無/霊タイプの厨ポケが現れたようです   作:テテフてふてふ

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12:聖獣ドードリオ

 

「教えて欲しい……あなたが抱えている事を、あたしにも教えて欲しいの」

 

 

 

シロナは逃げなかった。マキナの目をしっかりと見据え、言い淀む事なく訊いて見せた。

 

この男を救えるのは、きっとあたしだけだ。そう強く己を持ったシロナは、何がなんでもマキナと向き合う事を選んだのだ。

 

当のマキナは図星を突かれたのか、普段の彼からは想像もつかぬほど動揺している。何かを誤魔化すかのように、しきりに紅茶を口にしている。しかし……

 

「……さすがは、考古学者をしているだけの事はありますね。察しが良いという領域を越えているようにも思いますが……一体いつから気づいていたんですか?」

 

マキナは既に、いつもの無表情(仮面)を纏い、感情を悟らせぬ声に戻っていた。

 

だが、シロナがここで引いては何も変えられないのだ。

 

「確信したのはついさっきよ」

 

「そうですか……まあ、私の方から話すつもりだったので、都合が良いです」

 

今度はシロナが動揺する番だった。

 

(……今まで一切触れてこなかったマキナの過去を、あたしに話すつもりだった……?)

 

腑に落ちないシロナだったが、口を挟まず彼の言葉を待つ。

 

「実はですね……何とか助けてあげたい人がいるんですよ」

 

「………へ?」

 

「ですが、私の力だけではどうにもならない。だから、シロナさんにもご助力をいただけないかと考えていたんですよ」

 

シロナには彼の言葉が理解できなかった。

 

(どうして……どうしてなの?なぜ、誰よりも辛い思いをしているはずのマキナが、誰かに救いの手を差し伸べようとしているの……?)

 

彼の答えは、シロナの求めている答えではなかった。もはや、シロナにとって『マキナ』という男が、一体どんな人物なのか分からなくなってしまっていた。

 

 

無敗であったシロナを、いとも容易く打ち破った完全無欠のポケモントレーナー。

 

 

対戦相手とは必要最低限の挨拶しか交わさず、インタビューには必要最低限の言葉しか返さない。

 

 

常に無感情、無感動、無関心、無表情を貫くその姿は、多くの人たちから『機械仕掛け』と揶揄される。

 

 

そんな世間の目が及ばぬ暗所にて、自分のポケモンたちに際限の無い愛を注ぐ。

 

 

そして……失った家族を未だ忘れられず、そんな己の弱さに呑まれまいと、必死にもがき続けている。

 

 

それが、シロナの知っているマキナという男のはずだ。

 

 

他人に必要以上に関わろうとしないはずの男が、なぜ誰かを助けようとしているのだ。

 

己を支える事で精一杯なはずの男が、なぜ誰かを助けようとしているのだ。

 

シロナは混乱していた。

 

「どうして……?」

 

「どうして……と言われても困りますね。人を助けるのに、なんで理由付けする必要なんかあるんですか?」

 

「こんな事を言ったら失礼かもしれないけど、あなたが理由もなく誰彼構わず助けるとは思えないわ」

 

「本当に失礼ですね……ですが、シロナさんの言っている事に間違いはありません。…実は私、此度より島巡りというアローラに伝わる儀式を行う事になりましてね。本来であれば、子供たちが行う儀式なんですが、特別に同行させてもらえるよう、ククイ博士にご助力をいただきました。……それで、一緒に行動する子供たちの中に、母親がポケモンに寄生されている可能性がある子がいるんです」

 

しばしの間を空けた後、マキナは言葉を紡いだ。

 

 

()()()()()にはまだ若すぎる……()()()()()()()()()()()前に、何とかしてあげたいのです」

 

 

シロナは溢れ出そうになる感情を、必死の思いで押さえつける。

 

 

自分と同じ苦しみを、他の誰かに味わわせまいとする……マキナの偽りない優しさが、痛い程シロナには分かってしまうのだ。

 

 

「この事は、その子はおろか、ククイ博士も知りません。現時点で知っているのは、おそらく私だけです。ですので、シロナさんが本当に信用できる人以外には、絶対に口外しないでいただきたい。特に、ククイ博士には絶対に言わないでください。なんでそんな事を私が知っているか…という質問には答えられませんが、知るべくして知ったと言っておきます」

