IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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偽物、親子-2

 放たれた、ありとあらゆる武器。見て分かる剣や槍から、部族が使いそうな不可思議な武器など、本当にありとあらゆる武器が響介1人に向けて放たれる。義眼が導き出す回避ルートは、無い。たった1つも、身体を小さくしても脱け出せるスペースすら無い。つまり、義眼は不可避の『死』を宣告している。

 だが死にたくない、死ねない。響介はその一心で回避ルートを模索する。今使える殺意、頭が発熱する錯覚をする程に思考を加速させる。だが、どれだけ思考を加速しても結局はその場凌ぎ。結末は変わらない。訪れるのは響介の死、それ以外の結末は訪れない。願いも祈りも呪いも、何も意味を持たない終わり、それが足音を響かせて響介の命に辿り着く。

 

 「無理よ。貴方の機体は絶対防御を犠牲にした攻撃超特化型、ISとしては欠陥機よ。避けるスペースは無いわ。私に、慢心は無いのだから」

 

 叩き付けられる結論(絶望)。近い武器は響介の身体にあと5秒もあれば突き刺さり、響介に傷を負わせるだろう。そして無意識に強張る身体を無数の武器が貫き、響介はショック死、それを耐えても結局は失血死に辿り着き、響介の人生と戦いは幕を閉じる。理性は冷静にそう告げた。

 だが、響介の本能は諦めない。死ねない、死にたくない、死んで堪るか。そう叫び、本能は死に瀕した獣の様に理性の檻を破壊しようと牙を突き立てる。どうしようもない、そう理解した響介は、理性の檻の扉を開けた。

 

 「.......ッ!!この殺気、まさか貴方...!」

 「っ、死ねるかよ.......アイツらと、約束したんだからなァァァァァァ!!!」

 

 殺意(本能)は理性の制御から逃れようと暴れ、ひたすらにもがく。その殺意に死ねない理由と自分を想ってくれる者の願いを枷にして、その力を得ながらもどうにか暴走寸前の状態を保つ。

 右から迫る槍。それを掴んで回転させつつ投げる。その槍は他の武器を弾き、等速直線運動をして延々と真っ直ぐ進んでいく。一瞬空いた隙間に滑り込む様に瞬時加速、するとその隙間を塞ぐ様に武器が迫る。対策したのか槍の様な非殺傷部位が多い武器は近くには無い。響介は反射的に【贄姫】を喚び出してエネルギーを纏わせる。その場で1回転して贄姫を振ると剣の軌道を描いてエネルギーが留まる。そして、【カグツチ】を放つ。元はヤタノカガミのエネルギーを斬撃に纏わせて放つ技だが、それをただエネルギーを爆ぜさせる為に使う。

 そのエネルギーは爆発し、周囲の武器を弾き飛ばす。が、そんな威力の爆発の中心部に居た響介も無事ではなく、機体は黒煙を上げている。故障ではなく、ただ炎を受けたからなのだが、少なくとも響介もダメージは受けている。そんな響介を休ませる事は無く、再び武器が響介を囲ってその致命の切っ先を響介に向けて突撃してくる。

 もう1度同じことをするには、刀身にエネルギーを纏わせる必要がある。先程よりも突撃の速度が上がっている武器を前にそんな時間は無く、響介は【箱庭(クレイドル・ガーデン)】を一瞬発動させる。思い描くのは自分を覆い隠す金属の球体。次の瞬間、金属の球体が凹む。音が聴こえないが、確実に何度も武器を当てて破壊しようとしているのだろう。

 だから響介は消し去る事にした。残留しているエネルギーをかき集め、周囲の空間にある武器を宇宙の何処かへ移動させる。少なくとも、この周囲ではないし座標を指定していない為に何処に行ったのか解らないが、隙さえ出来れば充分だ。球体を再びエネルギーに還すと贄姫を握って彼女の元へと加速する。

 

 「私は貴方の母親であって母親じゃない!私は覚えていても知らない、貴方や夏蓮との記憶!私に有って私が持ってないソレを、私はずっと求めている!」

 「何故記憶に拘る!?アンタはアンタだ、そのままで居れば良いじゃないか!!」

 「なら貴方は今更『更識響弥』として生きていけるの!?『更識響弥』としての記憶は持たず、『赤羽響介』としての記憶しか持たない貴方が、その生き方が出来るのかしら!?貴方が言ってるのはそういう事よ!」

 「っ、アンタは.....!!」

 「死になさい響介!そして、私の記憶の中で永遠に生きて!!」

 

