「因縁の相手....って事かしら?」
鈴の目の前で暴れるのはかつて自分達を襲った無人機だった。その周囲の地面はひび割れ、そして怪我をした生徒達が倒れている。興味を持たずに無視--などという事は無人機には通じず、掌の砲口にエネルギーを集束させる。
「だあああぁぁぁぁぁ!!!」
「り、鈴!?」
「さっさと逃げなさいティナ!!あたしの事は良いから、早くッ!!」
「ッ....ごめん、ありがと!!」
相手は痛覚が無い故に止まらず、そして身体中に大口径のビームを反動を考えずに乱射できる。その場にISを持たない一般生徒が居ればどうなるか、解らないハズが無い。ティナ・ハミルトンは自分の傷を庇いながら、自分より怪我が酷い生徒を逃がそうと奮闘する。
それを横目で見た鈴は戦場を其処から離そうと衝撃砲を放ち無人機を後退させていく。しかし、それは大したダメージにはならない。過剰としか言えない装甲に、機体を速く移動させる為の砲口と同程度に積まれたバーニア、ダメージを負わせるには些か火力不足が目立つ。
【双牙天月】を分割し、手数重視の戦い方で時間を稼ごうとするが苦もなく刀身を掴まれ、強引に投げられる。元々パワータイプではない【甲龍】では抵抗しようがなく、壁まで投げ飛ばされる。叩き付けられる程の勢いは無かったが、無人機が目指す場所を見ると鈴は
「させないわよ....!」
『Target Lock......Fullburst mode.....』
「させないって.....言ってんでしょッ!!」
嫌でも聴こえる機械音声の言葉は、明らかにティナ達一般生徒を狙っているものだった。IS越しでもかなりの怪我を負うビームだ、生身の人間が喰らえば消し炭は当たり前。
だから止める。鈴は右手に搭載された新兵器【ボルテック・チェーン】を起動させる。蒼い雷が右手に宿り、無人機の内部を焼いていく。装甲が赤熱する程の熱量と、内部の基盤を破壊する電流の2つは無人機に対しての切り札と
『Damage check......level D
Application.....OK
Form change.....【
「なっ!?」
背中の装甲が割れ、羽化するかの様に現れたのは黒い天使とすら錯覚するISだった。3対6枚の翼に、頭の光環が放つ黒い光。砲口は明らかに減ったが、それを補う程に速くなったであろう機体。それはかつて戦った【
鈴はまるでゲームだ、と思った。強いボスをやっと倒した、そう思った時、そのボスが更に強くなり連戦を強いられる。そんな状況だが、その時に感じた感情は多少の落胆と高揚感だった。しかし、今の鈴の感情はたった1つ。
「くっ......!!」
--恐怖
鈴は恐怖していた。明らかに装甲は薄くなっている。1度【龍咆】を当てて隙を作り、連撃を仕掛ければ撃破出来るだろう。しかし、攻撃を当てる
だが、今の鈴には退けない理由が有った。頼まれ、そして今鈴の背中には級友の命が掛かっているのだ。退ける訳が無い!
「確かに前は不覚を取ったわ。だから--」
両手に握る剣をもう1度しっかり握り直し、飛び立つ。
「リベンジマッチと行かせて貰うわよッ!!」
勢いを利用しての飛び蹴りは難なく流され、翼型のマルチスラスターからビームの弾幕が放たれる。それを連結させた双牙天月をバトンの様に回し、無理矢理掻き消す。それは雪菜が施していたコーティングのお陰でもあったが、何より鈴の技量が凄まじいのだ。
距離を詰め、衝撃砲を放つ。ノーモーションで放つ不可視の砲弾も、無人機は軽々と避けて反撃をしてくる。弾幕の壁としか表現できない密度の弾幕が迫る。それを精度、速度共に成長した瞬時加速で避け、衝撃砲も加えた斬撃を当てようとするも距離を取られ、再び弾幕の壁が迫る。
そもそも第三世代機は武装の試験運用的な要因が強く、武装は強いとは言えない。極端な例はセシリアの【ブルー・ティアーズ】だが、鈴の【甲龍】も大して変わらず、装備しているのは双牙天月と龍咆、そして新兵器のボルテック・チェーンの3つで、鈴本人が多数の武装をリアルタイムで使いこなせる程器用ではないが為に苦戦を強いられている。
衝撃砲は空間を圧縮し、それにより発生したを肩から撃ち出す。故に空間に異物が有れば威力と射程は落ちる上に、それが弾幕を張ってくる敵ならば尚更相性が悪い。もし此処で戦っているのがラウラかシャルロットであったのなら、こんな苦戦はしていなかっただろう。
だが、それは無いものねだりに過ぎない。そう割り切った鈴は、突然背中から伝わった衝撃に息を詰まらせた。
(どうして....!?背後に弾は無かったハズなのに?!)
