ジュエルス・ストラトス~宝石の海に浮かぶ無限の願い 作:カオスサイン
EPⅠ「我がカルテル」
Side一夏
「…はっ!?…」
目覚めた俺の目に飛び込んできたのは紛れも無い病棟だった。
「お?ようやく目が覚めたようだな無事で何よりだ」
「もう!武流お兄様のアホ!保護対象と戦闘して何かあったらどうする気だったのですか!?」
「あ~…スマンスマン!」…どうやら指令がよく届いていなかったみたいだ」
「いつも先走って他人のせいにするのはお兄様の悪い癖でしてよ!それに謝罪するなら私ではなく其方の方にでしょう?
この度は申し訳ございませんでしたわ…ほらお兄様も…」
「ああ…あの時は悪かった!この通りだ!」
「…」
目の前で寸劇を繰り広げるあの時倒れた俺を此処に運んできたんのであろう男と青髪の美少女が俺に謝罪してきた。
「あ、ああ…別に良い…」
「おっと自己紹介がまだだったな。
俺は革原 武流だよろしくな!
でコイツは俺の同僚の…」
「私は天原 すせりと申しますわ!
お兄様共々よろしくお願い致しますわね」
「俺は…」
先に名乗ってくれた武流と天原さんに対して俺も名乗り返そうとするが躊躇してしまう。
「い、一夏です。苗字は訳あって名乗りたくありません…」
「そうか…だったら深追いはしないさ」
「そうですわ」
「…」
二人はそう言ってくれた。
「っとそうだ一夏、お前が巻き込まれた件について我が組織のトップであらせられるオッペンハイマー卿がお呼びなんだ俺についてきてくれ」
「ああ、分かった」
武流にそう促された俺は彼についていった。
其処では
「私がこの「我がカルテル」のトップを務めるオッペンハイマー卿である!」
「…率直に言って帰らせて頂きます」
「まあ待て」
俺の中の何かが彼等に対して警鐘を感じ取ったので早々に退散を試みるがすぐに静止される。
「そのままの状態で此処を立ち去るのもお主の自由だが…それでもいずれはお主の体に宿わされた力によって死ぬぞ?
誰か鏡を持ってまいれ!」
「!?…」
オッペンハイマー卿と名乗る者に促された構成員が持ってきた鏡を覗いてみた俺は驚いた。
自身の両目が紅くなっている事に。
「己が一体どうなってしまったのか?という顔だな…良いだろう武流、彼に説明してやるが良い」
「は!」
オッペンハイマー卿に促された武流が俺に説明してくれる。
「という事だ分かったか?」
「…ああ」
まず、此処「我がカルテル」という組織は「魔石」と呼ばれる高純度を誇りしかも願い事を叶える宝石の全てを管理しているジュエリーシンジケートの実質のトップらしい。
ってとんでもない所に来てしまたな俺!
次にその魔石にはある存在が封印されている。
それが「ジュエルガイスト」と呼ばれるモンスター、そしてそのジュエルガイストを使役する人間をジェムマスターと呼ぶ。
だがそのジュエルガイストの中には世界を滅ぼしかねないといわれる力を持つ魔王級のモンスターを封印するキングストーンというものも存在する。
その力すらも使役するジェムマスターはハイマスターと呼ばれ数える程しかいないらしい。
武流とすせりもそれに値する実力の持主らしい。
という事は…俺を助けてくれたあの機械仕掛けの龍がジュエルガイストという事になるな。
武流達はかつて組織を裏切った者の残党を始末する為に出張ってきていたらしい。
だけど一つ疑問が残る。
「俺に施された実験は一体何だったんだ?…」
「それは俺から説明するとしよう」
「八尋!戻っていたのか!」
突然、銀髪の青年が横から現れた。
「ああ…残党を捕らえたと聞いてね…私は叢神 八尋という。
それに…確か一夏君だったねこの度は君にはすまない事をしてしまった…かつて私が率いていたとはいえよもやあのような悪魔の研究に手を借しているとは思わなかった…」
「なっ!?…」
俺は八尋さんの言葉に驚いた。
「ああ、その事も含めて詳しく話をしようか」
そう言って八尋さんは語り出す。
かつて八尋さんが我がカルテルに反旗を翻しわざと一つの街に魔石をバラ撒いて混乱に陥れた事を…。
それはその中でジュエルガイストと人間のハーフである「緋赤眼」の子供達を守る為に王になる力を手に入れる為であった。
一般人をも巻き込んだ長い戦いの末に武流と八尋さんは和解し八尋さんも我がカルテルへと戻ってきてくれたそうだ。
だがその上で払った犠牲は大きかった。
