IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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ドミナント

 「お前が...お前が嫁の手足と眼を奪ったのか!?」

 「そうだね、否定なんてしないし言い逃れもしないよ。私が奪ったのさ。平穏も、手足も」

 「っ.....許さない」

 「あんたに許される道理は無い。此処で殺り合うかい?手負いでも殺せる自信はあるよ」

 「上等よ、返り討ちに――」

 「――止めておきなよ、鈴。何にせよ勝てないよ、アリスには。私程度に勝てない皆じゃ傷ひとつ負わせられない」

 「へぇ.....変わったねぇ、夏蓮」

 「変わった?私が?」

 「変わったよ。前なら笑って私に蹂躙される様を見てただろうね。日常に触れ過ぎて鈍ったね」

 「うるさいッ!!」

 「お、殺るかい?」

 「ッ.....クソッ」

 「賢い選択だよ、夏蓮」

 

 艦の内部では突然現れた【アリス】の裏人格である【ジェミニ】の尋問が行われていた。だが、彼女の言う事に反論すら出来ず、肝心の夏蓮ですら逆上してしまう始末。見かねたのか、壁に寄り掛かっていた菫が会話を引き継いだ。

 

 「やっと会話が出来そうだね。それで?私に何か聴かないのかい?」

 「ふむ、ならば君の要求は何だ?こんな敵地に乗り込んで来ておいて、目的が無いなんて馬鹿な話はあるまい?」

 「私の機体の整備と私をこの陣営に加える事。此方は情報と危害を加えないという保証をしよう」

 「情報はまだしも、危害を加えないという保証は信じられんな。君は元々別陣営だ。何か目に見える保証を呈示したまえ」

 「それもそうだな。....私の機体に爆破装置でも着けるのはどうだ?」

 「そんなの、アンタが外すかも知れないじゃない!飲む訳が――」

 「....黙っていたまえ、鈴。分かった、その条件を飲もう。情報は随時、嘘を言わない事も条件に加えさせて貰おう。其処は君の人となりを信じるしかないがね」

 「任せな、私の誇りに誓って嘘は言わないよ」

 「...だそうだ。後は君達に任せるよ」

 

 と言って菫は質問の内容を生徒達に丸投げにした。一応質問するだけなら逆上してしまう事は無いだろう。そう思ったが故の選択だった。それから生徒達が各々の質問を投げ掛ける。本当にそれぞれだ。流石に組織の目的なんてものは全世界に放送されている為聴きはしなかった様だが。

 

 「私から言わせて貰おう。何故お前達は強い?前に夏蓮と戦った時、努力や訓練による後天的な強さは勿論だが、何か先天的な強さを感じた。それは何なんだ?」

 「それはね、【化け物】の力だよ。私達は人間だけど人間じゃない。教員の奴等は皆分かるんじゃないかい?」

 「.......分かるか、山田先生?」

 「いえ、私には....」

 「【ドミナント】。先天的に何かしらの能力に秀でている者の総称だ。殆どの能力は人間を間接的、直接的問わずに殺す為の才能が多い。そうだろう?」

 「その通りだ。増え過ぎた人間を間引く為に生まれた人類の天敵、生まれついての化け物。それが【ドミナント】さ。其処の夏蓮だってそうだよ」

 「そうなのか?」

 「....そうだよ、ラウラ。私はドミナントだ」

 

 この瞬間、初めてIS学園陣営全員がドミナントの存在を知り、強さの理由を知った。そして以前夏蓮が言った、響介は自分達よりも強いという理由もドミナントであるからという事も理解した。

 

 「じゃあ次は僕が。ドミナントに弱点は無いの?そんな強力な力、デメリットが有ると思うんだけど」

 「察しが良いね、勿論あるよ。デメリットは人それぞれ、私は...自分でも解らないんだ、済まないね」

 「夏蓮は無いの?」

 「有るよ。....私には痛覚が無い、それだけ。メリットみたいに思えるけどね」

 「....痛覚が無い故に引き際を見極め難く、無理をしてしまう。こんな所か?」

 「正解、流石だね織斑先生」

 

 もう質問は無いのか、そういう意味を込めて全員を見回す。すると、複雑な表情をした真耶がおずおずと口を開いた。

 

 「その...皆さんは、何故人類の天敵なんて言うんですか?理由が分からなくて...ごめんなさい」

 「ん、謝る必要は無いさ。聞くは一時の恥、だったかな?まぁそれは良い。....そもそも、ドミナントには何かしらの衝撃が必要なんだ。イメージ的には氷の中に才能が埋まっている感じだね。それを天変地異クラスの衝撃で壊す、そんな感じで初めてドミナントとしての能力に覚醒する」

 「それ、響介はどんな衝撃を受けたのよ。正直言って想像できないわ」

 「お兄ちゃんが仲良くしていた子供達が軍人に殺されたんだよ。それで髪も白くなって、ドミナントとして醒めたの」

 「そういう事だね。それで、ドミナントとして醒めた時から私達は溢れる殺意に耐えなきゃならなくなる。どんな人種でも関係無い、理不尽な殺意さ」

 「もし、それに耐えられないならどうなるの?響介くんは...」

 「殺意と本能に身を任せる獣に成り下がるだろうね。響介は多分どうにか踏み留まっているよ。人間の誇りを忘れない様にって、いつも言い聞かせていたからね」

 「響介くん....」

 

 其処で、ジェミニの意識が急に明滅する。疲労困憊の身体、そして敵地に乗り込むという行為に無意識下で緊張していたらしい。そして自分の気力も使い果たした。次に起きるのは主人格、アリスだろう。

 

 「ちょっと限界みたいだね....これから寝るけど、次の人格はアリスだ....説明は、頼んだよ....かれ、ん....」

 

 もう夜だ。行方不明の雪菜の安否は気になるが、休息を取らねば肝心な時に動けなくなる展開になり得ない。それが分かっている全員は自室に戻り、各々の寝床に潜り込んだ。ドミナントに、どうすれば勝てるのか思案しながら...


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