後ろを振り向くと、
つまり、この弾幕は回避したとしても意味は無いのだ。
背中が焼けた様に熱い。いや、見てみれば本当に焼けているのだろう。以前の代表トーナメントで襲撃してきた無人機のビームの威力を鑑みれば今回も明らかに威力が高い事が予想できる。そもそも、束本人が敵だと明言した以上、手加減など加えるとは思えないのだが。しかも一夏や箒とは違い、鈴に興味など微塵も抱いていないのだ、死んだ所で赤の他人どころかミジンコが死んだ、程度の認識なのだろう。
それで死んでやるほど鈴は潔くない。視界の端に浮かぶSEの残量と
「もうちょっと耐えなさい.....よ!!」
『Burst Mode.....』
「ッツ!!......アアアアァァァァァ!!!」
放たれていた弾全てが爆ぜ、中からライフル弾の様な形をした弾が放たれる。貫通力を高められているであろうソレを鈴は最低限だけ回避し、無理矢理接近する。だが、元より威力が高い弾を回避もせずに被弾すればどうなるか、結末は火を見るより明らかだった。
身体と
「捕まえたわよ、やっとね」
甲龍の拡張領域から召喚されるのは巨大な非固定武装。ソレは龍咆に接続され、周囲の空間が歪むほどのエネルギーを充填する。その余波は、甲龍の装甲を軋ませる程だ。
甲龍の特徴である【龍咆】は空間に圧力を掛けて砲身を作り、肩の非固定武装から発射する武装だ。故に砲弾は見えず、どの体勢からでも放つ事ができる。しかし、それは言ってしまえばダイナミックな空気砲と変わらず、勝負を決する程の威力は有していない。甲龍は衝撃砲の実験の為に造られたといっても過言ではなく、武装的には貧弱だったのだ。
それを見かねた雪菜が菫と相談し、中国との共同研究で造ったのが今装着している武装だ。その巨大な機構の中では、空間に圧力を掛けるのではなく
だが、
「やっぱ戦いは怖いわよ。でもね、雪菜が味わった怖さと比べたらこんなの、屁でも無いのよッ!!」
友達思いの彼女は響弥だった頃の響介が拐われた時の雪菜を見て、悲しむと共に自分の無力さに歯噛みしていた。記憶が消された後も、不意に出てくる響介と居たときの癖を見る度、こっそり教えられたらと苦悩した。その時の歯痒さ、苦悩、そして雪菜の恐怖を思い返せば、今の鈴に恐怖など無いにも等しい!
「撃ち崩せ、【奉山大崩】ォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!」
放たれた【
ゴトンゴトンと音を立てて奉山大崩の砲身が落下する。煙を上げている所を見ると、余りの威力の余波に壊れたのだろう。そして軽くはない怪我を負った鈴はその場に倒れる。SEも無いに等しく、流石に不味いと思った所で誰かが覗き込んできた事に気付く。覗き込んできた人物は鈴にサムズアップし、言った。
「最高にカッコ良かったよ、鈴。後は任せて」
「....ありがと、ティナ。後は任せたわよ」
鈴は展開を解除する。絶えず襲い来る痛みと熱感に耐えるのも限界だったのか、直ぐに気絶する。ティナは鈴の身体から出血が始まった事を見ると、鈴の身体を背負ってなるべく揺らさない全力で【アーク】の医務室に疾走した。