IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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【差】

 (バイクを使って何処に行くつもりなんでしょうか...)

 「雪菜、響介が此方を見ているぞ」

 「気のせいじゃない?光学迷彩は起動してるんでしょ?」

 「....いや、響介なら出来る!!ヤツの【眼】なら--」

 「何だ?剣を構えて....全員、衝撃に備えろッ!!」

 

 ラウラの怒声のお陰で全員は艦を揺らす衝撃に耐える事が出来た。流石は軍人、パニックになったとしても回復が早く、隊長の経験によってしっかりと指示を飛ばす事が出来た。今のは千冬でさえ固まってしまい、誰もが呆けていたので下手をすれば何人か怪我をしてしまうかも知れない状況を打破できたのだ。此処は素直にラウラの咄嗟の判断に感謝するべきだろう。

 

 「私とシャルさんで出ます!!」

 「援護は要るか?」

 「周囲への被害を考えて、使う訳にはいきません!使えばこの辺一帯は焦土と化しますよ!?」

 

 そう、この艦に積まれている武装は地上で使えば簡単に街1つ丸ごとを更地に出来る程の威力を内包しているのだ。流石は篠ノ之束が開発した艦とは言え、幾らなんでも規格外過ぎる。故に簡単に援護も出来ないのだ。

 

 「舞原雪菜、【極光】、出撃()ます!!」

 「シャルロット・デュノア、【エクレール】、行くよ!!」

 

 カタパルトから射出され、開かれた視界に見えるのは剣を携えて自然体で構える漆黒の機体。ベースの開発は菫、他の装備は全て雪菜が開発した装備だ。故に弱点も全て判っているハズなのに、何処か得体が知れない。そんな感覚に雪菜は襲われていた。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 「シャルロットさんはまだ来ないで、指示したタイミングで奇襲を仕掛けて下さい」

 『了解、気を付けてね』

 

 さっきから私の中で自問自答が繰り返されています。

 あの機体は何だ?【絶月】だ、当たり前だろう?でも、何故あんな剣を持っている?解らない。

 こんな考えてもしょうもない事を考えている暇が無いのは分かっています。でも、それよりも思うのは私が少しだけ哀しみを感じてる事なんです。自分の造った武器を使って貰えていない哀しみでしょうか。そんな下らないセンチメンタルをまだ抱いていた事に驚きです。

 

 「響介くん、貴方はどうしてテロ組織に入ったのですか?」

 「俺の名前を知っている?....昔の俺を知ってるのか。なら話は早いな、俺はもう昔の俺じゃない。俺の前に立つなら、殺すだけだ」

 

 響介くんがそう言い終わると同時に接近し、横一文字に両刃の剣を薙ぎ払ってきます。やっぱり話し合いは通じませんか。なら、此方も実力行使でやるまでです!

 私は拡張領域(バススロット)から細剣【アコール】を喚び出し、剣の進行を阻みます。でも、彼はその程度は当たり前だと言わんばかりに剣を拡張領域に戻し、ファングを両手に持ってナイフを使う様に振ってきました。手数の問題で負けるのでシャルさんを呼ぼうとしたその時、私のISに通信が入ってきました。

 

 『雪菜、下がれ!!』

 

 ラウラさんの指示に従い、後ろに下がると凄い太さのビームが目の前を通っていきました。流石に出力は調整したのでしょうが、やはり加減を知らないとしか言えない威力ですね。下手をすれば死にますよ?

 

 「私の名前は舞原雪菜、この機体は【極光】です。貴方の名乗りは特に--」

 「必要ないってか?そうはいかねぇな。俺だって名乗らせて貰うぜ。名前は赤羽響介、機体名は【絶月・災禍】だ」

 「....貴方を、絶対に連れ帰ります」

 「ハッ、やってみろよ。.....そんな想いごと、斬り捨ててやるからよ!!」

 

 空中にさっきの両刃剣が展開され、反射的に目で後を追ってしまいました。次に視界を戻した先には恐ろしい程の速さで飛んでくるファング。落ち着いて左手で手刀を繰り出し、ファングを叩き落とした後で突進する--と見せ掛けて拡張領域から網を発射します。この網はカーボンナノファイバーで構成された、ISでも引きちぎるには少し時間が掛かる代物なのですが彼はどうにか避け、再び私に接近しようと機を伺う目線を向けてきました。

 ならば、と私は一定の周波数をシャルさんに向けて発信。音を出さずに発進したシャルさんは彼の後ろからエクレールの主武装クラスのショットガン【血の月曜日(ブラッディ・マンディ)】を立て続けに放ち、動きを制限してくれました。

 

 (やれる....彼を、絶対に連れ戻します!!)

