無/霊タイプの厨ポケが現れたようです   作:テテフてふてふ

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おまたせ。インターバル回しかなかったけどいいかな?


14:ベッドソムリエ

半ば強制的にミヅキとリーリエのお泊まり会が決行されてしまったので、俺はミヅキとリーリエを引き連れてポケリゾートまで帰ってきた。流石にエアームドに三人も乗るのは危ないので、モーンのおっさんに船舶を出してもらった。

 

帽子が風で飛ばないように手で押さえている姿がとても天使です。さすが、生まれた時から現在に至るまで天使を務めてきただけの事はある。

 

因みにルザミーネさんは40年以上は天使を務めているので、もはやもっと高次的な別の存在へと昇格している。ルザミーネさんは天使であり、聖母であり、女神なのだ。我々のような塵芥に等しい人間が、ルザミーネさんを偶像崇拝しようものなら、頭おかしくなって死ぬ。

 

ミヅキちゃんは、船舶と並走して空を飛んでいる、野生のキャモメをジッと眺めている。

 

「マキナさん、五つの島が見えてきました。どれがマキナさんのリゾートなんですか?」

 

ようやくリゾートが見えてきた所で、リーリエが疑問を口にする。

 

「どれも俺の島だ。ポケリゾートはポケマメを栽培するのびのびリゾート、きのみを栽培するすくすくリゾート、宝探しのできるどきどきリゾート、アスレチックがあるわいわいリゾート、温泉の湧き出るぽかぽかリゾートの、計五つのリゾートで構成されている」

 

「す、すごいですね……」

 

どうせなら全部見ていって欲しい所だが、どきどきリゾートは洞窟となっていて、人間が潜るには少々難があるし、わいわいリゾートはいじっぱりなポケモンたちが、四六時中ドンパチをしているので、危険が危ない。とりあえず一番安全そうな、のびのびリゾートで遊んで貰う事にした。

 

「わぁ……ポケモンさんたちが一杯いますね!!エーテルパラダイスと同じぐらい凄いです。でも、エーテルパラダイスと違ってとても解放的だから、ポケモンさんたちも気持ち良さそうにしてますね!!」

 

少し興奮気味なリーリエが、思い思いにくつろいでいるポケモンに駆け寄ろうとするが、ミヅキがリーリエの手を掴んで引き止める。

 

「ミヅキさん……?あっ……そ、そうですよね。一緒に行きましょう」

 

ミヅキの何らかの意図を察したらしいリーリエが、ほのかに赤面しながらミヅキと手を繋いだまま、ゆっくりと歩き出す。ミヅキも満足げに頷くと、リーリエの歩調に合わせて歩き出す。

 

因みにこの時点で俺は、ミヅキのお母さんから預かっているカメラで、十枚以上の写真を撮っている。当然だよなぁ?

 

「ん……?マキナさんのポケモンさんたちは、何を一緒懸命集めているのですか?」

 

真面目にポケマメを回収しているサーナイトたちが気になったのか、リーリエは首を傾げながら訊いてくる。

 

「足元を良く見てみろ。リーリエたちの足元にもたくさん落ちているはずだ」

 

「あ、本当です。これは……えっ!?これ全部ポケマメですか!?」

 

「そうだ」

 

「す、凄い量ですね……もしかして、あの大きな木から落ちてくるんでしょうか?」

 

「ああ。最近、凄い勢いでポケマメの木が成長しているせいか、一日に落ちてくる量が尋常じゃないんだ」

 

「へぇ…そうなんですね。あの、ほしぐもちゃんにも食べさせてあげても良いでしょうか?」

 

「全く問題ない。ミヅキも、好きなだけポケモンにあげてくれて構わないぞ」

 

ミヅキはコクリと頷くと、手持ちのポケモンたちを次々とボールから出していく。

 

「ありがとうございます。ほら、ほしぐもちゃんもちゃんとお礼しないと」

 

「ピュイ!!」

 

ほしぐもちゃんは見たことのない場所に来れて喜んでいるのか、リーリエのスポーツバッグから出てくるなり、俺のポケモンたちがいる方へと飛んで行ってしまった。

 

「もう……ほしぐもちゃんは警戒心がなさすぎます」

 

