IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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第7章雪菜サイド 消えていく実像
失望


 「ねぇねぇ、夏蓮さんって特待生なんでしょ!?どうすればそんなに強くなれるの?」

 「特待生なんてそんなに良いもんじゃないよ。国の顔色を見て行動しなきゃ直ぐに終わりだからね。強く...ってのは、死ぬ気で練習するくらいかな?」

 「うわぁ....凄い綺麗な肌。何か気を付けてる事はある?」

 「特に無いかな。髪もろくに手入れしてないし、ボロボロだと思うよ」

 「そんな事無いよー。ほら、すっごい滑らかだもん」

 「ひゃっ!?」

 

 女が3人集まれば姦しい、とは良く言ったものだ。3人どころか夏蓮の周りには10人単位で人が集まり、思い思いの質問をぶつけたりスキンシップを取っていた。案外ボディータッチも多かったりする。セクハラされやすい遺伝子を持っているのだろうか、と思う程だ。

 

 「お前達、転校生が来たと言ってはしゃぐのは構わんが、時間は見る事だな」

 「「「「「いった!?!!?!!?」」」」」

 

 授業の開始時間まで立って夏蓮とコミュニケーションを取っていた全員は、神速の出席簿によって凄まじい衝撃音と共に強制的に椅子に座らざるを得なくなった。日直の号令で起立し、礼をしてから座る。千冬が授業を開始するが、夏蓮は右手でペンを弄んでいた。

 そもそも【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】の構成員は全員頭が良い。ただ、頭が良い者があまりにも良すぎる為に判定が狂い、自分の頭は悪いと思っているだけに過ぎないのだ。自分を馬鹿だと言う夏蓮ですらIS学園を首席で入学、卒業するくらいの知能は有るのだ。要するに、レベルが低すぎて暇なのだ。

 

 「赤羽、お前ならこんな局面をどう打開する?」

 

 それを見抜いた千冬が投げ掛けた問題は、答えが明確ではない問題だった。具体的には戦闘理論の問題で、ISを使用しての格闘戦に於いて、前後から挟撃されたらどうするのかといった問題だ。

 夏蓮は話を聴いていなかった為、問題の状況を把握する為に一瞬だけ思考を巡らせると、答えた。

 

 「全力で上に飛行、その後に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って距離を詰めて前から襲ってきた機体のスラスターを破壊。それからは1対1で戦闘ですかね」

 「ふむ...合格だな。オルコット、お前ならどうだ?」

 「わたくしですか?わたくしなら...下に下降しつつ距離を取って射撃、ティアーズが有効な間合いに至るまでそれを繰り返しますわ」

 「残念だが、不合格だな。もっとお前は近接を鍛えろ。だから織斑に懐に入り込まれて負けかけたのだろう」

 「うっ....そ、それはですね...」

 「さて、この場合の模範的な動きとしては--」

 

 千冬の解説を聴いてはみるも、全てがテンプレート通りのつまらないものだった。確かに模範的、最も基本的な立ち回りではあるものの、言ってしまえば使い古された戦法であり、簡単に見破られるものだ。

 夏蓮は現在14歳、傭兵時代のアリス達に拐われたのは3歳の頃であり、合計11年間戦場で命を賭けた勝負をしてきた夏蓮からすればこんな授業、児戯にも満たないものであり、退屈しのぎにもならないのだ。

 

 「はぁ........下らない」

 

 周囲のクラスメイトのレベルも低く、一応期待はしていた代表候補生すらもレベルが低い。熱くなる程の戦いが出来ないと分かるや否や、夏蓮の学生としてのモチベーションはダダ下がりとなり溜め息と共にもう1度同じ言葉を繰り返してしまった。凄まじく期待外れで、裏を返せばかなりの期待を寄せていたという事実に変わりはない。故に、もう1度繰り返すのだ。その声音に、隠しきれない失望の響きを乗せて。

 

 「はぁ..........下らない」


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