無/霊タイプの厨ポケが現れたようです   作:テテフてふてふ

8 / 16
前半部分は廃人の方向けの解説(誤魔化し)になっています。アロフォーネに関する設定にも大きく触れているので、廃人じゃない方にも是非とも読んでいただきたいのですが、多分健全な読者様は『なぁにこれ?』状態になってしまわれるかと思いますので『〜〜〜』で仕切ってあるところまで読み飛ばしていただければよろしいかと思います。できるだけ多くの人が楽しめるようにして参りたいと思いますので、多少のガバガバ設定は大目に見てくださいませ(全裸土下座)


08:大天使の守護者たれ

突然のシロナさん襲来という濃すぎる一日を乗り越えた俺は、改めてこの世界のポケモンについて、現段階で分かっている範囲でまとめていた。

 

 

まずポケモンのレベルだが、ゲームとはかなり仕様が異なっている。そのため、あくまで推測という域を出ないが、日々検証の母体を増やしていく中、仮説を覆すような結果は現れていないので、かなり信用度は高いはずだ。

 

 

この世界のポケモンも、ゲーム同様にレベルが存在しており、上限も同じく全てLv100となっている。しかし、()()()()()()()()に大きな違いがある。

 

俗に一般ポケモンと呼ばれている、幻ポケモンや伝説ポケモンではないポケモンたちは、Lv50を境に、ステータスの上昇が止まるのだ。その証拠に、ゲームの世界から引き継がれた一般ポケモンの実数値が、例外なくLv50のものになっていた。Lv50の時の実数値は基本的に記憶しているので間違いはないはずだ。

 

ステータスではなく、純粋にレベルが50に下がったのでは?という考え方もできるが、この世界でヨーギラスをバンギラスに進化させた時、ステータスの上昇が止まって少し時間が空いてから進化したので、ゲーム同様にLv55になってから進化したと考えられる。更に、進化したバンギラスがギガインパクトを覚えたのもそれなり時間が経ってからなので、これもLv82になってから覚えたのだと考えられる。まあ、使う機会がない技なのでソッコーで忘れさせたが。

 

だが、重要なのはここからだ。一般ポケモンたちと違って、伝説ポケモンや幻ポケモン……俗に言う禁止級ポケモンは、Lv100まで育てていたものは、全てLv100の実数値になっていた。一方で、Lv50のものはLv50の実数値になっていたし、何度かポケモンと戦わせるとステータスが上がったので、禁止級のポケモンはLv100までステータスが上昇すると考えられる。

 

しかしながら、三犬やコピペロスなどの準伝説ポケは、Lv50の実数値でもLv100の実数値でもなく、その間くらいの実数値となっており、ウツロイドやマッシブーンなどのUBは、Lv50より少し高いくらいの実数値になっていた。

 

つまり、この世界でLv100のポケモン同士を比較した時、

 

 

一般ポケ < UB << 準伝説 <<< 禁止級

 

 

という、種族値を度外視した明確な力関係が成り立ってしまうのだ。禁止級マジ禁止級。

 

ちなみに、禁止級の検証はジラーチなどの幻ポケモンで行ったので、ディアルガとかルギアとかが実際どうなっているかは確定していないので、それ以上にやばい可能性もある。外に出せる訳がない。

 

まあ、準伝説も幻も伝説も、ドヤ顔で堂々と連れ歩くのは論外なので、重要なのは一般ポケモンのステータスだ。

 

シロナさんを筆頭に、ククイ博士やデクシオなどといった強者たちは、皆例外なくポケモンをLv50以上に育てているので、彼らと戦う時は通信対戦のような『フラットルール』に近い状況で戦う事になる。

 

特に、カロスからはるばるアローラにやってきてジガルデの研究をしているデクシオは、ゲームと同じ手持ちならば、個体値V、理想性格、努力値全振りという、あまりにもガチガチな構成なので、できることなら戦いたくない相手である。

 

Lv50のフラットになるとはいえ、大半のトレーナーたちはLv50までポケモンを育てていないし、カンストさせているにしても悲惨な性格や個体値や技構成だったり、めちゃくちゃな努力値が入っているので、アロフォーネを投げるまでもなく、ランターンとかでも全抜きできる。ランターンまじランターン。