リーリエは無鉄砲なほしぐもちゃんが心配で仕方ないのだろう。だが、のびのびリゾートには温厚な性格のポケモンしかいないので、喧嘩になるような事はあるまい。

 

ふとミヅキの方を見やると、すでに自分のオシャマリにポケマメを与えていた。ミヅキが合図を出すまで勝手に食べないあたり、トレーナーとして理想的な信頼関係が、ポケモンとの間に築かれているのであろう。俺なんて、毎日のようにいじっぱりなギャラドスに腕ごと食われそうになっているというのに、大したものである。俺のトレーナーとしての資質が、絶望的である可能性も十分にあり得るが。泣きそう。

 

見慣れないポケモンがいて気になったのか、俺のカイリューが興味津々といった様子で、ミヅキやリーリエにふよふよと近づいてくる。

 

「とっても大きなカイリューさんですね。ミヅキさんのオシャマリさんも、いつかはこれくらい大きくなるんでしょうか?」

 

大天使リーリエよ、流石にアシレーヌはそこまで大きくなりませんぞ……そんなに巨大なアシレーヌがいたら、サザンドラがマジ泣きしてしまいます。

 

リーリエはポケマメを一粒拾い上げ、カイリューに差し出す。カイリューは嬉しそうに翼をパタパタさせると、笑顔でポケマメを咀嚼し始める。

 

「えへへ、とてもおりこうさんですね」

 

行儀よくポケマメを食べるカイリューを労うようにして、リーリエがカイリューの鼻先を優しく撫でる。おう、カイリューそこ代われや。

 

ポケマメを与え終わって満足したのか、ミヅキちゃんが自分のポケモンたちを次々とボールへ引っ込めていく。同時に、ショルダーバッグから何かをゴソゴソ取り出した。

 

 

二着の水着だった。

 

 

「……そろそろ海で遊びたいのか?」

 

俺がそう尋ねると、ミヅキはコクリと頷く。

 

しかし、ミヅキは相変わらず、これ見よがしに二着の水着を掲げており、ほしぐもちゃんと遊んでいるリーリエを呼びに行こうとする様子はない。

 

「……まさか、俺に水着を選べと?」

 

ミヅキはコクリと頷く。童貞になんて無茶振りをしやがるんですか。こっちの事情も考えてよ。

 

水着はホルターネックとラッシュガードの二種類だ。

 

ホルターネックはパステルカラーを基調とした色合いで、胸元に太い結び目のある水着で、下はミニスカートのようにひらひらとしたデザインとなっている。

 

ラッシュガードは薄桃色のビキニの上から、真っ白なパーカーのようなものを着るスタイルのものだ。

 

パステルカラーな色合いと言い、胸元の結び目と言い、ミヅキが普段から着ている服のイメージにマッチしているので、ホルターネックの方似合う気がする。

 

「ミヅキにはそっちのホルターネックが似合うと思うぞ」

 

俺が恐る恐るファイナルアンサーを告げると、ミヅキは十秒間くらいの沈黙を挟んだ後に、コクリと頷く。今の間は何だったんですかね。

 

「すみません、ほしぐもちゃんが全然言う事聞かなくて、なかなか戻ってこれませんでした……って、ミヅキさん……もう水着に着替えるのですか?」

 

ミヅキがリーリエの問いに頷くと、リーリエはどこかモジモジとした様子で言葉を紡ぎだした。

 

「あの……私、そっちのパーカーみたいな水着が良いです」

 

都合の良い事に、リーリエはラッシュガードの方をお気に召されたようだ。

 

大天使リーリエよ。未だ何にも染まる事なく純真無垢な御心をお持ちの貴女は、さぞや水着をお召しになられる事に、少しばかりの抵抗と羞恥を覚えていらっしゃるのでしょう。

 

しかしながら私どもめの愚考を述べさせていただきますと、むしろラッシュガードの方が絶妙なエロスを感じますぞ。なぜなら、ラッシュガードは水に濡れると、下に着るビキニがお透けになられるからです。世の男たち全てを悩殺する、大量殺戮兵器と化しますぞ。無垢なる魔性(イノセントチャーム)でございますな。

 

