IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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決闘-1

 「先ずは更識とオルコットからだ。行けるか?」

 「問題ない」

 「問題ありませんわ」

 「良し、出撃しろ」

 

 カタパルトで千冬からの通信を受け取り、出撃が出来る旨を伝えると出撃が可能になる。響弥が纏う夜の闇をそのまま機体に落とした様な純黒の機体のスラスターが唸りを上げ、飛翔せんとエネルギーを高め始める。

 

 「更識響弥、【絶月(たちづき)】、出る!」

 

 それと同時に義眼の機能を解放する。チリチリと瞼の裏に熱にも似た痛みを感じると同時に、世界の色彩が更に鮮やかに染まっていく。その視界の中心には鮮やかな青の機体が浮遊していた。搭乗者、セシリア・オルコット。機体名--

 

 「この【ブルー・ティアーズ】から逃げずに良く来ましたわね」

 「あぁ。恐れるに足りない敵から逃げてどうするんだ?」

 「その無駄口、2度とわたくしに叩けない様にしてさしあげますわ」

 「メシマズ国家万年1位の口が何を。其処から脱却して吠えな」

 「ッ....!!もう許しませんわよ!少しは手加減して差し上げようと思いましたが、完膚無きまでに叩きのめして差し上げます!」

 「さっさと来いよ」

 「見せてあげますわ!わたくしとブルー・ティアーズの輪舞曲(ロンド)を!」

 

 セシリアの腰部分から射出されるのはビット、通称BT兵器と呼称される思考操作兵器だ。その名は『ブルー・ティアーズ』。機体名の由来にもなっており、最大起動時には誇張抜きで軍を相手取っても容易く殲滅出来る程の兵器だ。元々のIS自体も個人で軍と同等かそれ以上の力を持っているのだが。

 響弥を囲む様に配置されたティアーズがビームを網の様に放つが、義眼から脳に送られる弾道予測に従って安地に逃げる。そして量子変換領域から一丁の銃を顕現させる。それは【ビーム・マグナム・カスタム】と呼ばれる銃であり、それは最新技術の集まりと言われる代物だ。元々は実弾銃だったが、銃の内部で火薬をプラズマ臨界寸前まで加熱、其処からビームジェネレーターから変換されるビームを纏わせて放つマグナムとなった。それはドイツ軍が開発しているリボルバーカノンと同じ様なプロセスを踏んで射出されるが、実弾だけでなくビームを纏う事によりリボルバーカノンの数倍の威力を発揮する。

 流石は代表候補生と言った所か、驚異を感じたセシリアは横に移動する。するとその直ぐ横をセシリアの使うライフルである『スターライトmkⅢ』の何倍もの威力を持つ破壊の奔流が通過する。

 

 「ティ、ティアーズッ!!」

 「【ドラグ・ファング】!」

 

 神話の龍の牙を模したBT兵器が1機のティアーズを撃墜させる。腰と背中に装着された計16機装備されたファングは複雑な軌道を描きながらティアーズを追跡する。セシリアはその端正な顔に驚愕の色を浮かべてティアーズを自分の腰に戻す。

 BT適性がイギリス国内で一番のAのセシリアでさえ、現在は自分の動きを止めなければ複雑な軌道をさせる事は出来ないのだ。それでも響弥のファングは時折ティアーズから放たれるビームを避けながら撃墜せんと迫る。常人ならばこの操作は不可能だろう。しかも響弥は驚くことに自分が高速機動しながらファングを1機も被弾させずに操作している。これにはマジックの様に種が存在する。

 今の響弥は義眼に埋め込まれている高性能CPUに演算の大部分を任せ、最後の決定だけしているのだ。簡単に言えば問題を友達に解かせて自分はそれに丸を付けるだけ、という作業をしている。故に此処までの人間離れした技が出来るのだ。

 

 「....戻れ、ファング」

 

 しかし、どれほど高性能なCPUでも処理を続ければ熱を持ち、オーバーヒートしてしまう。酷使し続ければ響弥の脳にも多大な負担が掛かって死に至る。故に使用を止めたのだ。だが、その隙を見逃す程セシリアは甘くはなかった。残った3機のティアーズで再び囲み、射撃を再び開始する。それでも響弥は何一つ動じず、量子変換領域から1振りの刀を取り出す。

 

 「【八重霞(やえがすみ)】」

 

 響弥は加速し、八重霞を振り抜く。だが間合いが圧倒的に足りない。刀の刃の腹どころか切っ先にすら届いていない。セシリアは笑みを浮かべてティアーズに射撃命令を下した。しかし、射撃を命じたティアーズは射撃命令を敢行する事は無かった。爆炎と共に撃墜されたのだ。セシリアは勿論、観客の時間すら止まった様に凍り付いた。幾らISと言えど、どれだけ搭乗者の技術が高くとも、全く視認されずに斬撃を放てる者など存在しない。それは世界最強(織斑千冬)が出来ていない事で裏付けられている。

 しかし、それをやってのけたのが響弥だ。この時、全員の印象が改まった。『企業の坊っちゃんが親の威光で専用機を貰った』といった否定的な認識から『実力が伴った専用機持ち』へと。

 

 「さてさて、今までは受け身に回ってきたが--」

 

 獲物を狩る獣の様に、その顔に獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

 「これからは、俺と【絶月】と踊って貰おうか。死の舞踏(ダンスマカブル)をな!」

 

 蹂躙が、始まる。


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