「案の定、天井などお構い無しか!」
IS学園の体育館は広い。そして防壁も張られていない為、校舎内に侵入できる最短ルートと言っても良い。故に足止めに関してトップクラスの性能を誇る【シュヴァルツェア・レーゲン】を駆るラウラが体育館を守る事になったのだ。
敵が乗っているのは一般的なISだ。見たところ何も変わり種が無い、一般的な専用機。しかし、搭乗者を見てみればおかしいではないか。だって、
「何故、お前の様な
その答えとして返ってきたのは向けられる銃口と無表情、無感動な声。一定のトーンで放たれるその声は、まるで機械で出力しているかの様だった。
「私は
「お前は、まさか....」
「えぇ、貴女の妹になります。まぁ、貴女とは違い
「なんだと?」
相手はISを解除し、自分の姿を見せる。その姿は人間としては異常だった。金色の両目、黒く無機質な四肢、首に付けられた首輪。それは生きた兵器としては完成形なのだろう。しかし、決して存在してはならない代物だ。
「両目は【
「ふざけるな!そんな状態で、本当に生きていると言うのか!?」
「生きる?何を言うのですか?私達は兵器です。代用の利く兵器として
「だが、認めてくれる者は居た!こんな私でも人として、友達として認めてくれる人が居た!」
そう言うとニーナは無表情な顔に一瞬だけ何かしらの感情を表層に出し、ISを展開して告げた。
「貴女はバグだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。姓を与えられ、恋慕を抱き、兵器で在りながら兵器として生きる事を拒絶する。そんな存在を容認してはならない。貴女を排除する」
「ッツ、戦いは避けられんか!」
自らもISを展開し、相手を良く見る。AICを起動させる準備は元より、相手の挙動に注意する。先程ニーナは自分の四肢を菫が開発した兵器--つまり、響介と同じ義手義足である事が分かる。ラウラはソレの異常な瞬間速度を知っている。瞬時加速からの義手でのパンチだけでもかなりの脅威になるからだ。
「AICはPICを応用して空間を固定します。ですが、それをもっと上手く使いさえすれば--」
注意はしていた。だが、見抜けなかった。何が?簡単な話、全てだ。
「この程度の機動、容易いのですよ」
「ガッ.....」
床に打ち付けられ、3回程バウンドして体勢を立て直す。ラウラは取り乱したくなる心を押さえ付け、分析を始める。
--あの義手義足は嫁のソレと同じと見て良いだろう。だが、幾ら何でも初速が段違い過ぎる。ISの性能?それなら、加速と速度に於いては他の追随を許さない性能を誇る【絶月】があの速度を出せない訳が無い。.....いや、それ以前にヤツが答えを言っているではないか。あの機動はAICによるものだ。だが、今の拳は....
だが、ラウラには解らない。其処までは辿り着けようとも、今まで自分が考えていたAICの使い方と比べて正反対の使い方だからだ。ラウラの使い方は専ら『停止』で、ニーナの様に加速を始めとした『機動』に使った事は無い。
「咄嗟に後ろに下がって威力を逃がしましたか。無駄な足掻きを。抵抗すればもっと痛みを味わうのですよ?」
「--ッ、ククッ」
「何が可笑しいのですか?」
「可笑しい?...あぁ、可笑しいとも。お前は兵器だったのではないのか?」
「.....?何を--」
「何故お前は今私に『痛みを味わう事になる』と忠告した、兵器には情など無いのだろう?それは哀れみ、立派な感情ではないか」
「だ、黙れ!!」
「それは『怒り』だ。お前は兵器だと?ならば、何故手加減をした!?」
「私が、手加減を....?嘘だ、そんな訳が無い!」
「お前は人間だ、ニーナ!!私もお前も、造られたとしてもこの世界に生まれた【命】なんだ!!」
「--ぃ。うるさいッ!!」
破裂音が響き、爆発的な加速を得た正拳が迫る。が、先程の機動を使っていないのなら何とか見切れない事も無い。AICで拘束し、また呼び掛ける。
「私だってそうだった、自らを兵器と言い聞かせ、周囲が望む
「--ッツ!!」
「私と、私達と共に戦ってくれ....。お前を人間と証明する為に...!」
暫しの無言、そして返ってきたのは破壊音だった。ニーナが拘束されている右手を無理矢理拘束から引き剥がし、逃げようとしているのだ。もう1度掛け直そうとするが、コンマ数秒の差で間に合わず、逃げられてしまう。
「ッ、頑固な妹だ」
ラウラの戦う理由は増えてしまった。故に負けられない。想い人の為、妹の為に。
え?戦ってない?....気にしてはいけません。