「その情報、古い--」
「邪魔だ、退け」
朝っぱらから騒がしい1組。ドアに凭れ掛かっていたツインテールの少女が格好付けて発言する中、響弥はそれだけ言って中に入った。...全く締まらない。当たり前だろうが、格好付けて決め台詞を言おうとしている所にいきなり「邪魔だ」なんて言われれば締まらないのは普通だろう。
「あ、アンタねぇ!私が折角--」
「こんな所で馬鹿みたいな事してっからそういう事になんだろうが。分かったらさっさと退け」
「ッ....!!分かったわよ!」
先程から響弥に言葉を最後まで言わせて貰えない中国からの転校生、
「...自己紹介するか。俺は更識響弥だ、お前は?」
「凰 鈴音よ、宜しく」
「ん、宜しく、2組のクラス代表さん」
「はぁ!?鈴、お前代表なのか?」
「そうよ」
暗部の一族に属する響弥は情報を掴む速度が速い。楯無や虚には敵わなくとも、一般人からしてみれば充分過ぎる程速いのだ。
「一夏、おはよ」
「お、おう、おはよう響弥。今日も絶好調だな...」
「そうか?」
「うん、絶好調だよお前は」
「へぇ~....そうなのか。で、お前は宿題やってきたのか?」
「うげ....分かんねぇ所が有るんだよ。響弥、教えてくれるか?」
「あ?別に良いが...後ろの奴をどうにかした方が良いんじゃないのか?」
「後ろの奴って...げ、鈴」
「げ、とは失礼ね!ったく...」
「お、悪い、電話だ。席外すわ」
「おう」
「悪いな」
廊下に出て電話に出ると、つい先日知り合ったばかりの少女の声が受話器から聴こえてくる。
「もう終わったのか、舞原?」
『はい、大体の所はもう把握しましたよ。返したいのですが、更識さんのクラスは何処か分からないので電話を掛けさせて貰ったんです』
「俺のクラスは1組だ。別に俺が舞原の所に行くってのも良いんだが?」
『いえ、其処まで時間が掛かる事でもないのでお構い無く。では、今から行きますね』
「寮から通学してんのか?」
『ええ、そうですよ。始業ギリギリに行くのは嫌なので、もう行きますね。では』
「おう。...って、もう切れてんの。即断即決過ぎませんかね」
電話が切れて数分後、始業までには余裕を持って廊下に現れた雪菜は黒のチョーカーを持っていた。絶月の待機形態だ。それをなんと雪菜は
「おまっ....いきなりなにすんだよ!」
「なにって...絶月を返しに来たので、更識さんに返しただけですが?」
「あのさぁ、女子が男子にチョーカーを...首輪を巻き付けてる所なんて誤解される要素しか無いんだから、そうそうするもんじゃねぇぞ」
「そうですか?当然だと思ったのですが...男の子って、そういう事をされれば喜ぶのではないのですか?」
「...マジで舞原の知識は偏りすぎじゃねぇか?そんな事をされて喜ぶのは一部の変態だ。俺はそうじゃない」
「そうだったのですか...以後、気を付けます」
「そうしてくれ...」
時計を見た雪菜は失礼します、と言って早足で教室へと戻っていった。その間に響弥は巻き付けられたチョーカーに触れ続けていた。嬉しい訳ではなかったが、ドキドキしていたのだ。普通に見ればとても可愛い部類に入る雪菜の顔が間近にある状況で、新婚の妻がネクタイを夫に巻く様に自然に巻かれたのだ、一応思春期の響弥の動悸を早くするには充分な理由だった。
「....変わり者だな、舞原は」
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
制服の内ポケットに入っている
「はい、舞原です」
『...順調か?』
「順調ですね。順調過ぎて、不安になる位です」
『ふむ、そうか。ならばそのまま任務を遂行しろ』
「了解しました」
その声は女子高生らしくない、周囲の気温が下がった様に錯覚する程に冷徹な声だった。事務的かつ簡易的に報告を済ませていく雪菜は、学生の出来る様な態度ではない。それは、一人前の兵士の様だった。
『情を移らせるなよ。最後に1つ、お前は何の為行動している?』
「はい...私の命と身体は、
『それで良い』
ブチッと音を立てて電話が切られる。褒められる、までは無いにしても、温かい言葉1つも無いのはやはり心に来るのだろう。一筋の滴を目から落として、彼女は呟いた。
「................もう、死なせて下さい、神様.......」