ミヅキの母親から預かっているカメラを潤す為にも、大天使リーリエにはそれを着てもらいます。下心などありません。それが世界の選択です。

 

「じゃあ、ミヅキちゃんと着替えてきます。……覗いたらダメですからね?」

 

「当たり前だ。聖母に誓って覗かない。覗いたら自害をもって謝罪する」

 

「別に死ななくても良いですよ!?あ、でも覗くのは本当にダメですからねっ」

 

リーリエは用心深く釘を刺すと、ミヅキの手を引いてポケマメの木の裏側へと行ってしまう。心なしかサーナイトたちがトゲトゲしいテレパシーを送っている気がするので、紳士的に待つ事にした。

 

 

 

数分後には、ホルターネックを着たミヅキちゃんと、ラッシュガードを着たリーリエが現れる。とりあえず俺は無言でカメラのシャッターを切る。

 

「ど、どうですか?似合ってますか?ちょっ、いきなり写真を撮らないでくださいっ!!」

 

おお、大天使リーリエよ!!お怒りになられる姿もなんとお美しい事か。おこリーリエなさっても、更に良い一枚が撮れるだけですぞ。

 

「二人とも良く似合ってるぞ。せっかくだから、海を背景にしてほしぐもちゃんやオシャマリたちと一緒に、記念撮影でもしたらどうだ?」

 

「そうですね……ミヅキさん、どうしますか?」

 

まだ写真を撮られる事に抵抗があるのか、顔を赤らめたリーリエがミヅキに判断を委ねるが、ミヅキは是非もないと真顔で頷く。

 

「よし、じゃあ二人とも近づいて。もっと……もっとだ。もっと近づいて」

 

「あの、マキナさん……すでにミヅキさんにくっついちゃうくらい近いんですが……」

 

むしろ、くっついちゃう以外の選択肢があるのでしょうか?

 

リーリエは視線が安定しておらず、恥じらいを隠しきれていない様子だが、作り笑顔をされるよりも全然きゃわわなので、そのままシャッターを切る。

 

完璧な一枚だ。ミヅキちゃんが真顔じゃなかったら最高でしたね。

 

記念撮影を終えた二人は、どちらともなく海へと駆け出し、嬉々として水遊びを始める。

 

おお、大天使リーリエの天衣が透けておられる……くっ、なぜ連写機能が付いていない!!大天使のベストショットを逃してなるものか!!俺のリロードはレボリューションだ!!

 

 

 

撮影した大量の写真を確認するべく、データをプレビューしていた時、突如として事件は起こった。

 

「きゃあっ!?」

 

大天使が悲鳴をあげているではないか。俺は靴がぶっ壊れるくらいの勢いでリーリエの元へと急ぐ。

 

「どうしたリーリエ!?」

 

沿岸にはギャラドスやマリルリなどの、俺のみずポケモンがウジャウジャいるので、野生のサメハダーなどはそうそう近寄れないはずだ。リーリエの身に一体何が……

 

 

俺は言葉を失った。

 

 

リーリエとミヅキが、全身に白濁液を浴びていた。

 

 

「うぅ……熱くて…ドロドロしてます……」

 

 

やたらと粘度の高い白濁液が、ミヅキとリーリエの頰を伝い、顎先や鼻先からゆっくりと滴り落ちている。

 

 

いけない。これはいけない。

 

 

R-18タグが点滅している。ヨーグルトとかカルピスとか、そんな生易しいレベルじゃない。完全にアウトだ。具体的に何がアウトかは言えないが、とにかくアウトだ。

 

 

「……一体何があったんだ?」

 

「その、ミヅキさんと二人で浜辺を歩いていたら、私がナマコブシさんを踏んじゃって……そしたら、ナマコブシさんが急に爆発したんです」

 

……どうやらリーリエが、ポケマメにつられてやってきた野生のナマコブシを踏み潰してしまい、特性の『とびだすなかみ』が発動してしまったようだ。だとすれば、二人とも怪我をしている可能性が大いにあり得る。

 

「二人とも怪我はしていないか?」

 

「いえ、怪我とかはしませんでしたが、ベトベトしてて気持ち悪いです……」

 

