ジュエルス・ストラトス~宝石の海に浮かぶ無限の願い 作:カオスサイン
前回出たオリキャラですが原作キャラのフルブライトと被る事からブライト→アダムに変更しました。
~一夏達が駆け付ける十分前~
Side?
「糞…なんで俺がクビにならなきゃならないんだよー!…」
「なんで…なんで彼が捕まらなきゃならなかったのよ…」
「儂なんか息子と一緒に男手一つで育ててきた大切な孫を殺された!あの女に!…」
「父さん本当にすまない…僕があんな女だと気が付いていれば今頃たかしは…」
夜、公園のベンチに集まっていたのは皆、女尊男卑主義者による被害者達であった。
ある者は勤め先の新入女性社員によって仕組まれたあらぬ冤罪をかけられクビにされてしまった者、またある者は心の底から愛した男性が身に覚えのない横領をした罪で牢獄に入れられてしまった女性、そして保険金やその他のお金目当てで巧みに近付かれ大切な息子、孫を殺されたと泣き叫び後悔の念に苛まれる父親と祖父であった。
「ククク…」
「だ、誰だ!?」
そんな途方に暮れていた彼等の前に突然茶色のローブを被った謎の男が現れ警戒する。
「そんなに警戒なさらなくても大丈夫です。
此処に集まられている貴方方にはどうしても叶えたい願いがある…そうで御座いましょう?」
「「…」」
ローブの男に言われ彼等は顔を見合わせる。
「その願い私が叶えて差し上げましょうか?」
「本当か!?」
「ええ、対価は頂きませんよ。
如何いたします?」
「…」
男の言葉に彼等は悩む。
「方法を教えてくれ!」
「親父!?何かコイツ怪しいよ!不味いって!」
「うるさい!儂は孫の敵をとるんじゃ!」
「私だって!」
まだ冷静でいられた息子の彼だけは未だローブの男を怪しんで引き止めようとしていたが他の追い詰められた者達に一蹴りされてしまう。
「では、この宝石をお受けとり下さい」
「「?」」
「その宝石を持って願い事をいえば即座に叶えられますよ」
「…」
にわかには信じられない事だったが彼等は宝石を受け取りそれぞれ願う。
普通ならばここで自分自身が抱える願いを叶えようとする筈だが彼等の願いはある一点に集中した。
「「ISへの復讐を!…」」
その願い事が混乱を呼び寄せるとは知らずに…
「フフ…これで良い…」
彼等がそう願ったのを確認したローブの男は不敵な笑みを浮かばせながらその場を立ち去っていった。
バタ…
「み、皆?親父?…親父ィー!」
宝石で願いを叶えようとした三人は突然倒れて意識不明になってしまったのだ。
唯一願いを叶えようとしなかった彼だけはこの事態に混乱しふと空を見上げるとそこには…
「うわああああー!?」
この世の者とも思えぬ化物が三匹飛び去っていくのを目撃した。
目撃してしまった彼は慌てて助けを呼びに行くのだった。
Side?