 

「……具体的にマキナはどうしたら良いと考えているの?」

 

「まずは寄生しているポケモンを引き剥がす事が第一優先でしょう。宿主に寄生している状態でポケモンを攻撃するのはあまりにも危険すぎます。また、寄生されている時点で、宿主である彼女は、なんらかの毒に侵されている可能性があります。そちらのアフターケアも必要になってくるかもしれませんね」

 

そんな、スケールの大きな事を宣う彼だが、至って真剣な顔をしている。くだらないデマカセで言葉遊びをしている人間の顔ではなかった。

 

「……分かった。あたしの方でも出来る限り調べてみるわ」

 

「ありがとうございます。非常に助かります」

 

マキナの表情が、心なしか柔らかくなったようにシロナは感じた。彼の力になれた事が、シロナは純粋に嬉しかった。

 

 

しかしだ。

 

 

シロナの目的は果たされていない。彼女は、マキナを救う為に、ここに来たのだ。

 

 

「でもね、マキナ……あたしが訊きたかったのは、それじゃないの」

 

 

「なんですか……?」

 

 

「マキナ、あなたには妹がいたのかしら?」

 

 

マキナが目を見開く。

 

 

誰の目から見ても分かる程に、その無表情を歪める。

 

 

酷な事をしているという自覚はシロナにあった。

 

 

それでも、訊かなくてはいけないのだ。

 

 

「……まさか、シロナさんにまで伝播するとは………ククイ博士から聞いたのですか?」

 

「ええ」

 

マキナが顔を伏せ、深く息を吐く。顔をあげた時には、彼はいつもの無表情に戻っていた。

 

「忘れてください」

 

「………え?」

 

「気の迷いです。私はどうかしていた。ただの妄言です。不謹慎かもしれませんが、妹が死んだというのは嘘です。虚言に過ぎません……

 

 

………私に妹なんて、いません」

 

 

 

思わずシロナは、顔を背けてしまった。

 

 

(あたしは彼に……なんて辛い思いをさせてしまったのかしら……なんて()()()を言わせてしまったのかしら)

 

 

家族の大切さを語った彼の感情(やさしさ)は嘘だったのか。

 

 

時折見せる彼の愛情(すがお)は嘘だったのか。

 

 

妹の事を聞かれ、悲痛に歪めた彼の表情(ほころび)は嘘だったのか。

 

 

そんな訳がない。

 

 

全ては、あの写真が物語っているのだ。

 

 

それでも、マキナという男は痛みを、苦しみを、哀しみを……己の中に封じ込める事を選んだ。

 

 

シロナに綻びだらけの嘘を吐いてまで、マキナは弱さを見せる事を頑なに拒んだ。

 

 

氷晶のように固められた彼の心は、今のシロナでは溶かす事ができないのだ。

 

 

「シロナさん……?」

 

「ごめんなさい、気にしないで。……変な事を訊いてごめんなさい」

 

「いえ……誤解が解けてなによりです」

 

そんな事を溢すマキナだったが、彼からは隠し切れぬ寂寥感と悲壮感が漂っている。あからさまに浮かない表情をしているのだ。

 

マキナの無表情が仕事をしていないほどだ。口ではああ言っているが、表に出てしまうほどマキナは古傷が疼いているに違いない……と、彼の心をかき乱してしまった事に、シロナは強い罪悪感を覚える。

 

 

それでもシロナは諦めたくなかった。

 

 

家族想いで。

 

ポケモン想いで。

 

他人の事まで思いやるような。

 

人一倍優しい心を持つこの(ひと)を、見捨てたりなどできるはずがなかった。

 

「……ねぇ、マキナ」

 

「なんですか」

 

「もう、あたしには敬語を使わなくて良いわ」

 

「えっ……シロナさん?」

 

「シロナって呼んで。今後、あたしの事をさん付けして呼んでも応えないから」

 

「シロナさん、これは一体……」

 

「シロナ」

 

「あっ、はい」

 

「はいもダメ。敬語禁止」

 

「……わかりました」

 

「敬語禁止」

 

