「待ってたわよ、響介ェェェェ!!!」
「俺の名前を、テメーが呼ぶんじゃねェェェェ!!」
互いの姿を確認するや否や、蓮菜はハルバードを射出し、響介はブースターを蹴り飛ばして即席の盾にした。ブースターにハルバードの刃がめり込み、次の瞬間には橙の炎を上げて爆発した。
普通の人ならば相手を見失う所だが、生憎2人は普通ではない。蓮菜は機械の身体を、響介は義眼を生かして互いを炎の外から視認すると、炎の中で剣をぶつけ合った。
「この場所まで来るのは貴方だと思ってたわ!!さぁ、殺し合いましょう!!」
「るっせぇ!!俺はアリスを助けんだよ、邪魔だッ!!」
【贄姫】を縦に振り切る。蓮菜が持っていたロングソードを軽々と斬り捨てるが、虚空から大量の槍が現れ、響介に向けて放たれる。響介は回避出来るコースが無いと理解すると、贄姫にエネルギーを纏わせて斬撃を飛ばす。エネルギーに当たった槍は蒸発した様に消えて無くなり、その奥に見えたのは雨霰と降り注ぐ矢の雨だった。
響介は【絶月】の性能を生かし、義足の薬莢を激発させる勢いと共に爆発的な加速で範囲外に逃げ、蓮菜の懐にジグザグの機動で潜り込む。
蓮菜は両手にロングソードを握り、響介に叩き付ける。響介は右手を手刀の形にすると超高振動デバイスを起動、ロングソードを両断する。が、次は槍が球状になって響介を取り囲み、一斉に突撃してくる。拡張領域から【八重霞】を取り出すと、刀身を伸ばして自身を取り囲む。思い切り腰に柄を引き寄せると伸ばされた刀身は弾ける様に解放されて槍を吹き飛ばす。
そのまま八重霞を伸ばして貫かんとするが、蓮菜は舞の様に右にスライドし、大量の銃を召喚する。
「前よりも研ぎ澄まされて、そして呑まれていない。やはり貴方はドミナントの王よ、響介!」
「んな称号要らねぇ。俺は守りたい物の為に戦う。殺意のままに殺して回るなんざ、真っ平御免なんだよ!!」
「それを望んだ
X字状に振り下ろされるハルバードをバックスライドで回避し、拡張領域から肩に大口径ビームカノン【黒雷】を装備して発射する。紅いビームの奔流は周囲の空間を呑み込むが、蓮菜は下方に急加速する事で回避して見せた。
「誰1人居なかったわ、
「何だと!?」
「1度殺意に溺れた貴方は、今私と対峙している!それは大義の為と言って、殺意とは正反対の大義を掲げて私と戦っている。それは、貴方が殺意を克服した証と言えるんじゃないの!?」
「そんなのただ前例が無かったってだけだろうが!きっと俺以外にも克服出来たドミナントは生まれてくる!!」
「その無かった前例を破るのがどれだけ大変か、貴方は知らないのよ!」
薬莢が弾け、響介の右手が掻き消える。蓮菜の白い仮面を見事に捉えた右フックは蓮菜の視界を一瞬混乱させ、追撃を加える為の布石になった。
武器を喚び出す事はせず、義足を激発させたローリングソバットで蓮菜を吹き飛ばすと、周囲にSEが充満している事を確認して単一仕様能力を発動、蓮菜が体勢を立て直す前に蓮菜の後ろに回り込むと、贄姫を喚び出して【ヤタノカガミ】を起動、袈裟懸けに振り下ろした。
機械の身体を斬り裂き、ケーブルや基板が露になった蓮菜。その隙間から、人の肌色が見えていた。内部には蓮菜の遺体が素体として入っていると確信する。
「強くなったわね、響介。昔の....私が覚えている頃の貴方とは似ても似つかないわ」
「テメーは俺を覚えてないだろ。その記憶は母さんの、本当の赤羽蓮菜の記憶だ。テメーはただ母さんの記憶を持った虚像、偽物なんだよ」
「--偽物、ね」
蓮菜は肩を竦め、仮面で隠された顔から苦笑の気配を漏らして言う。その声は笑っていたが、何処か寂しげな声だった。
「貴方は何をもって【本物】とするの?」
「....は?」
「記憶?肉体?魂?少なくとも私は
「死んだ人間は2度と戻らない。....アンタは俺達の目の前で死んだ。それだけは確かだ」
「そうね。でも、この世界は酷く不明瞭よ。生と死の境界すら曖昧。死んだ人間には自分の記憶で生きる、と言いながらも生きた人間に死んでいるのと同じだ、と告げる。ねぇ響介、私はどうなるの?私は何なの?私は私だけど、
「それは....っ」
「時間切れ、残念ね。答えを出せない王には鉄槌を、愚か者には制裁を」
その言葉が紡がれたその瞬間、響介の真横に巨大な鉄球が現れ、響介に叩き付けられる。純粋な質量に身体が悲鳴を上げる。脱出すると、笑えない光景が広がっていた。
「そんな全力の出せない機体で勝てるとでも思った?前の貴方なら擬似零落白夜を永遠に発動できたハズ。なのに、何故あのエネルギー生成機を外したの?...まぁ、もう良いわ。貴方を殺すわ、響介」
「.....絶賛大ピンチ、ってか....?」
絶月が誇る半永久エネルギー生成機【凶星】は『仕込み』の為に外した。だが、此処までピンチになるとは思っていなかった。
何が起きているか?それは、蓮菜の背後にこの世界のありとあらゆる兵器が響介に矛先を向けて構えられていたのだ。そしてその禍々しい兵器達は--
「.....さようなら」
放たれて、しまった。