「一体何なのよこの化物は!?」
「くっ!?…」
突如街に現れたこの世のものとも思えぬ化物が現れ早急にIS部隊の緊急出撃が下されたがどうしてかISの攻撃のほとんどが通じず劣勢を強いられていた。
「どうします?」
「一時撤退して防衛線を固めるしかないわ…」
私、更識 刀奈は苦虫を噛む。
専用機「蒼き淑女(ミステリアス・レイディ)」の単一仕様能力である【清き熱情ークリア・パッション】すら奴等には通じずどんどんと此方へ距離を詰めてきていた。
「グウゥ!…」
「この!」
「駄目!下がって!」
私は一時撤退を促そうとしたが部隊の一人が飛び出していってしまう。
「何を言ってるの?ISは最強なのよ!あんな化物たった一匹如き…」
「グアァー!」
「え?…」
無謀にも化物に向かっていった隊員は化物のその強烈なまでの体当たりのパワーに体を引き裂かれたのも分からずに絶命してしまった。
その死体を化物は貪り喰らっていたのだ。
「ぜ、絶対防御が!?…」
「そんな!?…」
「嫌あああー!?死にたくないー!」
「ちょっと皆!?…」
ISの搭乗者を守る機能である筈の絶対防御システムをも物ともしないパワーを持つ化物の前では無力な事に嫌でも気が付かされた隊員達はひたすら逃げの一手に集中し周辺付近はパニックと化してしまっていた。
「グルル!…」
「あ…」
死体を貪り終えた化物は取り残されていた私に標的の目を向けてきていた。
不味い!…そう思うが体が恐怖で思うようには動けずにいた。
「グルルアー!」
「ッ!…」
思わず目を閉じる。
「?…」
「グ!?…」
だが襲い来る痛みは一向に訪れなかった。
それ所か先程まで平然としていた化物が悲鳴を上げている事に気が付いた。
「一体何が?…」
月夜に照らされる中で鮮やかな紅い鳥と蒼い綺麗な髪を持つ小柄な女性、そして鮮やかな紫の翼を持つ機械の龍と紫のゴーグルと白いコートを纏った男性がいた。
Side一夏
「くっ!…既に犠牲者が出てしまっているようですわ…」
「畜生!間に合わなかったか…」
俺とすせりさんが一番近くまで迫っていた下級ジュエルガイスト「駄獣・モデケ」を追っていたが既に犠牲者が出ていた事に苦虫を噛んでいた。
「!あそこに人がいる!」
「なんですって!?」
「ダール!」
「ガウゥー!!」
俺はすぐにまたモデケが人を襲いそうになっている事に気が付きダールに指示を出しモデケに攻撃を加え怯ませた。
「そこの人!ISのエネルギーが残っているなら今の内に全力で撤退して下さい!」
「ごめんなさいね…腰が抜けて力が入らないのよ…」
「それなら!…ごめんなさい!」
「え?……くー…」
俺はその人が今すぐには動けない事を知るとすぐさま術をかけて眠らせた。
「すせりさんはその人を頼みます。
モデケは俺とダールがなんとかします」
「ええ!無理は禁物ですわよ!」
「ああ!ダールいくぞ!」
すせりさんの激励を受けて俺はモデケに立ち向かう。
「ダール!『シングルギア・シュート』!」
「ガアー!」
「グガアァー!?」
ダールの体を構成する歯車の一部が一時的に外れ熱を帯びモデケに真っ直ぐ向かっていき奴の体を斬り裂いた後、ブーメランのように戻って体に格納される。
「コイツでトドメだ!『ギア・ウィングブラスター』!」
「ガアー!」
「グルオォー!?……」
「一夏、すせり!大丈夫だったか?」
「ああ!」
「この通り無事でしてよ」
ダールの翼から放たれる歯車の嵐がモデケを蹂躙し弱らせた所で残りの二体を片付けた武流達が駆け付けてきた。
「それより魔石を拾った人の特定は?」
「アダムさんが既に目星を…というかそれに巻き込まれたであろう一般人から通報があったらしく先に俺達が駆け付けて魔石を回収した。
その一般人から話を聞いてみたがやはり一夏の睨んだ通り女尊男卑主義者による被害者達だった。
しかし、魔石は拾ったのではなくローブの謎の男から渡されたそうだ。
発動者は運気を少し消費したぐらいで生死には問題ないそうだ」
「そうか…此方では既に犠牲者が出てしまいました…」
「大方、ISの力を盲信した者だろ?結局は彼女達の自業自得でしかない」
「それはそうですけど…」
既にモデケに無謀にも向かい犠牲者が出た事を告げると八尋さんは冷たくそう言った。
俺には反論の余地もなかった。
「となるとこれからも警戒しなくてはならない案件が増えたな…」
「といいますと?」
「かつて俺が率いていた残党ではなく新たに組織から裏切り者が出た可能性があるという事だ」
「何ですって!?…」
八尋さんが告げた事実に俺達は驚く。
「…もしやフルブライト左官ですか?」
俺はすぐに思い当たる人物、オッペンハイマー卿と未だ対立している男の名を言う。
俺も彼の事は未だに好きにはなれそうにない。
「嫌、彼は彼で我がカルテルを思っている筈だからこんなおおっぴらな事はしない筈だ。
魔石の件も含め恐らくは彼の部下や一部の者達による暴走かもしれないが…詳しい事は現在調査中だ」
「…」
多くの謎を残したまま事件は終息を迎えたのだった。
次回、「願いの守護者と入学、そしてクラス代表決定戦 前編」