「……わかった、シロナ」

 

 

初めて聞いた、彼の口調。

 

 

初めて見た、彼の辟易とした表情。

 

 

そう。これくらい強引でなくては、一生かけてもマキナには近づけないのだ。

 

 

「ふふっ…なんだか違和感あるわね」

 

「……茶化すなら止めますが」

 

「敬語禁止」

 

「あっ、はい」

 

「はいも禁止」

 

「…………」

 

 

彼が内側から殻を破らないのなら、シロナが外側から殻を破って見せるのだ。

 

 

「そうだった。今度、カトレアの別荘でフウロの誕生日パーティーを開くの」

 

「……カトレアって、イッシュの四天王の?」

 

「よく知ってるわね。因みに、フウロはフキヨセジムのジムリーダーよ。多分、ライモンジムのカミツレも来ると思うわ」

 

「なにその花園」

 

「……ん?」

 

「いや……なんでもない。それで、何故そんな話を俺に?ハブにされた愚痴なら勘弁して欲しいが……」

 

「そんな訳ないじゃない!?カトレアにマキナも連れて来いって言われたのっ」

 

「……なぜ?」

 

「あたしも知らないわ」

 

終始、渋面を作っていたマキナがいつもの無表情へと変わって行く。マキナは、何かを考え込んでいる時ほど、無表情になりやすいのかもしれない。

 

「……わかりました。場違い感が否めませんが、時間があれば顔を出させていただきます」

 

「敬語禁止」

 

「……どうしても?」

 

「駄目よ」

 

「……悪いが、タメ口を聞くのはシロナだけにさせてもらうからな」

 

 

シロナだけ。

 

 

そんなマキナの言葉に、シロナはどこか、くすぐったさを覚える。

 

「でも、カトレアもフウロもカミツレも、あなたより歳下よ?」

 

「俺がそうしたいだけだ。気にしないで欲しい」

 

そう言われてしまうと、シロナは何も言えなくなってしまう。それが今のマキナの在り方なのだろう。

 

(マキナ……今のあなたの中には、あなたの妹しかいないのかもしれない。だけど、待ってて欲しい。必ず、あたしもそこに入って見せる。そして、あなたの心を開け放つ。あなたが一人じゃないって事を、教えてあげるんだから)

 

どれだけ強がっていても、彼も人間なのだ。必ずどこかで、人との関わりを求めているはずだ。

 

カトレアも、フウロも、カミツレも……みんな優しい子ばかりだ。きっと、いつでもマキナの力になってくれる。無論、シロナもだ。

 

「覚悟してね。マキナ」

 

「………何が?」

 

「ふふ、ないしょ」

 

 

 

(……ポケモンバトルも、マキナの殻を打ち破るのも、手加減なんてしないんだから)

 

 

 

動き出したシロナは、もう止まらないのだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

あ…ありのまま今日起こった事を話すぜ!!

 

 

でも、起こった事が多すぎるから順を追って話すぜ!!

 

 

シロナさ……シロナが、エスパー的読心術でルザミーネさんの事を訊いてきた。色々と怖かった俺は洗いざらい話した。鳥肌立ちまくりだった。結果として、シロナは協力してくれると言っていたので、決して悪い出来事ではなかった。

 

しかし、実際にシロナが訊きたかったことはルザミーネさんの事ではなかった。俺が誤魔化す為にククイ博士に吐いた嘘が、なぜかシロナにも伝わったらしく、死別した妹がいるのか?と追求された。

 

まさか、こんな大きな事になるとは思っていなかったので、あれは真っ赤な嘘だと言い切っておいた。脳内妹を頭の外に漏らすとは、とんでもねぇ童貞野郎だな…と、思われたかもしれないが、これ以上誤解が広がるよりマシだ。人間、安易に嘘を吐くものではないという教訓を得た。

 

これは好感度大暴落イベントですね…と、一人で落胆していたら、シロナから敬語禁止命令が発令された。理由は全く分からないし、あまりの強引さに聞きそびれてしまった。…なんか変なフラグが立ったわけじゃないよね?大丈夫だよね?