 

ただ、注意しなくてはならないのは、ほぼ全てのトレーナーが手持ちポケモンに四つ以上の技を覚えさせているので、あんまり余裕ぶっこいていると予想外の技をぶつけられる事がある。ゲームから引き継がれた俺のポケモンたちは、こちらへ来ても何故か四つしか技を覚えないので、技スペだけで見れば痛いハンデを背負っている事になる。

 

全てのポケモンが『技スペが増える=強くなる』という訳ではないが、より多くの技を覚えられた方が良いに決まっているので、リゾートを手に入れた今、俺はこの世界のポケモンの捕獲、厳選、育成に力を入れている。先の戦いで使ったアローラキュウコンもその産物だ。

 

そして、技スペだけでなく、本来覚えられない技まで覚えられると言う事。ただ、これは今のところシロナガブの『りゅうのまい』しか見た事が無いので、何とも言えない。

 

更に、この世界のポケモンは技だけでなく、特性まで多数持てる可能性が出てきた。だが、これもシロナガブの『すながくれ+さめはだ』しか前例がないので、やはり確定とは言えない。さすがはシロナさんやで。

 

 

なお、後で触れるが、アロフォーネは二つ特性を持っていた。

 

 

ポケモン全体で見た時のゲームとの違いはこんな所だ。しかし、ゲームとの大きな違いは、やはりアロフォーネという存在だろう。

 

 

つい最近に、アロフォーネの意味不明な種族値が明らかになったのだが、目に見える数字が少なすぎて、あれが正しいとは言い切れない。

 

アロフォーネが一般ポケなのか伝説ポケなのか分からないが、とりあえずは、一般ポケモンと考えて、Lv50、性格補正はおくびょう、個体値は全てVとして見積もると、暫定的な種族値の合計が600に近い数字になるので、600族と考えて計算してみた。

 

後で説明するが、アロフォーネは瀕死状態になりそうになると絶対にボールの中に引っ込んでしまうので、ナイトヘッドを利用したHP種族値の調査は非常に難航したが、100という数字はそれなりに正確なはずだ。ただ、攻撃や特攻はダメージのブレがあるので、正確な数値だとはかなり言い辛い。それでも、試行回数が増えれば、乱数ダメの平均値は、中央値に近い数字へと自ずと収束していくはずなので、全く違う数字だと言う事は無いだろう。

 

更に、防御と特防の種族値は、後述するアロフォーネの『もう一つの特性』の恩恵で、非常に精度の高い結果が得られたので、ほぼ正確と言える。

 

問題は、物理攻撃の種族値だ。なにせ、アロフォーネは物理技を一つも持っていないので、イカサマでしか検証のしようがない。あくタイプの技なのでダメージは二倍になるのだが、余裕で五発近くは耐える事から、アロフォーネの攻撃力はかなり低いと言う事がわかる。実数値にしたら20もないくらい。

 

攻撃力も個体値Vとするならば、種族値は限りなくゼロに近い数字となる。素早さの種族値が159で確定しているので、攻撃種族値を1と考えると、綺麗に600族になるのだ。

 

そんなこんなで、アロフォーネの種族値は憶測込みで確定した(という事にしておく)。

 

種族値だけ見れば酷い厨ポケだが……アロフォーネは『二つ目の特性』として、とんでもないデメリット特性を抱えていた。

 

 

特性『こしぬけ』(命名俺)

 

先攻後攻・命中率に関わらず、相手がこのポケモンを『確定一発』で倒せる技を持っている時、このポケモンに『こうげき』を指示する事は出来ず、ポケモンの交換を強制される。この特性によってポケモンが引っ込む時、相手の『おいうち』は失敗し、『かげふみ』『くろいまなざし』の効果は無効化される。また、この特性を持つポケモンが受けるダメージは常に最小の値となり、急所にあたらない。

 

 

……クソ長い説明になっているが、要約すると、相手のポケモンが『アロフォーネに攻撃を当てた時、確実にアロフォーネを瀕死状態にすることができる』時、アロフォーネは命令無しに勝手に引っ込んでしまうと言う事だ。さらに、この条件が満たされた状態でアロフォーネを後出ししても、アロフォーネはボールから出てこないのだ。

