IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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閑話 一時の休息
初めて


 「なぁラウラ、良かったのか?」

 「ん、何がだ?」

 「確かにデートしよう、とは言ったけどもっと遠出しても良かったんだぞ?別に、こんな近場じゃなくても....」

 「良いんだ。私は此処でお前とデートがしたい」

 「そうか、なら良いんだが」

 

 響介とラウラは複合ショッピングモール【レゾナンス】に訪れていた。恐らく決戦になるであろう戦いは近い為、参加する専用機持ちは学校を休み、時間を好きに使える措置が取られた。その初日である今日はラウラとデートをしているのだ。

 人というのは強いもので、つい先日に大規模な戦闘がIS学園であったにも関わらず、避難もせずにいつも通りの日常を送っていた。だからこそ此処に来られたのだが。

 

 「よし、先ずは服を買おう。似合いそうな服を選んでやるぞ」

 「じゃあ俺もそうするか。ラウラのお手並み拝見ってとこか?」

 「フッ、任せるが良い。ファッションの知識はシャルロットから伝授されたからな!半ば無理矢理だが」

 「最後の一言で台無しだぞそれ...」

 

 取り敢えず服を選びに行く。もう冬も半ばで、暖かそうだがしっかりと格好良かったり可愛かったりと、響介はデザイナーって凄いな、と痛感する。響介自体制服が有れば充分、と考えているので尚更だ。

 

 「こんなのはどうだ?」

 「黒のロングコートか。良いね、買おう」

 「決断が早いな」

 「まぁな。じゃあ俺もラウラに似合いそうなのを......っと、これなんてどうだ?」

 「黒いダッフルコート...御揃いだな」

 「おう、揃えてみたぜ。...そういや、言い忘れてたけどよ」

 「なんだ?」

 「その服、スゲー似合ってる。可愛いぞ、ラウラ」

 「....そ、そうか!やっとお前も女心が解ってきたのだな、褒めてやろう!」

 「有り難き幸せってね。次は何処に?」

 「ゲームコーナーだ。此処から近いから丁度良いだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々な音が鳴り響くゲームコーナー。ラウラは入ると同時にあるものを見て固まってしまった。そのゲームはごく一般的なクレーンゲームで、その中には柔らかそうなぬいぐるみが鎮座していた。

 

 「.....ラウラ?」

 「あ、あれは.....まさか【アチャラシ】なのか!?」

 「なんじゃそら」

 「アザラシと抹茶の擬人化だ!まさかこんな所でお目に掛かれるとは....取らなければ!」

 (う~む、何ともカオスなキャラだ。アザラシと抹茶....やっぱ、デザイナーってのは良く分かんねーな)

 

 意識をラウラに向けると、100円硬貨を投入口に入れてアームを操作しているラウラが目に入った。中々大きなぬいぐるみで、ボタン操作ではなくレバー操作のタイプだった。

 3本のアームで掴み、穴まで持っていこうとするが力が弱く、スルリと抜けてボールが敷き詰められた床に落ちる。ラウラはめげずにもう1枚入れ、再挑戦するが結果は同じを少しだけ進んだ様にも見えるが、200円で動いたのは目測で1センチ少々。このまま続けたら何万円使うか分からない。

 流石に諦めたか、と思ったが、ラウラは涙目で此方を見詰めてくる。そんな顔をされたらやらざるを得ないだろう。苦笑しながら響介は自分の財布から硬貨を3枚ほど取り出す。

 

 「よ、嫁よ~」

 「安心しな、俺に任せろ。....つっても、コレが確率機だったらどうしようもない訳なんだけど」

 

 先ずは様子見で1回、アームの挙動を見る。見たところ、アームの力は弱いが確率機ではない....と思いたい。2回目では操作を若干誤り、普通に落としてしまった。

 

 「........うぅ」

 

 高校生という年齢上、諦めようとするラウラ。が、その顔と漏れた声からは未練の念がひしひしと感じられた。

 

 (.....この店にゃ悪いが、ラウラの為だ。ホントにすまんな)

 

 心の中で謝罪を重ねつつ、【眼】を起動する。明らかに無駄遣いだが、何かが減る訳でもない。義眼が導いた結果通りの場所にアームを持っていき、ボタンを押すとアームの1本がタグに引っ掛かって持ち上げられる。そのまま穴の上まで持っていかれ、アームが開いた時の衝撃でぬいぐるみは穴の中にスポッと入った。

 

 「ほら、取れたぞ」

 「ありがとう響介っ!」

 (....ま、こんな良い笑顔が見れたんなら儲けもんだな)

 「次はこれだ!」

 「エアホッケーか。手加減はしねーからな?」

 「アチャラシを得た私に負けはない、行くぞ!」

 

 