 

シロナの年齢は未だに分からない(女性に年齢を聞くとかありえない)が、おそらく俺とそこまで変わらないとは思う。しかし、社会的地位やトレーナー歴を鑑みても、俺が彼女に敬語を使うのは当然の事である。

 

なんにせよ、シロナ自身に敬語禁止と言われてしまっては致し方あるまい。彼女はあまり社会的地位とか気にしない人間だと思うので、俺がタメ口を聞いても失礼な奴だとは思わないだろう。公の場ではさすがに敬語を使うつもりだが。

 

 

そして、最後にとんでもない爆弾がひとつ。

 

 

なんと、あの大空ぶっとびガールことフウロちゃんのバースデーパーティーに招待されてしまった。しかも開催地はカトレアちゃんの別荘だ。いつからポケモンはギャルゲーになったんですか?

 

パーティーにはフウロ、カトレア、シロナ、カミツレが集い来るらしく、そんな甘い香り漂う麗しき花園に、しょーもない野郎がぶち込まれるのだ。絵に描いたようなハーレム状態である。本当に大丈夫なのかコレ?

 

美少女たちと楽しく談笑していたら、後ろから忍び寄ったコクランさんが『カトレアお嬢様に、(よこしま)な目を向けましたね?』とか言って、バールのようなものでガツンと………あかん、絶対罠だわ。死ぬわ俺。

 

……島の試練より恐ろしいイベントをブッキングしてしまったようだ。もはや、フウロちゃんのバースデーパーティーという、なんとも微笑ましい会合のはずが、血塗られたマキナ暗殺計画にしか見えなくなってきた。一体俺が何をしたって言うんだ。あれか?今まで駆逐してきた野生ポケモンたちの呪いなのか?

 

だが、ルザミーネさんの件で協力してもらう以上、シロナの顔は立てるのが道理だ。全力でフウロちゃんの生誕を祝福する以外ありえない。あの子、何プレゼントしたら喜ぶんだろうか?

 

ひこう統一パのジムリーダーを勤めているくらいなので、ひこうタイプのポケモンやタマゴをプレゼントするのが一番手っ取り早い気がする。元いた世界でも、たくさん生まれた仔猫や仔犬を、友達にあげたりとかは普通にしていたしな。

 

要らないと言われたら、その時はその時だ。今更、黒歴史のひとつやふたつ増えたところで、さしたる影響はない。中学二年生の時の俺死ね。

 

孵化余りポケモンも、俺のような華のない男と共に、バトルに参加する事なくこのリゾートで一生を終えるよりかは、フウロちゃんのような肉々しいぶっとびナイスバデーの女性に抱擁されて一生を終えた方が幸せに決まっている。というか俺が抱擁されたい。

 

フウロちゃんにルギアあたりをポンっとプレゼントしたら『抱いてっ』ってなりそうだが、伝説を外に出すのは論外なので却下。

 

せっかくなので、アローラ地方ならではのオドリドリをプレゼントしよう。専らダブルでしか輝けないポケモンだが、『おどりこ』であるオドリドリは、日常でも可愛らしい求愛ダンスを見せてくれるので、愛玩ポケモンとしてのスペックも高いはずだ。きっと受け取ったフウロちゃんも『抱いてっ』と求愛をしてくるだろう。完璧やんけ。フウロちゃんマジぶっとび。

 

それに加え、俺以外の女性陣は皆、ジムリーダー以上の肩書きを持った一流トレーナーだ。目が合った瞬間に勝負を吹っかけられるとか普通にありえるので、ガチ編成の手持ちで乗り込むべきだろう。というか、シロナがいる時点でそうなる可能性が高すぎる。バトルジャンキーかな?

 

なぜカトレアちゃんが俺をお呼びしたのか皆目見当がつかないが、四人の美少女たちがキャッキャウフフしている所を生で見られるのだ。こんな神イベントをスルーするのは悟りを開いて解脱した奴くらいだろう。これが罠だったとしても、美少女に囲まれて死ねるのなら、私は一向に構わん。

 

 

一抹の不安を打ち消す程の期待に胸を躍らせながら、俺は床に就いた。

 

 

 

 

 

その夜、アロフォーネがいつもの三倍ほどやかましい騒音を撒き散らしていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

