それから暫く経過し、響弥は楯無に呼ばれていた。大体の事は予想できているが、何か鬼気迫った様な雰囲気が楯無から発されており、対面しているだけで冷や汗が背中を伝うぐらいだった。楯無はゆっくりと重く閉ざした口を開き、話し始めた。
「....響弥、最近の進捗はどうだ?」
「ISは最近武装も装甲も完成してきたので、そろそろテストに入ります」
「そうか...」
そう、響弥にISの適性がある事を楯無に教えたその日にISコアが響弥に与えられ、自分の専用機を製造していたのだった。流石に1人ではキツいので、菫の助言や更識に属する会社の技術者に手伝って貰いながら順調に進めていたのだった。
「響弥に話す事がある。先ずは1つ目だ」
「はい」
「菫から聴いているかも知れんが、言っておく。私はもう長くない。あと数ヶ月生きられるかどうかの瀬戸際だ。刀奈の進路も決まった様だからな、言っておこうと思ってな。...其処で頼みがある。...刀奈を支えてやってくれ。あの子は常に飄々と振る舞うが、一番責任感がある子だ。私が逝けば、あの子は楯無を継ぐだろう」
「...そうでしょうね」
「そしてあの子は上に立つ者が揺らいではいけない事を知っている。だからあの子は弱味を見せまいと振る舞い、傷を自分の心に負い続けるだろう。簪にも虚にも本音にも、お前にも見せようとしないだろう。だが、そのままでいれば--」
「壊れてしまう。だから俺に支えろって?」
「そうだ」
そう言って楯無は頭を下げる。だが、響弥は笑って言った。自分にとっては至極当然の、たった1つの選択を。
「そんなので貴方が...父さんが頭を下げないでくれ。刀奈は俺のたった1人の姉さんだ。そんな人を支えるのは当たり前なんだよ。そんな当然な事で父さんが頭を下げないでくれ。父さんは...俺の2人いた父さんは俺の知る人で一番格好良いんだ、そのイメージを崩されたら困る」
「響弥.....ありがとう」
一瞬何かを考えた様だったが、楯無は思い切って言う事にした様だった。その瞳に映る感情は、何を思うのか響弥が察する事は出来そうになさそうだった。
「...赤羽の一族は、私達更識と血縁関係が有った。イメージするならば布仏の一族と同じと思うと良いだろう。赤羽は代々国外の不穏な動きを伝える役目を背負っていた。怪しまれぬ為にお前の先々代...祖父から大きな農園を経営していたのだが、それがこの現状を招く原因になったとはな....」
「.....だからどうした?」
「いや、明かしておこうと思ってな。血縁に関しての文書は残さない事になっているからな、刀奈にも教えてはいるが、赤羽の事は伝えられないからな。血縁書にはお前の名前が書かれているから」
「そっか...分かった。じゃあもう行くぞ」
「あぁ。....これからも頑張れ、響弥」
「勿論だ」
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
それから数ヶ月後、更識家第16代目楯無が没した。老中は刀奈が成長するまでの仮当主を誰にするか決めかねていた様だったが、刀奈が当主たる器である事を全員に示し、第17代目楯無を襲名していた。
しかし簪に思いやりから掛けた言葉が簪の心を傷付け、元々刀奈に劣等感を抱いていた事もあって姉から逃げ、疎遠になってしまっていた。更にその頃、刀奈がロシアの代表候補になり、響弥がISを製造している事も簪に露見してしまい、響弥の事も避けてしまう様になってしまっていた。
「.......人の考える事は、やっぱり難しいな」
虚が表の側近なら、響弥は裏の側近になった。後悔はしていないが、あの無邪気に遊んでいたあの頃が懐かしい事は隠しようが無い事実だった。