IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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殺意、選択-2

 「これが私の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)、【プロミネンス】よ。どうかしら、私の怒りの爆発は」

 「クッ...」

 

 タイムラグ無し、前兆無しで射程は不明、同時に爆発を起こせる数も不明。そんな能力を相手に箒はどうにか立ち回っていた。とは言え、ジグザグに飛んでどうにか回避する事が出来ているだけであり、反撃を加えるどころか近付く事すら出来ていない。

 しかも相方である一夏が一時的に戦線から離脱している以上、箒も1人での立ち回りを求められる。遠距離よりも近接を得意とする箒にはハードな話だ。早く帰ってこい、その思いで横目で一夏が飛ばされた位置を確認するが、一夏の姿は其処には無かった。

 

 「オラァァァァァァァァ!!!」

 「ッ!?貴方、幾ら何でも復帰が--」

 「っせえんだよこのアバズレがァァァァァァ!!!」

 「い、一夏.....?」

 

 凄まじい速度--瞬時加速で突進、スコールの顔面を掴むと宙に浮かぶ岩に叩き付ける。それだけではなく、その加速性能を生かして再加速、岩を突き抜けて次の岩へ、その岩も突き抜けて次の岩へ、を3度繰り返し、最後に投げ飛ばして一夏は戦場に帰ってきた。その身に、尋常ならざる気配を纏って。

 

 「アァ......心地いい殺気だなァ」

 「貴方、何が有ったの?この一瞬での変わりようが凄いわ...よ!」

 「そんな花火、見切ってんだよなァ!クヒャヒャヒャヒャ!!!」

 

 ノーモーションで、しかも会話の途中に起きた爆発だが、一夏は前方に加速して回避。その後も断続的に爆発は起きるが、上半身に当たる爆発のみ回避し、下半身に当たる爆発は無視して進む。その間も一夏の顔から狂った笑みは消えない。

 雪片が届く距離まで届くと、スコールは後ろに飛んで逃げるが一夏は二重加速で肉薄し、クローモードで雪羅を起動する。零落白夜の爪がスコールの掌を突き刺し、そして逃がさない様に杭の役目を果たす。そのまま雪羅を切り替える事で零落白夜の爪は消え、一夏の指がスコールの掌に刺さったままになる。強引に引っ張って近付け、そして雪片の装甲を展開、零落白夜を袈裟懸けに振り下ろす。

 

 「グウッ!!貴方、正気じゃないわ!!」

 「うるせぇんだよ...さっきから正気だの正気じゃねぇだの。戦う奴等なんざ全員どっか狂ってんだ、今更だよなァ!!」

 

 スコールは全面一帯に爆破の壁を作る。が、一夏は読んでいたのか霞衣で防御、接近するとヤクザキックでスコールの傷口を蹴り抉る。先程までの、戦いの中でも正気で在ろうとする少年とは一転、彼は戦いの狂気に呑まれていた。

 それもそうだ。さっき一夏が使ったのはオータムから貰った【ドミナント模倣薬】、つまりドミナントになる薬だ。それを打つ事によりアドレナリン等の『脳内麻薬』と呼ばれる物質を過剰に分泌し、更に興奮材により闘争本能を刺激する。すると、痛みを感じずに自らの闘争本能のままに敵味方問わずに殲滅する、正しいカタチのドミナントになるのだ。

 だが、そんな薬には副作用がある。自我が弱い者は薬の効果と罪悪感から逃げる為に薬の服用に逃げ、中毒となる。更に目の前の敵を殺すまで戦いを止める事が無い為自らのコンディションも把握できず、ある日突然身体が動かなくなって死に至るなど、正にハイリスク・ハイリターンな薬である。

 スコールは咄嗟に一夏の左手を掴み、動きを止める。そしてこのまま戦えば殺されるのは自分だ、と理解したスコールはそのまま爆発を浴びせるのだが、一夏は無理矢理()()()()()()()()()()()。通常では回らない方向に無理に回ったからだろう、左手からゴキャッ、という異音が聴こえてくるが痛みを感じない一夏は右手の雪片を自分の左手を掴むオータムの手を斬り飛ばした。

 

 「いっ、づうっ....!!」

 

 絶対防御が効かない斬撃がオータムの両手を襲う。容易く斬られた両手は宇宙の暗闇を舞い、恐怖を植え付けるにはもってこいだった。

 

 「ヒッ....」

 「痛いよなァ...怖いよなァ...死にたくねぇよなァ....。でも、助けてやらねー。その恐怖を抱いたまま、死ね」

 

 爆発を起こす前に、スコールは死んだ。機械の身体で若さを保っていたのか、血液と共に火花が散る。だが、そんな事はもう一夏は興味を持たない。箒に向けて笑い掛け、一夏は言う。

 

 「行こうぜ、箒。響介達も待ってる」

 「.............」

 「箒?」

 「今のお前を響介に会わせる訳にはいかん。お前を、此処で止める。そして正気に戻す」

 「あ?ハァ....正気かよ。ったく、めんどくさ....。俺を通さねぇって言うなら--」

 

