IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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苦楽

 「響弥くん、今日は何して遊ぼう!?」

 「ゲーム...は前やったし、何して遊ぼう?」

 「なら、綾取りはどうですか?中で遊べますし、これから雨が降るらしいですし」

 「あ~、響くんの膝枕気持ちいいな~」

 「本音、何をしてるのですか?」

 「お姉ちゃん~、響くんの膝枕気持ちいいよ~」

 「.......」ゴツン

 「いた~い!響くん慰めて~」

 「アハハ、よしよし」

 

 数ヶ月程経って、響弥は他の子供達とも打ち解け、毎日遊ぶ様になっていた。布仏(のほとけ)(うつほ)本音(ほんね)の姉妹は代々更識に仕える家系らしい。虚はしっかりしている為大丈夫だろうが、妹の本音が問題と言えば問題だった。元々は簪に仕えていたが、簪にも甘えるがそれよりも響弥に甘えてしまうのだ。それを響弥は妹に面影を重ね、つい甘やかしてしまうので更なる悪循環を産み出していた。

 

 「....出来た」

 「うわ、簪さん凄いね。そんなに複雑なの良く出来るね」

 「ふふん。もっと褒めても良いよ?」

 「なら私だって出来るもん!」

 「ちょ、刀奈さん...」

 「絡まった~!!」

 「...あぁ、今解くから待ってて」

 

 刀奈は何でも出来る才能を持っており、負けず嫌いで活発。だがちょこちょこ何かをやらかす事で親しさを醸し出しているので高嶺の花という扱いはされない。

 簪は引っ込み思案で刀奈よりも自分が劣っていると思っているが、手先の器用さや正確さ、集中力が誰よりも優れている。しかし人とあまり話さない為地味と称される事が多い。

 虚は性格がしっかりしており、会計や事務という仕事を得意としている。裏方に回る事が多いが、虚自身もかなりのスペックを持っているのでピンチヒッターとして頼りにされる事も多い。

 本音はこの中で一番底が知れない。日頃はぽわぽわした言動と鈍い行動で一番トロいと思われるが、時折見せる鋭さや引き際の良さなどを見ると一番注意した方が良いかも知れないと菫に言わしめる程の人物だ。

 響弥は周囲に気を配れる人物だ。更に天性の直感や鋭さ、未来を予知しているとも見える先読みの才能を持っている。だが、それだけである。運動能力も並かそれ以下、頭も其処まで良いわけでもない。しかし、やる気と学習能力は一番高いだろう。

 

 「よし、解けた。これで大丈夫でしょ?」

 「あら...有り難う響弥くん!」

 「うん、どういたしまして」

 「お楽しみの所申し訳無いが、時間だぞ響弥」

 「あ、分かりました。今行きます」

 「もう行っちゃうの?」

 「うん、また明日ね」

 

 菫に呼ばれて来た場所は響弥ももう見慣れた自分の病室兼菫の研究室だ。此処では響弥の義手と義足、義眼の調整をしている。義眼は殆ど調整はしないが、腕と脚はそうも行かない。まだ小学生の響弥は成長の真っ最中、ならば自然に義手と義足も取り替えなければいけないのだ。更にこのIS破壊兵に使われるこれらは未だ未完成であり、響弥の身体がまだ未熟な事も相まって本来予想されていたスペックの半分も効果を発揮出来ていないのだ。

 

 「ぐ.....っつぅ....」

 「やはりその痛みには慣れないものなのか?既に5回は取り替えているが」

 「確かに痛いし慣れませんけど、菫先生との組手と毒舌程は痛くありませんよ」

 「ほう?中々言うじゃないか。ならば今日の組手とトレーニングは倍の負担が掛かる様にしてあげよう。泣いて感謝したまえ」

 「有り難いなぁ...」

 

 凄まじい痛みではあるのだが、響弥の痛覚神経は既に半分イカれていた。未発達な脳が処理能力を越えた苦痛を味わったせいで響弥の痛覚は常人の半分程になっており、大の男が泣き叫ぶ様な怪我をしても少し涙が滲むくらいで済ませられる。義手と義足には痛覚を擬似的に再現した機能も付いており、任意でその機能を切断出来るのだが響弥は菫に頼んで自分の痛覚と同程度の痛みを感じられる様にしている。