 剣を合わせながらの会話。それは『赤羽蓮菜』としての記憶を持つ【切り札の騎士(トランプ・ナイト)】個人の叫びだった。今意識がある【自分】を『自分(赤羽蓮菜)』と肯定出来ない苦しみ、恐怖、ソレを初めて彼女は口にしたのだ。例えを出されて初めて解ったその苦しみに、殺意に溺れていない響介はたじろぎ、剣を弾き飛ばされる。

 勝負を決めようと剣を振りかぶる彼女。その彼女を見て響介は覚悟を決めた。剣を取ろうとした手を、彼は下ろした。そして、悔しさを噛み締める様に響介は左手を強く握り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--ズシャッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぁ.......ぇ........?」

 「....終わりだ。もう、苦しむな」

 

 致命の攻撃を入れられたのは響介ではなく、彼女だった。虚空から生える数多の円錐状の棘が、彼女の全身を貫いていたのだ。

 

 「ど.....し、て...?」

 「...この機体は推進剤を一切使わない。加速も制動も全部自前のエネルギーで行う。だから俺が戦った空間には俺の機体のエネルギーが漂っている。そして俺の単一仕様能力の範囲は俺のエネルギーが漂う範囲全てだ。だから、アンタはこうなった」

 

 通常の機体はブースターやスラスターを使う際、推進剤をエネルギーで着火する事で推進力を生み出す。だが、絶月は【凶星】で生成したエネルギーだけで加速、制動を行う。そして勘違いされがちなのは凶星は空気抵抗などの明確に感じられる刺激でしかエネルギーを生成出来ない、という点だ。実際は違い、凶星は『あらゆる刺激』を受けるとエネルギーを生成するのだ。それが温度でも光でも、はたまた放射性物質であっても凶星に何かしらの刺激を与えればエネルギーを生成出来る。そのエネルギーを移動に使えば空気中にエネルギーを散布する事になり、無理をせずとも単一仕様能力を発動できるのだ。

 彼女の全身から力が抜け、響介の身体へと寄り掛かる。その身体に柔らかな肉体の感触は無く、ただ硬質な金属の感触が伝わってくるのみだった。

 

 「...きっと俺は認めたくなかったんだと思う。実は俺、本当に小さい頃の事は覚えてるんだよ。家族と離れ離れになるまでの記憶は、しっかり覚えてる。アンタは、母さんは俺と夏蓮を庇って、俺達の目の前で死んだ。だから、責められると思ったんだろうな、俺は」

 「え...?」

 「母さんが死んだのは俺達のせいだ、そう言われると思ってた。それが嫌だから、きっと俺は無意識に存在を否定した。...多分、これが俺の真実だよ」

 「....全く、馬鹿ね、貴方は....」

 「え?」

 「(母親)貴方(息子)を、責める訳が、無いでしょ....。貴方達に抱くこの愛情は、きっと本物よ。そんな貴方に、感謝しても責めるなんて出来ないわ...」

 「感謝?俺に何を感謝するんだよ」

 「決まってる...じゃない。成長した姿を、見せてくれて....ありがとう」

 

 蓮菜は微笑みの気配を少し漏らすと、自分の胸に手を突っ込み、あるモノを取り出す。そしてそれを響介の手にしっかりと握らせ、言った。

 

 「何年も持ち越した、誕生日プレゼントよ....。私は、貴方と共に在るわ、響介.....。こんな偽物の母さんで、ゴメンね......でも、愛してる、わ.......」

 

 響介は渡されたソレを握り締め、【箱庭】の能力で機体にソレを埋め込むと彼女の身体を完全に修復する。仮面を取ると、やはり老いていないその顔が露になる。響介は懐かしさを覚えると同時に感謝と尊敬、そして家族への愛情を込めて彼女の身体を押した。ゆっくりと、それでも確実に遠ざかっていく彼女。また物言わぬ躯となった彼女に、響介は一言呟き、後ろを向いた。

 

 「祈りも無く、苦しみも無く、ただ安らかに眠れ。....愛してくれて有り難う、母さん」

 

 向いた先には4人の人影があった。

 

 「響介くん!」

 「嫁よ、無事だったか!」

 「刀奈、ラウラ、お前達も無事だったか。良かった」

 

 刀奈とラウラには互いの無事を喜び合う。そして後ろの2人を見ると響介は驚愕と共に嬉しさを感じた。

 

 「雪菜に、夏蓮...」

 「連れて来ましたよ、響介くん。どうにかこうにか、でしたけどね」

 「まぁ、負けちゃったしね。お兄ちゃんの側に着いて奮闘するのも一興だし、悪くはない気分だよ」

 「そっか、じゃあ頼むぞ、夏蓮。...よし皆、行こう」

 「「「「了解!!」」」」

 

 雪菜が夏蓮を此方側に引き込んでくれた事に喜びと感謝を感じ、響介は前を見据えた。目指すは巨大な岩型の人工衛星、その中心部。


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