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 彼女、赤羽夏蓮はこの戦いの結果が大体分かっていた。此方側、要するにIS学園側が負けるのだ。理由なんて幾らでも思い付くが、一番は戦いに於ける意識の【差】だろう。

 彼にとって戦いとは自分の理想を叶える為の【手段】であり、絶対的に必要な【条件】なのだ。長く使う道具は長く手入れし、自分にとって使いやすくする様に、彼は自分の道具(戦闘能力)を研ぎ澄まし続けていた。学生という立場上仕方の無い事だが、彼女達が勉強している間にも彼は訓練と実戦を繰り返していたのだ。

 

 (お兄ちゃん、本気出してない。.....いや、当たり前かな。発動できる条件が条件だからね。あんなのが簡単に発動できるなら、多分.....)

 

 夏蓮は知っている。彼がどれたけ強く、そして理不尽な力を身に付けたのかを。夏蓮達が連れ去り、少しだけ暮らしたその場所でドミナントとして覚醒する程の絶望を味わい、そして手にした理不尽に勝てる理不尽を。夏蓮が彼から向けられた理不尽に勝てたのは片手で数えられる程度、もう何度も負け越している。夏蓮自身、もう勝てないとも思っている。

 

 (でも、あの剣は知らない。持っていた装備は槍と腕に直接装備する荷電粒子砲と一体化した剣だったハズ。射撃を完全に捨ててる。あの白式ですらやっと射撃系統の武器を手に入れたのに、お兄ちゃんは捨てたの?どうして?)

 

 実の妹で、味方であった彼女ですら彼の持つ【贄姫】を知らなかった。当たり前だ、この剣はついさっき、今までの武器が変異したばかりの姿だ。見た事があるのは響介だけ、後は全員死んでいる。学園の生徒がどうなるかはまだ分からないが、下手を打てば誰かが死ぬ。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 記憶が灼け、既にIS学園の記憶すらほぼ無くなっている響介からすれば良くて顔見知り、殆どの者が見知らぬ他人だ。神の様な慈悲を持つ者ですら顔も知らない、何も関連が無い人が死んだ所で涙も出ないだろう。だから響介は躊躇わない。誰であろうと、敵として現れた者全員を殺していくのだ。

 

 (なんであんな高速で飛んで....?まさか、墜とす事が目的じゃなくて、何かの下準備をしてる?それなら皆は死ぬ。....チッ、日和過ぎたかな。仕方無い!)

 

 そう思うと共にラウラからマイクを奪い、大声で警告を飛ばす。これで少しはマシになったが、恐らく情報を求められるだろう。こればかりは仕方無い、そう割り切って溜め息を吐く。

 見てみればやはり蹂躙されていた。そればかりは夏蓮も当然だと思う。初見で響介の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を捌けるのはアリスだけだった。そのアリス自体、ドミナントの中でも規格外のスペックを誇っていたのだから。ドミナントでもない2人が抵抗できる訳がない。

 

 「諦めないんだ....あんなズタボロになって」

 「意地、なのだろうな。それほどに響弥が大事なのだという事だ」

 「篠ノ之....」

 「箒で頼む。少し、姉さんと同一視されるのは嫌だからな」

 「分かった。...箒にも何か意地は有るの?」

 「私か?そうだな、私の意地は世界に自分を証明する事だ」

 「世界に、証明する?」

 「あぁ。私は何処まで行っても【篠ノ之束の妹】という肩書きが着いて回る。だから自分がやれる事で証明したいんだ。私は【篠ノ之束の妹】ではあるが、私は私、【篠ノ之箒】だってな」

 「そうなんだ。やれたら良いね」

 「有り難う。お前は無いのか?」

 「私?私は--」

 

 次の瞬間、公開通信(オープン・チャネル)で放たれた響介の言葉が艦の中に響き渡った。戦闘の終了と、彼と自分達の差を本人の口から聴かされたのだ。その声音に戦闘が終わった事による疲れの色は、全く見えなかった。

 

 『この程度じゃ、俺は倒せない』

 

 


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