 

 「さて、取り敢えず其処にノートとシャーペンは置いてあるからメモを書きながら聴くと良い」

 「分かりました」

 「まず君のその手足だが、本来のスペックを発揮出来るのは高校生かその辺の年齢になってからだ。一応今の君でも使えるが、確実にその義手と義足は壊れるのでやるなよ?義眼の機能は十全とは言えないが扱えるだろう。視力の強化に銃の弾道予測、これは危険だが脳が持っている演算機能を義眼内の高性能CPUによる体感時間を遅くする事が出来る」

 「何故危険なんですか?」

 「良い質問だ。その義手と義足を使ったのは君が初だが、義眼は君の前に10人の被験者が存在()()

 「したって事は...」

 「そう、全員が死亡した。最初の4人は200分の1秒で、次の3人は500分の1秒で、その次の1人は1000分の1秒で死んだ。最後の1人は1500分の1秒を耐えきり、次の2000分の1秒で帰って来なくなった。その少女は先天的に戦闘能力が高い人間である『ドミナント』だった。私が勝手に呼んでいる人間の種類だがな」

 「ドミナント...」

 「君も覚えておけ。『2000分の1秒(ウラヌス・ホライズン)』は絶対に越えてはならないとな。そのドミナントの少女は戦闘に於ける処理能力が常人の数十から数百倍は高かった。その際の実験はその少女に最新のVR技術を用いて戦闘状態に引っ張り上げていたんだ。その少女が処理しきれない『2000分の1秒』は人間が越えてはならない領域だ。....と言っても、その時の教訓を生かして君の義眼にはリミッターが掛かっているがね」

 「リミッターですか...」

 「さて、これで義眼については分かったな?次は君の腕と脚だ。その2つは生身でISを破壊する為に計画され、私が作り出した『個人が扱える最強の現代兵器』だ。腕は肘周辺に、脚は踵の部分にある銃口がある。その中で薬莢を撃鉄で叩き、その際に生ずる衝撃波を一方向に集束する。それにより君の肉体は爆発的な膂力と加速を産み出す事が出来るのだ。余りの速さにISの絶対防御は発動せず、同じIS装甲で作られた義手と義足だから容易くISの装甲をぶち抜く事が出来る。まぁ難点は有る訳でな、君を加速させるその薬莢は拳銃と同じ様なロジックで炸裂、加速させて君の身体を衝撃で打ち出す訳なんだが、簡単にリロードが出来ないんだ」

 「じゃあどうすれば?」

 「私の所に来るしかない。...が、私もか弱い乙女な訳だ」

 「....プッ」

 「ぁん?」

 「すみませんでした」

 「良かろう。装弾数はどちらも10発、それを使いきらない様に戦うしか無いだろうね」

 「いや、キツいですね」

 「まあそう言わない事だ。オルニウムは硬い上に軽いのだから継戦能力も高いハズだ。痛みも感じない様にも出来るし、いざとなればその腕を外して鈍器にして殴り殺す事も可能だからな」

 「怖いこと言いますね」

 「戦いでは慈悲を掛けてはいけないからな。...後は組手に一般教養か?」

 「そうですね」

 「良し、今日は高校まで終わらせるぞ響弥」

 「僕、小学生なんですが?」

 「そんなのは関係無いさ。それよりも、君のその女々しい言葉遣いは嫌いだ、直したまえ」

 「そんな理不尽な。一人称が『僕』の人に失礼ですよ」

 「五月蝿い、私は私だ。さぁ、さっさと荒々しく言ってみろ」

 「....これで良いか?菫先生」

 「おぉ、やれば出来るじゃないか!」

 「僕....俺は滅茶苦茶嫌なんだけど」

 「その内慣れるさ。よし、さっさと組手だ。早く終わらせるぞ!」

 「...やっぱり滅茶苦茶だなぁ、この人は」

 

 響弥は若干不安を抱えて武道場へと向かっていった。その3分後、響弥は床に伏して10分は動けなかったという...


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