 

つまり、たとえアロフォーネのHPが満タンだろうが、アロフォーネが相手より先に『確定一発』で倒せる、いわゆる『縛った』状態だろうが、相手のポケモンがアロフォーネを確定で倒せる高火力の技を持っていたら、アロフォーネは戦闘を拒否するのだ。

 

『ぜったいれいど』のような命中率30の一撃必殺技を持っていても、当たったらアロフォーネは『確定で』瀕死になってしまうので、アロフォーネは戦闘を拒否する。ご丁寧に『ぜったいれいど』が出る可能性のある『ゆびをふる』を持っていても、アロフォーネは戦闘を拒否する。『みちづれ』や『ミラーコート』でも拒否する。

 

しかも、攻撃を耐えれても、その後に毒や砂嵐などのスリップダメージで瀕死になってしまう時でも、アロフォーネはボールに引っ込んでしまう。

 

極め付けには、この特性はコソクムシの『にげごし』とは違って、お互いの攻撃が終わってから発動するようなので、交代先のポケモンは絶対に『後出し』となってしまう。

 

なお『乱数一発』の時は発動しない。と言うのも、常に騎士甲冑の後ろから相手の攻撃を警戒しているからなのか、アロフォーネは必ず『最も小さい乱数ダメージ』を受ける上、相手の急所ランクが3だろうが、受ける技が『こおりのいぶき』だろうが、絶対に急所に当たらないのだ。故に、そもそも『乱数一発』という概念がなく、確定で耐えるか、確定で倒されるかのどちらかしかない。これだけは、この特性唯一のメリットと言っても良いだろう。

 

 

逆に考えると、この特性によって俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

字面だけ見れば、アロフォーネを瀕死にさせずに戦える、優秀な特性に思えるかもしれないが、全然そんな事はない。

 

 

なぜなら、アロフォーネが確実に相手のポケモンを倒せる状況でも、特性が発動したせいでポケモンを交換しなくてはならない……という状態が、普通に起こり得るからだ。

 

特性が発動した時点で、折角の高速・高火力が全くの無駄になってしまう。しかも、控えのポケモンが一匹もいない状態で発動したら、降参確定だ。

 

二度にも渡って、シロナさんとのバトルでアロフォーネがガブリアスとの対面を拒否したのは、いずれもアロフォーネのHPが、『だいもんじ』や『すなあらし』によって、ガブリアスの『げきりん』の確一圏内に入ってしまったからだ。

 

総括すると、アロフォーネの厨性能を過信して、扱い方を少しでも間違えたら、一瞬でこちらのサイクルが崩壊するという事だ。

 

特性の発動機会を減らす為にも、持ち物は『きあいのたすき』か『とつげきチョッキ』或いはナモのみで固定になってしまうだろう。どんな相手でも初手から発動する事がなくなる『きあいのたすき』が一番安定しているかもしれない。すなおこしバンギラスが出てきたら、中指を突き立てざるを得なくなるが。

 

アロフォーネは、性格も特性も臆病極まりないポケモンだ。アロフォーネについて詳しくなったとは言え、それは『数字』としてのアロフォーネだ。こいつがどういった経緯で現れたのか、どんな生態をしたポケモンなのか、まだ何も分かっていない。

 

見た目こそ少女を象った人形ではあるが、彼女は人形に取り憑き、人形と半同化状態にある心霊ポケモンなのだ。人間の言葉を理解するあたり、人間だった頃もあるのかもしれない。

 

アロフォーネは今、お気に入りの身代わり人形を抱きしめ、ぐっすりと眠っている。まあ、アロフォーネも身代わり人形も同じぐらいの大きさなので、しがみついているようにも見えるのだが…

 

 

気持ち良さそうに寝てるね。でも、俺も熟睡したいから、深夜に家具という家具を振動させるのは止めてね。

 

 

 

『ううん……ああっ……ますたが……ばんぎらすに………たべられて………むにゃむにゃ……』

 

 

 

ゴーストタイプが悪夢に(うな)されるなよ。しかも襲われてるの俺かよ。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