 瞬時加速で突然目の前に現れる一夏。縦に振るわれる刀を2本の刀で受け、至近距離で睨み合う。

 

 「死ねよ」

 「断る!」

 

 白式の燃費は最悪だ。零落白夜、霞衣、雪羅を使う度にエネルギーは減っていき、紅椿の支援が無ければ勝手にガス欠になってしまう。そうなれば生命維持装置も働かなくなり、この宇宙空間では太陽光線の熱で焼死するか圧力により破裂するかのどちらかの末路を辿ってしまう。故に箒は自分が殺されず、かつ一夏のエネルギーを0にしない様に立ち回りつつも正気に戻さねばならないのだ。スコールとの戦いの方がまだやりようは有った。

 拍子がずらされ、防御が1拍早くなってしまう。空ぶった防御を冷静に見た一夏は雪片を逆袈裟に斬り上げるが、無理な姿勢でも後ろにスライドして斬撃を回避した。瞬時加速で追撃に来る一夏を、斬撃を飛ばして牽制しつつ中距離を保つ。サブマシンガンが弾切れだからこそやれる戦法だ。

 が、掌から荷電粒子砲が放たれる。しかも連射で、牽制にしかならないが今の一夏ならば動きを制限するだけで充分だった。被弾に怯み、隙を晒した箒に無慈悲な斬撃が--

 

 『私の愛する教え子達よ。お前達に、1つ託したい事が有る』

 

 その時、公開通信(オープン・チャンネル)から千冬の声が響いた。いつもならば絶対に言わない、『愛する教え子』などという文言を使った言葉だ。

 

 『この世界を、この世界のこれからを、お前達が創ってくれ。くれぐれも、私達の様にならない様にな』

 

 その言葉は一時代を築いた人物が放ったとは思えない、弱さと自虐に満ちた言葉だった。

 

 『お前達ならばきっと出来る。少なくとも、私は出来るだろうと断言出来る。だから、頑張ってくれ』

 

 そして、一夏だけに通信が届いた。教師としての織斑千冬ではない、一個人としての、織斑一夏の姉としての『織斑千冬』が放った言葉だ。

 

 『お前は優しい子だ、一夏。きっとこれから先、その優しさで痛い目を見る事が多くなると思う。だが、お前が優しいままで居てくれる事を願っている。....愛しているぞ、一夏。私達はずっと、永遠に一緒だ』

 

 その言葉を最後に通信は終わった。衝撃的だったのか、一夏の動きは止まり呆然としていた。箒は一夏を抱き締め、決意した。今まで抱いてきた想いをぶつける事を。

 今の一夏は本来の意識と模倣薬により造られた意識のどちらが表層に出るか争っている。だから、一夏本来の意識を揺さぶれる、強い衝撃が必要だ。それを箒は意識していない。だが、それは一夏が正気に戻る為の詰めとなるのだ!

 

 「一夏、お前が好きだ!!」

 

 その言葉に、想いに気付いていなかった一夏は疑問の声を漏らす。

 

 「え....?」

 「小学校の時、お前はスカートが似合うと言ってくれた、その時から惹かれていたんだ!転校して、中学を卒業して今まで、お前以外を恋愛対象として見た人は居ないんだ!私はお前以外を愛せない。だから、私と付き合ってくれッ!!」

 

 一夏は強い衝撃を受けた!今自分を抑えている、ドス黒い殺意。それを押し退けようとする力が増していく!それは何故か?一夏は男が女を護るという古臭い思考の持ち主だ。故に、気付いた、気付かされたこの想いと箒の想いに応える為に、この殺意を御そうとしているのだ!

 だが、それで抑え込めるのなら副作用とは言わない。更に殺意は膨れ上がり、暴れたくなる衝動に駆られる。しかし!今の一夏には【願い】が託された!千冬の想い、願いが箒の想いと混ざり合い、そして殺意を殺す刀となって打ち鍛えられる!

 

 「っ、アアアアアアアァァァァァ!!」

 「一夏ぁ!」

 

 更に強く抱き締められる。それが最後の一手、一夏はその心の剣を以て、膨れ上がる殺意を殺したのだ!!

 一夏は箒の頭に手を置き、笑った。

 

 「俺も気付けたよ、箒」

 「な、何がだ...?」

 「此方こそ宜しく...って言ったら解るか?」

 「やった.....やったぁ!!」

 

 年相応の笑顔と武士然とした言葉遣いが消えて喜ぶ箒は、やはり美少女なのだと一夏は実感した。そして自分の左手と見える小惑星規模の衛星を見て一夏は諦める。

 

 「この腕とコンディションじゃ、もう戦えないか...」

 

 曲がっている方向がおかしい左手は耐え難い痛みを脳に伝え続けている。これで加勢に行っても足手纏いになるのがオチだろう。

 

 「信じよう、私達の友達を」

 「そう、だな。先に地上で待つことにするか、箒」

 「あぁ、そうだな」

 

 2人はその罪を互いに背負い、生きていく。人殺しの罪を、その十字架を、2人で共有するのだろう。その未来を見せるかの様に、2人は寄り添ってゆっくりと地上へ降りていくのだった...


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