IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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IS学園防衛戦線 -校門-

 「貴女は....【サイレント・ゼフィルス】!」

 「....フン、貴様か。返り討ちにしてくれる!」

 

 セシリアが割り当てられた防衛箇所は校門。それは専用機持ちの中でセシリアだけがオールレンジ攻撃を持つからだ。そもそもBT兵器搭載機であるブルー・ティアーズは一対一ではなく多対一を得意とする。今回に関しては一対一だが、対するサイレント・ゼフィルスもBT兵器を搭載する兄弟機だ。組み合わせは悪くはない。この戦いの結果を左右するのは単純な話、駆り手の技量次第だろう。

 

 「ッ、偏光制御射撃(フレキシブル)を此処まで....!」

 「理論値最大稼働のBTならば兎も角、その程度の稼働率で私は倒せん!!」

 

 無機質な輝きを放つレーザーが戦場を飛び交う。互いは自分のビットで攻撃を放ちつつ相手の攻撃が自身にもビットにも当たらない様に飛び回る。レーザーの網は学園の道も並木も構わずに破壊を続けていた。

 セシリアがビットを操作しつつ機動できる様になったのはつい最近の事だ。しかも偏光制御射撃に関しての技量は半人前も良いところ。だからと言って近接が強い訳でもない。ゼフィルスの搭乗者、織斑マドカとの差は歴然だった。

 

 「それでも...退くわけにはいかないのです!」

 「下らん!何故貴様は化け物(響介)と共に戦おうとする!?ヤツは人の皮を被った化け物、気を抜けば貴様も殺されるだろうよ!」

 「貴女が響介さんの何を理解しているのですか!?化け物という色眼鏡を掛けたままの貴女が、わたくしの友人を笑わないで下さいまし!!」

 

 雪菜謹製の新武装【メテオライト】が形を成す。ソレはセシリアの戦い方である精密な射撃をかなぐり捨て、狙いなど大雑把にしかつける事は無い。

 引き金を引けば、ライフルとは比べ物にならない程連続した、それでも小さい反動がセシリアの腕に伝わる。この武装はガトリング砲だ。ライフルの様に『点』を撃ち抜くのではなく『面』を制圧する。そしてレーザーだからこそリロードが存在しない。砲身が熱を持つ関係上、冷却は必要になるとは言え其処は雪菜の技術力、冷却時間は20秒もあれば充分だ。

 だが、マドカも馬鹿ではない。ゼフィルスの性能をしっかり理解している彼女は機体の特徴でもあるシールドビットを展開し、メテオライトの面制圧を凌ぎつつ細かく移動してティアーズによる射撃も回避している。時折シールドビットを移動させてライフルによる射撃も挟んでいる。

 

 「チィッ!小癪な武器を使う!」

 「その言葉、雪菜さんに伝えておきますわ!」

 

 1発1発の威力は低かろうと、当たれば人間である以上動きが一瞬だけ止まる。そして止まったら最後、更に弾丸は多くなってマドカに襲い掛かるだろう。それが分かっているからこそマドカは突っ込めず、防戦を強いられているのだ。

 セシリアは油断をしない。セシリアの欠点はその調子に乗りやすい所だ。だからクラス代表決定戦では一夏に倒されかけるという失態を晒した。【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】との戦いでも倒せる、と思ってしまった瞬間に墜とされた。故にセシリアはどれだけの優位に在ろうと、例え相手を倒そうとも油断はしないと決めた。

 だが、オーバーテクノロジーの結晶とも言えるISには、この程度の劣勢を覆す事はとても容易い。

 突然セシリアの放つレーザーが不可思議な軌道を描き、何処かへ飛んでいくか自らに返ってきたのだ。まるで何かに反射させられたかの様に。

 

 「【クリスタル・スケイル】.....。確かに小癪な武装ではあったが、所詮その程度だ。私には勝てないと知れ」

 

 【クリスタル・スケイル(結晶鱗粉)】とは、ゼフィルスの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)だ。レーザーを含めた光の反射率を変えられる鱗粉を周囲に散布し、自分の攻撃や相手の攻撃を反射して当てるという能力。

 コレの本質は攻撃ではなく、防御や妨害にある。光の反射率が自在に変えられるというのは、自分に光学迷彩を付与したり幻影を映し出したり、そういった相手を翻弄する事に使ったりティアーズの様なレーザー系統の攻撃をメインとする相手には絶対的な相性の良さを誇る。

 今のセシリアが対抗する手段としては相撃ち覚悟で弾道型(ミサイル)ビットでの近距離射撃、インターセプターでの近接戦闘くらいだ。だが、セシリアは近接戦闘が得意ではない。それどころか苦手な方だ。ゼフィルスが射撃型とは言え、マドカと斬り結ぼうとすれば即座に負ける。

 

 「クッ、本当に単一仕様能力というのは滅茶苦茶ですわね!」

 「ハハハハ!その程度か、代表候補生ィ!!」

 

 口角を吊り上げて笑うマドカ。既に立場は敵と敵から獲物と狩人に変化していた。攻撃は出来ず、不規則に変化するレーザーの軌道と重ならない様に避けつつ、反撃の好機を窺う。だが、それも限界が近付きつつあった。

