IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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 新年1発目です


第9章 IS学園防衛戦線 
IS学園防衛戦線 -開幕-


 「悪いが、少しの間俺達は学園を空ける。頼んだぞ」

 

 と言って響介、雪菜、楯無、千冬、菫の3人は学園を空けていた。各国を回る為、結構な期間を空ける事から敵からの襲撃は充分考えられる。その危険性を考慮しても尚重要な事柄だと全員解った故に快諾したのだ。

 あの戦いから響介は積極的に外に出て訓練や勉強に勤しんだ。記憶が消えている事は流石にバラせないので【アーク】の中だけの行動だが、それでも以前よりは数段明るくなっていた。あれほど嫌っていた戦闘も取り組み、そして殺意も制御できる様になっていたのだ。

 その代わり、楯無は一夏達全員から響介が切った啖呵を聴かされたのでデレデレになり、響介も照れてしまうせいで少しの間会話がしにくかった事は有ったのだが。

 

 「どうにか形にはなってきましたわね....」

 

 セシリアは偏光制御射撃(フレキシブル)と近接戦闘を響介から習い、弱点を消そうとしていた。

 と言うのも、元々【ブルー・ティアーズ】という兵器はは理論値最大稼働での運用を念頭に置いて設計されており、セシリアは十全に扱うどころかスタートラインにすら立てていない。今のセシリアは発射したレーザーをどうにか曲げる事が出来るレベルで、本来の柔軟さを発揮できていない。良くて命中に多少の補正が掛かっているだけである。

 以前の様な慢心はしない。そう誓うセシリアは若干感じる疲労を無視して訓練に没頭する。無意識の中で、思うように出来ない自分に苛立ちを募らせつつ。

 

 「まだ駄目か....。まだ連射状態での調整が不充分だな。もう少し速度を速く....」

 

 一夏は【雪羅】に搭載されている電磁砲を調整している。

 今まで一夏のソレはチャージを必要とし、強大な一撃を近距離で叩き込むという使い方をしていた。だがそれは響介や雪菜、シャルロットの様な高機動型の敵には相性が悪い。

 だから雪菜は言ったのだ。「武装が組み込めないなら、既存の武装を改良すれば良い」と。雪菜は【雪羅】のプログラムを書き換え、電磁砲を連射状態と単射状態に分ける事にした。そして一夏はその調整をし続けているのだ。

 

 「っ、まだね....。もっと叩き込めるのよ、理論なら。.....やってやるわよ、徹底的にね!」

 

 鈴は自分のISの最大の特徴である衝撃砲【龍咆】を利用した超至近距離での訓練に打ち込んでいた。

 それは鈴自身の使い方が間違っていると本人が思ったからだ。【龍咆】は実際、中距離以上の運用を考えられて居ないのだ。空間を圧縮し、そのエネルギーを放つ衝撃砲。それは簡単に言えば超強力な空気砲だ。故に対象への距離が遠くになればなる程、砲弾である空間は元に戻り威力は消えていく。

 だからこそ近距離で使うのだ。確かにレーザーや実弾と比べれば速度は劣るだろう。しかし、近距離で使う事が出来るという利点の他にリロードが必要ない事、連射と単射を使い分けられる事、更に面積すら変えられる事はかなりのアドバンテージである。ただでさえ見えない砲弾だ、厄介この上無い。

 

 「グッ....!ハッ、ハッ.....。連続使用の限界は5分か。全然足りない、もっとだ.....!」

 

 ラウラは自分のISの武器であり盾でもあるAICの起動時間を伸ばそうとしていた。

 幾ら遺伝子を強化されたとは言え、ラウラの能力は常人より少し高いだけに過ぎない。以前蓮菜が言った「惜しい」と言うのはそういう事だ。ドミナントに限り無く近く、しかし本物には及ばない。どこまでも中途半端な存在という事だ。

 それでもラウラは努力する。本物に紛い物が勝てない、そんな事は無いと信じるラウラは誰よりも辛く、濃密な訓練を積んでいる。あらゆる方向から飛来する弾丸に反応し、停止結界で防御する。失敗すれば容赦の無い衝撃と痛みを感じるという過激な訓練を。信じ、愛する者の為に。

 

 「私に出来る事か....。姉さんを、私が...」

 

 周囲が鍛練に励む中、箒だけは悩んでいた。

 それは自分の肉親、敵の側に味方した篠ノ之束の事だ。誰よりも他人に理解されず、理解しようとせず、何処までも歪んでいると箒が認識している彼女は誰よりも孤独だったのだ。箒は知っていた。かつて1度だけ、外ではしゃいで遊ぶ子供を羨望を込めた様な眼差しで見ていた事を。

 それでも束は断じなければならないと箒は思う。それと同時に、姉はこの時代を創り出した発端でありながらも被害者なのだとも思った。いつもの飄々とした態度と振る舞いは自分を護る為、そして自分を()()()()()為にしているのだと思う。それでも、と推測を重ねるだけで、答えは出ない。

 

 「.....本当にこの機体を使うのが僕で、良いのかな」

 

 シャルロットは思うように伸びない自分の成績を見て自信を無くしていた。

 雪菜がシャルロットに託した機体【エクレール】は既存のISと比べてもかなりの性能を持っている。加速や速度は白式にも引けを取らず、武装の豊富さは以前使用していたリヴァイブと同等かそれ以上。そしてシャルロットの為だけに調整された武装と、正にシャルロットの為に造られた機体と言える。

 だからこそ不安になる。雪菜は何故エクレールを自分に託したのか、理由はただ単に性能で劣る第二世代(アンティーク)を使っていたからではないか、周囲の皆はどう思っているのか。シャルロットは決して皆を信じていない訳ではない。しかし、最近は芳しくない訓練の成績を見る度に思ってしまう。

 

ドゴォォォォン!!

 

 「「「「「「ッ!!」」」」」」

 

 明らかに模擬戦では聴こえないボリュームの爆音が響く。敵襲と察した全員は相談して決めた防衛箇所へとISを装着して向かう。全員、心の奥底で燻るモヤモヤを抱えながら。


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