IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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絶護

 「義眼、起動」

 

 義眼を起動する。高性能CPUが若干の熱を持ち、瞼の裏がチリチリと焼ける様な熱感を脳に伝える。景色が鮮明になり、相手--所属不明機にのみ集中する。

 予測線が響弥に脅威を知らせる。鬼百合を使って相手の袈裟斬りをいなし、右腕の薬莢を炸裂させて超速の殴打を当てる。しかし効かぬと言う様に膝蹴りを響弥の腹部に叩き込み、左の二の腕を優しく掴まれる。

 

 「kryyyyyyyyyyyyyy(キリィィィィィィィィィ)ッ!!」

 「ッツ.....掌になんか仕込んでやがんな...」

 

 響弥は義眼の特性上、予測線に頼りがちになってしまう。それだけ響弥が未熟者だという事でもあるのだが、小さい頃からの癖はそう簡単に抜けないのだ。それ故に響弥は予測線に無い攻撃に弱い。義眼は相手の筋肉への力の入り方、血流の加速などを分析した上で攻撃と見なして予測線を引く。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に被弾した。絶月は装甲を纏うISである。一夏やセシリアよりも全身装甲(フルスキン)に近く、顔だけを出しているのだ。絶対防御は発動しなかったが、少しだけSEが減少し、左腕に響く衝撃に意識が切り替わっていく。

 八重霞を振って側面から攻撃を加える。どうにか反応した相手は右手を出して防ぎ、翼型のスラスターから()()()()()()()()

 

 「はぁ!?全身ビックリ箱かテメェは!!」

 「kyuiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii(キュイィィィィィィ)!!」

 「...舞原、【月】は行けるか!?」

 『はい、完璧です!』

 「換装頼む!」

 『了解!絶月、特化パッケージ【月】に換装します!』

 

 変化は直ぐに起こった。機体のベース色の黒から柔らかく、冷徹な銀へと色が変わったのだ。そしてファングが更に鋭利な形状に変わり、背中には身の丈程ある大剣と短槍がクロスして背負われていた。これが『特化』パッケージだ。

 通常のISのパッケージは『強化パッケージ』と言われる。しかし雪菜の発案から『特化パッケージ』と呼ばれる事になったのだ。『強化』は特徴を残したまま違うスペックを向上させる。しかし絶月の『特化』はそれ以外を排してある特定のスペックを限界まで上昇させるのだ。【月】は機動性と近接戦闘にのみ特化させ、遠隔戦闘と防御力と空間兵装を排したのだ。ファングも背中の大剣【アロンダイト】に装備させる。背中の短槍【ゲイボルグ】は左手に握り、右手には鬼百合か八重霞を持つ。常に自分の有利な間合いを保つ為だ。

 足の薬莢を炸裂、爆音と共に接近して短槍を突き出す。余裕を持って回避した所を響弥は鬼百合から八重霞に持ち替えて斬る。その斬撃を容易く回避した相手は再び、次は顔面を掴もうとしてくる。

 

 「ワンパターンなんだよ、木偶野郎が!」

 

 一瞬で鬼百合を拡張領域に仕舞い、薬莢を炸裂させて相手の腕を殴る。金属と金属がぶつかり合う甲高い音と共に相手の腕は跳ね上がった。ゲイボルグも仕舞い、アロンダイトを背中から抜き放つ。身の丈程もある大剣が風切り音を鳴らして迫る。横凪ぎに放った斬撃を所属不明機はマトリックスを再現する様に胴を反らして回避する。が、響弥は無理矢理に薬莢を炸裂させて所属不明機の身体に向けてアロンダイトを振り抜いた。

 メキメキメキ、と耳障りな音を立てて破壊される所属不明機の装甲。そして響弥は見た。僅かに、ほんの僅かに人の皮膚が見えたのだ。色白の皮膚が。

 

 「お前、まさか--」

 『一夏ァァァァ!!何をしている、響弥にだけ任せておいて、お前は負けたままなのかァァァ!?』

 「--は!?」

 

