「ッ...シャルロット、気にするな!お前はお前の事を守れ!」
「ラウラ....了解!」
「しっかりと割り切りましたか。ふむ、一応軍に身を置いていた事は確かな様ですね」
「そうでなければ、生き残れなかったから...な!」
痛みで明滅する視界の中、ラウラはプラズマ手刀で斬り掛かる。クイーンが放った弾丸が眼孔から脳に貫通する事は無いが、眼球に直接弾丸を叩き付けられた衝撃でもう眼は潰れてグチャグチャだろう。痛む瞼を無理矢理開けて前を見ようとするが、何も見えはしない。痛みが有ることから神経は生きているのだろうが、もう通常の眼には戻らないとラウラには解っていた。
不慣れな【
シャルロットもラウラの一喝で少なくともこの場では引き摺る事無く、冷静に射撃を行う。自分が格闘に行かないのは近接戦闘の連携は射撃戦闘よりも格段に難しく、下手をすれば2人よりも1人の方が強いという事になりかねないからだ。スラグ弾に切り替えたブラッディ・マンディを空中に投影されるホログラムから手に握って実体化させると、ラウラと自らでクイーンを挟む様に位置を取り背中ではなく下半身に向けて撃つ。
「素直に背中を狙わないのは教育の賜物ですか?」
「ちょっと考えれば解る事だからね、独学だよ!!」
「....やはり貴女達全員の才能は失うには惜しい。此方側に来ませんか?」
「ふざけないで、行くわけないでしょ!!」
「とは言うものの、貴女達は何故私達の目的を拒むのですか?人を管理する事の何が悪いのですか?むしろ、無能な老害が消え去って貴女達若者が世界を導き、そして争いが無い世界に変革を遂げる。言っては悪いのですが、貴女達2人の様な人生、出生を送る人は居なくなると断言出来ます。まさか、自分も味わったのだから他の誰かが乗り切れるなどという馬鹿な考えはしていないでしょう?」
その問いに、2人は言葉を詰まらせた。自分達の大義が揺らいだ訳ではない。だが、自分達がこの状況を解決した所で世界が変わる訳ではない事は確かなのだ。国に君臨するトップは変わらず、数を増やす事は当面、下手をすれば永遠に叶わないISの所有権を巡る醜い牽制と言葉の争いが始まるだろう。それを考えれば確かに敵側に行く事も理に敵っている。だが、2人は言った。
「私は無理だな。私の理想は嫁が、響介が望む世界である事。その響介自身がお前達と敵対しているんだ、私がそっち側に行くのは響介を引き込んでからにしろ」
「僕も遠慮するよ。響介にも雪菜にも、僕を救ってくれた恩がある。例え響介自身が覚えてなくても、僕はこの生を使い潰しても恩を返すと決めたんだ。それを仇で返す位なら自分で頭を撃ってやるさ」
例え世界が変わらずとも、彼女達の想いが変わる事は無い。それは、クイーン達の掲げる理想と比べれば取るに足らない一個人の下らない信念だ。だが、シャルロットとラウラからすれば、その信念は自分達が戦う為の理由。無くてはならない、折れてはならないものだ。それを折る事は出来ない。
「だからこそ私は--」
何故なら、人という生き物は古今東西--
「お前を倒して嫁を助けるッ!!」
人の為に戦う方が、強く在る事が出来るのだから。
ラウラの潰れた眼が光を放つ。そして、光が止んだ後に有ったのは黄金の瞳、【越界の瞳】だった。だが、新しい越界の瞳は今までのソレとは用途が大きく異なる。
「フン、眼が復活した所で!」
「【無窮の黒雨】ッ!!」
ラウラに向けて奪った狙撃銃を撃つクイーン。だが、突如空中に現れた黒き雨が弾丸全てを居抜き、そしてクイーンの元へと飛んでいく。
後退するものの、回り込む様に現れた黒雨がクイーンの背中を削る。邪魔だと感じたクイーンは両手に近接ブレードを握って雨を散らす。が、散らしたのはその剣の刀身だった。
「なっ!?」
これがシュヴァルツェア・レーゲンの単一仕様能力【無窮の黒雨】だ。その実態は新たな眼、【
剣の刀身が粉々に破壊された事から危険だと察したクイーンは全力で逃げるが、ラウラが逃がす訳もなく雨が追尾していく。更にシャルロットの放つスラグ弾が装甲を叩き、徐々に徐々にクイーンの精神と体力を削る。
「鬱陶しいですね......【
不可視の【侵食】の波が空間を包み、武器ではなくこの戦闘している空間
それによりシャルロットの【パラレル・スイッチ】も打ち消され、シャルロットにしか見えないホログラム状に展開されていた武器も拡張領域に収納された。が、慌てる事は無い。元よりパラレル・スイッチは自身の技能である【ラピッド・スイッチ】を基礎にして構成された単一仕様能力だ。故に【ラピッド・スイッチ】を疎かにしてはいない。それどころか前よりも速さが上がっている程だ。