数日後、博士から連絡が入った。何でも、ミヅキたちの手持ちがそれなりに育って、試練を行うのに潮時らしい。俺はすぐにハウオリシティへと向かった。

 

街の西の外れまで行くと、ちょうど全員が揃った所だった。

 

……ちょっと待って。一人だけ明らかに様変わりしている人がいるんですが。

 

「アローラ。……ミヅキだよな?」

 

俺が恐る恐る尋ねると、()()()()の少女がコクリと頷く。

 

さっそくヘアサロンに行ってきたのね……びっくらこいたわ。ミヅキちゃんがトリッキー過ぎて行動が全く読めません。

 

「……よく似合っているぞ」

 

俺がそれとなく褒めてあげると、ミヅキは自慢気にコスメポーチを見せてくる。おそらくはリーリエから譲り受けた物だろう。

 

「こんにちは。あっ…ミヅキさん、ヘアサロンに行ったのですか?それに、早速コスメポーチを使ってくれたんですね」

 

やはりリーリエも女子なのか、ミヅキのおめかしにいち早く突っ込む。ミヅキは似合ってる?とでも言いたげに、髪をいじっている。

 

「とても似合ってますよ。……私とお揃いですね」

 

リーリエもミヅキを真似するかのように、その枝毛ひとつ無い金髪を弄ぶ。あら^〜いいですわゾ^〜これ。

 

「ねーミヅキー、ポケモン強くなったー?」

 

ハウよ……お前も早く男を磨くんだな。とりあえず女の子の髪の変化にはいち早く気づき、いち早く褒めてあげるのが鉄則だぞ。彼女いない俺が言うと説得力皆無だが。

 

ハウの問いかけにミヅキは首を縦に振り、五つのモンスターボールを取り出す。

 

 

オシャマリ、デンヂムシ、ケララッパ、ユンゲラー、ベトベターの五匹だった。

 

 

破竹の勢いでメキメキと育っていくミヅキちゃんのポケモンたちがヤバイ。

 

 

当然だが、ミヅキの手持ちは俺と違って全てこの世界のポケモンだ。つまり、どのポケモンも技を四つ以上覚えるという事だ。ミヅキの手持ちはどいつもこいつも技範囲の広いポケモンばかりなので、全ての手持ちがLv50以上に育った時点で、俺ですら勝てるかどうか怪しいくらいだ。これはだめかもわからんね。

 

 

最初の試練はノーマルタイプに精通しているキャプテンの一人『イリマ』が取り持つのだが、試練を行う『茂みの洞窟』へと向かう前に、みんなの実力を見ておきたいと勝負を仕掛けてきた。

 

「はい!!キャプテンのイリマです!!ボクの試練に挑めるかチェックさせてもらいます!!」

 

……これ、俺もやらなきゃいけないのか?

 

イリマが使ってくるポケモンはヤングースとドーブル。ドーブルと聞くと、我々の業界では『ダークホール』だの『きのこのほうし』だの使ってくるLv1ドーブルが真っ先に出てくるのだが、当然そんなエゲツない技は持っておらずレベルも10かそこらだ。手持ちの平均レベルが20近くまできているミヅキの相手ではないし、ハウも苦戦する事はなかった。

 

俺?育成中のドードリオで適当に終わらせました。一度だけ『とびげり』を外して変な空気になったが、ちゃんと倒せたので問題あるまい。命中率95を外すとは情けない鳥だ。

 

イリマから合格とのお墨付きを頂いたので、俺たちはようやく茂みの洞窟へと向かった。

 

しかし、その道中で通りかかったきのみ農家のおっさんが、スカル団の下っ端二人にきのみを強奪されそうになっていた。

 

「つまんねーきのみだけどよ、スカル団が使ってやるんだよ!!」

 

俺の怒りが有頂天に達した。

 

人が丹精込めて栽培したきのみを、奴らはつまんねーきのみと抜かしやがったのだ。

 

奴らからしてみれば、きのみは勝手に生えてくる物だ…程度の認識しかないのだろう。だが、奴らは我々の苦労をまるで知らない。

 

きのみによっては適切な手入れをしないと果実を腐らせてしまうし、何より目を光らせておかないとドデカバシやドデカバシのような鳥ポケモンに食われる。そして、鳥ポケモンを追い払い安心していた所を、ケケンカニに食われるという黄金コンボが待っている。すきあらば野生ポケモンに食い荒らされるのだ。

