『私達の始まりの地』。その言葉が指すのは恐らく旧赤羽農園跡地、即ちデュノア社のある場所だろうと響介は思う。だが、もし今行った所で――
そう思った矢先、背後から熱源が近付いてくる。一夏が駆る白式が放った荷電粒子砲だ。
「なぁ!?」
「甘い。そんな鈍いの、遠距離から撃っても当たる訳無いだろ」
「鈍いって...普通なら見てから反応なんて無理なんだけど...な!」
「へぇ、それなりの太刀筋だな。まだ甘いが」
鋭く振るわれた【雪片弐型】が響介が構える【贄姫】とぶつかり合い、火花を散らす。ギチギチと金属が立てる音が響く中、響介は一気に後ろに飛ぶ。
均衡を崩され、姿勢が崩れそうになる一夏は自然と前に出て姿勢を直そうとする。其処に響介はヤクザキックを叩き込み、
「戦いの中で固定観念に囚われるのは死と同義だ、覚えときな」
しかし、響介が使ったのは【ファング・ドラグーン】。要するに遠距離用のBT兵器だ。シールドモードではない為満足に射撃を防げもせず、しかもSEをそれなりの速度で消費するクローモードの状態で何発か喰らい、一気にSEは減ってしまった様だった。
「まだ...終わらねぇよ、響介!!」
「【カグツチ】」
「ッツ.....おおおぉぉ!!」
響介の【カグツチ】は言わばSEを纏わせて斬撃を放つ技だ。となれば、エネルギーを無効化する【零落白夜】を盾に転用する【霞衣】がソレを防げない訳がない。
一夏は瞬時加速で距離を詰め、雪片弐型を袈裟懸けに振るう。が、それはブラフ。本命は【雪羅】を手刀の様に手を伸ばして放つ斬撃だ。ソレを響介は――
「俺にブラフなんて通じねー。そもそもが御粗末過ぎるがな」
義眼と自分の能力で体感時間を拡張し、ブラフと本命を見分けると贄姫を盾に思い切り振るう。大剣の中では小さめとは言え、充分に大きい贄姫だ。しかもそれが目の前に速い速度で――しかも体感的にはもっと速い速度で振るわれたのだ、一夏は心理的に横にスライドする選択肢を選ばなければいけなくなり、贄姫を
「選択肢を間違えたな、一夏」
「嘘だろ、避けきれな――」
周囲に広がっていたのは無数の機雷。響介の
「.....まぁ、呆気なく諦めないってのは評価出来るかな」
連鎖爆発を起こし、巻き起こった粉塵を切り裂いて荷電粒子砲が突然飛んでくる。響介も義眼が無ければ判別は難しく、下手をすればマトモにこの攻撃を喰らっていただろう。だが、当てれば決して軽くはないダメージを与えられるが、ソレを当てるのに必要なのは自分の脱落、という余りにも不釣り合いな交換は流石に認められない。
「クソ...また負けた!」
「一応戦争に身を置いてたんだ、呆気なく負不味いだろ。確かに運も有ったが、実力でどうにかしてきた自信は有るからな。そう簡単には――」
「響介くんッ!!」
「ゆ、雪菜...?」
一夏に手を差し伸べ、立たせようとした所に雪菜が乱入する。その顔は明らかに怒っており、響介は何をやらかしたのだろうか、と記憶を速攻で探り始める。
(え?え?え?なんでこんな怒ってんだ?俺、何かしたっけ?う~ん.....やべぇ、何も思い付かねぇ)
「響介くん」
「は、はい!」
「私、訓練を始める前に言いましたよね...」
「ん?」
「拡張領域に入ってる武器を使って戦って下さいって、何度も念押ししましたよね?」
「あっ」
すっかり忘れていたのだ。言われてみて初めて思い出した。確かにピットで何かを言われていた。聞き流していた上に戦闘中という事でハイになってしまったので、すっかり忘れていた。言い訳が出来ないので響介は義足の薬莢を激発させる準備をする。
「........三十六計逃げるが――」
「逃がしませんよ?」
「なんだよこの縄ぁぁぁ!?」
「響介くんを捕縛する為に片手間で開発した、先端にBT兵器を搭載したロープです。自由自在に飛ぶので義足や義手を用いての急な方向転換にも対応出来ますし、強度もかなりのものです」
「.........助けて!Help me一夏!!助けてぇぇぇ!!」
「........響介」
一夏は俯いていた顔を上げ、サムズアップして満面の笑みで響介に言った。
「大丈夫、死にはしないさ!死んだら骨は拾っといてやるからさ、安心してくれ!」
「えぇ......」
足を掛けられ、転倒したと思えば身体が宙に浮く。後ろを見れば雪菜がISを纏って、自分を宙ぶらりんにしているではないか。流石に落とされたら大怪我してしまう、そう思った響介は自分もISを展開しようとするが...
「あれ?」
「ISは展開出来ませんよ、妨害電波を流してあるので。ちょっとした空中遊泳を楽しんで下さいね」
「え、嘘だろ雪菜。あ~~~~~~」
その後、フラフラになった響介は床に座らされ、雪菜に説教されていた様だった。説教が終わった後の響介の言葉は「座れるって幸せ。地面が有るって良いことだ」と、何かを悟った様に言っていたそうだ。