IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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想い、衝突-2

 横薙ぎの一撃を身体を反らして避け、倒れる身体を起こす事無くそのまま倒れ込む。夏蓮の手を蹴り上げ、鎌を手放す事を一瞬期待した雪菜だったが、やはり痛覚が無い恩恵か構わずに鎌を袈裟懸けに振りかぶってくる。

 少女が振っているとは思えない速度で迫る大鎌を次は横に移動する事で回避し、ロングストローカーの銃口を密着させて立て続けに発砲するが怯むどころか、寧ろ鎌を振る速度が加速していった。流石に埒が開かないと思った雪菜は【アコール】に搭載されているヤタノカガミを起動し、鎌の刃を突く。流石に擬似零落白夜の刺突には耐え切れなかったのか、刃はキラキラと太陽の光を反射しながら放射状に散らばっていった。刃が破壊された大鎌はただの硬い棒と成り果てたにも関わらず、夏蓮は苦笑しているだけだった。

 

 「あ~あ、壊れちゃったよ。はぁ....折角ハンプが用意してくれた()()()()()()()

 「サブ....ウェポン、ですって...?」

 「しょうがないか。雪菜ぐらいならデスサイズで殺れると思ってたんだけど、予想外だったよ。.....行くよ、【千景(ちかげ)】」

 

 夏蓮が喚び出したのは何の変徹の無い刀。違和感を感じる所を挙げるとするのなら鞘も喚び出したのに抜き身の状態である事だろうか。だが、それは戦闘中であるという理由1つで簡単に片付けられる違和感だ。それでも雪菜には確信めいた自信が有った。あの刀には絶対に何かがある、と。

 先程の大鎌の一閃が大振りで力強い一閃なら、今の刀による一閃は振りは最小限で洗練された一閃だろうか。その証拠に、雪菜の装甲に一筋の傷が入ってしまっている。痛みや衝撃こそ無いが、裏を返せばそれほどの切れ味と技量を持っているという事だ。雪菜は戦慄を覚えずにはいられない内心を押さえ付け、半身になってアコールを構えた。

 

 「やっぱ、この状態の千景じゃ雪菜には届かないか」

 「それよりも先があると?」

 「....私のドミナントとしての能力は何だと思う?雪菜」

 「痛覚の欠如....いえ、欠如という事はデメリット...?以前にもそれは言っていたハズ。なら、夏蓮さんの能力は...?」

 「答え合わせだね。私の能力は【造血能力・再生能力の超強化】。多少の傷は直ぐに治るし、失血なんて無いも同然なの。だから、こういう事が出来る....!」

 「か、夏蓮さん!?」

 

 夏蓮は抜き身の千景を鞘に納める。その瞬間、夏蓮の身体から血が吹き出して鞘の中へと血液が入っていく。そして突然居合いの様に千景を振るうと、雪菜は反射的に刀を回避する。が、刀が届く前に『何か』に被弾し、立て続けに二撃喰らってしまう。その千景の刀身には、欠けた刃の様に血液が纏わりついていた。

 

 「これが私の単一仕様能力【忌刃(きじん)】だよ。内容は自分の血液の操作、そして攻性転化に射程拡張。自傷する毎に私は強くなり、傷を増やす度に相手は不利になる。我ながら性格の悪い能力だと思うよ。初期装備(プリセット)はこの刀だけで、本当にハズレみたいな機体を引いたよね、私も」

 「千の景色で【千景】なんでしょうけど、貴女の刀は違いますね。刀を振る度に血は影の様に着いてくる。【血影】じゃないですか」

 「ふっ....アハハハ!上手いこと言うね、雪菜。確かにその通りだよ!だから、とくと味わってね!!」

 「随分と日本語の繋ぎ方が無理矢理ですね!!」

 

 迫る刃、それを喚び出した盾で受けるものの、2度走る衝撃で単純計算でも消耗は2倍。早々に破壊された盾に見切りを付け、夏蓮に向けて突きを放つ。千景本体で止められる事は無かったが、刀身に纏わりつく血液が広がって硬質化、即席の盾となって突きを防いで見せた。拡張領域から【ブラッディ・マンディ】を取り出すと3発接射したが夏蓮の血液が破れる気配は無く、それどころかその血の盾ごと斬り裂いて雪菜を襲う夏蓮。後ろではなく横に回避すると血の刃こそ回避出来るが連続で襲い来る斬撃を全ては回避し切れず、装甲を薄く削っていく。

 切り替える為に1度舌打ちをする。それから左手のブラッディ・マンディを乱射し、弾が切れると銃ごと投げ付ける。容易く夏蓮は斬り捨て、真っ二つに斬られた銃は小さな爆発を起こして破壊された。

 

 「何が貴女を其処まで駆り立てるのですか!?貴女は響介くんが大事なハズです。どうしてたった1人のお兄さんの敵に自分から回ろうとするんですか!?」

 「負けが解ってる側に行くのは性に合わないんだよ!どうせなら勝つ側に行きたいでしょ、雪菜もさぁ!!」

 「私は負けが濃厚でも足掻いて見せます。こんな状況でも、私は貴女を此方に引き込んで、一緒に響介くんの元へ行く気ですよ」

 「......頑なだね。ハァ、私も随分と丸くなったね。快楽主義者の発言とは思えない発言だった。...分かったよ、雪菜。私は次に全力の一撃を雪菜にぶつける。それに耐えて見せなよ。それで耐えられたなら、私はそっち側に行くことするよ」

 「...分かりました。いつでもどうぞ」

 「なら遠慮なく.....オオオォォォ!!」

 

 夏蓮がもう1度鞘に刀を納めると、先程よりも多量の血液が鞘へと流れ込む。そのまま居合い斬りで雪菜へと斬り掛かる。血液の飛ぶ刃が先行し、夏蓮の持つ刀の本体がXを描く様に飛んでくる。

 先ず雪菜は盾をもう1度喚び出し、血の刃を防ぐ。が、その程度では防げずに盾を破壊するが、少しでも速度が緩めば良かった。雪菜は血の刃をアコールで突く。エネルギーを無効化、つまり単一仕様能力の干渉をも無効化するその切っ先は血の刃をただの血液に戻した。更に迫る夏蓮の刃、もう回避は出来ず(元よりする気も無かった)、防御も間に合わない。だから雪菜はぶっつけ本番で無茶な事をしたのだ。千冬の言葉に、勇気を鼓舞されたからだ。

 

 「なっ....なぁっ!?」

 「真剣....白刃取り、ですよ...!これで約束は守りました。行きますよ」

 

 そう、袈裟懸けに振られる、かなりの速度を持った刀を両手で挟んだのだ。失敗すれば凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされ、其処を夏蓮に狙われて殺されていただろう。それが解らない雪菜ではないと知っている夏蓮は、戦慄を抱いた。こんな戦い方、自分達(ドミナント)みたいではないか、と。

 負けた。敗者は勝者に従うべきだと思っている夏蓮は、差し伸べている雪菜の手を取り、言った。

 

 「.....まぁ、約束は約束だからね。協力するよ」

 「じゃあ行きましょう。響介くんの元へ」

 

 そのまま巨大な岩へと歩を進めた2人。その胸に抱く想いは、同じなのだろうか...?


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