 

そんな外敵たちの魔手を掻い潜り、無事に実った奇跡の果実を、つまんねーきのみと抜かしやがったのだ。そりゃあもう激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームである。聖獣ドードリオでボコボコにして差し上げた。

 

「ひっ……なんでこんなところに『機械仕掛けの新種使い』がいるんスカ!?」

 

「おいやべーよこれよ!!逃げるしかねーよ!!覚えてろよお前らよ!!」

 

激ダサな捨てゼリフを残して、スカル団の下っ端二人は慌てて逃げ出してしまった。

 

貴様らが犯した大罪は二つ。天と地の恵みをつまんねーと宣った事、大天使リーリエの御前にて蛮行を働いた事だ。悔い改めて。

 

「マキナさんは凄いですね。私はポケモンを戦わせる事ができないので、今のような人たちに出くわしても、助けられませんから……」

 

おお、大天使リーリエよ。なんと慈悲深き心をお持ちでいらっしゃるのか。貴女のその汚れなき白磁のような御手を血に染める事など我々が許しませぬぞ。貴女はその美しき心で平和をお望みになるだけでよろしいのです。貴女の側には勇ましき純潔の戦乙女(ワルキューレ)が付いておられるではありませんか。

 

「……ミヅキがいつでも助けてくれる。リーリエはポケモンを大切にする気持ちを忘れなければ、それで良いと思うが?」

 

恐れ多くも俺がリーリエに進言すると、ミヅキはリーリエの手を握り、力強く頷く。

 

「ミヅキさん……ありがとうございます。私も、自分にできる事を探してみます。いつもミヅキさんに助けられてばかりは嫌ですから。私もミヅキを助けられるよう頑張りますね」

 

まだ少し照れがあるのか、微かに頬を朱に染めながらも、リーリエはミヅキの目を見て決意を口にする。そんなリーリエの健気な気持ちを受け取ったミヅキちゃんは、頼もしさすら感じるほど毅然とした真顔で頷いてみせる。キマシタワー。

 

「ねーマキナさん。最近リーリエとミヅキって、かなり仲良くなったよなー。なんか見てるこっちまで嬉しくなってくるねー!!」

 

 

お、入信者かな?

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

スカル団のせいで遅れが生じてしまったが、無事に茂みの洞窟にたどり着く事ができた。ハウ、ミヅキ、俺の順番で試練を行う事になったが、ハウもミヅキも見事に試練を達成してみせた。ミヅキはチャームボイス連打ゲーでコラッタたちを一掃したらしいが、ハウはそこそこ苦戦したらしい。純粋なレベリング不足だとは思うが、後でイリマが特訓に付き合うと言っていたので、ハウも次の試練までにはそれなりの力を付けてくるだろう。

 

俺?もちろんドードリオでアローララッタをボコボコにしてきましたよ。剣舞してから電光石火余裕でした。

 

「はい!!イリマの試練、達成!!皆さん、めざましいトレーナーです!!」

 

約1名様、めざまし過ぎる女の子がいるんですが、それはツッコミ待ちですか?

 

「これがノーマルZのZクリスタルですね!!」

 

イリマの手から俺たち三人にZクリスタルが手渡される。やったねたえちゃん!!Z技が撃てるよ!!

 

「Zパワーを使うには、ノーマルタイプの技を強める為の、エレガントなゼンリョクポーズを取る必要があります!!見ていてください!!」

 

イリマは謎のドヤ顔で両腕を段違い平行棒のように折り曲げ、胸の前で『Z』の形を作る。

 

「すげー!!これがゼンリョクポーズかー!!」

 

男の子のハウは、大喜びでイリマのゼンリョクポーズを見ていたが、リーリエはポカンとした表情で口を開けている。びっくリーリエである。なお、言うまでもないがミヅキちゃんは真顔である。

 

「覚えましたか?皆さんも試しにやってみてください!!」

 

 

 

 

 

大天使リーリエの前でそんな恥ずかしいポーズ取れるわけねーだろしばき倒すぞ。

 

 

 

 

 




【悲報】起承転結、行方不明。

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