ある日、一通の手紙が俺のもとに来た。差し出し人はなんとあのククイ博士である。

 

 

 

『アローラ!!初めまして、マキナくん。ぼくはポケモンの技を研究しているククイという者だ。まるで面識のない相手からの手紙に驚いたかもしれないが、今この瞬間からぼくたちは友達になったのさ!!』

 

……アローラの人は、皆総じて人との距離の詰め方が大雑把なのだが、この人は特に顕著だ。なんで南国の人って大らかな人が多いんだろうな。

 

『最近の君の目覚ましい活躍は耳にしている。あのシンオウ地方のチャンピオンが「彼こそが頂点」と褒めちぎっていたと話題になっているよ』

 

シロナさん、俺の知らない所で一体何をしてくれてるんですかね?変な目立ち方はしたくないので程々にしていただきたいですね。

 

『公式戦でも連戦連勝の好成績を収めていると聞く。そんなマキナくんに話したい事が幾つかあってね……一度ぼくの研究所まで来て欲しいんだ。本来ならば、ぼくがそちらへ出向くべきなのだろうけど、ちょっと色々とあってゴタゴタとしているんだ』

 

……どうしよう。俺について色々と勘付かれているのだろうか?だが、アローラで活動していく以上、アローラの中心人物とも言えるククイ博士の要望を断るわけにはいかないだろう。ゴタゴタというのは、リーリエやUB関係の事だろうか?

 

『ぼくの研究所はメレメレ島の南端にある。ポケモンの技を何度も受けていて、随分とみすぼらしい状態になっているから、すぐに分かるはずだ』

 

研究所はボロボロになるのに、生身でポケモンの技を受けているククイ博士が五体満足なのは、絶対におかしいと思うの。

 

『無論、強制させるものではないから、断ってくれても構わない。だが、君に少しでもその気があったら、手紙を返さなくても良いから、研究所に来て欲しい。マキナくんにとっても、悪い話じゃないと思うから、いつでも待っているよ。 ククイ』

 

本文はここで終わっているが、その下に追伸が書き加えられている。

 

『忘れる所だった。 もし来てくれるなら、マキナくんが全力でバトルできると思えるポケモンを、六匹連れてきて欲しい』

 

……絶対にバトルする流れじゃないですかヤダー。

 

 

島の試練をクリアしなくては、ほとんどのZクリスタルは手に入らないし、そもそも俺はZリング自体持っていない。アローラのトレーナーとしてZ技を使えないのは致命的なので、早々になんとかしておきたい所だ。遅かれ早かれ、ククイ博士とは関わる必要がある。

 

俺は、手紙を貰った翌日にククイ博士の研究所を訪れる事にした。手持ちポケモンは、

 

アロフォーネ@きあいのたすき

ボスゴドラ@メガ石

ギャラドス@ゴツゴツメット

ナットレイ@こだわりハチマキ

カイリュー@こだわりメガネ

Hロトム@たつじんのおび

 

という編成にした。ぶっちゃけククイ博士の手持ちは、ルガルガン昼とウォーグルと御三家しか覚えていないので、各ポケモンがちゃんと役割を持てるかどうかは微妙だ。また、アロフォーネ以外はゲームから引き継がれたポケモンたちなので、技は四つしか覚えていない。

 

とりあえず六対六のバトルを仮想するならば、初手ルガルガンでステロを撒かれると、かなり厳しくなる。先発はアロフォーネに任せ、きあいだまで即粉砕する必要がある。違うポケモンが飛んできても、アロフォーネの技範囲ならばなんとかなる。

 

ウォーグルの『おいかぜ』も、アロフォーネ以外のポケモンには、素早さに努力値を一切振っていないのであまり関係はない。

 

どれが出てくるか分からない御三家だが、ガオガエンはギャラドス、アシレーヌはナットレイ、ジュナイパーはアロフォーネかロトムで見れば良い。

 

公式戦のルールで戦わないとなると、かなり厳しくなるが、火力ゴリ押しでなんとかできそうな気もする。これがフラグにならない事を祈るだけだ。

 

アロフォーネのとんでもない特性が発覚した今、アロフォーネの努力値を振り直したい所だが、一朝一夕でどうこうできるものではない。

 

 

『……うぅ……にじゅうろくこ(26個)も……まとまのみが………こんなにたべられないです………ああっ……つみのない……ひゃくにじゅうろっぴき(126匹)の……ぺりっぱーたちが………ひどいです……ますた……むにゃむにゃ……』

 

 

予知夢かな?