ミヅキもふるふると首を横に振っているので、外傷はないようだ。良かった…二人に怪我をさせたとあっては、リーリエ教の背信者として国際指名手配されてもおかしくない失態である。

 

「怪我が無くてなによりだ。ただ、そのままだと気分が悪いだろう?少し早い気もするが、ぽかぽかリゾートの温泉で、身を清めたらどうだ?」

 

温泉と聞いた瞬間、ミヅキちゃんの目がキラーンと光った気がしたが、多分気のせいだと思う。

 

「ほ、本当ですか!?ぜひお願いします!!その、ナマコブシさんの、白くて濃い体液が髪に絡まって……臭いもすごいですし……なによりドロドロしてて…………ちょっとマキナさん!?なんで写真撮ってるんですか!!」

 

 

この一枚は御神体として、パソコンの奥底にて祀らせていただきます。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ぽかぽかリゾートに二人を送ってから一時間後ほど経った今、神聖なる(みそぎ)を終えたリーリエとミヅキがエアームドに乗って戻ってきた。

 

今後、あの温泉から孵化するポケモンたちは6V確定になるだろう。大天使リーリエが湯浴みなさった温泉で孵化したタマゴが、糞個体値とか絶対にあり得ないし許されない。

 

二人とも既に水着から部屋着に着替えており、いつでも寝られる格好だ。リーリエはミヅキから服を借りたのか、普段のリーリエとは一味違う、カジュアルなスタイルだ。リーリエは何を着ても美しいという事が証明されてされてしまったようだ。

 

長風呂だったせいか、ミヅキもリーリエも、ほんのりと上気している。だが、リーリエだけ異様に顔が赤いような気がする。

 

「……どうしたリーリエ?顔が赤いぞ」

 

「ふぇ?い、いえ…なんでもありません、少しのぼせちゃっただけです」

 

……その割にはやたらソワソワとしているし、何度もミヅキの方をチラ見しては、更に顔を赤くしている。

 

一方でミヅキちゃんは、安心と信頼の真顔でありながらも、どこか顔がツヤツヤとしている……ような気がする。

 

うん、これは何かありましたね。ミヅキ×リーリエなのかリーリエ×ミヅキなのかはわからないが、確実に何かありましたね。後でお兄さんにも聞かせてもらうからね。

 

気がついてみれば、すでに陽は傾き始めており、アローラの夏空が朱に染まり始めている。腹も減ってきたし、そろそろ家に戻る時分だ。

 

二人を連れてすくすくリゾートに戻ると、一面に広がるきのみ畑に圧倒されたのか、リーリエが嘆息を漏らす。

 

「すごいです……これ、全部きのみのなる木ですか?とても甘い香りがします」

 

きのみ畑に興味を持ったのはリーリエだけでなく、ミヅキもキョロキョロと辺りを見渡している。

 

「ああ。その辺にいるドレディアに欲しいきのみを伝えれば、採ってきてくれるはずだ。まあ、うちでは育てていないきのみもあるが……」

 

俺の言葉を聞いたリーリエは、目をキラキラと輝かせてドレディアに話しかける。かわいい。

 

「ドレディアさん、モモンのみを採ってくれますか?」

 

おお、大天使リーリエよ。モモンのみは貴女のすぐ目の前に実っておりますぞ……

 

「あ、こんなに近くにあったんですね……マキナさん、いただいても良いですか?

 

「当然」

 

リーリエは顔を綻ばせると、もぎたてのモモンの実に齧りつく。食べ方自体はワイルドなはずなのに、リーリエが食べると凄く上品に見える。これが育ちの違いというものか……

 

「とても甘いですね。あっ、中は結構スカスカなんですね」

 

「モモンのみは可食部が少なく、中はほとんど空洞になっているんだ。その分、甘みも他のきのみより凝縮されている」

 

その甘さと手頃な量が好評だったのか、女性から人気を集めているきのみだ。ちなみに、シロナはモモンのみを相当気に入ったのか、リゾートから帰る時に十個くらいモモンのみを豪快にもぎ取っていった。女子力の足りてないシロナさんかわいい。

 

「あの……マキナさん。ミヅキさんはどこに行ったのでしょうか?」

 

