IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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終演、犠牲

 「....?何故、地球に光線が届かない?アレは純粋な洗脳信号だから、障害物が有ったとしても貫通するハズ....」

 「俺が....何も対策をしてないとでも思ったか?」

 「へぇ?対策なんて打てたんだ、アリスの能力に」

 「あぁ。アリスの能力は自分の顔を見せなければ相手には適応されない。その可能性に賭けた。見えるだろ?打ち上げられたロケットが。その中にある【凶星】がエネルギーを撒き散らし、そして此処は【反IS領域】の範囲外。つまり、俺の能力が届き得る範囲だ」

 「それで光線を防いだ?フッ....アハハハハ!!もしも君の読みが外れていたらどうした?そうなれば君の負け、つまり僕の目的は成就された訳だ!それをまさか一点読みの山勘で.....あぁ、不愉快だ」

 

 響介の『仕込み』は全てこの為だった。交渉し、協力してくれる(一部は話し合い(脅迫))国に【凶星】とロケットを渡し、先端に凶星を積ませる。そして響介達がこの宙域に到達した段階でロケットを発射、風や大気圏での熱により凶星はエネルギーを生成、そして雪菜が設計したエネルギー散布機を動かし、地球全域に【絶月】のエネルギーを行き渡らせる。そしてレーザーが発射された時に単一仕様能力を使用、響介が拒んだモノを地球に到達させない様にした。それにより、麗治の狙いは阻まれたのだ。響介の大博打、負けられない戦いでは決して考えられない、一点読みに。

 麗治の様子が変わる。先程までの温厚で殺気など微塵も感じない状態から一変、冷徹で周囲に濃密な殺気を振り撒き始める。彼は懐からリモコンを取り出すと、ボタンを押す。全員が嫌な予感を感じると同時に、この部屋が変わる。ドアは封鎖され、まるで脱出を妨害するかの様に。

 

 「....目的は変わった。僕が世界に試練を与えよう。僕の与える試練をクリア出来ない世界など、存続する意味は無い」

 「ざっけんな!!そんなふざけた身勝手で引き裂かれた俺達が、同じ目に誰かを遇わせようってのか!?」

 「だからってお前は生温い手段でダラダラとこんな世界を続けるのか、響介!!」

 「アンタならもっと良い手段を考えられるだろ!社員の事を想って退去を断り続けてたアンタは、もう死んだってのかよ!」

 「気付かされた!この身体になってからな!!」

 

 麗治はシャツのボタンを引き千切り、その胸を露にする。心臓部分にあるのは光を放つ菱形の物体--ISのコアだった。それは脈動するかの様に定期的に明滅し、麗治の身体と同化している事を明らかにしていた。

 

 「お前と同じだ響介!お前が外付けでISを破壊するのなら、僕はISを以てISを破壊する為に生まれた人間兵器だ!お前も心の持ち方次第では此方側だ!」

 「知るかよ!」

 「まぁ良い。だが....不要なモノは始末する!!」

 

 彼は懐から拳銃を取り出し、アリスに向けて発砲する。パンパンと立て続けに放たれる銃弾はアリスの胸に4発当たり、白いドレスに紅い模様が滲み出る。

 

 「なっ!?貴方、何て事を!!」

 「人殺しが許せないか、更識刀奈?此処に来る時に妹を殺したお前が、何故人殺しを拒む?」

 「お前ほどこの人は狂ってない、それだけだ!!」

 「かつてのお前は人を憎んでいたハズだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。狂人に成り掛けたお前が何故狂人を否定する?」

 「人が本能を抑える事を止めれば辿り着くのは獣です!人を保ち続けるには、狂気も殺意も抑え続けなければならないんです!」

 「お前の想い人はそれで苦しんだ。『普通』も『人間』も、ズレている人からすればただの呪縛だ」

 「お父さん....」

 「お前はもう戦えないだろうよ、夏蓮。殺意にも狂気にも溺れられないお前ではな。お前は不完全だ。狂人にも常人にもなれない、ただの--」

 