 響介が100円を投入するとパックが滑りながら響介の前に投入される。先ずは軽めに打つとラウラは少し速くしつつ返してくる。コースは直線だが段々と速くなっていく。響介は唐突に壁に向けてパックを打ち、反射させてゴールを狙うがラウラは持ち前の反射神経で見事に反応して打ち返してくる。

 流石は実戦に身を置いている2人だ、完全に能力の無駄遣いだが点を取られれば取り返し、ギアが入ったのか好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 「終わりだ!」

 「甘いなラウラ!」

 「なっ、まさか...その技は!?」

 「ダブルマレット....この鉄壁は破れまい!」

 「こ、この私が.....うわああぁぁぁ!!」

 

 簡単に言えばマレット(パックを打ち返す道具)を2つ使っただけだ。2人は1つのマレットでバカスカ打ち合っていたのだが、響介は卑怯な事にマレットを2つ使ったのだ。

 まぁ、そんな事をすれば当然拗ねられるのだが。

 

 「...............」

 「ラウラ、悪かったって。ほら、機嫌直して飯でも食いに行こう。良い感じのとこ予約してるんだ」

 「..........分かった」

 「よっし、じゃあコレ」

 「ヘルメット?」

 「バイクで行こう。タンデムでな」

 

 ラウラも響介もバイクを経験しており、特に何もアクシデントは無くバイクを走らせる。停めた後、ラウラに見えたのは一戸建ての家だった。

 

 「この家...」

 「借りたんだ。中に料理があるハズだ。そういう手筈だからな」

 

 中に入り、バルコニーに出ると波の音が聴こえる。そして机の上には目から楽しめる様な料理の数々が並んでいた。その中にはラウラが興味を持っていたり、好きな料理も並んでいた。

 

 「食べようぜ。今日はちょっと暖かいとは言え冬だ。直ぐに料理も俺達の身体も冷えるからな」

 「あぁ。....頂きます」

 「頂きます」

 

 大きなステーキを口に含むと、しつこすぎないソースの味と肉汁が口の中に広がる。サラダは外だからか、温かいホットサラダだった。飲み物を一口含むと、久しい感覚に驚きを覚えた。

 

 「お、気付いたか?」

 「この国だと20歳未満は駄目なのではないか?」

 「バレなきゃ犯罪じゃないってね。それに、高校生なんざ粗方身体は出来てんだ、飲んだって変わりゃしねーよ」

 「...そうか。ならば久し振りに楽しませて貰おうか」

 

 そう、酒だったのだ。度数は弱めで、帰りがあるのに響介も飲んでいたが、どうせこれから戦うのだ。それぐらいの特権が有った所で責める事は出来ないだろう。

 料理もあっという間に食べ終え、そのままで良いとの事なので中に入って寛ぐ。響介はソファーに寝転がり、ラウラは初めは安楽椅子に座っていたが、何を思ったのか響介の上に座り込んだ。

 

 「っと、いきなりどうした?」

 「...初めてだったよ」

 「何が?」

 「こうやって好きな人と、1日通してデートするなんて初めてだった。クレーンゲームでねだるのも、エアホッケーで負けた事も、そんな幸せをお前が私にくれたんだ」

 「そーかい」

 「.....きっと、私の妹達も喜んでいるさ」

 「妹達...?なぁラウラ、俺は前に--」

 「知っているさ。お前が墓を作ってくれた事も、全部知ってる。...全部、あの子達が教えてくれたよ」

 「幽霊ってヤツか?」

 「信じないタチか?」

 「いんや。俺が見たもんは俺が見たもん、ラウラが見たって言うなら居たんだろうよ」

 「....ありがとう、響介。ふわ、ぁ....もう眠いな」

 「ベッドに連れてくか?」

 「いや、このままで....お前の、隣で.....」

 「りょーかい」

 

 響介は自分の上で眠るラウラの頭を撫でる。

 

 「ふむぅ....」

 「あ、嫌だったか?」

 「そのまま....つづけて....」

 

 響介は苦笑して撫で続ける。義手ではない手で撫でていたが、8割ほど寝入っているラウラは響介の右手--義手を掴み、その掌を自分の頬に当てる。擬似的な感覚がラウラの体温を伝えてくる。

 

 「ずっと....もっとずっと.....いっしょに....」

 「居るよ。俺はずっと、皆の隣に居る。もう居なくならないからな」

 「............」

 

 その言葉で安心して眠ったのか、それとも夢見心地で放った寝言に近い言葉だったのか。それは判らないが、悪い気分ではなかった。

 ラウラの寝顔を見詰め、撫でていると眠気が緩やかに響介を包んでいく。前の自分なら考えられない事だな、そう考えつつ響介は重なる体温を意識しながら自分の意識を手放した。


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