 一夏はアリーナの隅で鈴に抱えられていた。先程のスラスターから発射されたビームに被弾した様で、ピット内にどうにか帰ろうとしていた。そのままなら良かった。あと数瞬遅ければ事無きを得たかも知れなかった。所属不明機は翼を管制塔に向けて響弥から距離を取り、チャージを開始していた。恐らくその威力は、管制塔の人が居る部分全てを消滅させる程だろう。

 直ぐに意識を切り替えて追跡するが、流石に立ち止まってチャージする訳ではなく速い速度で航行しながらチャージしている。届きそうで届かない、そんな距離感。

 

 「...ッツ、やらせるかよォォォォ!!」

 「Kyuiiiiiiiiiiiiiiiiiiii(キュイィィィィィィ)ッ!!」

 

 発射する為に立ち止まった一瞬を狙い、両翼を叩き斬る。しかし臨界寸前までにエネルギーをチャージしたビームを打ち消せる訳ではない。零落白夜ならば話は別だが、アレは一夏の白式のみ使える単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だ。

 暴発したビームの奔流が管制塔の強化ガラスを粉々に割り砕く。サッシも熱で融けたり衝撃で弾け飛ぶ程だった。

 

 『っ、痛っ...』

 「舞原!?」

 

 振り向いて管制塔の中を見る。ハイパーセンサーによって強化された視覚は中の光景の情報の全てを響弥の目に伝えた。雪菜の胸に刺さる大きいガラスの欠片。透明だったガラスを紅く染める液体は命を繋ぐ為の液体。どんどんと流れ出る今も、雪菜はパソコンの前から離れようとしなかった。

 

 『響弥くん、私には構わずに、相手を....!』

 「ッツ、クソ.....あぁもう!」

 

 反転し加速、管制塔内部に降り立った響弥は雪菜の傷の具合を診る。胸部に深々と刺さったガラスは直ぐに抜かなければ雪菜の命を奪い去り、しかし今から病院に運んでも手術は困難な程に深く刺さっていた。

 だが響弥にはアテがあった。本来なら死んでいて当然な負傷を、右目と右腕と左足を奪われた自らを助けた、恐ろしく腕の良い名医を。

 

 「更識、舞原をどうするつもりだ!?」

 「此処の(IS学園の)医者じゃコイツの怪我は手に余る!だから俺が腕の立つ医師の所に連れていく!」

 「待て!お前が行けば他の生徒が危ないぞ!舞原は...」

 「....うるせぇんだよ」

 「なんだと!?」

 「他の奴等なんざ知った事か!それにどうして教師陣(アンタら)が動かねぇんだ?!答えろよ織斑先生!」

 「それは、確かにそうだが...!」

 「俺は()()を助ける。コイツは俺の専属だ、俺にはコイツを守る義務が有る。...そして織斑先生、俺は守られる事を待つだけの家畜を助ける気は毛頭無い。後はアンタら全員で解決するんだな」

 

 優しく、だがしっかりと雪菜を胸に抱いて飛翔する。

 

 「邪魔なんだよ.....退けェェェェェッ!!」

 

 居合いの様な蹴りの一閃。薬莢を3つ纏めて炸裂させたその蹴りの威力は先程までの倍以上。マトモに喰らった所属不明機は轟音を立てて吹き飛ばされ、大きくSEを失ったのか退却していった。

 全ての武器を粒子に還し、全速で飛び始める。装甲も雪菜を護る様に()()()()。響弥に気付く余裕は無かったが。何故なら、風からもGからも守っていても雪菜の顔色は白く、四肢からは力が抜け始めていたからだ。

 

 「速く、もっと速く....もう喪わない。家族も、大切な人も....雪菜、死ぬなよ。お前は、俺が護るって言ったんだから」

 

 骨が軋む。内臓が悲鳴を上げる。口の中には血の味が広がっていく。それでも歯を食い縛って耐えている。

 

 「オオオオオォォォォォォッ!!」

 

 やっとの思いで辿り着いた更識邸。警護を顔パスし、医師が居る地下室へと向かう。そして医師の姿を歪み、暗くなる視界で捉えると響弥は言った。

 

 「菫さん、コイツを....雪菜をたす、け....て」

 

 そして地面に頭を叩き付けられる様な感覚と共に、響弥の意思は闇へと潜っていった。


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