モモンのみを食べ終えたリーリエが、ミヅキが見当たらない旨を伝えてきたので、俺も一緒になってミヅキを探す。いくら広大とはいえ、迷子になるような事はないと思うのだが……

 

「ま、マキナさん!!あれってミヅキさんじゃないですか!?」

 

上擦った声をあげるリーリエに視線を移すと、リーリエは何やら上空を指差している。

 

 

リーリエの指差す先には、真顔のまま目を輝かせているミヅキが、サザンドラにまたがり上空を駆け回っていた。

 

 

何やってんのあの子。

 

 

よく見るとミヅキは、右手にロメのみ、左手にニジマメを握りしめている。どちらもポケリゾートで収穫したものなのだろう。

 

ミヅキがそれらをサザンドラにチラつかせるたび、サザンドラは媚を売るような表情で飛行を続けている。ミヅキの目は更に輝く。

 

「はわわ……何やってるんですかミヅキさん!!ちょっとマキナさん、写真なんて撮ってる場合じゃないですよ!?」

 

おお、大天使リーリエよ。何をおっしゃるか。近い未来、アローラ史上最高のトレーナーになるミヅキちゃんがサザンライダーだった頃の写真が撮れたのですぞ?10年後の教科書に載っていてもおかしくない一枚と言えましょう。

 

しばらく写真を撮っていたら、おこリーリエから激おこリーリエに神化なさったので、ミヅキちゃんを呼び戻して、軽く注意しておいた。こんな幼気(いたいけ)な少女が、嬉々としてサザンドラにまたがっているとか、あのゲーチスさんもビックリですよ。

 

ついでに、サザンドラにロメのみを与えるなとも言っておいた。人が苦労して振り切った特攻努力値になんて事をしてくれるんだ君は。

 

 

ようやく二人を家にあげる頃には、とうに日没を迎えていた。

 

「かなり良い時間になってしまったな……急いで夕食を作るから、二人は適当にくつろいでいてくれ。退屈だったら、家の中を見て回ってくれても構わない」

 

二度にも渡ってシロナのアポなし訪問テロを食らっているので、見られて困るような物は全部片付けてある。ミヅキは真顔で頷くとリビングを出て行ってしまったが、リーリエはリビングで昼寝をしていた俺のエルフーンを、モフモフしながら楽しそうに微笑んでいる。俺は料理をしながら写真を撮るという神業を披露して差し上げた。人間、愛と信仰心さえあれば大体の事は可能なのだ。

 

『……ますた、おんながきていますね。まあ、こんかいはふたりともこどもなので、おおめにみましょう。ますたは、わたしのようなおとなのじょせいにしか、きょうみがないですからね』

 

いつの間にか起きていたアロフォーネが、『ふたりとも、わたしのあいてになりませんね…』と、鼻で笑っていた。他のポケモンにポケマメを奪われただけでガチ泣きするような奴が大人の女性とか、片腹痛いんですけど。

 

 

 

途中、アロフォーネがポルターガイストでリーリエをビビらせようと画策していたが、そんな事したら柔軟剤無しで洗濯機にぶち込むぞと脅したらおとなしくなった。ビビらせるならミヅキちゃんにしろ。あの子から真顔以外の表情を引き出したら勲章ものだぞ。

 

アロフォーネと無益な詭弁を弄しながらも、三人分の夕食を作り終えた。しかし、未だにミヅキがリビングに帰ってきていない。仕方ないのでリーリエと共に彼女を探し回ったのだが、ミヅキは俺の寝室にいた。

 

 

ミヅキは、真顔で俺のベッドに横たわっていた。

 

 

「……ミヅキ?」

 

 

思考回路がショートしつつあったが、なんとか俺が声を捻り出すと、ミヅキは真顔のままジッと俺の事を見つめてくる。じゃけん質問には答えましょうね〜。

 

「もう、()()ですか?ミヅキさん、人のベッドで寝たらダメですよ。しかも、マキナさんは男の人なんですから。……ベッドソムリエの血が騒いだ?意味がわかりません。とにかくマキナさんのベッドはダメですっ。……えっ、私のベッドですか?み、ミヅキさんならダメじゃないですけど……」

 

 

 

ミヅキちゃんまじミヅキちゃん。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

なんとかしてミヅキを俺のベッドから引き剥がし、三人で夕食をとった。

 

