IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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憎悪、死闘-1

 「あの機体は...!」

 「ゴメンね皆、簪ちゃんとの戦いは誰にも譲れないの。私1人でやらせて貰うわよ」

 「....止めても無駄なんだろうな。--分かった、後で必ず追い付けよ、刀奈」

 「うん、勿論」

 「よし、じゃあ頼むぞ」

 「任せて。止めて見せるよ、お姉ちゃんとしてね」

 

 刀奈が対峙するのは腹違いの妹、簪だ。目敏く雪菜を見付け、追い掛けようとする簪の機体を掴み遠心力を利用して投げ飛ばす。少し刀奈との距離は開いたが、雪菜達を追い掛ける事は現実的では無い距離になった。

 

 「....何なの?まだ私を連れ戻そうとか思ってるの?」

 

 不機嫌さを隠す事無く簪は刀奈に話し掛ける。前にデュノア社跡地で出会った時は意図的に無視していたのだろう、以前の様なにこやかさなど欠片も無く、醜い感情を表に出していた。

 そして問い掛けられた刀奈は応える。悩みに悩み抜き、やっと出した答えを。

 

 「--もう、連れ戻すなんて事はしないよ。簪ちゃん、貴女は間違えすぎたの。その責任の一端は私にも有る。だから、責任を取る事にした」

 「は?何を言ってんの?」

 「私は、()()()()()()

 

 瞬時に【蒼流旋】を喚び出し、水流装甲を纏わせて突撃槍(ランス)へと姿を帰る。瞬時加速で距離を詰め、蒼流旋を突き出す。

 

 「へぇ、殺すんだ?実の妹を、殺すんだ?」

 「...貴女は腹違いの妹だったの。だから実の妹ってのとは少し違うわね」

 「っ、チィッ!!」

 

 大型のシールドで簪は突きを防ぐが、刀奈は内蔵されているガトリングを零距離で撃って無理矢理防御を突破する。即座に見切りを付けた簪はシールドを蹴り飛ばし、刀奈を弾く事で距離を作る。だが、一瞬見えなくなった隙に刀奈の姿は消え、簪は案の定見失ってしまう。

 そして捜そうとした瞬間に背中に衝撃が走る。蒼流旋の一撃だ、そう思った簪は右手にブレードを喚び出して振り返りつつ横薙ぎに振るが、その一閃は空を切るだけだった。

 

 「なっ....!?」

 「【清き熱情(クリア・パッション)】よ。宇宙空間じゃ使えないとでも思った?でも残念、ISに常識は通じないのよ」

 

 刀奈は動いてなどいなかった。姿を消したのは水流装甲の偏光率を変えて空間の暗闇に溶け込んだだけで、実際は簪の背中に水蒸気に変えた水流装甲を収束させ、爆発を起こしただけなのだ。そのブラフにまんまと引っ掛かった簪は胸を強かに突かれる。

 簪は刀奈を睨むと多連装ミサイルポッドからありったけのミサイルを発射する。全てのミサイルが刀奈1人のみに狙いを絞り、煙が尾を引いて迫る。だが、刀奈に焦りは無かった。刀奈が蒼流旋を振るうと、()()()()()()()()()()()()()刀奈の目の前の空間を横薙ぎに薙ぎ払った。

 水を振動させる事により響介の義手に搭載されてきる超高振動デバイスを再現し、更に振動させる事によって発生する熱を利用してヒートブレードと同じ状態にしているのだ。つまり、この分離した水の刃は斬れ味に於いて全ISの武装の中でも最高峰であり、水流装甲さえ有ればもっと生成する事が出来る汎用性にも優れた武器なのだ。

 それを刀奈は3個生成し、ミサイルを全て墜としていく。断続的に起きる爆発の音も空気が存在しない宇宙では派手な花火の様にオレンジの炎が広がるだけだ。その炎の中から、憎悪に染まった表情の簪が飛び出し、刀奈の胸にブレードを突き出した。

 

 「アンタさえ....アンタさえ居なければ、私はもっと幸せに生きる事が出来た!」

 「........」

 「自分の才能の無さに絶望する事も無かったんだよ!!アンタと、あの異物さえ居なければァ!何が姉だ、が『大切な妹』だ?!本当は要らないと思ってただろ!?私はアンタらの汚点だったんだろ!?」

 「............」

 「--よ.....。言えよ.......何か言ってみろよ!!私が、私がただ惨めだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 刀奈は何も答えなかった。それは何故か、本人にも解っていなかった。唾を飛ばしながら叫ぶ簪を見て浮かぶ感情は何なのだろうか。憐憫?悲哀?憤怒?軽蔑?その全てに当て嵌まらなかった。だがその感情に名前を付ける事は難しく、刀奈はその感情を理解する事は諦めた。

 化け物、人でなしと叫ぶ簪に【清き熱情】で攻撃しつつ、水の刃(水流刃)で動きを制限する。その水流刃ですら当たれば痛い、では済まない程の威力が内包されているのだ。簪のストレスは凄まじい速度で溜まっていく。

 

 「うざったらしいなぁ....ホントにウザいよ、アンタ!!」

 「...そう。でも大丈夫よ簪ちゃん、一撃で葬ってあげる。ウザい、とか感じる前にね」

 「そういう所だよ、癪に触る。アァ....殺す、殺すよ。誰の為に?」

 「.....え?」

 

 突然様子が変わった簪に、刀奈は怪訝そうな表情で様子を伺う。簪は先程まで憎悪の叫びをしていたとは思えない晴れやかな微笑みを浮かべていた。話す内容は支離滅裂で、何より狂っているのだが。

 

 「誰の、為に.....?雪菜、アリス、雪菜、アリス、殺す、私のモノ、殺す、壊す、雪菜、アリス、雪菜、アリス、雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜アリス雪菜--」

 

 機体からコールタールの様なドロッとした液体が溢れ、【打鉄弐式】を包んでいく。かつて有ったVTシステムの様に何かを模倣していく。だが、それは生き物を模倣しているのではなかった。簪が暴走し、そして模倣した機体、それは--

 

 「.....アレは、【エクレール】?」

 

 シャルロットの機体、エクレールそのものだった。


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