 

 

翌朝、腹を括った俺はエアームドにまたがり、メレメレ島へと向かった。不安要素は山ほどあるが、なにも絶対にバトルをすると決まったわけではないのだ。99.9%はバトルになるでしょうけどね。

 

博士の研究所のすぐ近くに、やたら大きな家が建っているが、位置的にあれはゲームで言う『主人公』の家ではなかろうか?それとなくククイ博士に聞いてみよう。

 

ククイ博士の研究所の上空まで辿り着いたのだが、研究所のすぐ近くに、帽子と白衣を着用した男と、子犬のようなポケモンが見える。ククイ博士とイワンコか?

 

 

「さあ、イワンコ!!ぼくに向かって『いわおとし』を撃つんだ!!」

 

「いわわん!!わん!!」

 

 

ククイ博士めがけて小さいとは言い難いサイズの岩石が放たれるが、彼の鍛え抜かれた肉体が、これを難なく凌いでみせる。

 

「いいぞ……前よりも威力が上がっている!!より強力な技を覚える為にも、もっと特訓だ!!」

 

「わん!!」

 

 

……あれもう人間じゃないよ。こんなの絶対におかしいよ。なんでポケモンの技を受けて平然としてるわけ?俺なんてこの前、育成途中のクチートにじゃれつかれて、上半身噛みちぎられそうになってるんだよ?もはや甘噛みとかそういうレベルじゃない。

 

あの変態筋肉ダルマに、いじっぱりドサイドンのがんせきほうをぶっ放したらどうなるか気になるが、そんなくだらない事を考えている場合ではないので、彼らのすぐ側にゆっくりと着地する。

 

「ん………?おお、マキナくんじゃないか!!アローラ!!」

 

「アローラ、ククイ博士」

 

エアームドから降りた俺を見るなり、ククイ博士はその真っ白な歯を見せながら、元気の良い挨拶をしてくれる。くっ……これが陰キャと陽キャの格の違いというものか……

 

「まさかポケモンに乗ってやってくるとはね。でも、危ないからちゃんとライドスーツを着る事をお勧めするよ」

 

いや、ポケモンの技を受けるような人に危険云々の話はされたくないんですが。

 

「……善処します。それで、お話と言うのは?」

 

「急に呼び出したりしてすまなかったな、マキナくん。立ち話もなんだ、研究所の中でゆっくりと話そう」

 

長時間の飛行により休息を必要としている俺は、ククイ博士の提案に思考停止で頷く。

 

研究所に入る時、何やら足元で緑色の何かが蠢いていたが気にしない事にした。ジガルデ・セルなんて見ていない。いいね?

 

 

ククイ博士に続いて研究所に入ると、天使が俺たちを出迎えてくれた。

 

 

「おかえりなさいククイ博士……こちらの方は?」

 

 

新雪のように透き通った肌。

 

シャンパンゴールドの淡い金髪。

 

純白のサマードレスに純白のつば広帽子。

 

ミスマッチなスポーツバッグ。

 

 

 

 

 

我らが大天使、リーリエである。

 

 

 

 

 

「あの……なんで泣いてるんですか?」

 

おっといかん……殿堂入り後、長らく『リーリエショック』に苦しめられていた事もあってか、生リーリエの神々しさに俺の涙腺が歓喜の声をあげてしまったようだ。

 

「……すまない、二度と会えなくなった妹(にしたいリーリエ)と、あまりにも似ていた(というか本人そのもの)んだ……みっともない所を見せてしまった」

 

「い、いえ……こちらこそ不躾な質問をしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

「君が謝る必要はない。私は、君のそんな顔は見たくない。君は誰よりも笑顔で居てくれればいい。君が誰よりも元気でいてくれれば……私はそれで満足だ」

 

 

リーリエの笑顔はワイらが守るんや!!