 【クリスタル・スケイル】の強みは戦闘に時間を掛ければ掛ける程にマドカに有利になっていく事だ。元々、レーザーは拡散さえしなければ()()()()()()()なのだ。この単一仕様能力は光の反射率を操る。つまり拡散を防ぐ事が出来るのだ。故に射程距離は存在せず、無限に反射を繰り返せば敵を襲うレーザーの本数は鼠算式に増えていく。もしも敵が自分の攻撃が利用されている事にも気付けない馬鹿なら、増えるペースは倍になっていく。

 しかもブルー・ティアーズは動きながら戦う為に造られたISではない。それは元々の装備でもあるレーザー狙撃銃【スターライトmkⅢ】から見ても分かる通り、超遠距離からの狙撃とその周辺警備をビットに任せる機体だ。それを無理矢理中距離~遠距離で戦える様にした上に機動性の向上を図った結果が強化パッケージ【ストライク・ガンナー】だ。

 その兄弟機であるサイレント・ゼフィルスはシールドビットなどの武装から、中距離~遠距離での戦闘を得意とする。セシリアが戦うにしても、元々の土俵が違うのだ。

 セシリアは避け続ける。左右だけでなく前後にも、更に上下にも動いて回避し続ける。レーザーに対して、それどころかマトモな防御手段を持たない彼女では回避しか選択肢に無いのだ。

 

 「キャアッ!!」

 

 そしてその均衡も崩れた。1本のレーザーに被弾したのだ。予想外の衝撃に、セシリアの動きは一瞬だけ止まってしまった。止まって、しまったのだ。

 

ズガガガガガガガ!!!

 

 そしてその10倍もの量に相当するレーザーがセシリアの身体に突き刺さる。視界の隅ではSEの残量が凄まじい早さで減っていくのが見えた。

 撃ち抜かれた衝撃のまま道の真ん中に投げ出されたセシリアは、全く動かない。眼を閉じたまま、ピクリともしない。

 

 「まぁ中々愉しかったな。では--ん?」

 

 キンッ、と音を立ててゼフィルスの装甲にインターセプターが当たる。しかし、弱々しい力で突き立てられたソレは装甲に軽く引っ掛かるだけで相手に傷を負わせるどころかSEも全く減らなかった。

 

 「点滴、岩をも穿つ....ですわ」

 「なっ、まさか貴様ッ!?」

 「では、この戦いに相応しい泥臭さで....我慢比べと、参りましょう?」

 

 セシリアの美しい微笑みと共に、腕に装着される様に浮遊していたティアーズからレーザーが発射される。マドカが反射率を操作する間も無く、多少反射しながらもゼフィルスの装甲にレーザーが照射された。

 貫通力を上げる為にドリルの様に回転するビットと共にレーザーも回転する。その様は正にレーザーで掘削しているかの様だ。マドカのSEも凄まじい早さで減少するが、勿論セシリアも無事でいられる訳が無い。視界がISの発する危険信号である赤色のアラートに染まり、搭乗者生命危険域(レッドゾーン)に突入する。いつも感じる衝撃ではなく、純粋な熱さと痛みを感じ続ける右腕が悲鳴を上げるが、それを意思の力で抑え付ける。

 

 「正気か!?そのままでは貴様の腕が壊れるぞ!」

 「この程度....響介さんが味わった痛みと比べればッ!!」

 

 更にティアーズの出力を上げる。かつて無い程の出力にまで達したティアーズも限界の表示をセシリアに見せる。それを無視し、まだ上げる。既に痛みで感覚は薄れ、視界も思わずして溢れ出る涙でボヤけている。それでも弱める事だけはしない。

 

 「何故...何が貴様を其処まで掻き立てる!?自らが痛みを味わう事を是として、何が貴様に利する!?」

 

 セシリアは朦朧とする意識の中で応えた。既に体力は尽きた。言葉を放つ余裕すら無い。だが、それでも応えなければならないと思ったのだ。

 

 「貴女には理解出来ないでしょう.....。頼られたのです、初めて。あの人が、わたくし達の友人が、初めてわたくし達を頼ってくれたのです!それに応えられずして、何が貴族の誇りですか...何が貴族の義務(ノブレスオブリージュ)ですか!!元より退路など無いのです、わたくし達にはッ!!」

 

 その言葉に呼応するかの様にティアーズが一層輝きを放つ。今までの標的を狙い撃つ精密なレーザーではなく、ただ目の前の敵を倒す為に想定すらされなかった出力のレーザーがインターセプターに集束し、ゼフィルスの装甲を打ち砕く!

 絶対防御が発動し、拡張領域(バススロット)から装備すら出せないと悟ったマドカは離脱し、漸く対等と認めた敵を睨む。

 

 「次はこんな不覚は取らん。次は必ず、貴様を殺す」

 

 まだ空気中に散布されたままの【クリスタル・スケイル】がゼフィルスの機体を覆い隠す。緊張の糸が切れたセシリアはその場に崩れ落ち、満足げな笑みを浮かべて自分のボロボロになった右腕を見る。

 

 「どうでしたか、響介さん.....。此処は守り抜きましたわ。.....皆さん、御武運を」

 

 機体の展開すら維持できず、ISの展開が解ける。教師陣はセシリアを【アーク】の医務室へと運んでいった....


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