ミヅキは普段から無口だし、俺もリーリエも食事中に喋るのはあまり好きじゃないので、静かな食事風景となってしまったが、別に気まずいという事はなかった。大天使リーリエと共に食卓を囲んだとか、末代まで誇りとして語り継がれるであろう。俺が子孫を残せるかどうか心配で仕方ないが。

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

リーリエから労いの言葉をいただくと、ミヅキも同調するように頷いてくれた。リーリエは家族と離れ離れになって以来、大人数で食事を共にする機会は少ないだろう。彼女にとって暖かな食事となったのならば、料理に腕をふるった俺としても大満足だ。

 

しかし、リーリエは食事中から何やらソワソワとしているのだ。お花摘みだろうか?

 

「…トイレはリビングを出た突き当たりにあるぞ?」

 

「ありがとうございます。でも、そうじゃないんです……」

 

「それは失敬。どうしたんだ?」

 

俺が改めて問いただすと、リーリエは上目遣いで俺に質問を返してきた。

 

「あの、マキナさん。ずっと気になっていたのですが……あれはもしかしてテレビゲームではないでしょうか?」

 

WiiUに熱い視線を送る大天使リーリエの美しき碧眼が、キラキラしていた。

 

「……リーリエはゲームをした事がないのか?」

 

「はい。にいさまがやっている所なら何度も見ているのですが……」

 

確かにグラジオお兄様はゲーム好きそうだしな。主人公に『†強者の翼†』みたいな名前つけてそう。

 

「……リーリエもやってみるか?」

 

「良いんですか?」

 

「ああ、ミヅキも一緒に遊ぶか?」

 

俺の誘いにミヅキはノータイムで頷いたので、食器類を食洗機にぶち込んだ俺はWiiUの電源を入れる。

 

「私、知ってますよ。この、こんとろぉらぁという物で操作するんですよねっ」

 

俺からコントローラーを受け取ったリーリエが、自慢気な表情でそう仰った。流石は大天使リーリエ、よくご存知で。しかしながら持ち方が逆ですよ、リーリエ。

 

ミヅキは慣れた手つきでコントローラーを握っているので、ゲームをした事はあるのだろう。リーリエのようにゲームをした事すらない女の子が多いというのに、大したものである。

 

問題はソフトだな。いきなりイカとかは流石に厳しいだろうし、あまり操作が難解なものは厳しいだろう。

 

リーリエのセンスを様子見するのも兼ねて、最初はスマブラにした。多少なりポケモンも出てくるので、とっつきやすさもあるだろう。

 

「わぁ……なんだかたくさんのキャラクターがいますね。あっ、ピカチュウさんやルカリオさん、ゲッコウガさんもいますね!!」

 

「ああ、その中から好きなキャラクターを選んでくれ」

 

「じゃあ、私はこのピンク色の子にしますね」

 

リーリエは桃色の悪魔を選んだようだ。復帰もしやすく、シンプルな技ばかりなので、初心者には持ってこいと言えよう。

 

ミヅキちゃんは赤い帽子を被った超能力使いの少年を選んでいた。もうこの時点で嫌な予感しかしないが、気にしない事にした。

 

「このゲームは他の人が使っているキャラクターをステージの外に押し出して、最後に残った人が勝ち……というゲームだ」

 

ざっくりと説明してから、ゲームを開始した。

 

 

「あ、ここを押すと空を飛べるんですね!!えへへ、ぽよぽよしててかわいいです」

 

 

かわいいのはリーリエなんだよなぁ。

 

 

俺が大天使リーリエの慈愛に満ち溢れた笑顔に見惚れていた……その一瞬の隙を狙うかのようにして、事件が起きた。

 

 

ミヅキちゃんが俺のリザードンを『下投げ→空中前攻撃→空中前攻撃→空中前攻撃』のコンボで場外に押し出し、俺が慌てて復帰しようとした所にメテオをぶち込んできたのだ。

 

 

あかん、この子ガチや。

 

 

「わぁ……ミヅキさんとても上手ですね!!にいさまみたいな指捌きです!!」

 

リーリエが賞賛の声をあげると、ミヅキちゃんはそれほどでもないと、真顔で(かぶり)を振る。その堂々たる姿や、王者の風格が滲み出ている。

 

