのですが...」
「あ、俺だな。宜しくシャルル、俺は織斑一夏」
「..........................」
「...響弥?」
「あぁ、俺は更識響弥だ」
「宜しく、2人とも」
「おう!」
「....あぁ」
不機嫌そうな表情ではなく、能面の様に貼り付けた表情で応答する響弥。一夏は見逃したが、雪菜は見逃さなかった。自分も恐れで震える中、響弥が左手を全力で出血する程の力で握り締めている事に。シャルルを見詰めるその瞳が、鬼を喰らう羅刹の眼差しに変わっている事に。
「...お前達も自己紹介をしろ」
「「了解しました、教官」」
「私はもう教官ではない。呼ぶなら『織斑先生』だ」
「「了解」」
少しのズレも無く放たれる一緒の言葉と、同じ敬礼の仕方。絶対に軍の関係者だと当たりを付けて雪菜は銀髪と黒髪の少女を観察する。その間にも響弥はシャルルを睨み付けていた。
「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ、以上。特に貴様らとは馴れ合う気は無いので関わるな」
「私の名はカレン・ボーデヴィッヒ。ISをファッションとしか思わない貴様らとは関わりたくないので宜しくしないでくれ」
同姓の2人はどちらも同じ様な内容の言葉を言って再び敬礼して黙り込む。隣の千冬は頭を押さえて大きい溜め息を吐き、その反対側に居る真耶は予想外の展開にあたふたしている。男性だったらその内禿げるのではないだろうか、という具合のストレスの溜まり方だろう。
「織斑一夏....貴様が、貴様のせいで...!」
銀髪少女--ラウラが一夏の前に立ち、大きく右手を振り上げて一夏の頬に叩き付ける。...に見えたが、その振り上げた腕を黒髪の少女--カレンが掴み、ラウラを諭す様に話す。
「ラウラ、そんな事を織斑先生は望んでいない。止めておいた方が良い」
「....チッ、織斑一夏、私は貴様を断じて認めん!教官が何と言おうとな!」
「....は?」
憤りながらも足音を大きくする事はせず、空いた席に適当に座るラウラ。その様子を無表情に見ていたカレンは千冬に目配せをして、千冬が頷く事を確認してから響弥の空いていた席に座った。本当なら違う女子が座っているのだが、空席になっているのはこういう事だったのだろう。シャルルは真耶に聴いてから一夏の隣に座る。
HRが終わり、ガヤガヤと次の授業の準備を全員が始める。セシリアが一夏に話し掛けに行く。いつもならそれに噛み付く箒は謹慎中だ。本来ならば退学が当然の事をしたのだが、死にかけた雪菜が許したという事が有ったので咎めは軽くなった。...と言われているが、実際は違う事を皆知っている。誰が口外したという訳ではない。しかしその身内に、【篠ノ之】という名字に守られている事が分かっているのだ。世界最強の兵器である『インフィニット・ストラトス』の創造主である【篠ノ之束】の溺愛する妹であるという動かぬ事実が政府に、ひいては世界にそうさせる。自分が断じたいと思う姉に救われるのは、皮肉な話だろう。頭が悪い訳ではない箒はその事実に気付いて苦しむだろう。想い人と距離を縮めたいと願い、勝って欲しいと望んで行った行為が、許したくない姉に守られる結果になったのだから。
「あ、響弥くん。大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。次は実習だろ?早く行こうぜ」
「....ハァ、織斑先生!」
「どうした、舞原?」
「更識くんの体調が悪いそうなので、保健室に連れていって良いでしょうか?」
「ふむ、お前はちょうど保健医員だったな。良かろう、行ってこい」
「はい、行ってきます」
「あ、おま...」
響弥は手を引かれ、雪菜に強引に保健室に連れていかれてしまった。