IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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 新年1発目です。完結もそろそろ近いこの作品を、今年もどうか宜しくお願いします。


制御

 「泣かせた?たったそれだけの理由で、貴方は私達の誘いを断るのですか?」

 「....テメーは学園を壊した。刀奈は俺の為にこの学園を守ろうとして傷付いた。その癖俺に謝りやがる。誰より頑張ったのに、泣いて謝ったんだよ。テメーには下らねー理由かも知れんがな....俺にとっては充分なんだよ!!」

 「ふむ、残念です。ならば貴方を殺すだけです」

 「やってみやがれ!」

 

 ISを纏う。髪が白くなり、眼が紅くなる。それは殺意に呑まれる前兆、このまま行けば響介は殺意に呑まれ、また同じ轍を踏むことになるのだ。

 視界が赤くなる。前に自分の意思で殺意を解放した時とは段違いの、響介の根幹を成す殺意が表層に出てくる。殺したい、壊したい、そんな意思が身体を動かそうとする。まずは動ける獲物より動けない獲物――即ち、IS学園側の全員を殺そうとしていた。

 だが、響介は動かない。思い出すのは刀奈の涙、そして身を焦がす怒り。それら全てが練り上げられ、打ち鍛えられる。そして生まれたのは刃、自分に宿る(殺意)を調伏する剣だ。

 前に居る友を見ても、何も感情を抱かない。いや、1つだけ抱いている。それは決して殺意ではない。抱くのは『怒り』、友を傷付けたクイーンへの憤怒だった。

 

 「【カグツチ】!!」

 「何故貴方が...どうして殺意に呑まれない!?」

 「知る...かよッ!!」

 

 贄姫を横薙ぎに振るう。当然の様に回避され、超速の拳打が降り注ぐ。しかし、それを自分の能力をフルに扱い回避する。

 体感速度の拡張と思考の加速。それは身体が起こしてしまう『反射』と脳が行う『思考』を同時に行えるという事だ。例えるなら、頭に野球ボールが飛んできたのを見たとする。そして下には脚にもボールが同じ速度で飛んできたとする。普通の人は見えた頭に飛んでくるボールを回避する為にしゃがむか横に移動するだろう。しかししゃがめば脚に、下手をすれば横っ腹に直撃してしまう。横に移動したとして、それは偶然の産物であって、考えて回避した訳ではない。

 だが、響介は違う。元々響介の能力は思考速度の加速だけであり、体感速度の拡張はその副産物だ。響介はボールを見た時、先ず考える。回避が間に合うかどうか、回避したならどの方向に回避するか、と考える。そして回避を選んだ場合は周囲を見て、次の脅威を探すのだ。だから響介ら絶対にどっちのボールも回避する。

 この段階を凄まじい速度で脳内処理する為、周囲の速度が必然的にゆっくり見える。これは新幹線などに乗っていると、流れていく景色がゆっくり見えるのと同じだ。

 それが響介の能力の真髄だ。【思考と反射の融合】、これこそが響介を実力者足らしめる理由で、戦いに於いて他の者の動きを読む様な動きを出来る理由でもある。

 

 「私達の力は殺意が根源だ!それを貴方は抑えて...それが貴方を弱くしていると何故思わない!?」

 「人は群れの中で生きる!その中で人間性を捨てるのは人間を止めるのと同義じゃないのか!?」

 「私達はドミナント、異常だ!私達は化け物である事を望まれ続けた。だからこそ人を狩ろうと言うのです!増えすぎた人間はこの地球に悪影響しか与えない!害虫駆除と同じ事をして、誰が責められるのですか!」

 「俺達が乗っているは未来を切り拓く翼じゃないのかよッ!!」

 

 徒手空拳で戦うクイーンは贄姫の刃に触れない様に刃の腹を叩いて弾く。それを可能にするクイーンもドミナントとして成熟している事が良く分かる。

 響介はリーチの関係上大振りとなってしまう贄姫を手放し、自分も素手で戦う。昔とは違い、武道の心得も何も無い喧嘩殺法だがドミナントがそれをすれば危険度は段違いになる。予測と反応の異常な早さを本能で避け続けるにも限界はある。それが不規則に速くなるのだから、やられる側は堪ったものではない。

