艦の修理は粗方終わった。とは言え、エネルギーシールドの修復と響介の斬撃の損傷を直して飛べる様になっただけで、兵器なんて撃とうとした時には艦が耐えきれずにどんどんと損傷していく。要するに、ハッタリだけの状態だ。
それでも一行はドイツ軍の基地へと向かっていた。其処が何者かに襲撃されたという報告を受けたからだ。この一行の所属はあくまでも中立、貸し借りはIS学園にのみ帰属する為に何でも頼みやすく、言いやすいのだろう。何処かの口の代表候補が情報を漏らせば瞬く間に軍事的制裁の対象内だ。それが分かっているからこそ、誰も何も言わないのだ。
「此処は....」
「どうかしたの?ラウラ」
「此処は.....私の、産まれ故郷だ」
「ふむ、
「不愉快だね。科学が命そのものを創り出すなど、傲慢にも程がある。ラウラを否定するつもりなど無いが、存在してはならない分野だ」
「................」
ラウラ自身、それは分かっていた。自分が普通ではないことが。そもそも、物心がついて直ぐに訓練、学習だ。確かに一部の家庭では英才教育が行われている。だが、自分がやってきたソレは英才教育の域を逸脱している事も分かっていた。
だが、その過程で人の清濁、様々な技術、そして尊敬する人物に会えた事も事実。ラウラはこの今まで歩んできた人生を後悔はしていない。
しかし、自分の後に続く遺伝子強化個体は産み出してはならないとも思っていた。別に、立場を奪われるなんて事は考えていない。だが、自分よりも【先の段階】に進んだ、
「不謹慎だが、綺麗な切断面だ。此処までになるのにどれだけの人を....響介...!」
「この研究者の人達の表情、凄いね...地獄に居るっていう鬼の表情とそっくりだよ」
「確かにこの方達も惨い研究をしていらしましたが...これ程の殺され方をされなければならなかったのでしょうか...」
「ホント、エグいわね。...そこまで堕ちたのね、響介」
「響介に.....本当に、勝てるのか?こんな俺が.....」
一夏と他の女子達は凄惨な殺害現場を見てそれぞれの反応をしていた。響介の技の1つである【カグツチ】によって身を灼かれ、凄まじい苦悶の表情を貼り付けたその死に顔は少なくとも教員を含む全員の心に残るものとなった。
それも気にせずに進むのは雪菜とラウラだった。2人とも、その特殊な生い立ちから死体は見慣れていたのだ。先に進んで入ったのは培養室、即ち遺伝子強化個体の
「ラウラさん?」
「....いや、大丈夫だ。少しセンチになっていた、すまん」
「いえ、構いませんよ。...先に進みましょう」
「あぁ」
全てのカプセルは斬られ、カプセルの周辺には血が飛び散っていた。強化ガラスとは言え砕く事無く綺麗に斬るその腕前は、誰が殺ったのかを如実に表していた。自分達が追う少年だと、無慈悲に語っていたのだ。
「これは....」
「墓、なのか?酷く歪だが....」
そして最奥。其処には瓦礫の山とその山の頂点に突き刺さる鉄骨を曲げて造られた歪な十字架があった。襲撃前から有ったとは思えない奇怪なオブジェは、明らかに襲撃後に造られた物と判る。しかし、これを造ったのが響介と言われれば少し信じがたい。何故なら、人の命を重く考えていない響介を既に見たからである。
「どうしてこんな所に墓を造ったんだ、響介は...」
「見て下さいラウラさん、何か書いてあります」
「なんだ...?英語で刻んであるな」
『
「この筆跡、確実に赤羽くんです」
「本当か!?」
「えぇ。ですが、
「きっと、まだ少し人間性が残っているのではないか?それなら、まだ間に合う!」
「しかし、今の赤羽くんと対話するなんて無理ですよ。それに、今回は気紛れだって可能性も....」
「だが、確率は0%ではない。そうだろう?悲観していても何も変わらない。信じるのなら明るい未来を信じるとしようじゃないか、雪菜」
「......そう、ですね....信じてみましょう。赤羽くんが、まだ人間性を残していると。そして、最後には...」
「私達が取り戻す、そうだろう?」
「その通りです。よし、そうと決まれば会議です!戻りますよ、ラウラさん」
「了解した」
自分の先を歩く雪菜の背中を見詰め、ふと眼帯を外して後ろを見る。ラウラが虐げられる原因となった【
だが、彼女は手を振った。きっとこれから辛い目に遭う事になる自分の妹達を殺してくれた響介に少しの感謝を抱き、そして産まれる事すら出来ずに死んだ自分の妹を弔うつもりで。
――がんばってね、わたしたちのぶんまで
「......勿論だ、任せておけ」
「どうしました?」
「いや、何でもない。早く行くぞ」
「....?は、はぁ....分かりました」
そしてこの研究所が跡地になった頃、銀髪の少女達の幽霊が出ると噂になるのは先の話......