◇ ◇ ◇ ◇
燃え盛る炎の中、麗治と蓮菜が響介を守って殺されている。麗治は闇の中に消え、蓮菜は脳髄をぶちまけて死んでいく。響介の右腕と左足はもぎ取られ、右目はくり貫かれる。それでも唯一無事な夏蓮に向かって手を伸ばす。
片足で転びながら走り、腕をどれだけ伸ばしても夏蓮はどんどんと遠くへ行ってしまう。既に満身創痍の身体で、妹を取り戻そうと叫ぶと喉は裂け、血が脚や腕の傷口から流れ出て、意識も遠くなっていく。
「が゛....か゛れ゛ん゛!!ま゛って゛!!」
裂けた喉を酷使してまで夏蓮を、愛する妹の名を呼び続ける
「お兄ちゃん...?」
「か゛れ゛ん゛!」
漸く振り向いた夏蓮の顔を見た時、響介は凄まじい驚愕に思考が止まった。更に叫ぼうとしたが、裂けた喉はこれ以上の酷使を拒絶し、声はもう出なかった。
顔立ちが良く、このまま小学校や中学校に行けばモテそうだった夏蓮の整っていた顔は、無機質な白さを放つ固体に変わっていた。それは--骨だった。柔らかな頬も、長かった睫毛ももう其処には無く、良く映画で見る様な骨が夏蓮の顔になっていた。それは既に夏蓮が死んでいる事の、何よりの証拠だった。
そして響介はその
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「やっと目が覚めた様だね。まぁ死人と大差無い身体だったのだから仕方無いと言えば仕方無いのだがね」
無意識の内に叫びながら目を覚ました響介は周囲を見回す。その内に響介は自分の身体の違和感に気付いた。両目の視界はちゃんとあり、もがれたハズの腕と脚にも感覚がある。あれは夢だったのか、とも思ったが自分が見覚えの無い部屋にいる時点でその可能性は有り得ない事は次の瞬間に響介は悟っていた。
「何故自分の腕と脚があるのか気になるみたいだね。見てみたまえ」
「なに....この腕...真っ黒になって....」
「最近発見され、IS装甲にピッタリだと私達が発表した金属さ。名前は『オルニウム』、君のこれからの身体になる。覚えていて損は無いぞ」
「貴方は....誰ですか?僕は
「昨今の若者なのに自ら名を名乗るとは、稀有な若者だね。私は
「あの時僕の隣に来たのは森守先生なんですか?」
「そうなるね。さて、一応君は当事者だからね、知る権利は有るから説明はしておくよ。君の肩書きはこれから『自衛隊特殊部隊IS破壊兵第二十二研究室所属』となる。だが1つ、君のその赤羽響介という名前はこれから封印して貰う」
「な、どうしてですか!?」
「落ち着きたまえ、理由はちゃんと有るのだからね。君の家はISの製造会社であるデュノア社によって滅ぼされた。恐らく彼方には君のデータが有るだろう。推論を重ねるのは嫌いなんだが、恐らくデュノア社は君が死んだ扱いにしているハズだ。其処に再び『赤羽響介』が生きていたらどうする?消しに掛かってくるだろうさ。故に君の身柄はある一族に引き取って貰う。私も其処に異動になったからね」
「その家って...?」
「一応君の父も交流はあった一族だ。その名は更識。まぁ分かりやすく言えば、君が遇ってしまった様な事を防いだりする家さ」
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◇ ◇ ◇ ◇
「ふむ....その子が赤羽の...」
菫に連れ出された所は和風な屋敷だった。響介が運ばれた病院--正式には菫の研究室だが、法に触れる事もある為に更識家の地下に作られているのだ。それなりに長い階段はあるのだが、菫は我が儘を通してエレベーターを作らせたので簡単に響介はこの今居る座敷に通されたのだ。
今はとても広い座敷に通され、隣に座る菫と共に男と面会していた。響介が今まで会った中で一番の気迫を発しており、響介は既に気絶しそうな程緊張していた。
「そうなります。ですがデュノア社に狙われる可能性が高く、更識の養子にして頂ければと」
「それは良いのだが...その手足は...」
「破壊兵計画の被験者となって貰いました。響介少年の同意も得ております」
「そう、なのか...?」
「はい。菫先生の提案を僕が受け入れました」
「響介くん、君はこれから暗い世界に入ろうとしている。君もそんな怪我を負ったなら分かったハズだ。この家は...強いては菫も真っ暗な世界の住人なのだ。今なら君を普通の病院に移し、里親も見付けて普通の生活を送る事が出来る様に便宜を計る事が出来る。それでもこの家に来るのか?」
男--楯無が言った事は難しく、響介には全く理解が出来ない言葉ばかりだった。だが幼いながらも響介はこの選択が自分の人生を大きく左右すると直感した。響介はあんな事をもう味わいたくない。だから首を左右に振ろうとする。だがその瞬間に夏蓮を思い出した。響介が助けてくれると信じ、ひたすらに抵抗した妹の姿を。そして自分達を滅茶苦茶にした者達が言っていた言葉も。「死んだ者にも使いようはある」「妹には手を出すなよ」という言葉。それは低確率だが、夏蓮が生かされる可能性を示唆している事に響介は気付いたのだ。響介はその首を--
「......ます。お願いします!僕を、この家の息子にして下さい!」
力強く縦に振るどころか土下座をして叫んだ。
「....良いのか?」
「はい!」
「血に濡れる毎日を送る事になるぞ」
「覚悟は、しています」
「....そうか」
そしてハンドサインをして側近を呼び、何かをさせに行かせた。
「この家に来るなら、私と菫の他にこの2人と主に関わって貰う。直ぐに来ると思うが--」
「お父さん呼んだ!?」
「.....来た様だ。刀奈、簪、自己紹介しなさい」
「私は
「わ、私は更識
「僕はあか--」
「違うだろう?...あぁ、名前も変えなければいけないな」
「それもそうだな。響介、残しておきたい名前の一文字はあるか?」
「『響』は残して欲しいです。『響』だけは...」
「承った。...お前は今日から私の息子であり刀奈の弟、簪の兄、『更識響弥』だ!」
新たな名前を新たな父から貰った彼--響弥は笑顔で刀奈達に自己紹介を始める。
「初めまして、更識響弥です!僕は、今日から皆さんの家族になります、宜しくお願いします!」
明るい世界に住んでいた少年、赤羽響介はもう居ない。此処にいるのは、自衛隊特殊部隊IS破壊兵第二十二研究室所属、更識響弥という少年になったのだった。