 

リーリエに近づく悪い虫はワイらが駆除するんや!!

 

ワイらがリーリエの虫除けスプレーになるんや!!

 

リーリエは何も気にせず、がんばリーリエしてくれれば………ワイらの人生に悔いは残らんのやで。

 

 

「わ、わかりました……その、妹さんの事、とても大切にされていたのですね」

 

当たり前である。リーリエの平和と幸福を願うのは、我々の業界では義務であると同時に権利でもあるのだ。

 

「失ってなお、家族(になりたかった(ひと))の大切さが分かるものだ」

 

一体、どれだけの数の紳士たちが、自分の力で母を救い出さんと動き出すリーリエの健気さに涙を流し、二度とリーリエに会えなくなると言う事実に身を引き裂かれるような心的ダメージを負った事だろうか。次の作品でリーリエが出てこなかったら、ダイナマイトと共にゲーフリに突撃する奴が現れるくらいの勢いである。

 

「……ふむ、やはり噂と言うものはアテにならないものだな」

 

俺が爆発寸前のリーリエ愛を必死に抑えている横で、ククイ博士が意味深な呟きをしているが、今の俺におっさんの事など気にしている余裕はない。リーリエかわいいよリーリエ。

 

「すまないがこの人と大事な話がしたいんだ。少し待っていてくれ」

 

「……?わかりました、ロフトで待っていますね」

 

ああ、我が天使がお帰りになられる……

 

天使がロフトへと上がるためのハシゴから落ちないように、守護者の眼光で俺はリーリエを見届ける。

 

「マキナくんはここに座っていてくれ。何か飲める物を持ってくるよ」

 

「いえ、それには及びません。早く話を進めてください」

 

こちとら少しでも、あんたと話してる時間をリーリエとリーリエする時間に回したいんだよ!!

 

「ははっ、随分とせっかちじゃないか。まあ、マキナ君も忙しい中来てくれているわけだしね。先に結論から伝えていこうか」

 

今まで朗らかに笑っていたククイ博士が、そのハンサムフェイスをキリリと引き締める。

 

 

 

「マキナくん、君にアローラの初代チャンピオンを勤めて貰いたいと考えているんだ」

 

 

 

…………はい?

 

 

 

ちょっと話が見えないんですけど。どういう事?俺が出来立てほやほやのアローラリーグのチャンピオンを任せられるって事?

 

………慌ててはいけない。ここで俺が、本来知っているはずのない情報を口走ってしまうと、取り返しのつかない事になる。

 

 

 

「………仰っている意味が分かりません」

 

「そのままの意味さ」

 

「アローラには他の地方と違って、ポケモンリーグは存在しないはずです。それなのに、トレーナーになって日の新しい私がアローラの初代チャンピオンとは、一体どういう事でしょう?」

 

「だから、そのままの意味さ。近いうちに新しくできる、アローラリーグの初代チャンピオンを、君に任せたいと言っているのさ」

 

「……質問は後でまとめてします。順を追って全てを説明をして貰いたいです」

 

「勿論そうさせてもらうつもりだよ。まず、ウラウラ島のラナキラマウンテンに、新しくアローラのポケモンリーグを建設する予定で……いや、設備はもう完成に近い状態だ。今はもうすでに、チャンピオンに挑む資格があるかを見定める『四天王』を探しているところなんだ」

 

「つまり、今現在ククイ博士は、リーグを設立するべく東奔西走されているという事ですか?」

 

「そんなに大仰な事はしていない。アローラにいるトレーナーの中でも、実力のある人たちに声をかけて回っているだけさ。まあ、四天王は追い追いなんとかするとして……問題はチャンピオンだ。四天王を最初に突破した者が初代チャンピオンで良いのかもしれないが……それだとなんだかしっくり来ないんだ。ぼく自ら、挑戦者の実力を見定めようとも思っていたんだけど、ぼくはそういう柄でもない」

 

「……だからと言って、私に白羽の矢が立つ理由にはならないでしょう。名実共に釣り合っていない」

 

「ははっ、シンオウの『無敗のチャンピオン』を圧倒したマキナくん以上のトレーナーが、このアローラにいるとは思えないぜ。そしてなにより……それを確かめる為にも君をここに呼んだのだからね」