 パンッ!という破裂音が断続的に鳴り響く。その度に拳か蹴りが加速し、クイーンの防御を貫かんと迫る。しかし其処は覚醒している期間は響介よりも長い『慣れ』がある。例えSEが多少削れようと、致命的な一撃は喰らわない。

 

 「私達の世界と常人の世界は違う!其処で無様に転がっている者達は私達に着いて来れる訳がない!それでも貴方は良いのですか!?」

 「なら俺が歩幅を合わせてやるよ!」

 「ッ、理解が出来ない...!貴方はどれだけの痛みをその【常人】に味わう事を強いられてきたか、忘れた訳ではないでしょうに!」

 「その痛みは飲み干した!それでこの世界の闇を晴らせるなら安い犠牲だ!!」

 「それで世界が変わるとでも言うのですか!?ハッ、笑わせる!」 

 「変えようとすれば、変えられると信じてるんだ!!」

 

 距離を取ると、クイーンは一振りのサーベルを展開する。響介も贄姫を展開すると同時にウィングスラスターの全てにエネルギーを充填する。義足の薬莢を激発させると個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を使用して迫る。絶対防御を貫通する程の負荷が鈍った身体に容赦なく襲い来るが、歯を食い縛って耐え抜く。

 贄姫は大剣だ。取り回しも難しく、外せば隙も大きい。しかしそれは他のISならば、という話だ。殺す為に進化した【絶月・災禍】では絶対防御は必要最低限しか起動しなくなっている。それ故にパワーアシストや武装の出力が大幅に他よりも強く、竹刀を振る様に身の丈程もある贄姫を振り回せるのだ。

 

 「貴方は!アインの想いすら無駄にするつもりですか!?」

 「そんな事、誰も言っちゃ――」

 

 会話の中で矛盾を見付けてしまった。まだ消えきっていないが故に気付けた矛盾。まだ記憶が灰にならず原型を残せていたからだ。どうにか気付けた、決定的な矛盾、それは――

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 そう、誘拐された日にクイーンは居なかったハズなのだ。居たとしても関わっていない。監視を付けられた訳でもなく、例え知っていてもアリスだけだ。だが、そのアリスでさえアインとの約束は()()()()()()()()()()()()。何故なら響介がドミナントとして覚醒したのはアインと2人の時だけなのだから。

 

 「私は貴方より組織に居る時間は長いのですよ?アインの事は良く知っています」

 「違う、俺が聴いてるのは約束の事だ!確かに俺の目的はアインとの約束を果たすことだったが、俺はそれをアリスにさえ言っていないんだぞ!!」

 

 響介が組織内で最も信頼を寄せたのはアリスだ。実の妹である夏蓮ではなく、アリスだったのだ。故にアリスに言っていない事は組織内では響介以外は知り得ない事実であり、誰1人として確実な正解に辿り着く事は無いのだ。出来たとしても偶然、確信を持って言えるのは響介だけ――いや、そうではない。響介だけではあるのだが、それは今の響介ではない。つまり、誰1人として事実は知らないのだ。

 

 「――全く、困りましたね。貴方の灼けた記憶の判別は難度が高過ぎる。...まぁ、どうせ貴方は此方に戻ってくる事は無いんですから、どちらにせよといった所でしょうか」

 「どういう事だ...?」

 「変な所で察しが悪いのは変わらず、ですか。ならば教えてあげましょう。アイン達を殺す様に言ったのは、私達という事ですよ」

 「――ッ!!......ろす」

 「殺す、ですか。何とも度し難い。貴方は他人の為に――」

 「殺す!!お前だけは、絶対に殺すッ!!」

 

 加速と同時に単一仕様能力を発動、虚空からオルニウム製の鎖か現れクイーンを縛り付ける。横一文字に振り抜かれた一撃はクイーンの上半身と下半身を斬り離す――ハズだった。

 

 「なっ....!?」

 「私と貴方の能力では相性が悪い。特にISを使えば、その差は如実に現れます。貴方では私に勝てる訳が無いんですよね」

 「お前に単一仕様能力は無いって聴いたんだが...な!!」

 「えぇ、そうですよ。私は一番無能ですから、能力を使うにはちょっとした『裏技』を使うんです」

 「裏技...?」

 