 鉄の棒が、麗治の胸を貫く、麗治の後ろを見れば、死にかけていたであろうアリスが尖端が尖った鉄棒を持ち、麗治の身体を貫いているではないか。

 

 「あ、アリスなの!?」

 「残念ながら、(ジェミニ)だよ。私の能力は【再生能力の限界突破】、デメリットは使えば(ジェミニ)が消える事だが、今が使い時だろ....!アンタらはさっさと逃げな!私が此処を食い止める...!」

 「そんなこと、させるとでも思ったか!?」

 「な、何を...?」

 「簡単な話だろう、更識刀奈。このボタンは地球に向けてこの衛星を落とすボタンだ。もう止められんさ、ハハハハハハハハハハハ!!!」

 「っ、此処を頼むぞ、ジェミニ!!」

 「任せな!!」

 

 義手を用い、パンチで扉を破り、響介は4人を抱えると、カタパルトへと走る。其処には脱出艇があると知っていたからだ。これを設計したのは確実にハンプティ、彼女が万一の事態を想定してない事は有り得ない、という確信があった。だが、その期待は半分裏切られる事になる。

 

 「4人乗り....」

 

 そう、4人乗りだったのだ。きっとそれはハンプティの虚弱な身体を護れる程に強固で、そしてカタパルトに乗せられる大きさの限界。詰めて乗ろうにもこの脱出艇は球体で、詰めてやっと4人乗れる程度なのだろう。響介は標準より少し大きい、つまり、誰か1人を置いていく事になる。【反IS領域】は確実にこの衛星全体に及んでおり、外に出てからISを纏おうにも圧力と太陽の熱で一瞬で死ぬ。つまり、1人の犠牲は容認せねばならないのだ。

 

 「お兄ちゃん、私を置いてって」

 「夏蓮...」

 「私はテロリストだよ。此処で死ぬのが報いってもんでしょ」

 「.....分かった」

 

 彼は、夏蓮を()()()()()()()()()()()。次に雪菜、刀奈、ラウラを放り込み、行き先をIS学園の近海に指定するとハッチを閉めた。ロックが掛かり、内部からも外部からも開かなくなる。

 

 「響介、私に嘘を吐くのか!?居なくならないと、次もデートをしてくれるって言ったではないか!!」

 「悪いな、ラウラ。約束は護れそうにねーや」

 「お兄ちゃん、何してるの!?私は--」

 「テロリスト、ってんなら俺も同じだ。...それに、お前は今まで踏ん張ってきた。次は兄貴の俺が踏ん張る番だ」

 「君が居なくなったら、私に託した願い(祈り)はどうなるの!?響介くんが居なきゃ、意味なんて無い!!」

 「...ゴメンな、刀奈。きっと、俺の願い(祈り)はお前にとっての呪いになっちまう。でも、許してくれるなら覚えてて欲しい」

 「ずっと一緒に居てくれるって言ったじゃないですか!響介くんの嘘つき!馬鹿!ふざけないで下さいよ!貴方が居なくなったら、私は....!」

 「あぁ、俺はお前らに嘘を吐く。何だかんだ、1度も嘘にならなかった事は無かったな。....俺の事を想ってくれて有り難う、雪菜」

 

 彼はコンソールを操作し、衛星の小型ハッチを開いて発進させる用意を整える。そして俯き、顔を伏せて言った。

 

 「こんなクソみたいな俺を、好きになってくれて有り難う。でも、ゴメンな。もう、御別れだ」

 

 響介は次の言葉を聴かず、義手の薬莢を全て激発させ、脱出艇を押す。凄まじい速度で発進した脱出艇は直ぐに見えなくなり、地球に向けて降下を始めただろう。

 彼は麗治達の元へと戻り、相対する。ジェミニは壁に寄り掛かり、息を荒くしている。いや、もうジェミニという人格は消え、アリスに戻ったのだろうが。

 

 「戻ってきたのか、響介。だが、僕をどうやって相手する?ISも使えなければ、僕を殺し切れる武器も無い。その義手と義足じゃ僕のコアは貫けない」

 「悪いが、俺は勝ち目の無い戦いは挑まない主義でな。殺す手段は有るさ」

 「ほう?」

 「力借りるぜ、母さん...!」

 

