IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

136 / 152
殺意、選択-1

 「冗談だろ....アレが、本当に人工物なのかよ!?」

 

 一夏の叫びも最もだ。目の前に浮かぶのは巨大な隕石そのもの、破壊など出来る気がしないものだった。そして、其処へ向かうルート上に居るのは黄金の機体、スコール・ミューゼルが駆る【ゴールデン・ドーン】だった。

 

 「このままじゃ全員ぶつかるぞ!」

 「--俺と箒が行く。俺達の速度なら充分追い付けるし、此処で響介か雪菜さんを降ろすのは痛手のハズだ。俺達で止める」

 「一夏....分かった。私もやらせて欲しい、頼む」

 「拒否する余裕も無いさ。頼むぜ2人とも、さっさと来てくれよ!」

 「分かった!」

 

 紅と白が黄金に突進する。そのまま仲間が乗るブースターから引き離し、対峙する。

 

 「よくも殺ってくれたわね、織斑一夏」

 「............」

 「あの子を...オータムを殺したのは貴方でしょ?」

 「一夏!?」

 「....だからどうしたって言うんだ。お前達だって人を殺してきたハズ、殺されても不思議じゃないんだろ?」

 「えぇ、そうよ。それは事実、でもね--」

 

 スコールは顔を上げ、涙が溢れる双貌を露にする。その顔に貼り付く感情はたった1つ--哀しみ、それだけだった。

 

 「それで踏ん切りが付く程、人ってのは甘くないのよッ!!」

 

 宇宙には空気が存在しない。それが一般常識だ。だがISがそんな常識が通用しない事は分かっている。それでも、突然目の前で発生した爆発に気を取られ、挙動が遅れるのは防げなかった。

 目の前に迫る貫手。しかし、それをバックスライドと箒に引っ張られる事で回避し、手に雪片弐型を喚び出し、横薙ぎに振るう。箒も雨月と空裂を喚び出し、斬撃を飛ばしておく。しかし、スコールはそれを自分の周囲を爆破する事で斬撃を打ち消し、一夏の一閃を純粋な体術で弾き返して見せた。テロ組織のトップというのは伊達ではない様だ。

 だが一夏は驚かない。腰にマウントしていたサブマシンガンを構え、粗方の狙いを定めて撃ちまくる。遠距離用のOSが積まれていない白式は精密な狙いを定める事は難しく、弾幕をばらまくにも重い武器では逆効果だ。故に、軽く使いやすいサブマシンガンなのだ。

 しかし、それは素人の一つ覚えに過ぎない。スコールは上に回避しつつ足元に爆発を起こし、文字通りの『爆発的な』加速で一夏に迫る。しかし、それは2本の刀により阻まれた。箒が差し込む様に突いた雨月と空裂だ。スコールは軽く舌打ちをすると後ろに下がる。

 

 「殺意に溺れたドミナントは人殺しって貴方達は言ってるわよね!」

 「だからどうした!」

 「なら、其処の織斑一夏はどうなる!?ドミナントでも何でもない、ただの人間が人を殺したのよ!!ただの人殺しじゃないの!」

 「それをアンタが言うのかよ....!!」

 「えぇ、幾らでも言うわよ!貴女は人殺し、あの子を殺した人殺しなのよ!!」

 「アンタだって....アンタだって、何人の人を手に掛けたァ!」

 「その点じゃあ貴女はマトモよね、篠ノ之箒。人を殺さず、人で在ろうとしているのだから」

 「っ....!」

 「学んだんだよ!殺す気で行かなきゃ、此方が殺られる羽目になるってな!」

 「その通りよ。でも、殺す気で戦う事と殺す事は意味合いが違うのよ!!」

 

 スコールの指先から火球が放たれる。一夏は【霞衣】を展開して箒の前に立ち、全ての火球を打ち消した。そしてそのままクローモードに切り替えると二重加速(ダブル・イグニッション)で攪乱しつつ近付く。スコールは冷静に見極め、身体を沈みこませつつ一夏の目の前に爆発を起こして怯ませると懐に入り込み、爆発と同時に掌底を叩き込む。

 だが、それは必要経費。一夏は後ろにスライドしてダメージを軽減させていたのだ。本命は後ろの箒の一閃。斬撃を飛ばす時に充填されるエネルギーが宿る一閃はスコールの背中に当たり、ブースターを1つ破壊する。

 

 「--もう、出し惜しみなんて出来るレベルじゃないのね」

 「....何だと?」

 「見せてあげるわよ、私の単一仕様能力をね。あっさり死なないで頂戴ね?」

 

 次の瞬間、前兆も無く起きた爆発に一夏は巻き込まれた。先程までの爆発は爆発が起きる空間が一瞬光るという前兆が有ったからこそ回避できた。しかし、今の爆発には発光どころか前兆が無い。スコールは何も動いていないのに、だ。そして再び爆発を起こすまでのインターバルが存在しなかった。

 1度吹き飛ばされた一夏は吹き飛ばされた先に爆発が『置かれている』という状況に陥り、吹き飛ばされ続けた。上下左右に吹き飛ばされるだけでなく、元々()()()()()()()()()()()()宇宙空間に混乱し、尚更打開が難しくなる。脳の髄まで揺さぶられた一夏の身体は意志に反して全く動かず、ただ宇宙を漂うだけになっていた。

 

 (どうすれば....あんな、前兆も何も無い爆破を避ける手段は有るのか!?クソ、こうしてる間にも箒が...!)

 

 事実、爆破による光が一夏に届いていた。だが、身体が動かない。そして向かったとして、今の一夏では抵抗する手段が無い事は事実だ。だから、決断した。これは使うまい、使いたくない、使ってはならないと自分で自分に念を押していた物を使う事を。

 一夏は腰の装甲の一部分をスライド(これは雪菜に許可を取って自分でこの部分がスライドするスペースを拡張した)させ、注射器を取り出す。そしてそれを一夏は腕に刺し、中の薬品を体内に注射した。

 

 「グッ!?アアアアァァァァァ!!!?!???」

 

 視界が明滅し、赤く染まる。自分の中からドス黒い感情が溢れだし、感覚がどんどん鋭敏になっていく。その過程の中で、一夏の意識は奈落に落ちていくかの様に急に無くなってしまった。

 

 「--アァ.....♪」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。