 クイーンは贄姫の柄を握ると、()()()()()()()()()()()。ISの武器は所有者が使用許諾(アンロック)しなければ近接武装は重くなり振れず、射撃武装は引き金が引けなくなる。どれだけ特別な変化を遂げた贄姫とて、分類上では近接武装なのだ。故に普通に持てばISのパワーアシストが有ろうと簡単に持ち上げられる訳が無いのだ。

 

 「私が貴方の能力を知りながら、貴方が知らないのはアンフェアですね」

 「ッ、オラァ!!」

 「だから落ち着いて下さいよ。説明が出来ませんし、もう手出しするつもりは有りません」

 

 殴り掛かる響介だが、腕を掴まれると勢い良く地面に叩き付けられる。受け身を取り切れず、地に伏す響介の背中を踏みつけて説明を開始する。まるで此処が戦場ではなく、学校や塾であるように。

 

 「私のドミナント能力は【全毒物、菌への耐性】です。しかし、傷には免疫が無い上に私は欠点として血小板が少ないのです」

 「それじゃあ君は、怪我をしちゃったら――」

 「はい、そうですね。傷が塞がらないので少しの傷でもかなりの痛手になります。しかも戦闘には何の役にも立たず、ハンプティと違って開発をするのにも役立たない。ですけど、ISを用いれば話は別でした。私のドミナント能力は発展し、そして単一仕様能力と混ざり合って1つの力が生まれました。それが私の唯一の能力にして武装、名前は【侵食(パラサイト)】と言います」

 「随分と....悪趣味な名前だな」

 「貴方に使ったのは【武装侵食(ウェポン・パラサイト)】と言いまして、対象のランダムな武器を1つ奪い取る能力です。1つしか武器を持たない貴方と絶月では、私の能力と圧倒的に相性が悪いんですよ。だからもう大人しく――」

 「ククク....ハッハッハッハッハ!!」

 「何が可笑しいのですか?」

 「いや、笑いが込み上げて来たんだよ。なぁクイーン、用心に用心を重ねるお前らしくもない」

 「....なんですって?」

 「持つべきものは友って昔の奴らは良く言ったもんだ。なぁそうだろ、一夏」

 「ッ!!」

 

 後ろを振り向けば、無言で迫る一夏が振るう刃が迫る。贄姫を捨て、退避しようとするも右手を引っ張られ、逃げられない。見てみると贄姫を覆う様にして現れた岩が地面とくっつき、クイーンの右手を拘束しているのだ。

 だが、其処で慌てる程クイーンは弱くない。蹴りで岩を壊すと零落白夜によるダメージは必要経費として割り切り、斬られつつも逃げる準備をする。

 

 「グッ、小癪な....!」

 「そう簡単に逃がして堪るかよ、クイーン!!」

 

 背中を貫くのは伸びた刃。それは【絶月・災禍】となる前に壊れ、そして今まで装備していなかった刀だ。鞭剣(ウィップ)として使う事も考慮され、今では小型の【ヤタノカガミ】を搭載する事で威力を高めた。

 クイーンが知らないのは当然だ。何故なら本当に紛失していたのだから。【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】との戦闘の途中に夏蓮達と交戦した際に無くし、そして今の今まで忘れていたのだ。かつての相棒--【八重霞】を。

 

 「そぉらぁ!!」

 「うおおおぉ!!」

 「流石に分が悪いですね。...撤退します」

 

 蛇蝎の一撃と一撃必殺の攻撃を回避し、1つも武装を積まずに速さに寄せた機体が功を奏し、追い付かれる事なく逃げおおせる。響介は仕留め切れなかった事に歯噛みするが、直ぐに切り替えて自分を見詰める友人の元へと向かう。

 

 「あ~、えっと....その、なんだ?......今まで不貞腐れてて悪かった。良かったら、これから宜しく頼む」

 

 響介から初めて歩み寄った一言。それを認識するのに一瞬の間を必要とし、次の瞬間には全員の返事が響介に届いた。

 

 「「「「「「おう!(あぁ!)(はい!)」」」」」」


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