「ラウラ、パス!」
「ナイスだシャルロット、行くぞ!」
ラウラに投げ渡したのは【コテツ】。プラズマ手刀と
コテツを盾に振るうとクイーンは実体盾で防ぎ、がら空きの脇腹に剣を振るう。光剣は刀身が光で構成される関係上、防御には使用出来ない。それを知っているクイーンは当たったと確信したのだが、其処にシャルロットの援護射撃が光る。元は響介の装備であった、突撃銃と狙撃のモードを選択可能な両用銃【
突然走る、骨まで響く衝撃に剣を取り落とし、ラウラへの攻撃を断念する。が、目の前のラウラがその隙を突かない訳が無く胸部に突きが放たれる。実体盾でどうにか防ぐが、その刀身が放つ高熱に耐え切れず、盾は熔解し攻撃を通してしまう。それを見越していたクイーンは全力で後ろにスライド、バック宙の様な動きで蹴り上げる。クイーンの蹴り、つまりサマーソルトキックで強かに剣を握る手を打たれたラウラは衝撃で手を放し、再びプラズマ手刀の二刀流に戻る。
そのままクイーンは前方に加速、そしてそのまま拳でラウラの顔面を殴る。すっかり武器での戦闘に持ち込むと考えていたラウラは意表を突かれ、マトモに喰らってしまう。次に膝で腹部を蹴られ、顎をアッパーで打ち抜かれる。グラリと視界が揺らぎ、意識を手放しかけるがどうにか持ち直してクイーンを見る。が、ラウラが見た所にクイーンは居らず、クイーンはラウラの脚を掴み、ジャイアントスイングを繰り出す。しかも、ラウラの援護をしようと周囲を高速で飛び回るシャルロットの射線上には常にラウラが居るように調整されている。そのままクイーンは遠心力を保ち、辺りに散らばる岩に思い切り叩き付けた。岩を破壊する程の威力をマトモに喰らったラウラはぐったりとして動こうとしない。いや、動けないのだろう。2個目、3個目、そして4個目と叩き付け、充分弱ったと確信したクイーンは初めて使う自前のライフル(ハンプティ・ダンプティが造った【ヤタノカガミ】を模倣した弾丸が装填されている)をラウラの心臓の辺りに狙いを付ける。そして、自分の胸の中心部に当たった硬質の感触に目を向ける。
「やっと捕まえたぞ.....」
「て、停止結界!?何故、私の能力下でそれを!?」
「確かに【無窮の黒雨】は発動できない。だが、狭い範囲、限られた範囲で停止結界だけなら発動が出来た。...まぁ、ぶっつけ本番だったがな。....よくも散々叩き付けてくれたな。仕返しだ!!」
胸に当たっていた硬質の感触の正体、それはもう1つ収納されていたレールカノンだった。引き金が引かれ、内部でプラズマ化寸前まで加熱し加速した対IS徹甲弾が何発も発射され、後退して衝撃も逃がせないクイーンの装甲を削り、コアを露出させる。ラウラが装填していた弾が切れ、これでトドメを刺すとばかりにクイーンはライフルを構え直すが、クイーンは忘れていたのだ。もう1人の存在を。
「シャルロットォォォォォォ!!」
「アアァァァァァァァァァ!!!」
停止結界が解除され、前につんのめるクイーン。その胸、コアを掴み、シャルロットは【パルマフィオキーナ】を使う。掌から有効射程数メートルというビームとは思えない短射程のビームが放たれる。その代わり威力を御墨付き、露出したコア本体はビームに穿たれ、パワーアシストを失ったクイーンの動きは途端に鈍くなる。それを見たシャルロットは思い切り岩に叩き付け、そして遥か遠くへと投げ飛ばした。だが.....
「ハハ、負けまし、たか....ですが、ただでは負けません....よ....」
ホロキーボードにあるコマンドを打ち、エンターを押す。すると、周囲の岩から無人機が現れ、シャルロット達へと向かっていく。その数は凄まじく、1人では止めきれないだろう。その様子を見届けた直後、機体は爆散し、クイーンの命は孤独な女王の様に独り、誰にも見られずに散っていった。
「ラウラ、先に行って」
「無理だ、あの数をお前1人でなど--」
「良いから!僕が行くより、ラウラが行った方が良い。僕の継戦能力はラウラよりずっと高いし、何より僕が行くよりラウラが行った方が響介は踏ん張れる。だから行って!」
「だが--」
「良いから、
「ッ!!.....分かった、此処を頼むぞ。死ぬなよ、シャルロット」
「勿論!」
滅多に声を荒げる事無く、そして命令などしないシャルロットが命令口調でラウラに行った。その事でシャルロットの覚悟を推し量ったラウラはシャルロットにこの場を任せ、自分は響介の元へと向かって行った。
「さて、それじゃあ...僕達は此処で踊ろうか、ブリキの兵隊さん達?」
シャルロットは【アヴェンジャー】を構えると、無人機群に向けて景気良く弾丸をバラまいた...