 

 

ちょっと戦闘フラグ立つの早すぎんよー。

 

 

「それに、私は島巡りもしていないような、しがない新米トレーナーだ。私以上のトレーナーなんてごまんと居るでしょう」

 

「まあその辺りも含めて話させて貰うよ。まず、マキナくんには島巡りをして貰いたいと考えている。当然、ぼくが強いる事なんてできないから、君の意思を尊重した上で…だ」

 

 

まさか、向こうから島巡りの話をしてくれるとは思っていなかった。これは嬉しい誤算だ。この話に乗っからないのはあり得ない。

 

 

「……それは願ってもいない。よりポケモンたちと共に強くなれると言うのなら、断る理由など見つかりません」

 

「やる気は十分のようだね。ぼくも島巡りのサポートに尽力するつもりだから、是非とも頑張って試練を乗り越えて欲しい。……それに付随して、もう一つ頼まれて欲しいんだ」

 

「……なんでしょう」

 

「実は、マキナくん以外にも島巡りをする子が二人居るんだ。一人はこのメレメレ島の島キングであるハラさんの孫にあたる『ハウ』。そして、もう一人は最近カントー地方から引っ越してきた女の子『ミヅキ』だ」

 

やっぱりこの世界にも『主人公』がいたようだ。別人かもしれないが、カントーから引っ越してきたという部分はあまりにも酷似している。サンムーンには主人公のデフォルトネームが無かったので、名前での判別はつかないが、お馴染みの赤いニット帽を被っていたらほぼ確定だろう。

 

「この子たちも立派なトレーナーだから、ぼくたち大人がそこまで過保護になる必要はないだろう。だが、彼女たちはまだ14歳にもなっていない。少しでも危険のないようにしてあげるべきだ」

 

「そうですね。島巡りは長い旅路になるでしょうし、野生のポケモンを相手にする以上、危険は付き物です。可能な範囲でリスクマネジメントはさせてもらいますよ」

 

この世界じゃ、野生ポケを相手に手持ちのポケモンを全滅させられたら、目の前が真っ暗になるどころの騒ぎじゃない。ゴー・トゥ・ザ・ヘヴンである。俺は天国にいけるかどうかすら怪しいが。まだ四季映姫さんには会いたくないです。

 

「そう言ってくれると助かるよ。それに加えて、君にはリーリエの事も気にかけて欲しいんだ」

 

「リーリエ?一体どなたの事でしょうか」

 

ブハハハハハハ!!見くびって貰っては困るなぁ、ククイ博士よ!!なんとお粗末なカマカケをしてくれたものだ。デスノートを四周くらい読んでいる俺に死角は無いんだよ!!

 

 

大天使リーリエよ。森羅万象に救いの光を齎す貴女を、存ぜぬと嘯いた私めの大罪を許したまえ…

 

 

「……いやあ、これは失礼。さっき、帽子を被った金髪の女の子がいただろう?あの子はリーリエと言って、少し複雑な事情を抱えた子なのだが……君に打ち明けて良いものか、少し決めあぐねているのさ。不快に思うかもしれないが、それだけ彼女の事は安易に話せる事じゃないんだ。だが……」

 

 

 

そんなものは断じて認められるものか。

 

 

 

「ククイ博士。回りくどいのはあまり好きではありません。早く、私という人物を()()()みてはどうですか?私はいつでも準備は整っています。貴方が戦いたいと言えば……私はいつでも戦える」

 

 

 

大天使リーリエに、お近づきになれるか否かを定める勝負に、負けられるわけがねぇんだよ。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

ククイは初めて、強者から放たれる覇気というものに気圧されていた。

 

 

 

マキナというトレーナーは、冷酷で、非道で、名声を貪るためならなんでもする人間だ。それが、ククイが最も耳にしたマキナという人物像だ。

 

一方で、彼と浅くない関係を持っていると言われているシンオウチャンピオンは『誰よりも熱い心を持った男』だと評している。

 

百聞は一見に如かず。一端の博士であるククイは、己の目で確かめてこそ、それが自分にとっての真実となり得ると考えていた。

 