 響介が取り出したのは蓮菜から託された『誕生日プレゼント』。それは彼女の心臓(ISコア)だ。文字通り彼女の【命】か宿るこのコアはあらゆるものに耐性を持つ。それが例えISを封じるモノだとしても、彼女の命は消えない。

 空中に展開される多数の武器。響介が腕を振り下ろすのと同時に射出されるが、麗治は胸に刺さる鉄棒をものともせずに迫る。繰り出されるフックをかわし、右手にロングソードを顕現。横薙ぎに振るが難なく回避され、むしろ隙を晒してしまう。が、その隙を喚び出した盾で自分を守る事で無理矢理埋め、麗治を囲むように槍を配置、そのまま射出する。

 まるで響介がやった事を模倣した様に槍を掴み、バトンの様に回して槍を弾く。慣れない事をした反動か、猛烈な頭痛に襲われ動きを止めた響介。そんな彼に引導を渡さんと槍を突き出す麗治だが--

 

 「母さんと、同じだよ。この決着は」

 「ハハ....本当に、似た者同士だ....」

 

 胸のコアを貫く様に召喚された剣が、コアを貫いていた。見事に、心臓を貫く様に。明滅は弱くなり、そして麗治の呼吸も浅くなっていた。

 

 「.....響介の言うやり方は、理想だ。でもね.....それじゃ、叶えられない....事も、ある...」

 「誰しも、それを叶える為に踏ん張るんだ。もう眠れ、父さん。祈りも無く苦しみも無く、ただ安らかに」

 「そう、するよ....蓮菜さんは、拗ねると長いから.....」

 「...あぁ」

 「それに、クラムチャウダーも.....食べたい。蓮菜さんの....きっと、美味しい.....」

 「.....美味しいさ」

 「やっと....この、悪夢と呪いから.....蓮菜さん、と.....一緒に、解放された......あり、がとう、きょう.....す、け.....」

 

 麗治が死んだ事を確認すると、響介はアリスの元へと歩いていく。傷は治っている。このまま生きていく事も出来るだろう。

 

 「響介、私を殺して欲しいな」

 「いや、でもお前は--」

 「良いの。多分、長くは生きれないし。それなら、好きな人に殺されたい」

 

 自分の身体の事だ、解るのだろう。【ジェミニ】という人格を犠牲にして治しても、身体への負担は大きい。元々消耗していたのだ。それに、脱出手段はもう無い。それが解っている彼女は響介に求め、それを響介は引き受けた。

 彼女の細い首に手を掛け、力を入れていく。ミシミシと軋む骨の感触が手に伝わる。でも、力は弱めない。苦しみを長引かせるのは、何よりも非道と思ったからだ。

 

 「響介.....」

 「何だ?」

 「あいし、てるよ...これからも、ずっと」

 「あぁ、俺もだ。...有り難う、さよなら、アリス」

 

 ゴキャッ、という音と共にアリスの首が折れる。もう息は無い。

 

 「人殺しは人殺し、罰は受ける。...それがまさか、

宇宙規模の島流しとは。それも、仕方の無い事だよな」

 

 コンソールを操作、コースを地球にぶつからない軌道に変え、更に宇宙を放浪し続ける様にする。何処に行くかも分からない、誰も知らない所へ行くのだ。未練が有ると言えば有る。それでも彼は消えるべきだと思ったのだ。妹なら、きっとドミナントの狂気には負けない。だが、自分はいつ暴走するか分からない爆弾の様な存在だ。そんな自分が、明るい未来には居るべきではないと思ったから、こんな手段を取るのだ。

 

 「....じゃあな。願わくば、永劫に明るい未来を子供達に。化け物は大人しく消えるとするさ....」

 

 彼はその場に座ると、ゆっくり目を閉じた。ドミナントとして覚醒してから決して取れなかった疲れを癒すように、ゆっくりと、深く眠れるようにと願いながら、暗黒の宇宙へと姿を消した.....




 次で最終回です。

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