リーリエはミヅキちゃんに瞬殺で倒されてしまったが、俺はなんとかミヅキちゃんに負けずにすんだ。まさか子供を相手に、本気を出す事になるとは思わなかった。

 

「ま、まあ…このゲームはリーリエには難しかったかもしれない。他のゲームに変えよう」

 

俺は冷や汗をかきながら、強引にソフトを変えた。先ほどから、ずっとミヅキちゃんが真顔で俺の事を見つめているが、気にしてはいけない。

 

次に選んだゲームは、子供から大人まで楽しめるマリオカートだ。スマブラほど使うボタンも多くないので、さっきよりかは幾分マシだろう。

 

 

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

 

「マキナさん、私の周りに誰もいませんが、私は独走状態でトップと言う事でしょうか?えへへ」

 

「リーリエ、逆走しているぞ」

 

「わぁ……急なカーブですね……」

 

「リーリエ、体を傾けても意味はないぞ」

 

「あっ、誰ですか!?ジャンプ台の前にバナナの皮を捨てた人は!?がっかりです!!」

 

「ミヅキだ」

 

「ちょっ、誰ですか!?アイテムブロックに偽物のアイテムブロックを重ねて置いた人は!?ひどすぎます!!」

 

「ミヅキだ」

 

 

 

リーリエは尊かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

その後もダラダラとゲームをしていたのだが、俺はふとある事を思い出した。

 

「あっ、そうだ。リーリエは誕生日とかにどんな物をプレゼントされているんだ?」

 

俺が唐突にそう問いかけると、リーリエは暫しの間考え込んだ後に答える。

 

「誕生日プレゼントですか……その時によって違いますが、髪留めなどのアクセサリーや、手鏡など身だしなみを整える時に使う物が多いですね。ポッチャマさんの人形をもらった事もありますが…」

 

「ポッチャマ…」

 

「はい。一生懸命考えて選んでくれた物なら、何をもらっても嬉しいですが、やっぱりオシャレとかに使えるものだともっと嬉しいですね」

 

リーリエがそう言うと、隣で聞いていたミヅキもコクコクと頷く。

 

「…ポケモンを貰ったりとかは?」

 

「私は無いですね。お金持ちの人とかは、エネコロロさんみたいなペットとして人気の高いポケモンを贈ったりすることもあるそうですが、受け取る側としては少し敬遠してしまうかもしれませんね」

 

…ポケモンは微妙なのか。他ならぬ、女の子のリーリエが言うのだから、そうなのだろう。フウロちゃんへの誕生日プレゼントは再検討の余地があるな。

 

来週はホウエン地方に行って色々(いろいろ)と野暮用を済ませてくるので、そのついでに買ってくるか。

 

フウロちゃんの誕生日は来週末だし、来週一杯は公式戦も組まれていない。島巡りはまだ準備段階らしいので、都合がとても良い。

 

来週の予定を頭の中で整理しながら、俺はシャワーを浴びる。長かった一日が終わろうとしている。殆どの時間を、写真を撮る事に費やしていたような気もするが。

 

風呂から上がった俺がリビングに戻ると、ソファーでテレビを見ていたリーリエとミヅキが、互いに身を寄せてうたた寝をしていた。二人とも、一日の間に様々な事をして、さぞや疲れた事だろう。

 

俺は本日最後の一枚を撮影してから、二人に毛布をかける。データフォルダを再生すれば、そこには幸せそうな寝顔が二つ写り込んでいる。

 

確かにリーリエは、歳の割にかなりしっかりとしている子だが、俺からしてみればまだまだ子供だ。彼女には、彼女を支えてあげられる『家族』が必要だ。彼女はまだ、家族を支えるような歳ではないはずだ。

 

俺はすでに社会に出て、一人暮らしを経験している。

 

(やっす)い給料、理不尽な残業、口だけは達者な同期、人一倍働かない上司、疎遠になってゆく旧友、親孝行する前に死別してしまった親、突然の異世界転移……激しい荒波に揉まれながらも必死こいて生きていられるのは、未熟な頃の俺を支えてくれた親がいたからだ。

 

