IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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専属

 「..............はぁ?」

 

 それは響弥がたっぷりと溜めてから放った言葉だった。礼を求めていた訳ではない、ただ何故借金取りをしているのか聴きたかっただけなのに、何故自分が強姦魔扱いされるのか分からなかったからだった。しかし艶やかな黒髪に映える白いリボンを結んだ少女は、至って真面目に、危機感を抱きながら響弥に言った。

 

 「あんな野蛮人さんから救って頂いたと思ったら、こんな人気(ひとけ)の無い場所に連れ込まれて....私の純潔は此処で散ってしまうのですね...」

 「待て待て待て、なんでそうなる。俺はただ--」

 「嗚呼、神様...私がどうしてこんな目に...」

 「も゛お゛お゛お゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 取り敢えず2人は好き勝手に話し、漸く落ち着いたのはたっぷり30分後だった。その辺から椅子を2脚持ってきた響弥は少女を向かいに座らせ、落ち着いて話を切り出した。

 

 「ハァ...で、どうして借金取りなんてしてたんだ?」

 「...お金が必要なんですよ、私には。ですから、お金に困っている方にお金を貸して、()()()()利子を付けて返して貰ってるだけです」

 「少しだけ、ねぇ...1日5割とかいうアホみたいな暴利で少しだけか?1000円借りたら翌日には1500円返さなきゃいけねぇじゃん」

 「そうですよ?でも、私は急かさずにちゃんと借用書を読んで頂いてから署名と捺印をお願いしていますよ。悪いのはあの方達で、私が責められる謂れは有りません」

 「あぁ、そうだな。その点は別にどうでも良いよ。あん時言った発言に偽りは無いさ。返せなくて引きこもったとしても、それは借りた当人の自己責任であってアンタが責められる道理は無いからな。...此処に呼んだのは、名前を知りたかったからだよ」

 「名前...ですか?」

 

 そう、ただそれだけだ。響弥は価値観はドライな方に入るだろう。生死観や金銭的な目はとても厳しい。特に弱肉強食は肯定しており、弱い奴はいつ淘汰されても不思議ではないと思っている。それは歴史でも自然でも証明されており、響弥は自分が弱くなければ自分の身体もこんなこと(義手義足と義眼)にはなっていなかっただろうとも思っている。過去を悔やんではいないが、そう思ってしまう事も良くある。

 話は反れたが、結論は引きこもりなんてどうでも良いのだ。このまま引きこもるも死ぬ気で金を返すにしても、結局は赤の他人だからだ。だか借金取りは流石に不味い。一応副会長の責務として、名前を知りたかっただけだ。念の為に、である。

 

 「私は舞原雪菜(まいはらゆきな)です」

 「舞原雪菜?どっかで聞き覚えが.....あぁ、最近話題の開発の天才か!」

 「そんなことないですよ。それで、貴方のお名前は?」

 「更識響弥だ。......なぁ舞原、お前さ、金が必要って言ったよな」

 「まぁ、そうですけど」

 「じゃあさ、俺の専属開発者になってくんねぇか?」

 

 その一言を聴いて、目をパチクリさせてから慌てた様に疑問を雪菜は口にした。

 

 「ちょっと待って下さい!なんで『じゃあさ』なんですか?全く意味が分からないんですが!?」

 「お前に借金取りさせねぇ為だよ。舞原が俺の専属になれば、俺は契約金を払う。あんまデカい金額は払えねぇけど、いつ返して貰えるかも分からねぇ返済金を待つよりかは数倍マシだと思うんだが?」

 「どうして借金取りをさせてくれないんですか?別に貴方に関係ないでしょう!」

 「あるんだよ」

 「どんなのですか!?」

 「俺の仕事が増える」

 「.........え?」

 「だから、アンタが借金取りして引きこもりが増えりゃ、俺達生徒会が動かなきゃなんねぇんだよ。俺は仕事大好き仕事中毒(ワーカーホリック)じゃないんでな、仕事が減る分には大歓迎なんだよ」

 「随分と、打算がモリモリですね」

 「当たり前だろ。アンタも、打算が有って金貸ししたんだろ?」

 

 其処まで言うと、余りに呆れたのか雪菜は笑って言った。

 

 「私を専属にしようとした人はいっぱい居ましたけど、そんなに打算を隠さずに言ったのは貴方が初ですよ」

 「腹黒いよりゃマシだろ。で、どうすんだ?」

 「....お願いします」

 「んじゃま、これから宜しく。じゃ、コレ(絶月)渡しとくわ」

 「コレって、専用機ですよね...?普通会って初日の私に渡しますか?」

 「お前は俺の専属だ。雇い主が専属を信じなくてどうする?」

 「ハァ、貴方は馬鹿なのか頭が良いのか分かりませんね」

 「さぁな、自分でも分かんねぇよ。じゃ、これから宜しく。俺は報告書仕上げなきゃならん。あぁ、メアド交換しとかなきゃ。...っと。んじゃ、そのISの事把握したら呼んでくれ!じゃあな!」

 

 嵐の様に現れて直ぐに去っていった響弥。それを見て、未だに実感が沸かない状況だが、雪菜には1つだけ分かる事が有った。たった1つだけ、確実に分かった事が。

 

 「....貴方は変わり者ですね、更識さん」


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