「八尋…黄泉の事は…」
「良い…彼女の涙に気が付けなければ私ももう少しで最大の過ちを犯す所だったのだ…」
黄泉さん…かつて裏切った八尋さんに付き従っていた少女で最終決戦で武流の使役する魔王級ジュエルガイスト、黒龍王・シグルトバルムの攻撃から八尋さんを庇って死んでしまったらしい。
だけど又もやここで一つ疑問が湧き出た。
「でも魔石で願い事が叶うのならその人を生き返らせられるんじゃ?…」
「…」
「え?…」
俺の一言に武流達は重い空気になっていたのを感じた。
「一夏、言い忘れていたけど我がカルテル内では死んだ者を生き返らせる願いを叶えるのは強く禁じられているんだ。
それにも相応の理由があるんだが…」
武流が重い口を開き理由を説明する。
願い事を叶えるには使用者の「運気」を消費する。
これには個人差はあるがそれもそうか…人の生き死に等に対する願い事は多大な運気を消費する事になる。
運気を使い果たした人間は不幸にみまわれて死に至るらしい。
それに魔石で願い事を叶えると世界の空間に綻びが生じる。
その綻びから魔石に封印されていないジュエルガイストが世に溢れ出してしまいかねないからという事だ。
それも願いの強さに比例するという…。
「話が大分逸れてしまっていたな…一夏君、君は恐らくアゲイルの奴が行っていた「人工緋赤眼」の研究による成功例となったのだろう」
「俺が半分化物みたいな体に?…嘘だろ!?…」
とても信じられはしないが彼等を信じるしかないだろう。
「一夏、君のその力は恐らく我がカルテルの回収対象にあった「パープルダーク・クリスタル」の力を抽出して作られたものだろう…そこでオッペンハイマー卿よろしいでしょうか?」
「うむ、良かろう!どの道そうせねばなるまい?」
「ええ…許可を頂きありがとうございます!では…一夏ついて来て」
「あ、ありがとうございました!…」
武流達と俺もオッペンハイマー卿に礼を言ってまた別室に連れられていった。
「今からコイツお前の物だ触れてみると良い」
「ああ…」
武流が持ってきた紫水晶「パープルダーク・クリスタル」に触れるとあるヴィジョンが頭に浮かんできた。
この感じは!…
「お前なのか!…よし来い!」
そう念じると水晶が眩い輝きを放ち目の前を照らす。
すると…ポン!
「「ン?…」」
「キュウー?」
輝きが止むとやけに小さい体をした紫の翼を持つ龍が俺の肩に乗っていた。
あ、アレ?…こんなんだったけコイツって?
「どういう事だこれは?
このジェムには新たに確認された七体目の魔王級ジュエルガイストが封印されているって話だったが…」
「私にも分かりませんわ…」
「だけどコイツからどことなく面影は感じるな…」
武流達にも予想外の事だったようで混乱する。
だけど俺にはあの機械龍の面影をコイツから感じた。
「ふむ…これは俺の予想だがこのジュエルガイストが封印されていた魔石に秘められていた力の半分がその少年にあるのが原因なんじゃないか?
聞けば奴等は人工緋赤眼の実験を行っていたという事だしな」
「ラウルさん!貴方もいらしてたんですね!」
「貴方は?」
「おっとそうだったな。
俺はオーギュスト・ラウル、我がカルテルのしがない一幹部さ」
気さくな口調で話しかけてきた男性ラウルさんは言葉を続ける。
「少年、お前さんのその人工緋赤眼の力の根底はその魔石から抽出された物だ。
そのせいでそのジュエルガイストのパワーが安定せずにそんなみみっちい姿になっちまったて訳だろうな」
「…まさか…」
俺の事を助けてくれた時に力を使い切ったせいか…。
「ま、かといって本来の姿に戻せないって訳でもない。
だがそれには相応の覚悟が必要だぞ少年」
「…どうすればコイツを元の姿に戻せるんですか?」
「良い目をしてきたな…話は決まった!
俺と武流でお前さんを一人前のジェムマスターに育ててやる!
お前さんが力を制御出来るようになればジュエルガイストも相応に応えてくれる筈だ!
お前さんの名は?」
「一夏です!
俺は自分の理不尽な人生に対して訪れた死を受け入れようとも思いました。
だけど、俺は…それ以上の理不尽からほんの些細な願いも守りたいんです!
どうかお願いします!」
俺は決意を表明し頭を下げた。
「よし、決まりだな!」
かくして俺の修練の日々が始まるのであった。
次回、二年後のある日事件は引き起こされる。
「願いの守護者と予想外」