子供の時に大人から授かった恩は、自分が大人になった時に子供へと返すものだ。

 

おそらく、数多の秘密を抱えながら売れっ子トレーナーと化した俺は、プラトニックな恋愛などできないだろう。俺にすり寄ってくる女性など、金目当てでしかないだろう。そうでなかったとしても、俺の目にはそう見えてしまう。疑心暗鬼のまま誰かを(つがい)にするなど、まっぴらゴメンだ。俺に子供ができる未来など、まるで想像もつかない。

 

シロナみたいに、誰の目から見てもわかるほど純粋な心を持った人間は確かにいるが、そういった人たちは何かしらの肩書きを持っている。俺とは釣り合わないし、まるで可能性を感じない。シロナは何かと俺に関わってきてくれるが、それは別け隔てなく人付き合いができる、シロナの純粋さが成せるものなのだろう。

 

ああいった人種は、放っているオーラのような物が、常人のそれとはまるで違うのだ。

 

シロナも、オーキド博士も、ククイ博士も、リーリエも、ハウも、ハラも、ミヅキも……会ってきた主要人物の全てが、明らかに違う雰囲気を醸し出しているのだ。凡人の俺でもわかるくらいだ。きっとそれが、彼ら彼女らに最初から与えられた運命というものなのだろう。

 

 

齢24にして、この広大なリゾートでポケモンに囲まれながら孤独死するビジョンが見えてしまったが、それもそれで悪くはない。厳選を行う中で、産まれた孵化余りポケモンたちも逃したりはしていないので、俺が死ぬ頃にはこのリゾートはサファリゾーンと化しているだろう。

 

おそらく、このまま行けば俺は世界最強のポケモントレーナーとして名を残す事になる。それを確信しているからこそ、シロナを踏み台にしてまで鮮烈な一流トレーナーデビューを果たしたのだ。

 

 

それでも、結局は名前しか残らないのだ。

 

 

学生の頃の俺ならば、それは偽善者の考えだと唾棄していたかもしれない。だが、身も心も大人になった俺は思うのだ。

 

 

 

誰かの支えとなれた時、初めて俺という存在に『価値』が発生するのだ。

 

 

名声も、富も、快楽も……一個人が小さな欲求を満たしているところを百万人、千万人に見せたところで、誰かの支えになどなるまい。

 

 

俺はリーリエの支えとなる。

 

 

無論、リーリエがそれを知る事は無いだろうし、知る必要もない。彼女が恩を返すべき相手は俺ではないのだ。

 

 

俺は凡人であると同時に、廃人だ。だからこうして、本来交わる事のなかったであろう人たちに干渉できているのだ。

 

俺はこの世界にとってイレギュラーであり、招かざる客なのかもしれない。だが、そんな事は俺の知った事ではないし、何より俺も来たくてこの世界に来たわけではないのだ。好き勝手にやらせてもらう権利はある。

 

俺にはこの世界をメチャクチャにできる力がある。だから、良い方向にメチャクチャにしてやるのだ。

 

悪事を働いてメチャクチャにする事など、俺じゃなくても誰でもできる事だし、そんな事をしても俺は幸せにならない。

 

『ますた。わたしがいるじてんで、ますたのしあわせはやくそくされてますよ』

 

……そうだな。何もかも、アロフォーネがいたから、上手くいったのだ。俺の力だけは到底無理だっただろう。せいぜい、異世界からやってきた頭おかしい奴として、その辺でのたれ死んでいたはずだ。

 

「……アロフォーネは、トレーナーが俺で良かったと思うか?」

 

『ぽけもんは、ますたをえらべません。だから、じぶんをつかまえた、ますたのいうことをきくのが、ぽけもんです。ますたのよしあしなんて、ありません。わたしのますたは、ますただけです』

 

「……そうか」

 

 

きっと、トレーナーとポケモンとの間に構築されるリレーションシップは、そこまで複雑なものではないのだろう。

 

 

 

誰よりもポケモンを強くして、ポケモンを戦わせ、ポケモンを勝たせる。それだけなのだ。

 

 

 

廃人の俺がやるべき事は、何一つとして変わらないだろう。これまでも、これからも。

 

 

 




あっ、そうだ(唐突)


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