「これは...BT兵器!?」
「お2人は先に!」
「此処はあたし達がやるから、頼んだわよ!」
セシリアと鈴は響介と雪菜の返事を聴くこと無くブースターから手を離し、誘う様に逃げるビットを追い掛ける。
そしてある程度離れた先には【サイレント・ゼフィルス】が、脱力したまま待ち構えていた。マドカは2人を視認すると右手を指揮者の様に振った。それに連動するかの如くビットが飛来し、ビームを発射する。鈴とセシリアは反発する様に左右に飛ぶが、出し惜しみも油断もしていないマドカは既に【クリスタル・スケイル】を発動させていた。ビームが反射し、セシリアに襲い掛かるが流石に相手の手札を知る事が出来た状態、それを生かさない訳がなかった。
「....ビームを打ち消した、だと...?」
「貴女対策に、本国の反対を押し切って装備したのですよ!感謝して欲しいですわ...ね!」
セシリアの腰に装備されていた
そして前との違いは装備だけではなく、状況にもある。そう、
『反射させる』という性質上、直線的になりがちではあるが確実に鈴を追尾してくる。鈴は避け切れないと解るや否や右手の【ボルテック・チェーン】を伸辺りに漂う岩を掴むと、ISのパワーアシストをフルに活用して自分の背後に引き寄せる。ビームは岩に直撃し、周辺に煙と岩の破片を撒き散らす。
「チッ、面倒な。
「貴女に負けてばかりじゃいられませんから!!」
セシリアのティアーズから放たれたビームは急激に角度を変更し、マドカに襲い掛かる。かつての課題であった偏光制御射撃は既に習得していたのだ。
「ついでにこれでも喰らいなさい!!」
鈴は両手のチェーンをまた周辺の岩に巻き付けると遠心力を加えて投げる。セシリアは岩を砕かない様にビームを曲げ、鈴はセシリアに負担を掛けない為にも無理な軌道で曲げなくても良い場所に投げていた。
流石に此処は回避に専念するべきだ、そう思ったマドカだが、その結論に至るまで半瞬遅かった。突然背中に伝わる斬られた感触は、マドカの意識を一瞬だけ空白にさせる事は容易かった。鈴は岩を投げる前に【双牙天月】を連結させて投げていたのだ。投げられると弧を描き、鈴の元へ返ってくる剣のコース上にはマドカの背中があり、ただそれに当たっただけだ。ビームでも何でもなく、そして空気が無い故に音も聴こえない。環境を存分に利用した一撃だ。
それが良くなかった。ジャストミート、それがマドカの本能を揺さぶってしまった。
「もっと、もっとだ......私を、もっと愉しませろ!!」
ドミナントの中でも最高峰に位置する能力を持つ織斑千冬。彼女が常人の基準で見ても正常に見えるのは極普通の弟が居たからだ。両親が蒸発し、それ故に千冬が護らなければならなくなった。だからこそ異常なまでの責任感が生まれ、千冬はマトモでいられたのだ。
だが、マドカにはソレが無い。世界最強の人間兵器として造られたマドカに家族は無く、故に護るべき存在は自分だけだった。しかし、この時代でもクローンの人格を統一する事は出来ない。幼い子供は誰よりも純粋で、誰よりも感受性が強い。そんな子供が人を殺せば、壊れるのは当たり前だ。だからマドカは愉しむ。戦いを、蹂躙を、血沸き肉踊る死闘を。
「これが...ドミナントなんですの!?」
「幾ら何でも、速過ぎるわよ、こんなの...!」
当たり前だ。どれだけ才能に恵まれた人間でも
鈴は衝撃砲を放つ途中で空間を開放、圧縮された空間が元に戻ろうとする力でビームを無理矢理曲げるという離れ業でビームを反らし、セシリアはシールドビットを操り、ビットを防ぐ。
マドカは拡張領域からビームサーベルを取り出し、鈴に猛然と突進してくる。鈴はそれを両手に握る双牙天月で捌くが、横腹に軌道を反らしたハズのサーベルが突き刺さる。前に戦った無人機程の出力ではないとは言え、刺突もこなせるサーベルの一突きだ。肺から息が漏れ、下がらざるを得なくなってしまう。
セシリアは【スターライトmk-Ⅲ】のスコープを覗き、頭に向けてビームを放つ。しかし、千冬と同等の反射神経を持つマドカの前では意味を成さず、右に避けられるとビットによる手痛い反撃を喰らい、スターライトが爆発する。これでセシリアは1つ武器を失った。
「どうすれば....」
「一撃、一撃当てさえすれば...」
強くなったハズの自分達でも見えない、マドカに勝利するビジョン。彼女たちは冷や汗を流して戦況を変えようと四苦八苦していた。