故に、マキナをこの研究所へ呼んだのは他でもない、ククイ自身の目によって、彼を見定める為だ。

 

 

感情の薄い男だ、というのがククイにとっての第一印象だった。しかし、研究所に入った瞬間に、その評価はひっくり返る事となる。

 

 

研究所に入ったククイたちを、リーリエが出迎えてくれたのだが、マキナはリーリエを見た瞬間に、これでもかという程に目を見開き、食い入るように見つめていたのだ。

 

 

ククイはかなりの動揺を覚えた。しまった、マキナはエーテル財団に関わりのある男だったのか……と、己の短絡的な行動を後悔した。が、それもすぐにかき消される事となる。

 

 

 

マキナは涙していた。

 

 

 

当のリーリエは勿論の事、ククイもいきなりのマキナの変化にたじろいだ。

 

マキナ曰く、リーリエが死別した妹に似ていたようで、大切にしていた家族を想起してしまい、思わず感情が溢れてしまったようだ。

 

 

この時点で、ククイの中では『マキナ悪人説』に疑問符が浮かび上がっていた。

 

 

マキナは、失った家族に対する熱い感情を溢し、彼が亡き家族を描いてしまうリーリエに、笑顔でいてくれと懇願した。

 

ロフトへと戻っていくリーリエを、忠誠を誓った守護者(ガーディアン)のごとく、最後まで見送っていた。

 

 

(これが……『機械』と呼ばれた男なのか……?)

 

 

マキナの豹変ぶりに、ククイは驚きと戸惑いを隠せなかった。しかし、リーリエの姿が見えなくなるとマキナはまたしても感情を悟らせぬ無表情になる。少し不機嫌になっているような気がしなくもないが…

 

この男の人間や本性が分かったわけではないので、ククイは問答を通じて、マキナという男の中身を引き出そうとした。

 

 

ーーーリーグチャンピオンにならないか?

 

 

名声のためなら手段を選ばないと言われているマキナだったが、いきなりこの話に食いつく事はなく、純粋に訳が分からないといった様子で首を傾げていた。それどこか、自分では力不足だとも言い切ったのだ。

 

 

ーーー島巡りをしてみないか?

 

 

この提案には、ノータイムで食いついてきた。今よりもさらに強くなれるのなら是非もない……そんな事をにべもなく言い切れる彼には、確かな向上心があるのだろう。無敗のチャンピオン・シロナを圧倒したというのにも関わらず、己の実力に対する奢りや昂りはないようだ。

 

 

ーーー子供たちの面倒を見てくれないか?

 

 

そんな押し付けがましい要望にも、彼は嫌な顔を見せる事なく、応えてみせると言い切った。私利私欲を貪る人間であるならば、間違いなく難色を示しているはずだ。

 

 

ーーーリーリエの事も頼むよ。

 

 

念には念をと言う事でカマカケをしてみたが、彼はリーリエとは誰だと答えた。これで彼がリーリエにとって脅威となり得る人物でないことは、ほぼ証明できただろう……

 

 

 

そう思ったククイが、マキナに全てを話そうとした時、マキナが自ら『化けの皮』を剥いだのだ。

 

 

 

本性を剥き出しにした彼は、餌を捕食せんとする猛禽のような鋭い視線で、ククイを射抜いた。

 

 

 

ーーー回りくどいのは嫌いだ。

 

 

ーーー俺を疑っているのだろう?

 

 

ーーーさっさと俺を試せ。

 

 

 

 

 

ーーーマキナという人物が一体何なのか、お前にも教えてやる。

 

 

 

 

 

最後だけは、言葉ではなく、闘志を垂れ流す背中で語っていた。

 

 

 

 

ククイの背筋をゾクリとした寒気が駆け抜ける。

 

 

 

 

これから、マキナが一度も見せた事のない『ルール無用の六対六』のポケモンバトルを挑むつもりだ。

 

 

 

 

だが、マキナという男の目は、確かに語っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

自分が負けるなど、絶対にあり得ぬ事だ……と。

 

 

 

 




悲願のリーリエを書けたワイ、むせび泣く(なお、ちょっとしか喋ってない模様)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。