襲い掛かってくる
だが、止める訳にはいかないと、その想いから響介は再びイメージトレーニングを開始する。蓮菜が響介に使った攻撃全てを思い出し、蓮菜の性格上やってくるであろう攻撃を予想し、回避しても同じだ。何回繰り返しても同じ結果で終わる。何度も、何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、繰り返しても同じだった。
(.......ドミナントの力の根源は、殺意。根底にに刷り込まれた同じ人間への殺意。分かってはいるんだ。でも、呑まれたら....)
このトレーニング方法は響介の能力だからこそ出来る方法だ。だが、まだ殺意に歯止めを掛けている響介は能力を十全に扱えてはいない。きっと、今の響介が殺意を乗せれば呑まれてしまうから。以前の響介は復讐心と【彼女】の存在で殺意との釣り合いを取っていたのだ。もう【彼女】は消えた。響介に力の全てを託し、消えた。無いものねだりをしても仕方無い、そう思った響介は今まで抑えていた衝動を解放する。
「...........ッ!!」
身体に活力がみなぎる。何でも出来そうな全能感と疲労が吹き飛ぶ感覚で、アドレナリンが直ぐに分泌されたのを感じる。今すぐに市街地に飛び出し、何も知らない人間を殺し尽くしたいという衝動をなけなしの自制心で抑え込み、思考に意識を沈める。
【贄姫】を握り、
先程まで確かに放たれ、響介を貫こうとしていた矢の雨は綺麗さっぱりに消え失せ、蓮菜と響介を阻むものは何も無い。残存するSEを電線に見立て、自分を電気とする。それだけで響介の
「響介くん!!」
「ゆ、きな....?」
切羽詰まった雪菜の声で我に返る。目の前の雪菜の細く白い首には自分の指が掛かっていて、もしも思考のままに力を入れていれば雪菜の首を折っていただろう。そうでなくとも、きっと窒息死させていた。その事実が響介の胸に重くのし掛かり、肺から空気を押し出される様な錯覚に襲われる。
「おれ、俺は....雪菜を、そんな、嘘だっ...!」
「大丈夫ですよ、響介くん。それより、どうしてあんな事になったのか教えてくれませんか?」
「殺意を、解放したんだ。でも、気付かない内にお前を!」
「落ち着いて下さい。でも、どうして殺意を?」
その問いには答えられなかった。否、答えたくなかった。使いたくないと願い、使って欲しくはないと願われた『殺意』に頼らなければ蓮菜に勝てない。その程度の実力しか無いと思われたくなかったのだ。ただの虚栄心だが、それだけに阻まれる今の響介はどれだけ弱くなったのだろう?
「.......響介くん、私の頭を撫でて下さい」
「え?」
「良いから、撫でて下さい」
今の状況に相応しいとは思えない要求だった。予想の斜め上を行く言葉に対応出来ていない響介の
雪菜の要求は『撫でろ』との事だから、響介はその手を髪の流れに沿って動かした。人工神経に伝えられる髪の細さと柔らかさと微かに伝わる温もりを感じつつ、満足するまで撫で続ける。
「.....どうです?」
「えっと、撫でてて気持ちいい?」
「どうして疑問系なんですか.....。響介くんは、やっぱり『殺意』を使わないとダメなんですか?」
「.....どう、なんだろうな。少なくとも、使った方が強いのは確かだ。そうホイホイと使って良いもんじゃないけどな」
「響介くんは、怖いんじゃないですか?殺意を使うのが」
「怖いさ。......あぁ、怖いさ。やっと俺を愛してくれる人が現れて、3人も居て悩んではいるけど、こんな状況でも生活は充実してる。クラスメートの奴らと絡むのも特訓するのも楽しい。でも、記憶は灼けちまう。......俺の能力の代償だ。前の記憶が灼け落ちたのも、多分。能力を、殺意を使う度に記憶が灼けて無くなっていく。俺が臆病だから」
「.....臆病?」
「あぁ。奪った命を背負えないから、押し潰されてしまうと意識の根底で解っているからなのかも知れない。.....誰よりも弱いんだよ、俺は」
響介にはもう何も無い。以前の復讐心も、今持っている『悩みながら生きる』という決断も間に合わせに過ぎない。
一夏の様に『誰かを守りたい』という明確な想いを持たず、箒の様な恋慕で動ける程決断出来ている訳でもない。セシリアの貴族としての誇りの様な誇りも無く、ラウラの様な使命感も無い。シャルロットの様に誰かに恩を返す為にも戦えず、鈴の様に吹っ切れる事も出来ない。間に合わせなのだ、結局は。故に空虚で、本当の【強さ】を持てないでいる。
だからこそ邪とは言え、確固たる『意思』を持つ蓮菜に勝てないのだ。剣を握ろうとも肝心の刀身が無く、引き金を引こうとも弾丸が込められていない。【殺意】を乗せるモノが無い故に、響介の殺意は悪戯に周りを傷付けるだけなのだ。
「――なぁ、雪菜」
「はい?」
もう、目を反らすにも限界が近かった。あらゆる意味で、もう限界なのだ。身体的にも、精神的にも。そんな響介はたった一言、雪菜に提案した。
「どっかに逃げないか?俺とお前の、2人で」