IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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無垢

 「......ん、此処は......?」

 「目が覚めたか。では尋問の続きを――」

 「尋問?どういう事?ねぇ、どうして私が尋問なんて...あ、組織の事?私は戦闘員でもないし、直接戦闘なんて殆どした事もないよ。何も分かんないから何も言えないし...」

 「何...?しかし――」

 「ラウラ、此方に来て!」

 「夏蓮?」

 「あ、夏蓮!!」

 

 目が覚めた時、本当に彼女の人格は【アリス】になっていた。だが、その意味を知らないラウラは尋問を続けようとしているのだが、それは【アリス】の為にも不味いと考えた夏蓮は助け船を出す。

 

 「アリス、少し此処で待っててね」

 「分かった」

 

 廊下に出ると夏蓮は話す。少し急いでいる様にも思えるが、かの天災が手掛けたこの艦の壁は防音性も高い。それが解っているからこそだ。

 

 「今のあの人とジェミニは違う。だから尋問しても無駄だよ」

 「どういう事だ?」

 「察しが悪いね、ラウラ。お兄ちゃんを助けたいと手を伸ばすあまり、視野が狭くなってるよ。...アリスは俗に言う二重人格、だから【アリス】と【ジェミニ】は互いに独立した人格で、その間での記憶の共有は殆どされないの」

 「だから尋問をしても無駄、と」

 「うん。もっと言えば、アリス自身が手を汚した事は無い。戦闘になるとジェミニが出てくるから、戦い自体もした事が無いんだ。でも身体に動き方は記憶されてるのか、組手は滅法強い。....アリスは一番無垢でまっさらで、誰よりも残酷な殺人鬼だよ」

 「.........どういう意味だ?」

 「自分で考えなよ。あと、アリスはジェミニを認知してないから変にジェミニと重ねないでね。暇そうだからお話でもしてあげてよ。私は私で尋問の時間だし」

 「...分かった」

 

 夏蓮はゆったりと歩いていった。楯無でも千冬でも、どちらにせよ自分は耐えられないという自覚があるラウラはよく余裕を持てる、と素直に思う。そして、それは潜ってきた修羅場の数の圧倒的な違いなのだろう。それに気付くと何処か情けなくなった。それなりの期間、自分の隊の副隊長として就任してきた夏蓮が、内心どう思っていたのかと思案する度にマイナス方面に思いが傾く。あんなレベル差なのだから当たり前なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、軍人さん。初めまして」

 

 ラウラが部屋に入ると、笑顔でアリスは挨拶をしてくる。先程まで尋問していた人間が入ってきたというのに嫌な表情1つ見せず、笑顔で『初めまして』と言えるアリスにラウラは戦慄した。

 『夏蓮は何処だ?』の一言は覚悟していたのに、何の悪意も含まないアリスの笑顔と言葉に戸惑いつつもラウラは会話をしようとする。

 

 「あ、あぁ、初めまして。私はラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。お前は?」

 「私は...アリス。アリスだよ」

 「...本名か?」

 「愛称だよ。皆には愛称で読んで貰ってるの」

 「そうか...」

 「ねぇラウラ、どうして眼帯を着けてるの?」

 「昔、手術が失敗してな。後遺症で片目の色が違うんだ。だから隠している」

 「何色なの?」

 「金だ」

 「....見ちゃダメ?」

 「.....ほら」

 

 ラウラは眼帯を外し、その金の瞳を見せた。【越界の瞳(ヴェーダン・オージェ)】、響介の義眼と同系列のソレをアリスはじっと見つめる。輝く金の瞳は本来の人体では視認する事が難しい距離の物体を容易く見る事が出来る。

 

 「綺麗だね、その眼」

 「世辞は要らん。気持ち悪いだろう、オッドアイなど」

 「そんな事ない!透き通ってて綺麗だよ。ラウラの眼は綺麗だって、自信を持って良いと思う」

 「...有り難う、とは言っておくさ。お前で2人目だ。私の眼を綺麗だ、と言った酔狂な奴は」

 「それって響介?」

 「良く分かるな、その通りだ」

 「何となく分かるんだ。....響介は、私と近くて遠いから」

 「ん?それはどういう――」

 「ラウラ!雪菜の機体の反応が見付かったわ!指令室に来て!」

 「....了解した、今行こう。アリス、また今度だ」

 「うん、またねラウラ」

 

 ラウラは指令室に向かう途中に気付いた。自分はいつの間にアリスに心を開いたのか、という事に。警戒していたハズなのに、何故か心を開いていた。それはアリスの人柄が成せる技なのだろうか?ラウラがその答えに辿り着く事は無かった...




 何とか短時間なら書ける位には回復したので投稿です。が、長時間は流石に頭痛と吐き気と咳で死ぬので、かなり駆け足です。ユルシテ....ユルシテ....

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